第2話 転生と遭遇者
よこしまな考えに、罰があたったかのように、トラックに首を落とされた私ではあったが、、、。
やがて、気がついたら森にいた。まあ、現実では、ありえないであろう話だが、物語では、実にありがちな展開であった。
俗に言う、転生、というものだった。
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鳥の鳴き声が、響き渡る。
草木が風に揺られ、ざわめきたつ。
そんな、安らぐような環境音の中で、私は目覚めた。
最初に私の目に入ったのは、木々の隙間から見える、雲ひとつない瑠璃色の空だった。
「あれ、いつの間にか、寝ていたのか?」
私は、目を擦りながら、頭をあげた。
辺りを見回すと、木々がそこら中に茂っている。
地面に寝ていたせいだろう。背中はひんやりとしていて、背中の下の野草がチクチクと、頭や首に刺さり不快感を感じた。
「木、森、、、? えっ?!はっ? はぁぁあぁぁ!?!?」
驚きか、それとも口を開けて寝ていたのか?私の声がいつもよりも数倍甲高い。
だが、今、そんな事はどうでもよかった。
先程まで、まどろんでいた脳みそが、目の前の景色に叩き起される。
「、、、えっ?へっ?なんで私は森にいるんだ?
はっぁ!??意味がわからないっ?!?」
脳がだんだんと、冷静になるにつれ、自分の置かれた現状が解ってくる。
それと同時に、不安、困惑が心の中に溢れ出してきた。
(どうしよう?なんで森にいるんだろう?ここはどこだ?何故私はここにいる?……)
そんな疑問が、頭の中にこぼれ、現状への戸惑いが頭を締めつける。
そして。一度、溢れ出した困惑の感情は、激流のように溢れ、理性は決壊した。
落ち着く?そんなのできるはずがない。
体中から冷や汗のような、脂汗のようなものが流れ出て、私の背中をじっとりと濡らす。
(これは遭難なのか? どうしよう、帰れないかもしれない。怖いっ!母親も父親も、家族がいるのに。 助けが来なかったらどうしよう?そもそも、居なくなったことすら、知られてないかもしれない。)
戸惑いは、収まることなく、やがて混乱、そして恐怖へと移り変わる。
「はぁっ、はぁっ!はぁっ! あぁっ!」
呼吸は荒くなり、心臓の音がうるさいくらいに響き渡る。
「あれっ、そもそも私はっ、もう死んでた、、、?」
視界がぐらりと揺れ、頭が割れそうな程の恐怖、そして、身を焦がす程のどうしようもない焦燥が、突き刺さる。
(死んだのか?生きてるのか?! どうしよう、どうしようっ! どうし...)
「あれ、君大丈夫? もしかして、迷子?」
「うわっっ!?! だっ誰だっ!?」
後ろの茂みから急に声をかけられ、驚きのあまり尻が跳ねる。
すぐさま立ちあがって、声の方に体を向けた。
「あっ驚かさせちゃってごめん!
困っているようで、声を掛けたんだ。」
申し訳なさそうにそう言うと、声の主は葉っぱをかき分けて私の前に現れ、ぺこりと頭を下げた。
出てきたのは、18歳程であろう青年だった。
髪色は、青みがかった黒で、
前髪は眉毛に重なるくらいの所でサッパリ切られ、後ろ髪はひとつに結ばれていた。
また、顔は柔和で少し垂れ気味の目尻に、ぱっちりとした目。そして、すらりとした鼻筋はどこか中性的な雰囲気を醸し出す。
「あっ、安心して君を襲うつもりは無いよ!それに、僕が邪魔だったらすぐにどっかに行くから!」
青年は必死そうにそう言って私から一歩さがると、何も持ってない。と両手を開いて、頭の横にあげた。
「あっ こちらこそすみません!急に声をかけられたもので、思わず。」
彼向けて謝罪すると、社会人としてこちらも頭を下げる。
「いやいや、君が謝ることじゃないよ!頭を上げて!」
「すいません、1人で心細かったので、人に会えて助かりました。ありがとうございます。」
感謝を述べておく。そういえば、先程までの焦燥感や不安は、人に会えた安心からか、随分と治まった。心臓はまだ、うるさく鼓動しているが、、、。
おそらくこの青年は悪い人では無い、と思う。なんかこう、善人感が溢れ出てる。あと自分より美形。
と言っても、「完全に彼を信頼する。」というのも怖いので、頭を下げつつも、チラチラと目線は目の前の青年に向ける。
と、そこで私は少しばかり、ぎょっとした。
最初に、私の目に入ったのは鉄色に輝く胸鎧と、腰にかけたロングソートであった。
また、胸鎧の下には、青を基調とした膝丈まである分厚いワンピース、いや革鎧か? 足元は亜麻色のズボンに革製のブーツ。
思わず「コスプレですか?」と言いかけた口は抑えて、そのまま飲み込んだ。
それに、この着こなし方と、使い古された感じはコスプレなんかじゃない、、、気がする。多分。
私がジロジロと見てたせいで、気まずかったのか、急に彼が口を開く。
「ちなみに君、どこからきたのか言えるかい?近くに大人とかは居る?」
んっ?‘’大人は居る?‘’だと、初めから話し方に違和感を感じてはいたが、これじゃ子どもに話しかけるような言い方だな。
いや、この際は一旦置いておこう。問題は‘’どこから来たの?‘’に対してだ。正直、そんなにコロコロと素性を明かすのは怖い、それに、私にはコンテナに頭を飛ばされた記憶がある、が「死んだらここに居ました!」とか言う訳にも行かない。、、、しょうがない誤魔化そう。
「いえません。すいません、思い出すのも、、、そのっ辛いので。」
たっぷり間をとって、辛そうな声でそう言う。自分でも驚くほど、するりと演技が出たな、とりあえず、それらしく俯いておく。
「いや、、、大丈夫だよ。そうだ、ならもし良かったら僕のいる街まで行かないかい?ここはあまり安全じゃないから、君が良かったら案内するよ。」
青年は、優しげな声色で、そう語り掛けてきた。気を遣われている、罪悪感を感じるがここは乗ろう。
「お願いします。」
「うん!任せて。ここからまあまあ歩くけど行けそう?キツかったらおぶるけど?」
「いやっ、さすがにそれは大丈夫です。」
大の男が、自分より年下におぶられるのは、さすがに気まずい、、、。
「あははっ偉いね。それにしても、君みたいな少女が森で一人なんて、魔物に襲われなくて良かったよ。」
心配気な表情で、青年はそう言う。
(、、、えっ? 今こいつ、少女って言ったか?)
驚きつつも、辺りを見回すが、少女は疎か、私たち以外に人はいない。
「えっと、、、少女って一体どこに、、、?」
「えっ僕の目の前に、、、?」
すると、私の質問に対して彼は、さも当然。といった雰囲気でそう言い放った。
(えっ何こいつ。目が腐ってるのか? 目の前にいるのは23歳サラリーマンだぞ、、、?)
そう思った。しかし、それと同時に嫌な予感がする。もしやこれって、、、
「えっ 君は女の子だよね、、、?」
(おやっ?どうやら私は今、エグいことになっているのかもしれないな、、、)
額から、汗が一筋流れた。