ダメ祝福が無敵の祝福に化けたら?
2022/04/23 課金に関する部分を削除。それに伴ってサブタイトル変更。
「……なんだろね、これ?」
思った以上に大量にあったシステムログに首をひねる。
「何でしょうね。とりあえず最初から見てみましょうか」
澪も正直、ぱっと見てわかるわけではないようだ。
仕方ないので2人して上から順番にログを追っていくことにする。
「まず……ここで夜が明けてますね」
「あー、だね」
〈キャラクター名:リップがログインしました〉
〈夜が明けました。エリア内の光源:太陽光がオンになります〉
1番上にあった自分がログインを示すログの後にあるのは、夜が明けて昼間に切り替わったことを通知するログだ。
〈エリア条件:太陽光、【ノスフェラトゥ】真の効果により ダメージ2〉
〈[アストラルプロテクション]発動成功 ダメージ2→0 コスト:HP4〉
〈【ノスフェラトゥ】真の効果により、再生 HP+2〉
そこからはこのログのセットが繰り返し続いている。
「それで、夜が明けて太陽が出たので……あ、システム的にはこういう表記になるんですね……【ノスフェラトゥ】真の効果でダメージを受けてますね」
「それはわかる。エリア条件:太陽光~、てやつ」
「その次は……これは、[アストラルプロテクション]が発動している?」
澪が言うには「地雷」らしい祝福[アストラルプロテクション]だが。
「一定量以下のダメージを防ぐ祝福でしょ? 太陽光でダメージ受けたから発動したんじゃ?」
「あ、いえ、理屈としてはそうなんですけど……何か、それで発動するのは盲点だったな、と」
「そう?」
「本来はさっき言った通り、自動再生と相殺されるんですよ。だから、見た目的には『普段なら自動で回復していくHPが回復しなくなる』ような感じなんです」
あー、なるほど。
システム的にはダメージを受ける→HPが回復する、という処理がされるけど、普段からシステムログを見ているわけじゃないから表面的には「HPが回復しなくなった」という風に認識するのか。
「じゃあ、その次のログは、その自動回復?」
「ですね……と、なると」
顎に手を当てたポーズのまま、澪が考え込む。
「……わかった?」
「はい。原因は……これですね」
澪がログの一点を指さす。
そこには「コスト:HP4」と書いてあった。
「普通なら、ダメージを2点受ける→HPが2点回復する、という判定が繰り返されるはずなんですけれど、兄さんは[アストラルプロテクション]を取ってしまったせいで、ダメージを受けたことをトリガーに[アストラルプロテクション]が発動してしまい、受けた2点のダメージを無効化しています」
「ふむふむ」
「そして、[アストラルプロテクション]の発動が成功したことにより、設定されているコストが消費されています。それがHP4点です」
「なるほど……つまり?」
澪が大きくため息をついた。
「端的に言うと、兄さんは……『2点ダメージを防ぐことで4点のHPを失っている』んです」
「???」
「その結果、本来ならプラスマイナス0になるはずのダメージと回復の収支がマイナス2になり、最終的にHPが0になって死んだんです」
◇◆◇◆◇◆
心を落ち着けて、澪の言葉を反芻する。
納得はできた。
いや、納得いかんが。
「2点ダメージを防ぐのにHP4点必要って、おかしくない?」
「……そういう祝福なので……」
「じゃあ、[アストラルプロテクション]はかすり傷くらいしか防げない、て言ってたけど、実際どれくらいダメージを防げるの?」
「えーっと、確か……βテストで使ってみた人の報告だと……5点くらい?」
思った以上にダメだった。
HP4点使ってダメージ5点を防ぐとかあってもなくても一緒じゃないか!?
ちなみに【ノスフェラトゥ】真による太陽光から受けるダメージは1秒ごとに発生、とのこと。
僕のHPは180だから、つまり、日中にいると180HP÷2HP/秒=90秒で死ぬことになる。
「昼間だと1分半しか生きられないのか、僕」
「正確には太陽光に照らされている場所では、ですけどね」
「マジかぁ。えー、そんなのありかぁ?」
「私もちょっと想定外でしたけどね」
ショックも大きかったが、話をしていたらだんだん落ち着いてきた。
原因もわかったし、くよくよはしてられない。というか、原因がわかってしまえば何てこともない。
昼間、日光に照らされると死ぬなら夜に動けばよいだけなのだ。
それに、仕組みがわかれば解決も容易だ。
ダメージと回復は自分の加護のレベル×2点、だそうだ。
つまり、2レベルになれば1秒に回復するHPは4点になる。
この状態なら[アストラルプロテクション]のコストと回復量が等しくなって死ぬことはなくなり、問題は解決する。
「となると、昼間は大人しくしてて、レベル上げとかはゲーム内時間が夜の時にやらないと、か」
僕がそう言うと、非常に微妙な表情、プラスジト目で、澪が僕を見てきた。
「……できないんですよ」
「え?」
澪が肩をすくめる。
「いいですか、兄さん」
「……おう」
澪の冷たい声音に思わず正座して聞き入る。
「夜は、街の中の店はほとんど閉まります。住人も当然夜は休みます」
まあ、当然だな。夜だし。
「街の門は閉まってしまうので夜は街の外に出られません」
そりゃ、夜だし、門が閉じても不思議では……なぬ?
「それって、さ」
「はい。夜に街の外に出て、レベル上げが出来ないんですよ」
◇◆◇◆◇◆
なぜ、澪は最初のログイン時間を調整したのか?
なぜ、日中でのダメージを受けるという行動制限を解除する祝福[デイライトウォーカー]が必須であると言われたのか。
その辺のことを振り返れば「ゲーム内で夜は著しく行動が制限される」ということに気づける要素は十分あったはずだ。
というのは後から思ったことだけれど。
「何でそんな不便な仕様なんじゃーー!? ふざけんなー!?」
思わず立ち上がって叫んだら見知らぬ男性プレイヤーと目があった。
たぶん、死に戻りして来た人だろう。
うるさくしてすみません。
何もなかったことにして、座ろう。
めっちゃこっちを見ながら男性プレイヤーは部屋を出ていった。
やらかした……恥ずかしい……。
「夜は休憩時間にしたかったんじゃないですか? そもそもVRだと連続2時間以上の完全没入は非推奨ですし。夜の時間はログアウトして休憩してね、と」
「……でもなあ。2時間サイクルなら時間合わない場合だってあるだろ」
「そもそも店はともかく普通はレベリングは夜でもできますからね……昼の間に街の外に出ていれば。それに夜に門が締まるのは城壁に完全に囲われているここ最初の街のセントラルタウンだけですから」
ぐうの音も出ない正論で反論されてしまった。
だよなあ……普通は別に昼間のうちに街の外に出ておけばいいんだよなあ。
それすると1分半で死ぬからできない方が悪いだけで。
「いや、でも、真面目にどうしよう? これ、もしかしなくても、まともにプレイできない、よね?」
「そうですね……キャラデリ、して再作成でしょうか。大変でしょうけど……」
ちなみにキャラクターを完全に削除しようとすると、運営に申請を出してそれから約5日ほどかかるそうだ。僕自身は待つ時間自体は問題はないが、澪と足並みがそろわなくなる、という問題があるな。
澪自体はこのゲームを楽しみにしてたようだし、僕自身は兄妹でゲーム内でべったり一緒にいることもないだろう、というか澪が嫌がるだろうと思っているけれど、自分が楽しんでいる間に、自分が誘った相手がゲームにインもできない状態だと澪も居心地が悪かろう。
というかその前に両親に僕がキャラ再作成できるまでプレイ禁止にされる可能性もあるか。
「1回キャラデリするなら僕はしばらくインできないだろうけど、大丈夫かな? 父さん母さんが僕がインできるようになるまで澪もゲーム禁止、て言わないかな?」
「それはたぶん大丈夫だと思いますけど……」
実際に夜の街の様子とか見て回ってから、でもいいかもしれないが、結局1日の半分は行動できないんではストレスになるだけだろうし、再スタートするなら早い方がいいだろう。
仕方ない。覚悟を決めよう。
いったんログアウトするためにシステム操作をしようとして、開きっぱなしのシステムログのウィンドウに目をやった。
その時は、澪が解説を始めたのでそっちに集中していたので、「それ」には気づかず見落としていたんだろう。
規則正しく繰り返されるログの中に、その繰り返しが壊れている部分がある。
〈エリア条件:太陽光、【ノスフェラトゥ】真の効果により ダメージ2〉
〈[アストラルプロテクション]発動成功 ダメージ2→0 コスト:HP4〉
〈【ノスフェラトゥ】真の効果により、再生 HP+2〉
〈技能:意志のレベル上昇 0→1〉
「んん?」
「? どうしました?」
「いや、技能:意志というのが上がってるから、何かと」
「ぎのう:いし……ああ『技能』ですか?」
僕の驚く声にこちらを向いた澪が首をかしげる。
「『技能』?」
「キャラステータスにありますけど……能力値ごとにいくつかあって『技能』が関係する行動にプラス補正が得られるんです」
え、そんなのあったか?
「……まさか、と思いますけど、キャラクターシート2ページ目以降見てないとかないですよね?」
見てませんでした。てへ。
ステータス画面の右上のタブでページが切り替わるようだった。
ちゃんと説明を……いや、マニュアルとか画面説明とかほとんど読んでなかったっけ……正直、すみません……。
名前:リップ
加護:【ノスフェラトゥ】真 LV1
《技能》
肉体:12
└剛力0LV 耐久0LV 騎乗0LV 白兵0LV 運動0LV 水泳0LV
精神:12
└知恵0LV 集中0LV 意志1LV 言語0LV 知識0LV 製作0LV
感覚:04
└回避0LV 射撃0LV 知覚0LV 芸術0LV 隠密0LV 精緻0LV
魂力:12
└抵抗0LV 印象0LV 魔力0LV 霊格1LV
《装備品》
頭:
上半身:エインヘリヤル・シャツ
手:
下半身:エインヘリヤル・ズボン
足:エインヘリヤル・サンダル
アクセサリー1:
アクサセリー2:
切り替えたキャラクターシートはこんな感じだ。
技能と装備品に関する内容になっている。
ちなみにエインヘリヤル・シャツとかズボンは大層な名前だが、ちょっと大きめサイズの無地の白シャツと黒い膝までのズボンにただのサンダル、というお洒落でもなくかっこよくもない、ただの初期装備だ。
技能は各能力値ごとに6つ……魂力という不明な能力値だけ4つだが……ある。
今回上昇した「意志」は精神の能力値に関係するようだ。
「とりあえず、『技能』があるのはわかった。けど、じゃあ、何で『意志』の技能が上がったんだろ?」
「技能自体は『関連した行動をとることでレベルが上昇する』はずですよ。上がりにくいそうではありますが」
「……僕、街中で周囲を見回して死んだだけだぞ?」
そう、本来死なないはずなのに、見事に祝福がハマって。
……祝福か。
自分で何かした、という実感はないけれど。
僕がログインしてから1番やったことと言えば[アストラルプロテクション]を発動させたことだ。
間違いない。システムログが大量になるほどやっている。
つまり祝福[アストラルプロテクション]と技能:意志は関連している……?
「なあ、澪」
「シユ、です。ゲーム内で本名で呼ばないでください」
「お、おう。じゃあ、シユ。さっき技能は上がりにくい、て言ってたけど『意志』もか?」
そうですね、と間を置いて、何か画面を開いて調べつつ澪は教えてくれた。
技能:意志は「モンスターの特殊攻撃や状態異常への抵抗」に対してプラスの効果があり、それらの攻撃を受けて耐える、HP・MP・SPのうちどれかが0に近い状態で行動し続けることでレベルが上がる、らしい。
ゲーム後半にはそういった特殊な攻撃をしてくる相手も増えるので、それらと戦っていると自然と上がるようだ。それでもだいたいオープンβテストでは最終15レベルくらいが普通だったらしい。
これは、もしかすると、もしかするか?
[アストラルプロテクション]がダメージを防げない「地雷」祝福と見なされていたのは技能との関連性が明らかにできていなかったからでは?
つまり、[アストラルプロテクション]でダメージを防げないのは祝福の性能自体の問題ではなく、「技能:意志のレベルが低い」ことが原因なのでは?
そして、今、僕はこの技能:意志のレベルを簡単に上げる方法を握っている。
1秒に1回、1分半で90回は技能:意志に関連する行動が取れるのだ。
そして1分半で死ぬまでに技能:意志が1レベル上昇するなら、単純計算で1時間で40レベル上げることができることになる。そんなに簡単には行かないかもしれないが、それでも他人の何倍ものレベルにすることは可能そうだ。
そうしたレベル上げの果てに[アストラルプロテクション]が普通に実用になるほどの能力が得られたら?
いや。
あらゆるダメージを防ぐことのできるような「無敵の祝福」に化けたら?
面白そうじゃないか。
……自分で想像してなんだが、そんなうまい話はないよね。
ここまでいろいろ甘い未来を予想して裏切られてるし。
それでも、なかなか上がりにくいものを簡単に上げられてメリットが得られるなら損はない。
面白そうなことにチャレンジできそうで、ちょっと盛り上がって来たぞ!
ところで後から気づいたが「意志」以外にも「霊格」という技能のレベルが上がっていた。約1分半で2レベル分も上がるならお得だと、技能:霊格の効能を澪に聞いてみたのだが。
「えっと……ないですね」
「ない?」
「技能:霊格は死んだら1レベル上がる仕様のようで、何か活用できるのか、とβテストで色々検証してみたそうですよ。ただ、何かに影響を与えてる仕様が見つからなかったので、『特に何もない』というのが今の主流の見解です。死亡カウントの代わりでは、とか言われてますね」
あ、はい。