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『クズスキルだと思っていたら実は最強スキルで無双する』とか好きな感じですか?

 気がつくと見知らぬ天井だった。


 ……VRだと別に普通か。

 

 ということで、気がつくと、見知らぬ部屋の中に立っていた。

 それなりの広さの正方形の部屋で、白い女性……女神?像が立っている。

 天井からの淡い光に照らされていて、部屋の中は明るかった。


 「大丈夫ですか、エインヘリヤルの方?」


 部屋の中の様子を見ているといきなり話しかけられてびくっとして振り返る。

 そこには黒い僧服を着たシスターさんがいた。


 「貴方は戦いの中で命を落としましたが、神々の加護に護られてここに導かれ、復活しました。失ったものもあるでしょうが、どうかご自愛ください」


 〈キャラクターの死亡について キャラクターのHPが0になると『死亡』状態となり、最後に登録した『復活の神殿』で復活します。その際、所持金と経験値の一部を失います〉


 なるほど。さっきの感覚はどうやらキャラクターのHPが0になって死んだ時の感覚のようだ。

 

 ……何もしてないのに、なぜ、HPが0に?


 思いつく理由がないか、考えてみるが、さっぱり思い当たらない。

 街中で何もしていないのにHPが0になって死んでしまうのならゲームにならないのだが。


 ぴろん♪


 〈メールが1件届いています。メールボックスを開きますか? はい/いいえ〉


 電子音がして、ウィンドウが開いてメッセージが表示された。

 「はい」を選んでメールを開く。


 『兄さんへ 今、キャラクター作成が終わってログインしました。ログインした広場の女神像の前で待っています。キャラクター名はシユです』


 メールの差出人は澪だった。

 どうやらキャラクター作成が終わってログインしてきたらしい。

 とりあえず、自分のキャラクター名と今は復活の神殿?と言う所にいる、ということを書いて返信しておく。


 5分も立たずに澪がやって来た。


 見た目は僕が最初に作ったアバターをベースにしているので、僕のキャラに似ていると言えば似ている。(ノスフェラトゥになるにあたって多少見た目をいじったのでやや差ができているけど)

 ややウェーブがかったプラチナブロンドの髪(金髪と白髪の中間の淡い美しい色合いは一番苦労した)を肩辺りで揃えており、それに紫色の目と白い肌が似合っており、見た目は間違いなく美少女だろう。身長は僕よりやや高くなっている。

 それと目立つのは僕がアバターを作った時にはなかった髪の色と同じ色合いの白金色の翼が背中にあることだ。

 これは澪が【セレスティアル】表の加護を選択したからだろう。

 【セレスティアル】表は背中に光の翼を持つ「天使」になる。


 「……何でこんな所にいるんですか、兄さん」

 「いや、それは僕が聞きたい」


 何だかあきれた様子の澪……こちらではシユ、か……に肩をすくめて答える。

 

 「……気がついたら、死亡してここに飛ばされた、と……」

 「そうなるね」


 ログインしてからの状況を澪に説明する。

 とは言っても説明することはほとんどないのだが。


 「すみません。マナー違反は承知ですが、兄さんのキャラデータを見せてもらってもいいですか?」

 「澪……ん、シユ、か……相手だから、それは全然かまわないけど、キャラデータを見せるのってどうやるの?」

 「あ、そこからですか……」


 澪いわく、普段は個人用のキャラデータなどのシステムウィンドウは本人しか見られないのだが、パーティを組んだ状態ならウィンドウを共有して見ることができるそうだ。

 言われるがままに澪とパーティを組むとシステムを操作してキャラクターデータを表示する。



 名前:リップ

 加護:【ノスフェラトゥ】真 LV1

 肉体:12

 精神:12

 感覚:04

 魂力:12

 HP:180 MP:180 SP:120

 祝福:【ノスフェラトゥ】真[アストラルマスタリー]LV1[アストラルアフェクション][アストラルプロテクション][アストラルキッス]LV1[スローイングキッス]LV1



 キャラクター作成した時から特にデータは変わっていない。

 あ、HPは全快してるんだな。


 澪が何だか微妙な顔をして、こちらを見ている。


 「兄さん……兄さんってもしかして『クズスキルだと思っていたら実は最強スキルで無双する』とか好きな感じですか?」

 「えっ、何、いきなり……いや、その手の話は嫌いじゃないけど」

 「いえ、そういうロマンを求めて選んだ構成かと思いまして」

 

 澪がため息をつく。


 割とちゃんと有用そうなのを選んだつもりだけど……マジで!?



  ◇◆◇◆◇◆



 澪と2人して床に座って話を始める。

 他の人の邪魔にならないかな……とちらっと思ったが、特に人が来る様子は今のところなさそうだ。


 「まず、【ノスフェラトゥ】真は……正直大変ですよ?ないとは言いませんが」


 βテストの情報を事前に集めていた澪が言うには。


 【ビーストフォーク】【ネイチャースピリッツ】【ノスフェラトゥ】【セレスティアル】の4つの加護(クラス)、通常「種族加護」と呼ばれる種族を変更する加護は主となる行動スタイルの能力を強化したり効果を追加したりするような祝福(アビリティ)がメインの構成となっている、そうだ。

 なのでこの4つの加護のトゥルー・クラスは主となる行動スタイルの能力が弱くなって育成や行動が難しくなる傾向があるとのこと。


 うん、この辺はキャラメイク時の印象と変わらないから納得はできる。

 けれど[アストラルアフェクション]と状態異常の組み合わせは育つと強力そうなんだが、そうではないんだろうか?


 「……えー、確かに[アストラルアフェクション]と状態異常のコンボは強力で【ノスフェラトゥ】真はデバッファーとしては有用ではあるのですが……状態異常自体に弱点がありまして」

 「そうなの?」

 「かける相手のレベルが自分より上だと抵抗される可能性があるんですよ。これは特殊な耐性や抵抗力ではないので[アストラルアフェクション]では無効化できません。その結果、結局ボス戦とかだと状態異常が通用しない、ということが多くなります」


 Oh……。

 まあ、どんな相手にも絶対かけられる状態異常なんてバランスブレイカーだと思ったけど、そんな仕様になってるのか。さすがにそうそう上手い話しはない、と。

 

 「雑魚には有効なんですけどね。ただ、一度に多数にかけられる状態異常用の祝福(アビリティ)が限られているので、結論としてはデバッファーをやるだけなら【スペルキャスター】表で状態異常魔法をそろえる方がいい、ということになっています。耐性持ちの雑魚が増えてくると違うんでしょうけれど」


 とどめを刺さなくていいから、妹。


 「それから祝福(アビリティ)ですけど……何で[デイライトウォーカー]取らなかったんですか?」

 「[デイライトウォーカー]?」

 「【ノスフェラトゥ】だと必須と言われている祝福(アビリティ)で、これがないと昼間、太陽光でダメージを受けてしまうので行動が著しく制限されてしまうんですよ」


 うん、すまない、妹。

 そんなのあるの気づいてなかった……いや、あったような気もするんだけど、全然重要だと思ってなかったよ。


 「それと[アストラルプロテクション]は完全な地雷です」

 「えっ、マジ?」

 「一定量以下のダメージを無効化する、となってますが全然ダメージ防げないんですよ。βテストで色々と検証されたそうなんですけど、ほんとかすり傷程度でしか発動成功して防いでくれないので役に立たない、と結論が出ています」

 「……マジ?」

 「はい。ついでに言うなら【ノスフェラトゥ】なら表・裏にもっとダメージ軽減で有効な[ブラッドガード]と[価値なき肉体]という祝福(アビリティ)があって、こちらは組み合わせて使用できてかなり固くなれるので取るならこちらの方がいいですね」

 

 ぐへえ。

 まあ、事前情報を調べずに始めたし、他人とは違う道を、という意味ではセオリーを外すことには別に問題があるとは思ってないけれど、こうダメ出しされてしまうとどうしてもやらかした感を感じてしまうなあ。

 特にもっと有効なアビリティがある、と言われるとぐさっと刺さる。


 「じゃあ[アストラルキッス]と[スローイングキッス]は?」

 「それは……モーションが……」


 ん?

 澪が何か目を反らして微妙に言葉を濁している。


 「モーションが?」

 「……あ、いえ、発動時のモーションが大きくて連射が利かないというのが欠点ですね。そもそも遠距離攻撃を取るならレベル上げると[アストラルバレット]という普通の遠距離攻撃が取れますので、ポイント的にもそちらを取る方が普通です」


 あ、はい。これもダメなのね。

 選択肢が大量だったので割と適当に選んだ、と言えばそうなので偉そうなことは言えないのだが、こういうのは適当に感覚で選んでもだいたい間違いを選ばないくらいの自信はあったのでちょっとへこむ。


 ……うん、とりあえず気にしても仕方ないし、切り替えよう。


 「とりあえず、僕のキャラの祝福(アビリティ)の取り方が微妙なのはいいとして。じゃあ、僕がいきなり死んだ理由はなんだろう? さっき言ってた[デイライトウォーカー]を取ってないから、太陽光でダメージを受けたせい?」


 ま、今、問題なのはこちらだしね。


 引っかかったのは「【ノスフェラトゥ】は太陽光でダメージを受ける」という所だ。

 ちゃんと確認してなかったんだけど、そういう特性があるなら、それが怪しく思われる。そう言えば死んだのも夜が明けてすぐだったしね。


 ……いや、特定のアビリティを取らないと昼間は出歩けないとかゲームバランスどうなってるんだ!? と言いたくなるけど……。


 「いえ、それはないはずですよ。【ノスフェラトゥ】は強力な回復能力があって、自動でHPが回復していきます。普通なら太陽光で受けるダメージと自動回復で回復するHPが同じなのでそれで死ぬことはありません」

 「へー……ん?それなら別に[デイライトウォーカー]っていらないのでは?」

 「【ノスフェラトゥ】は普通の方法ではHPの回復ができないんです。実質自動回復が死んでる状態だと戦闘とかするとすぐ死にますよ。だから[デイライトウォーカー]必須と言われているんです」

 「あ、そういう仕様なのか……」


 ん-、太陽光が原因かと思ったが、どうやら、違うらしい。

 となると、何で僕は死んだんだ?


 「……とりあえず、システムログを見てみますか」

 「あ、システムログ見れるんだ」

 「はい。メニューウィンドウを開いてですね……」


 システムログとはゲーム内でどういうデータ処理がされたかの記録、とでも言えばいいだろうか。

 何点ダメージを与えた、とか何点ダメージを受けた、とか、どういうアビリティを使った、とかそういう処理をメッセージで記録として残してあるものだ。

 旧世代ゲームなら普通にゲーム中のチャット欄に表示していたりもしたけど、VRゲームだと視界にそんなものが常時表示してあったら邪魔なので隠されていることが多い、というか普通見えないようになっている。


 澪の指示に従ってシステムを操作してウィンドウを開く。

 パーティを組んでいるとこういったシステムログも共有して見ることができるらしい。澪も背後から肩越しに体重をかけて身を乗り出してきてウィンドウを覗き込む。重い。


 〈エリア条件:太陽光、【ノスフェラトゥ】真の効果により ダメージ2〉

 〈[アストラルプロテクション]発動成功 ダメージ2→0 コスト:HP4〉

 〈【ノスフェラトゥ】真の効果により、再生 HP+2〉


 システムログには延々と同じ文章が繰り返し表示されていた。


 これは……?

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