ナンバーワンよりオンリーワン、いいと思う
あなたが「ゲームでやりたい」と思うのはどんなキャラだろうか。
データの解析と分析により有利な「強い」キャラ?
自分が動かしやすい「性能」のキャラ?
「見た目」が好みのキャラ?
心を惹かれる部分と理由は人それぞれだろう。
僕がやりたいと思うのは「人がやらないような」キャラである。
不人気なキャラとか、人がやらなさそうな組み合わせとか、そういうものにあなたは心惹かれたりしないだろうか?
ナンバーワンよりオンリーワン、いいと思う。
……いや、他人と同じキャラをやると比較して自分が劣るのがはっきりするから、それを避ける、というわけではないですよ?
◇◆◇◆◇◆
《なるほど。貴方の加護は【ノスフェラトゥ】の真なる加護ですね》
と、いうわけで、自分の好みを集めた結果、こういう選択になりました。
種族は人間より人間外で、その中で選ぶ人が少なそうな物・組み合わせ、ついでに真なる加護専用の祝福も使おう、という感じだ。
《種族が変更になるので、アバターが変更されます》
目の前に鏡が出て、自分のアバターが写し出される。
青かった目が真っ赤に、色白くらいの肌色だった肌がより白くなっている。あと犬歯が伸びて牙ができているようだ。ぱっと見にはわからないが、微妙に上唇から牙がのぞいて見えるようになっている。
思ったより見た目の変化があった。
肌の色が変わったから、唇の色なんかは調整した方がよさそうかな。
全体的には神秘さが増した感じでよしとする。
《次に、加護に合わせて貴方に与えられる祝福を決めましょう》
〈キャラクター作成(3-1) 祝福を決定します。祝福は加護ごとに決められており、ポイントを消費して取得します。初期のポイントは5です〉
〈キャラクター作成(3-2) 祝福には真なる加護でなければ取得できない専用祝福と全ての加護で取得が可能な共通祝福があります〉
〈キャラクター作成(3-3) 祝福にはレベルが存在するものがあり、ポイントを消費することでレベルを上げることができます。キャラクター作成時の祝福レベルは最大2レベルまでしか上昇させることができません〉
〈キャラクター作成(3-4) 祝福には取得に前提条件が設定されているものがあります。前提条件を満たさなければポイントを消費して祝福を取得することはできません〉
右手にいつものウィンドウが表示されたので、女性の話は無視してウィンドウの方を確認する。
説明を読む限りでは、割とよくある感じのシステムのようだ。
《こちらが、【ノスフェラトゥ】の真なる加護で選べる祝福の一覧です。ここから選んでください》
女性が1冊の本を差し出す。
中を見ると取得可能なアビリティの一覧らしい。
らしいんだけど……多っ!?
専用・ノスフェラトゥ表・ノスフェラトゥ裏・共通、とタグ分けされているけど、それぞれの項目が何ページもある。
一応、現在取得可能なものだけ黒く濃い文字で表示されていて、取得できないものは薄い灰色になっているので選択できるのは全部ではないようだが、それでも相当な数だ。
この量だと同じ加護でも違いが出そうだ。
時間を確認すると14時30分。
約束の時間まではまだあるけれど、あんまり悩む時間はなさそうである。
とりあえずざっと見てみようか。
◇◆◇◆◇◆
……ざっと見た。
正直、難しい……っ!
主なアビリティが状態異常を与えるものがほとんどで直接攻撃するようなアビリティがあまりない。
ダメージを与えると回復するようになるとか、追加で毒を与えるとか、そういうアビリティが多くて肝心のダメージを与えるアビリティがほとんどないのだ。
……いや、なくもないんだけど、相手の体に噛みつくとか、手首から腕の骨が飛び出して槍のようになって突くとか、扱いに困るようなアビリティしかない……。
とりあえず興味があった真なる加護専用のアビリティを見てみることにする。
よく見たら「おすすめ!」て吹き出しがついていた。
ここから取るのが推奨されてるようだ。
最初に選択できそうなアビリティは5つ。
[アストラルマスタリー]最大LV10
前提:- 種類:パッシブ 代償:-
アストラル系アビリティの使用に対してモーションアシストを得る。
威力・効果にLV分のボーナスを得る。
[アストラルアフェクション]最大LV1
前提:- 種類:パッシブ 代償:-
攻撃した際に敵の耐性・抵抗力の影響を受けなくなる。
[アストラルプロテクション]最大LV1
前提:- 種類:パッシブ 代償:HP4
ダメージを受けた際、自動で発動する。一定量以下のダメージを無効化する。
[アストラルタッチ]最大LV1
前提:[アストラルマスタリー]LV1 種類:パッシブ 代償:-
白兵攻撃の際に敵の防御力によるダメージの減少を受けなくなる。
[アストラルキッス]最大LV10
前提:[アストラルマスタリー]LV1 種類:アタック 代償:SP1 距離:近接
条件:口による接触
対象に威力:LV×10の魔法ダメージを与える。
敵の防御力によるダメージの減少を受けない。
敵の耐性・抵抗力や防御力を無視するって、強くない?それにダメージを無効化するような防御用アビリティもある。華麗に攻撃を回避する、とかとても無理だろうからこれはありがたい。
攻撃用アビリティもあるし、ここから取得していくことにしよう。
1LV上げるのに1ポイント消費、なので初期ポイントで全部取得できる、が、[アストラルタッチ]と[アストラルキッス]は能力的にはかぶっているので両方を取る必要はないだろう。
では、どちらを取得するか、なのだが……悩みつつ、ふと、面を上げると案内をしていた白いドレスの女性と目が合った。
《祝福に関して不明な点がありましたら、答えられることでしたら、お答えいたしますよ?》
にこやかに微笑んで答えられた。
「……あ、はい。では……この[アストラルマスタリー]のモーションアシストって[アストラルタッチ]にも適用されます?」
《いいえ。[アストラルタッチ]は祝福に動作を含みませんので、モーションアシストは適用されません。[アストラルタッチ]でモーションアシストを使用したい場合は共通祝福より白兵戦闘に関するマイナーマスタリーの祝福を取得してください》
「じゃあ、[アストラルキッス]は?」
《[アストラルキッス]は[アストラルマスタリー]のモーションアシストが適用されます》
この条件だと[アストラルタッチ]は選択肢から外れるかなあ。
もう1つアビリティは取れるけど、共通の何だか弱そうなアビリティを取らないといけないのはちょっと気が進まない。
「この『条件:口による接触』というのは?」
《相手に口で触れる必要があります。唇が触れていれば条件を満たします》
……え、ガチで戦闘中に敵に口を付けるの?
《気になるようでしたら、[アストラルキッス]の発動条件を変更できる祝福が【ノスフェラトゥ】表にあります》
僕が嫌そうな顔をしたのを察知したのか(おそらく目の前にいるのは中身人間ではなくAIであろうに器用だな、と思うが)、ページをめくって1つのアビリティを指さしてくれた。
[スローイングキッス]最大LV10
前提:- 種類:パッシブ 代償:-
「条件:口による接触」を持つアタックアビリティの性能を
「条件:- 距離:LV×5m」に変更する。
「これって性能が変更になっても[アストラルマスタリー]のモーションアシストは適用されるんですか?」
《はい。[スローイングキッス]の変更に対応したモーションとなります》
うん、悪くないんじゃ?
最初はポイント的に1LVしか取れないので射程5mと微妙だが、レベルを上げたら最大50m先まで届くようになる。これを取って相手の防御無視、耐性・抵抗力無視の遠距離攻撃というスペックなら、確実にダメージを与えることができるはず。
これがあればソロでレベル上げも可能だろう。
ソロでレベリングできるなら、育ててアビリティを揃えて行けば優秀なデバッファーにはなれるはずだ。
状態異常で敵を弱体化させる役割の「デバッファー」は得てして「状態異常をかけたい強い敵ほど弱体化や状態異常が通じない」という弱点があるのだが[アストラルアフェクション]があれば状態異常を通すことができるはず。
どんな相手にも状態異常をかけられるデバッファーなんて普通ならゲームバランスのバランスブレイカーになりえるほどの存在だし、これなら、まあ、行き詰まることもないだろう。
《では取得する祝福はこちらでよろしいですか?》
[アストラルマスタリー]LV1
[アストラルアフェクション]
[アストラルプロテクション]
[アストラルキッス]LV1
[スローイングキッス]LV1
僕が選択したアビリティが5つ、並んで表示されている。
再度確認し、間違いないので「はい」と答える。
《最後に、貴方が地上に行く姿を決めましょう》
〈キャラクター作成(4-1) ゲーム内で活動するための貴方のアバターを作成します。通常のVRゲームと違い「カオス・ラグナロク」では現実の姿とは違う自由にデザインした貴方だけの身体で仮想現実を楽しむことができます!〉
〈キャラクター作成(4-2) アバター作成は専用のツールにて行います。専用ツールはアバター作成モードに入ると自動で起動します〉
ちらっと時計を見ると、現在、15時27分。
約束の時間にはあと30分くらいかな。急げ急げ。
◇◆◇◆◇◆
種族変更で肌が白くなったのでアルビノぽいイメージで唇の色を淡いピンク色に変更。あと、前髪を目にかかるくらいまで伸ばして、ぱっちりと大きな目だったのをややジト目気味に変更する。
「明朗快活な美少女」から「陰のある雰囲気の美少女」くらいになったな。
男だけど。
アンデッドだし、色合い的にもこういう雰囲気の方が似合うね。
《これで貴方が地上に降りる準備が整いました。地上に向かいますか?》
〈これでキャラクターメイキングは終了です、お疲れ様でした!「カオス・ラグナロク」の世界をお楽しみください〉
ウィンドウが開いて僕の最終データと〈GAME START〉〈戻る〉のボタンが表示された。
名前:リップ
加護:【ノスフェラトゥ】真 LV1
肉体:12
精神:12
感覚:04
魂力:12
HP:180 MP:180 SP:120
祝福:【ノスフェラトゥ】真[アストラルマスタリー]LV1[アストラルアフェクション][アストラルプロテクション][アストラルキッス]LV1[スローイングキッス]LV1
能力値は自動で決定されるようだ。
HPはヒットポイント、MPはマジックポイント、SPはスタミナポイント、らしい。この辺はおおむね普通のRPGと意味合いは同じのようだ。能力値が4つ、というのはちょっと珍しいかな。
「魂力」という能力値は具体的にどういう能力値かはわからないが。
特に問題もないので〈GAME START〉を押す。
《この世界を護り、取り戻す戦いが貴方を待っているでしょう。どうか貴方の戦いにご武運を》
目の前の女性が目を閉じて祈りを捧げると景色が暗転する。
……そう言えばこの女性、何者だったんだろうな。
◇◆◇◆◇◆
移動してきた場所は、街の真ん中の広場のような場所だった。
周囲はまだ暗い。
リアル時間で2時間ごとに昼夜が切り替わるらしく、リアル時間の16時に夜が明けるらしいから、澪との約束の時間にはまだなっていないようだ。
灯りもないはずなのに、街の様子はよく見える。
アンデッドだから暗視があって不思議はないから、暗闇を見通す能力くらいあるのだろう。そう言えば加護を選択したときに自動でもらえていた祝福の能力を確認していなかったな。
街の住人っぽい姿はないが、同じようにログインしてきた新規キャラっぽい人影が何人かいる。ジロジロ見ると失礼だろうから横目でちらちら見てみるが、うん、僕が一番かわいいな。
空を見上げる。
満点の星空だ。
綺麗だな。
素直にそう思った。
仮想現実は普段使用はしていたけど、こんな風に景色を見たりするようなことはなかった。仕事で使っていた仮想現実は景色なんか不要とばかりに殺風景な部屋の中ばかりだった。
自分がVRゲームしてた時は景色とかこんなに綺麗だったかな……?
10年以上も前だ。
その間にVRゲームも進歩していても不思議じゃない。
ずっと避けていたけど、VRゲームも実は思っているよりいいものだったのかもしれない。
そうしていると、空が白み始めてくる。
16時になって、夜から昼に切り替わるのだろう。
周囲が明るくなる。
と、次の瞬間、目の前が灰色に変わった。
ぐらっ、と体に力が入らなくなり、倒れる。
心臓がどくん、と高鳴ったような気がした。
自分が仕事場で倒れた時の、意識があるのに体が動かないような、あの感覚。
〈貴方は死亡しました。復活の神殿に転送しますか?〉
……はい?