第二章:自律身体§序
一応書いておきますと、
きょむのしきいき
です。
では、どうぞ……
「……ッッッッッッッッ!!」
あたしは絶句した。
もちろん、今自分が見ている光景にだ。
あたしはとりわけ静かな方ではない。
どちらかといえば、どちらともとれない判断を率先して解決していくというタイプだ。前に進みたい。でも進めない状況などあたしは嫌いだ。ずっと前へ進んでいたい。
あたしはとりわけうるさい方だ。
自分の中に意見が湧いたらバンバンと叩き出し、自分の思う方向へと他人を導いていく。自分の後方を付き従う他人の姿に、あたしは不思議と快感を得るのだ。
そして、あたしは声の大きい方だ。
そうでなければ自分の考えが言えない、押し通せない。常に他人の前方を歩くことなど出来やしないのだ。だから、絶対に譲れない話は、自分の有利へ運ぶよう、絶対に大きい声で叫ぶ。そうすることで、他人を威圧するのだ。そうして、ずっと前を進んでいたい。
しかし、あたしは絶句した。
絶叫など出来なかった。
それがどれほど悔しいことなのか、他人に理解できるかなどはどうでもいい。
しかし、いや、だから……あたしは絶句した。
「佳奈美、遅いなぁ……」
あたしは待つのが嫌いだ。
あの子は時間にルーズなのだけれど、もう1時間もあたしの前に姿を現さない。この場所に来てから、あたしはできる限りのことはした。
待ち合わせ場所の確認はしたし、時間通りにも来ていた。
しかし、佳奈美自身への連絡はまだとれていない。
彼女・名倉佳奈美は、今どきの少女という枠に漏れ、携帯電話という万能な情報端末を持ち合わせていない。まったく、不思議な子だ。
とにかく、これで彼女との情報交換は不可。
彼女の現在位置も全く見当もつかず……ということになる。
彼女は方向音痴なのだろうか?……などと考えたこともしばしば。しかし、あたしは彼女の2,3歩前を進んで歩くし、佳奈美は電話を持っていないから彼女がどこにいるのか、逐一知らない。
と、いうことなので、とりあえずは方向音痴だということを勝手に決め付けている。そうでなければ、理由が見つからないためだ。
方向音痴以外の理由……あたしという大事な用事を忘れて、見たもの触れたものに片っぱしから寄り道しているということだろうか?
今どきそんな、興味を持ったもの全てに介入しようとする思春期一直線な高校生がいるのだろうか……。
いや、いるな。
うん……いる。
しかし、佳奈美はそのようなタイプではない。
いつも物静かで、あたしの話をよく聞いてくれて、目に見える一通りの人間には優しく接し、クラス内でも学業成績がずば抜けている……品行方正な人柄だ。
そして、おしとやかで可憐で……あたしにはないものばかりを持っている。とてつもなく羨ましい人間だ。時間にルーズなこと以外は。
こうして考えてみると、つくづくあたしと正反対な人間だな。
「遅すぎる!」
犬の銅像の眼前で不満を叫んだ直後、あたしの両足は動き出していた。もちろん、佳奈美の借りているアパートへだ。
佳奈美のアパートは、やや古ぼけた2階建てのそれだった。どこかしらが黒ずんでいるように見える。というか……一通りの金属部分は錆びついている。
間違いない。
赤やら黒やらのガビガビのゴツゴツが、家屋の約10%を占めている。
とりあえず、彼女の部屋は2階らしいから、彼女より聞いていた部屋の番号の前へと立ってみた。表札には『名倉』という文字。間違いなさそうだ。
実家はお金持ちだそうだが、どんな理由でこんなボロ……クラシックなアパートに住んでいるのだろうか。きっと、太平洋よりも深い事情があることを願いながら、あたしは名倉家の呼び鈴を押してみる。
「……………………」
鳴った?
鳴ってないよね?
だって聞こえなかったもん……。
待ち合わせていた場所から一時間も歩かない所に住んでいるのだから、今更待ち合わせの場所に現れたなんてこと……あるかも。
とりあえずは、ドアを叩いて佳奈美の名前を呼んでみる。
「佳奈美〜! いるの〜?」
…………いないのかな?
そう思ってドアの取っ手を握ると、回った、そして開いた。
「あれ? 不用心だな……。佳奈美〜、いないのぉ〜?」
少し不審に思って、あたしは彼女の家へと足を踏み入れてみると、
「うわ! 何これ!!」
目に入った物は……まるで戦争の後だ。
リビングへと続く10メートルほどの廊下、きちんと一式揃えられた家具、キッチン回り、テレビの上やテーブルの下に至るまで…………そこはごみの山だった。
いつもはお嬢様タイプの佳奈美が……あり得ない。
あたしは進んだ。道なき道を、悪臭にさいなまれながらも必死に。
そうして、ようやくリビングの中央に歩を進めることができた。ここに来るまでに見た中で、一番多かったのは食べ物の容器だ。弁当の器、飲料混じりのペットボトル、コンビニで買った際のレジ袋ごと、なんてものまである。一日二日で片付く量とは思えない。
佳奈美の性格上、このようなことは決してないと思っていた。
人は見かけによらない。
ん?
この場合、性格によらない……か?
いや、見かけによらないという言葉が、性格を指しているのだから……こんがらがった。もういいや!
とにかく、学校ではこんなに乱暴なものではないのだ。掃除もサボらないし、むしろ率先して清掃活動をする方だ。
なのに……どうしてこんな……。
食べ物のいろんな匂い、中には腐食したものまであるのか、いやな匂いが鼻につく。
今まで生きてきた中で、理科の実験の上を行くダントツの臭さだ。
生涯で、一度も嗅ぎたくない匂いだ……。
「?」
なんだろ?
なんだかわからないけど、腐った匂いとはまた違う匂いが鼻腔を刺激した。なんだろう、嗅いだ事がない匂いだ。けど、嫌な匂いだということは分かる。その匂いを辿り、あたしは更に部屋の奥へと進んでいく。
なんだか、嫌な行動してるな……あたし。
鼻を必死にクンクンしながら、ついに辿り着いたそこは、押入れの前だった。
まさか、このふすまを開けた途端……「ぎゃ〜! ゴミ袋に押しつぶされる〜!!」……な〜んてことになんか……一応、覚悟はしておこう。
あたしはそのふすまの取っ手に手をかけ、とりあえずは物が落っこちてもつぶされない位置へと避難……。
そして、めいっぱい伸ばした腕で、勢いよくふすまをスライドさせた。
「……ッッッッッッッッ!!」
そこで、あたしはとんでもないものを見てしまった。
あたしは絶句した。
ふすまの奥にあったもの……それは、人だった。
いや、本当に人なのかすらわからない。
そこに収まっているのは、恐らくは人間のものと思われる骨、恐らくは人間のものと思われる臓物、恐らくは人間のものと思われる……目玉、爪、歯、頭蓋骨。
見えるだけではない、すべてがバラバラに散乱していて、どこがどの部分なのかもわからないほどにぐちゃぐちゃになっている。
ドロッとした液体がその肉塊を乗せるように、押入れ内部の床全体に広がっている。血だ。ううん、きっと血なのだろう。ここまで大量の流血なんて初めて見る。それがいったい何なのか、理解に数秒かかった。
とにかく、ここは悲痛な惨劇の現場だということは間違いない。
本来の人間の原型とはかけ離れたその姿に、あたしは思いきり吐いてしまった。胃の中のもの、いや、もしくは胃そのものまで飛び出そうなほどに勢いよく吐き出した。
「ぶっ! オヴェぁぁぁぁぁ……」
いくら吐いても、吐いても、あたしの胸にある黒くて苦くて気持ちの悪い物は取れなかった。どれほど吐いただろうか、恐らくは朝食の量をすでに凌駕している。
「はぁ……はぁ……うっくぅ、ぁあ……はぁ…………」
気持ち悪い。
目の前のものも、胃の中も、胸の奥も、もう何もかもが信じられない。
絶望した。
頭がよく回らなかった。考えれば簡単な問題だ、外に出ればいいのだ。これ以上、見たくないものを見る必要はないのだから。気分も、今よりか幾分マシになるのかもしれない。
でも……足が震える。
死体など、それも内部がバックリと外側へ投げ出された惨殺死体など……生涯で……一度も見たくないものだ。
こんな状況で、安易に声などあげられるはずはないのだ……。
だから……あたしは絶句した。
やっと始めさせていただきました第二章!
第一章が終わった時点で、自分でも改めて読ませていただきました。
意味わからん……。
普通の読者様がご覧になられますと、まぁ、普通のご感想かと思われますね。はい。
そこで今回は……なるべく読みやすいようにしているつもりですので。
それより何より、後書きを見ていて思ったのですが……これ後書きじゃねえじゃん!!
友人にもつっこまれたとおり、作品の一部みたいになってますね、確かに。これじゃ後書きからわからんわい。
と、いうわけで……こんなテンションでお送りしていくことに決めましたので。
どうか皆々様!(どれだけの日方々が見てくれているのか存じませんが……)
これからもどうぞ応援よろしくです!