親友に相談
次の日、昨日の痴漢のことでまだ立ち直れないでいた。
そこに中学校からの付き合いである湊か近づいてきた。
「おい。悠斗〜どうしたんだよそんなくらい顔して。なんだ?落ち込んでますアピールか?なだめて欲しいってか?」
湊は相変わらずなハイテンションで俺に冗談を言ってくる。
いつもならツッコミ返すのだが、そんな元気はない。
「そんなこと言ってないし頼まない」
「つれないなぁ。元気出せよ。ほら、いえーい!」
湊は自分の手を僕の前に持ってくる。
よくこんな状態のやつにハイタッチなんてしようと思うよな。こんな時くらい静かにしてくれよ…。
「悪い。そういう気分じゃないんだ……」
「悠斗がハイタッチに応じてくれないだと……。これは重症だな。いつもならめんどくさがりながらもしてくれるのに」
「…………」
すっかりだまりっこくってしまった僕をみて、湊が心配そうにする。
「おい、なにがあったんだよ。話してみろ。誰かと共有すれば気持ちだって少しは楽になる。何を言っても絶対笑わないから。ほら、言ってみろって」
こういう時くらい甘えてみるか。
「ん。ありがとう。実はな ・・・」
僕は昨日あったことを話した。
「そんなことがあったのか。辛かったな」
湊の顔が俯いている。同情してくれているのだろうか。
「笑わないのか?」
「あぁ、笑わないよ。約束したし」
確かに笑ってはいないのだが……。
「その割には口元が緩んでないか?」
湊の口元はかすかに緩んでいた。湊の顔が俯いているのはこれを隠すためなんだろう。
「これでも我慢してるんだぞ?普通なら多少笑うと思うぞ。笑わない俺を褒め称えてもいいくらいだ」
「で、どうすればいいと思う?」
湊は少し悩んだ後、言った。
「んー。むやみやたらに謝ればいいってわけではないしな。声をかけて通報されるなんてことになったら洒落にならん。しばらくはおとなしくしておけ」
確かに熱りが冷めるまで何もしないほうがいい気がする。
「そうだな。そうするよ」
「乗る車両もちゃんと変えるんだぞ?鉢合わせないように」
「わかった。相談に乗ってくれてありがとな」
少しだけ微笑むことができた。
「いいって事よ。親友が悩んでいる時に相談に乗るのは当たり前だろ」
こういうことがすんなりとできるから誰からも慕われるし、彼女もいるんだろうな。
「惚れた」
「悪い。俺ノーマルなんだよ。後、彼女いるし。ごめんな……」
言い方が告白を断るときのそれだ。
「なんで振られてるんだよ……」
「冗談言えるくらいには良くなったみたいだな」
よかったよかった、と笑いながら湊は言う。
「まぁな、また何かあったら相談していいか?」
「もちろん。親友ってそういうもんだろ?」
気持ちが十数分でとてつもなく軽くなった。
湊には今度お礼しないとな。
やっぱり持つべきものは親友だ。
心からそう思った。
ボーイズラブ要素はないですよ。