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ウルバン 剣とかいろいろやりたいひと~おいで③


  時間がたつと段々と生徒が集まってくる。みんなあたしと同じ格好、つまりフェリックス学園の制服を着ているけれどそれぞれ武器を持っている。当たり前だけど男の子が多いな。あ、ちゃんと女の子もいるみたいだけどさ。


 剣とか槍とかが多いかな。ウルバン先生はもともと「剣聖」とか呼ばれていたらしいからそれでかな……そこでふと思いだした。授業にはそれぞれ名前がある、ゲオルグ先生もリリス先生にもあった。そしてウルバン先生は妙にフランクな「剣とかいろいろやりたいひと~おいで~」とかだったはず。


 うーん。今肩に担いでる魔銃はやっぱり場違いかも……。


 といっても剣とかはからっきし使えない。魔王だった時も使ってなかった……あ、いや使えないわけじゃないか。あれをすればいいし……でも魔力のない今の体では無理だ。


 ワイワイと生徒たちが集まって話をしている。うう、び、微妙に遠巻きにされているのは感じる。横にニーナがいなかったら独りぼっちだったかもしれない。それに――


 視線を移すとハルバードを抱えたワインレッドの髪の魔族……モニカがたたずんでいる。彼女をみんなちらちらとみてからひそひそと話をしている。あたしはそれが何となく嫌でモニカに近づこうとすると、それを制するようにモニカがじっと見てくる。


 だめだ。とりあえず今日はどうしようもない。


 そんな風に悩んでいるとウルバン先生が戻ってきた。それでざわめきが大きくなる。なんたって横にはもう一人の魔族である青い軍服を着たフェリシアがいるのだから。みんな困惑して当然かもしれない。


「ああ、みんな集まったね。じゃあ僕の授業を始めようか」


 張りのある声。ウルバン先生は両腕を組む、今気がついたけど日焼けした腕は意外に太く、そして無数の傷があった。


「僕の授業は簡単で、武器の扱いを教えることにしているけどね。流石に僕が使えないものは教えられないから。その時は剣を貸すからね。それじゃあ」

「すみません」


 ウルバン先生を呼び止めた生徒がいる。男の子だった燃えるような赤い髪、すらっとした体形で整った顔立ちをしていた。彼が前に出てきて、生徒の中の女の子が小さくうれしそうな声を出しているのが聞こえる。彼の腰には白い剣が吊ってある。


「僕はアルフレート・フォン・ロシウスです。剣聖として名高い先生に教えをいただけること光栄に思います」

「いやいやー。そんな肩書なんの役にも立たないよ」

「しかし、一つだけ疑問があります」

「何かな?」

「なぜここに魔族がいるのでしょうか?」


 彼はフェリシアを指さす。


「大仰な武器を抱えるもう一人は一応認められた生徒と考えていいでしょうが、そこにいるのは明らかに部外者かと思います」


 その物言いがあたしはムカッとした。ただ、周りはなんだか応援している雰囲気があった。好奇の目にさらされたフェリシアははっと鼻で笑う。


「確かに私は部外者ですが、望んでここにいるわけじゃありません。この男に無理やりここに連れてきただけです」

「僕は先生に聞いているんだ」


 アルフレートはフェリシアから視線を外す。嫌悪感を滲ませながら彼は冷たい態度を取る。ウルバン先生は返した。


「彼女は僕の弟子だからね」

「はあ?」

「はあ?」


 フェリシアとアルフレートの声がハモった。アルフレート目元に指をあてて言う。


「魔族の弟子を取っておられるんですか? ……失礼ながら、それはいかがかと」


 フェリシアが遮った。


「いや、私はこの男の弟子などではありませんし。むしろ今すぐにでも帰りたいのですが」

「あっはっは」


 なぜかウルバン先生は笑った。ひとしきり笑った後にあたしと目が合った。


「そういうところマオ君はどう思う?」

「えっ?」


 みんなの視線があたしに集まる。え? なんであたしに聞かれてるんだろう。というか「そういうところ」ってなに??。モニカははっとしてなんだか心配そうな顔をしている。ニーナは小声で「まずい」とかすでに言っている。まずいって何が!? まだなにもいってないけど……!?


「え、えーと」

「思ったことをそのままに言っていいよマオ君。アルフレート君の意見はどうかな」

「ど、どうって言われても」


 フェリシアの態度を見ると弟子じゃないって明らかだし。いや、さっきのやり取りを見るだけでも違うと思うし……うーん。


「魔族とかそういのは別にどうでもいいんじゃない……?」


 そういったときに周りから失笑が起こった。当のアルフレートだけはあたしを睨むような顔をしている。彼は言った。


「君は確か剣の勇者の子孫であるミラスティアさんを利用して入学時の首席を取ったと聞くが、魔族の襲撃事件にもかかわっているのだろう? 彼らの危険性がまだわからないのか。平和な王都を脅かす事件がつい最近にあったというのに」


 フェリシアはふんと笑う「平和な王都……ね」と吐き捨てるように言う。


 あたしはアルフレートに近づく。


「それフェリシアと関係ないじゃん」

「……あの魔族の名前を知っているのか? ……確かに彼女とは関係ないかもしれないが、その潜在的な危険性を言っているんだ。そんなこともわからないのか?」

「……わかったふりをして言っても駄目だよ。そんなの言いがかりだよ。だからフェリシアとは関係ない。ただそれだけ」

「ふり……? 君は歴史を知らないのか? 魔王などというものが人々をどれだけ傷つけたと思っている。だからこそ――」

「昔のことが今の魔族となんの関係があるの?」

「なんだと?」

「昔あったことで、アルフレートも生まれてなかったような時のことを理由にして魔族を迫害して言うっておかしいじゃん」

「……悪いが君のようなものに呼び捨てにされるようないわれはない」

「アルフレート。なんだか知らないけどさ、言葉が全部人ごとみたい。知りもしないことを、よくわからないままに決めつけてわかったような格好つけ!」

「……き、さま」


 アルフレートは剣の柄に手をかけた。体から炎のような魔力が燃え上がる。あたしはとりあえず両手を組む。なんとなくここは逃げるわけにはいかない気がした。顎を上げて偉そうにしてみよう。


「ミラスティアさんのことを利用するに飽き足らず、魔族と結託するような輩が……」

「ミラと話をしたことがあるの?」

「なれなれしい口を……彼女とは何度も話をしたことがある。優しく可憐な方だ、君とは似ても似つかない。騙されたんだろう君に」

「まあ、あたしとミラは全く似てないけどさ。あんたさ……ミラこと何にもわかってないなんてもんじゃなくて、そもそもミラが騙されたなんて勝手に決めつけてるのがおかしいんだよ」


 あたしは言う。


「全部決めつけじゃん。魔族は危険な存在で、ミラは騙されるような女の子って……ぜーんぶアルフレートが勝手に言っているだけの思い込みだよ。魔族なんてひとくくりしてさ、ひとりひとりのことなんて知らないで……それにあたしがミラを騙せるほど頭よくないし!」

 

 アルフレートは剣を抜く。あたしはそう確信して下がった、でもその予想は外れた。アルフレートの手をウルバン先生が抑えたからだ。


「あっはっは。楽しい問答だったね。でもねマオ君、君の意見はなかなかに過激だね」

「そうかな」

「そうさ、あまりに示唆的だからね」

「?」


 どういうことか考えていると、アルフレートが抗議した。


「先生離してください!」

「おお、ごめんごめん」


 ウルバン先生は手を放す。それでアルフレートはふんと鼻を鳴らす。ウルバン先生は自らの剣を抜いた。


 その抜く、という行為がなんだかきれいだった。ただ剣を抜いただけなのに無駄をまるで感じさせない洗練された何かを感じた。先生の剣は刀身が長い普通の剣だった。でも彼はそれを一度振って、アルフレートに見せる。


「アルフレート君。これ、なにかな」

「何とは」

「そのまま答えていいよ」

「剣ですか……?」

「ぶっぶー」


 ウルバン先生はあたしに近づいてきて、剣のおなかでこつんと頭を叩いた。……よけられなかった。


「これね鈍器なのよ」

「な、なんで叩いたのさ」

「ああ、ごめんごめんマオ君。そうだな、君、これ何に見える?」


 ウルバン先生は次はニーナに言った。ニーナは「えっ」とうろたようだったが、少し考えて言った。


「鈍器……それに剣ですか」

「ぶっぶー」


 ウルバン先生は床に剣を刺した。石の床にすらりと刺さった。


「これね、杖なのよ。最近腰が痛くてね」


 歩くジェスチャーを交えた彼の仕草。周りの生徒は笑う。


 ニーナは納得いかないような顔をしている。


 ウルバン先生は次にフェリシアに言う。


「フェリシア君、きみはこれが何に見える?」

「さあ、答えたことと外したことを言うのでは?」

「どうかな。君もアルフレート君と同じように気取っているところがあるね、間違いを恐れても立ち止まるだけだよ」

「……」


 ウルバン先生はあたしに向き直った。剣を持って言う。


「これ、なに?」

「…………」


 あたしを見るウルバン先生をまっすぐに見返す。


「それは……剣だよ。でもさ、見方次第……使い方次第でいろんなものになれるよね」

「うん。そうだね」


 ウルバン先生は剣を鞘に収める。しゃっと音を立てて流れるように納刀する。綺麗だった。彼は柄に手を当てたまま生徒を見回す。


「確かにこれは剣だ、でもいろんな側面を持っている。切れないところで叩けば鈍器になるし、杖にもできる。他の使い方もあるかもしれない。君たちにまず教えておかないといけないことはね、武器を使った戦闘というのは死ぬかもしれないということだ」


 アルフレートは「何を当たり前では?」と言った。ウルバン先生はつづける。


「そう当たり前だ。でもね死ぬかもしれない時、戦闘をするということはね一つのことにとらわれるんじゃなくていろんなことを考えておくべきなんだ。剣は『剣』に適した形をしているから切ることによく使われるけどね。マオ君、強い相手がいて逃げるときに剣を使うならどうする?」


 またいきなりの質問だけど、あたしは答えた。


「投げるかな」

「ははは、それもいいね。……こんな感じで君たちが冒険者になるなら常に考えていなくてはいけない」

「先生」


 アルフレートが叫んだ。


「そんなことは先ほどまでのその娘の言うことと何の関係があるのですか? 魔族の危険性を……」


 そこで何かに思い当たったらしく一度言葉に詰まらせる。


「いや、実際に魔族は各地で事件を起こしています。彼らの危険性は常に考えておくべき問題なのです。その『見方』が間違っているのですか?」

「いいや、アルフレート君。君の言うことも間違ってないと思うよ。しかしマオ君の考え。ようするに『見方」はどうかな? 間違っているかな」

「………………間違っています。彼女はあまりに無知で、愚かです。魔族というものを何も知らずに語っている……。人々を傷つける彼らがどれだけの脅威なのかをわかっていません。もしもまた彼らが戦乱を起こしたとすれば……戦争の悲惨さを歴史を知らない彼女は分かっていません」


 そうだね。


 あたしは『今の魔族』を知らない。


 ウルバン先生は言った。


「フーン。そうかな。まあ、いいか。それじゃあそろそろ今日の授業をしようか」


 ……ええ?……この流れてそうなるの?


「マオ君は剣を用意して」

「あ、あたしが剣を……?」

「そうそう。みんなの前でこのアルフレート君と模擬戦をしてもらうから」


 ……!? はああ??


 アルフレートもぽかんとしている。というか生徒全員がたぶんこう思っている!


 ――何言ってんだこいつ!







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