ゲオルグ・フォン・ヴォ―ド セレスタス魔法陣の概要 ①
朝だ! いい天気で青空が広がっている。
あたしはリボンの紐をキュッと締めなおす! 初めての授業に意気込んで家のドアをバーンと開ける!! こういうのは気持ちが大事だからさ。
「行ってくるよ!」
家の中にまだいるラナにそう言って飛び出した。手には魔導書の本。ラナが持っているのを借りた。今日の授業は確か「セレスタス魔法陣」とかいう話だ。あたしが魔王だった時にはそんなものは聞いたことがないからきっと新しい魔法の話なんだろう。
フェリックス学園に着くと入り口にはニーナが待ってくれてた。金髪が朝日に輝いてきれいに見えた、片耳につけた耳飾りが揺れた。
「おはよう! ニーナ」
「……ああ、おはよう……朝から元気だな」
ニーナは肩をすくめてあたしの横に来てくれた。二人で歩いて中に入る。教室の場所も一緒だし、授業も一緒のものだ。
「それにしても今日からかぁ。どんな先生なのかな」
「……ラナの話では変人ぞろいらしいからな……いや」
ニーナがあたしをじっと見る。
「こっちも負けてないか」
「……そ、それはどういう意味?」
「説明が必要なのか?」
あたしが反論をしようと彼女を見るとニーナは柔らかく笑った。
抗議しようかと思ったけど、くすりとするニーナを見るとなんとなくうれしかった。でも言い返す機会を逃してしまった。いや……そうだ。
「ニーナって笑顔がかわいいよね」
「なっ……貴様」
へへ。あたしはにやっと笑ってみる。本心だけど、反撃成功かな。
ニーナがわかりやすく動揺しているうちに教室に着いた。
校舎にはいくつもの教室がある。そこでそれぞれの授業を行ったりしているらしい。
だから授業ごとに移動することになるけど学生とすれ違う時にたまにひそひそと声が聞こえてくる。たぶんいろいろあったからあたしのことを言われていると思う。うーん、少しだけ有名人だなってちょっと考えてしまう。
そんな感じのだから教室に入ると先に中に入っていた学生たちが一斉に見てきた。
別に何を言うわけでもないけど、すごい珍しいものを見るような眼をしているのは分かる。まあ、いいや。教室はやっぱり半円状になってて生徒が座る席は後ろに行くほど段差がつけられている。
前には大きな黒板がある。そこにはラナが持っていた「チョーク」が置かれてた。
適当な場所にニーナと座る。席は自由だ。
「予想はしていたがお前は注目されているな」
「まあね」
そのあともまばらに学生が入ってきた。各々好きな場所に座るけど……び、微妙にあたし達が遠巻きにされている感じがする。まあいいけどさ!
鐘が鳴った。授業の開始の合図らしい。その鐘の音が鳴っている間にゆっくりと教室の扉が開いた、
入ってきたのは男だった。
くすんだ青い髪に眼鏡をつけた目つきの鋭いあの人がきっと先生なんだろう。時間通りに入ってくるなんて真面目な人なのかもって、鐘の音を聞きながらあたしは頬杖をついて見てた。そこではっと自分で気が付いて姿勢を正した。
いけないいけない教えてもらう立場だもんね。しっかりしないといけない。
正直な話だけど、魔法とかそれ以外のことでも別の人に教えてもらうのはすごく久しぶりだ。実感はないけど数百年ぶりなはず。
確か先生の名前は「ゲオルグ・フォン・ヴォ―ド」先生だ。フォンってことはニーナやミラと同じように貴族なんだろう。
そのゲオルグ先生が壇上に立った、黒いローブに身を包んで少しけだるげに顔を上げる。
「授業を始める」
いうや否や手をチョークを手に黒板に文字を書いていく。かっかっかっと書かれていくのは魔法陣とその理論だろう。
え? これもう始まってるの?? じ、自己紹介とかないの??
「に、ニーナ……?」
とニーナに話しかけようとしたらゲオルグ先生は後ろを見た。
「私語をするな」
は、はい。
それで黒板に向き直ってまた論理を書いていく。あたしは口を手で覆ってあたりを見回す。他の生徒たちも困惑した顔をしている。どうすればいいのかわからないようだ。とりあえずあたしは黒板の文字を読んでいく……。
――魔法とは自然にある力を増幅または集約することによって起こすものである。
――自然にはそれぞれ精霊が宿る。火にも水にも風にもそれぞれの精霊の名を冠する呪文を詠唱するかもしくは魔法陣を描きその力を借りることができる。
――魔法陣とは流し込んだ魔力を集約し自動的に構成させるためものである。その中でもっとも優れているのが「セレスタス魔法陣」である。
――セレスタス魔法陣とは100年前の知の勇者の子孫の………が………して………残した……そうして……。
…………どれだけ時間がたっただろうか。
「セレスタス魔法陣」というものが何なのかどんどん描かれていく黒板が文字に埋まっていく。その間にはゲオルグ先生は全然しゃべらないし、生徒もしゃべってはいけないから静かだ。チョークの音だけが響いている。
魔法陣というのは「線」によって構成される魔力の通り道だ。突き詰めていくと一点に魔力を集中する必要性があるから大抵は円形に文様が描かれてる。それは今も昔も変わらない。
魔法は別に魔法陣がなくても呪文がなくても発動することはできる。でもそれにはさらに多くの魔力が必要になるし、しかも精度が落ちる。よーするにせっかくの力を無駄にしてしまう。無詠唱はラナやソフィアがやっていたけど、魔力の少ない今のあたしには結構難しい。
「そういうことだ」
ゲオルグ先生が振り向いた。後ろには文字がびっしりと書かれた黒板。書き終わったのかもしれない。
けだるそうに教室を見回す。
「わかったか?」
少ない言葉で聞いてくる。いやよく見たらじっと生徒の一人を見ている。前の方に座っていた女の子がびくっと肩を震わせて自分を指さしながら「わ、わたし?」と言っている。
「私語は慎め」
「は、はひ」
「とりあえず今日教えたことについての考察を述べろ」
「こ……こうさつ?」
女の子は傍目からもすごく動揺している。そ、そりゃあ、あんな質問されてもわけわからないよね……。
「もういい。お前は落第だ、教室から出ていけ」
「……へ?」
!?
教室が冷えていくような感覚があった。言われた女の子は今にも泣きだしそうな顔をしていた。
「先生!」
それをみたらいつの間にかあたしが手を上げていた。ゲオルグ先生があたしをじろりと見る。横でニーナの「おまえ、なにを」って聞こえてくる。そうだね。あたしもなんで手を上げてんのかわからないんだ。
それにしても先生は目つき悪いなぁ。それに教室のみんなもあたしを見ている。さっき泣きそうな女の子もあたしをみてたから、とりあえずこっそりウインクしてみた。
要するに魔法陣と魔法の考察について述べたらいいってことだよね。
でも正直聞きたいことが結構あるんだよね。今の時代の魔法について実は知っておきたいのもある。元魔王としてもやっぱり自分の持っている知識は古いはずだしね。
あたしは一度息を吸う。落ち着こう、いっつも突っ走ってみんなに迷惑をかけたのも反省しないといけない。ここは謙虚に、謙虚に振舞おう。
「あの、素人の質問なんですけど」
ふふ、元魔王としては結構謙虚に言えたはず!




