退学勧告①
クロードさんの説明の後にニーナと一緒に授業を申し込みに行った。
せっかくラナが優しい先生を教えてくれたからその日のうちに終わらせてしまおうと思ったんだ。あたしのポケットの中にはラナの話をメモした紙が入っている。
「しかし、いいのか……」
ニーナはどことなく元気がない
「まあ、最初はかるく慣れる感じでいいんじゃないかな?」
むしろあたしが説得しているみたいになってしまった。さっきの話だったらきっとこれからも長いから最初から難しいことをするよりいいってラナの言っているのは間違いじゃないよ。うん。
それでもニーナは憂鬱そうだった。うーん。
「……入学試験の時はいろんことを突っ走っちゃってみんなに助けてもらったからさ。反省しているんだ。無理をしてもいいことは……はいっぱいあったけど、それは大変だよ」
「……お前が言うと説得力があるな」
くすりとニーナがした。笑うと耳のピアスが少し揺れる。
「ニーナって笑った方がいいよね。かわいいし」
「……! いきなり意味の分からないことを」
早足になるニーナ。あ、これは恥ずかしがってますね。あたしは後ろからついて言って「かわいいってば」って追いかけるとこの力の勇者の子孫は走り出した。
「ま、待って。ご、ごめん」
廊下を走る。
☆
職員室っていうのかな。大人の人が出入りする場所だ。先生たちはそれぞれ部屋があってここにはいないらしい。先生の部屋は工房とか研究室とか言うらしいんだ。
息を切らせたニーナとあたしはそのドアの前に立つ。開こうとする前にどこからか呼ばれる声がした。
「おーい」
振り返ると大柄の男性が廊下の向こうから手を振っている。筋骨隆々って感じで褐色の肌をしている。盛り上がった筋肉が遠目でもわかる。でも髪は白くて蓄えたひげも真っ白だ。学園の校章の入った服を着ているけどぱつぱつで小さく見える……
濃いい。でも、なんで呼ばれてんだろう?
「そこの二人こっちにおいで! ちょうどよかった! お菓子もあるぞ」
声が大きい。響く。うーん。
「今から授業の届け出をするからごめんなさい!!」
あたしも負けずに大声で答えてしまう。男性は少し止まって、ニヤッと笑う。
「そんなのはあとだあと!! ほらこっちにこい!! 甘い菓子があるぞ!! 後ではやらんぞ!!」
おかし……。はっ! いけないいけない。なんて魅惑的な言葉なんだろう。チャームにかかるところだった。
「……食べ物で釣るのは卑怯だとおもう!!」
「戦いに卑怯も何もない!! 有効な手を常に打ち続けることが重要なのだ!! 早く来い!!」
「う、うううう。い、いや!! あたしはそんなんじゃ釣られないよ!
「バカめ。甘いわ! クッキーだぞ!!」
クッキー!! クッキー!! あ、足が勝手に。いやだめだ。こんなことで……負けてたまるか。そんなあたしの肩をがしっとニーナがつかんだ。
「ちょ、ちょっとまて、廊下……大声で恥ずかしい会話をするな……と、というかあの人は」
周りを見ればなんだなんだと職員さんも通りすがりの生徒も見てきている。ニーナと同じくなんとなかく恥ずかしくなってきた。うん……仕方ないよね。あんまり騒ぎを起こしたら悪いし……これは仕方ないことだ!!
あたしはそうやって仕方なく大柄の男性ととある部屋に入っていく。ついてきたニーナはどことなく緊張しているけど、あたしはすきっぷしたくなりそうになるのを抑えている。
立派なドアを開けると狭い部屋だった。ただ印象的なのは大きな窓があって青空が見える。
入った最初の印象は狭い感じだったけど、よく見たらそこら中に書類が束になっていて積み重ねられている。それで狭く感じるんだ。
「がはは。お菓子は嘘だ」
「……!!!!!!!」
うそつき!!! うそつき!!! 帰るよ!!
男性はあたしの様子をにやにやしながら見て。手元に赤い箱を取り寄せて開ける。中には色とりどりのクッキーが入っている。
「ふっ。さらに罠にかかったなバカめ」
「……ふ、ふふ」
男の箱の中からクッキーを取り出すと彼とあたしで向き合って笑う。対峙するといってもいい。この男は危険だ……! もぐもぐ。おいしい。
「がはははは! 入学式と同様面白い奴だなマオ」
「な、なんであたしのことを知っているの?」
「なんでとは? ……ん? おまえもしや」
「ま、マオこの人は」
「待て、ニナレイア・フォン・ガルガンティア。面白いから少しそのまま話をさせてくれ。まあ、二人とも椅子にかけなさい」
椅子? あ、書類の山積みになったソファーがある。座るところなんてないよ。そう思っていると男は書類を持ち上げててきとうに場所を作ってくれた。ソファーは対面になっていて、あたしたちと男で向かい合って座る。
「いろいろと噂は聞いているぞマオ……ん-、姓はないんだったな」
「うん」
「がははは! 物怖じをしない性格は好きだ。ところでお前はワシを誰だと思っている?」
誰って……お菓子おじさん……いや、そんなわけないから。なんか期待したような顔で男はあたしを見てくる。うーん。
「なんか偉い人……ですか?」
「おお、えらいえらい」
「……先生?」
「そういえばそうだ。うん。間違いはない」
あたしがニーナをちらっと見ると汗をかいて下を向いている。男を見ると両手を組んでにやにや答えを期待している顔をしている。
「わかった! 学校の偉い人だ!」
「そうじゃ。ワシこそがこの学校の学園長であるグランゼフだ。覚えておけ!!」
学園長! そうなんだ。
「へー。すごいんだ!」
グランゼフはあたしの言葉に一瞬目を丸くしてそれから豪快に笑った。
「がははは。学園長と知ってもその反応とはな。聞きしに違わぬクソガキじゃわい!」
「く、くそがき」
「おうよ。お前さんのことはいろんなものから聞いて一度話したいと思っていたんじゃ。なかなか面白い奴だ。本当なら入学式にも顔を出していたから知らないとおかしいんだがな」
「あ、そうなんだ……。自分のことでいっぱいだったから……。ごめんなさい」
「……妙なところ素直じゃな、ま、いいわ。ほら、クッキーじゃ、箱ごとやるわ。他のお菓子もこの机を漁れば出てくるが……」
クッキー箱ごと! ぽわーってなった。幸せってこういうんだろうかなぁ。ありがとうクッキー学園長……ち、ちがった。グランゼフ学園長!
「……面白いくらいにころころと表情が変わるやつじゃなのう。……ニナレイア」
「え? あ、はい」
「お前も硬くならんでいいから楽にしなさい、なーに。お前たちを呼んだのは大したことじゃないんじゃ。いや、本当に用事があったのはマオだけだ」
あたしに用事? なんだろ。
「大した用件じゃないんじゃが、マオ……お前に退学勧告が来ているんじゃ」
……………は?
あたしとニーナは固まった。




