あたしはFFランク冒険者!
「かんぱーい」
がっしゃーんとあたしの目の前でエールに入った容器が軽快な音を立てる。
ここはギルドに併設された酒場だ。初めて来たときはお昼時だったから誰もいなかったけど、今は円卓をみんなで囲んでいる。みんなってのはあたしとミラとガオとグルとボラズ。
ガオはごくごくとエールを飲む。金色のお酒は美味しそうな気がするけど、一度泡だけ飲んだことがあるんだけど、にっがっ、てなったからあたしは飲めない。だからあたしとミラはりんごのジュース。
あれから数日経った。
村の近くにあんな大きなモンスターがいたんだから結構騒ぎになったし、あたしが討伐にかかわっているとお父さんが知ったときにすごく怒られもした。何かあったらどうするのかって。
黒狼にやられたガオとボラズは意外とすぐにけろっとした顔をしていた。ただ盗賊っぽいお姉さんのグルだけがちょっと引きずってた気がするけど、今はあたしの目の前でエールを飲んでいる。
ガオは顔に傷ができているし手には包帯を巻いている。骨が折れているらしいんだけど、元気にエールを飲んでるほんとに折れてるの? こいつ。
それはそうと目の前にはいろんなお皿にいろんな料理が並んでいる。あたしは大人だからそんなこと気にもならないのだけど、あたしはフォークを手にしてどれを食べようか迷う。
「こら」
え? なんであたしミラに怒られたんだろ。
「行儀が悪いヨ?」
ぐっ、なんか楽し気に銀髪美少女が注意してくるんだけど、あたしは仕方なく取り皿をとって一つ一つ皿に入れては食べる。んんんんん。
ま、まあまあかな。
というかさっきからミラはあたしのことをじっと見ている。
「何? あたしの顔に何かついてる?」
「んーん。なんか見てたら面白いから」
「なにそれ」
あたしを珍獣か何かと勘違いしているのか、もぐもぐ。
ガオはあたしの顔をじっと見ている。なによ、なんでミラと言いあんたと言いあたしを見るのさ。
「お前さ、冒険者になりたいって言ってたな」
「冒険者? 言ったね」
あたしは成り上がるために冒険者になるってこの前決めた。あたしのために、あと、まあ、お父さんとかお父さんとか村のためにね。
あたしは話を聞きながら口を動かす。うん。まあ、うん。まあまあ。おいしい。なんの肉かわからないけど口の中で噛むと肉汁があふれ出る。んんん。ま、まあまあかな。
ガオはそんなあたしに言う。
「なりたきゃ今なってこいよ。そら、あそこの受付でよ」
「……!!?? そ、そんな簡単になれんの?」
「なれるさ。登録するだけなら別にな」
まじ? え? そんな簡単なことなの?
「が、ガオさんそんなふうに言ったら間違った理解を与えてしまいますよ」
ミラがあたし以上に気にして声をだす。そんな時あたしは口にものを入れているので言葉を話せない。目だけ動かすしかない。
「間違ったも何もねぇさ。どうせこいつならFランクだ、Fランクなら依頼なんて受けられないしな」
「そ、それはそうかもしれませんけど」
ごくん。口の中のものを飲み込んだ。
「ランクってどんな意味があるの」
たしかランクは「F」~「S」まである冒険者の階級のようなものだ。
あたしの問いにミラが答えてくれた。
「ランクと言うものは実質的な意味としては実力の指標以外にも依頼を受ける『資格』のような意味があるの。例えば、今回の村のモンスター退治の依頼ランクは『E』だったんだけど……依頼にもランクがあって、冒険者としてのランク以上には受けられないの」
へー。じゃあ低いランクの人が難しいことはできないようになっているのね。
「じゃあFランクってどんな依頼があるのよ」
それを聞いてぷっとグルが笑う。なんで笑っているのかわからないけど、ガオが答えてくれた。こいつも半笑いだ。ボラズもなんか笑ってる。
「ほら、あそこの掲示板を見てみな。Fランクの依頼が張ってあるぜ」
なになに。んー。「煙突掃除求む」「お買い物の依頼」「犬の散歩」。げー。なにあれ、どう考えても冒険者って感じじゃないじゃん!
「すごい、マオ」
なんでミラはいきなりあたしを褒めんのよ。
「文字が読めるの??」
馬鹿にしてんの? あ、そうか普通読めないんだったっけ、いやそんなことどうでもいいや。でも、あたしは冒険者になってお金を稼いで村を豊かにするって決めているんだから、最初はどんな形でもいい。
間違えた!!!! 村じゃなくて、あたしが成り上がるの!!! あたしは首を振って、まずはあたしと思いなおす。
「何やってんだお前」
ガオ、うるさい。
「うるさいってなんだよ……まあいいさ、今回の黒い狼の討伐には結構な報奨金も出るだろうし……とりあえず5等分してもいい金額になると思うぜ。おいガキなんだその顔は」
「え? あたしももらえるのそれ」
「そりゃあそうだろ、一応お前も参加したんだからよ。むしろ俺の方が何もしてないくらいあるんだが、ミラスティアが俺らもって言いやがるしな。それなのに、お前だけもらえないのもおかしいだろ。まっ、もらえんのは王都とかで査定してからだろうから少し後だろうけどな」
…………ど、どうしよ。よくわからないけど、うれしいって思っていいのだろうか。鋤とか鍬とかいろいろと買えたりするかな、いやお母さんと弟に服とか買ってあげるのはどうだろう。いや、いけないいけない。お金をもらってにやけるなんて魔王らしくないじゃん。
あたしがそんな葛藤をしている間に酒場の店員がまた料理を持ってきた。あたしは頭を振った。ごはんに期待してそれを見てから、落胆した。
なにこれ?
なんかまるくて薄っぺらいのの上にどろどろの黄色いなにかがかかっている。ところどころに赤いまるいトマト? も載せてある。気持ちわる。
ミラがそんなあたしの顔を覗き込んできた。
「食べないの、マオ」
「こ、こんな気味の悪いもの食べないわよ……うえーどろどろしてる。なにこれ」
「これはねー。ピザって食べ物で最近王都では人気なのよ、上に掛かっているのはチーズね」
「へえ、あたしいらない」
あたしの言葉にミラはちょっとむっとした顔で「ピザ」とかいうのをナイフで少し切った、とろーりとチーズがたれてる、うぇーーなにそれ。あたしは絶対食べない。
ミラが
「はい、あーん」
だーれがそんなことするかーー!
あたしは逃げようとして、がっしりとグルに羽交い絞めにされた。はーなーせー。なんであたしにそんな訳の分からないものを食べさせようとするのさ!
ミラがあたしの顔に得体のしれない「ピザ」を近づけてくる。食べるもんか、ってあははは、くすぐるのは反則。やめ、やめろー! もいっ!
変な声を出した瞬間にミラに「ピザ」を口に突っ込まれた。反射的に噛んでしまって、口の中で、
サクッ
と音がした。
……………………………!!!!!!!!!!
………!??!?!?
もぐもぐもぐもぐもぐ。ごくん。
「どう、美味しい? マオ」
ミラの勝ち誇った顔があたしの前にある。あたしはなんだか、それに普通に答えるのはくやしいから、そっぽを向いて言ってやった。
「べ、つに!」
「……そっ、じゃあ私が全部食べちゃう」
こ、この強欲女! あたしはむきになってしまった。
「太れ!」
「ふ、ふ太ったりしません!!」
ぎゃーぎゃーと喧嘩してしまった。それをガオ達が笑ってみている。というか煽ってきた。
☆
「冒険者としての登録ですね」
受付のお姉さんはギルドの制服を着ていた。短い黒髪のお姉さんだ。
後ろではがやがやと宴会が続いている。あたしはミラと一緒に受付で冒険者としての登録をすることになった。冒険者としての登録はあまり難しいものではないらしい。というか、あたしが登録しても「F」ランクらしいけど、まあ物は試し。
受付のお姉さんはさっきガオが説明してくれたランクについてもう一度解説してくれた。
①冒険者としてのランクによって依頼のランクを制限される
②依頼ランクが高いものには高位の冒険者との同行で認められる場合がある。
③冒険者も依頼のランクも「F」から「S」まである。
「以上で簡単な説明は終わりです。依頼を受ける場合は詳細を説明します。ちなみにランクがどうやって決まるかは秘密です」
お姉さんが人差し指を唇にあててにっこり笑った。あたしは何とも言えない気持ちではやくってせかしてしまった。お姉さんは残念そうだが、反応に困るのよ。
「それじゃあ、このカードに手を置いてください」
カード? ああ、そういえばガオ達が持ってたやつね。
お姉さんが差し出したカードにあたしは手を置く。するとカードとあたしの周りに緑の光があふれていきカードに文字が浮かびあがる。あたしは手を放す。カードにはあたしの名前だとか年齢だとかが浮かび上がったすごい。
それじゃあランクは? あれなんだこれ。
「FF」
なんでFが2つあんのよ。
「なんで?? マオが!?」
いやミラの方がなんで驚いているの? これはなに、つまり「FFランク」ってこと? そういえばミラも「SCランク」って2文字があったっけ。じゃ、じゃあミラこれすごいランクだったりするのかしら?
「んーん」
えー、すごくはないんだ。
「最低」
ひど、あんた実は友達いないでしょ。ま、まあいいや。もともと期待してなかったし、Fだろうが「FF」だろうがどうでもいいけど、これであたしも晴れて冒険者の仲間入りってことだよね。
そう思ったらミラがいきなりあたしの手をがしっと握ってきた。
「マオ! やったね。学園に入学できるよ! 私と一緒!」
「は。が、学園? 何それ」
ミラはよかったやった、って言っているけどあたしにはさっぱり訳が分からない。誰か説明して。
ぱちぱちと手を打つ音がする、あたしが振り返るとそこには緑の髪をしたギルドの制服きた美少年がいた。長い髪を後ろで結ってる。
「冒険者登録おめでとう。そのランクの意味は僕から説明しよう」
いきなり出てきてあんた誰?
「僕はイオス・エーレンベルク。このギルド長をしているものです」
そう言ってにこやかにイオスは笑った。あと、ミラがあたしに抱き着いてくるんだけど、痛い、離せ!