入学式②
それであたしは入学式での代表として挨拶なんてすることになった。
変なことを言ったら大変だからミラやラナが手伝ってくれて、紙に書いて今日の挨拶を考えてきたんだ。
前も聞いたけどフェリックスの入学式は年に2度あるらしい。いろんなところからギルドの選んだ若者や場合によっては貴族の子弟なんてのも入学する。だからなのかわからないけど、一つのお祭りみたいになっている。
当日はいろんな出店なんかしてて、あたしたちと同じ格好をしているフェリックスの学生や新しく入る子が大勢集まってきた。それに一般の人にも学園内を開放しているらしい。夜には花火を上げたり、炎の魔法で空を彩ったりするらしい。
流石に入学式の講堂には生徒と先生ばかりだ。席は埋まっている。貴族の親御さんみたいなのはちらほらいた。まあ、どうでもいいんだけど、というかあたしは挨拶をしないといけないから頭の中でぐるぐる考えていたから余裕がなかった。
いつの間にか学園長って人の言葉が終わった。……ぜ、全然聞いてなかった。い、いっか。まあ。うん。大丈夫だよね。
階段を上がるときに見てみたら、ミラとラナは奥の方。前の方にニーナがいた。広い講堂の中は暗くて探すのに少し苦労したけど。あ、モニカは端っこの方にいた。なんだかみんなのことを見ると安心する気がする。
あれ? そういえば知の勇者の子孫……ソフィアが見当たらないや。探しきれないだけかな。
光の魔法で作られたスポットライトがあたしがあたしを照らす。
壇上に立つ。そこで作ってきた挨拶の紙に視線を落とした――
くすくす。
なんとなく顔を上げた。知らない子たちがあたしを見て笑っている。いや、というかいろんな人があたしを見て笑っていた。言い方よくないけど、あれは嘲笑っている。
静かな場所だからその声が少しだけ聞こえてくる。
――あればFランクの依頼だけしかしなかったってマオって子だって。
――聖剣の所有者に取り入って功績を奪ったらしいな。
――全然魔力を感じないあんなのを入れてどうするんだ?
いろんな声が聞こえてくる。ああ、なるほどそういうことか。そりゃあそうだよね。あたし自身ここにいるのはおかしいことだってわかっているんだからさ。ああ、遠くから見えるけどラナがなんか席で周りを見ている。
ある意味ポーラに言われたことはほかのみんなも思っていたことだってことだね。そのポーラは多分先生の席だと思うけどじっとあたしを見ていた。笑いもせずになんか試すような視線だ。他の先生はあたりのくすくす笑っている子たちを止めようとしているみたいだった。
ごめんミラ。
手に持った紙から視線を外した。
周りに赤い光が浮かんだ。おお、なんだこれ。あ、そっか声を拡大してくれるんだ。じゃあ、みんなに挨拶をすることだけに集中できるね。
最後に大きく息をすった。
「皆さんこんにちは。私の名前はマオといいます。生まれは海の向こうの小さな村で育ちました」
失笑が聞こえる。田舎者って聞こえる。
「こんな風に皆さんの前で挨拶をしているのは本当に偶然みたいなものです。たまたま村にやってきた冒険者のパーティーと関わってギルドからこの学園を紹介されて、本当に何もわからないままにやってきました」
まっすぐ前を見る。あたしの声は響く。
「王都に来るまでの間にもいろんなことがあったけど、大切な友達もできました。あたしはみんなが知っての通り満足に魔法も扱えませんし、武器が扱えるわけでもないけど。ただ、王都に来るだけでも一人では来れなかったくらいになんにもできませんでした」
頭の中にいろんなことが流れてくる。ミラと出会ったとき。クリスのことソフィアや魔銃のこと、船上のこと……あ、そういえばイオスの奴はどうしているんだ! あいつの依頼でとんでもない目にあったし。いや、今は抑えておこう。あたし。
「この王都に来てから入学のための資格を得る依頼も一人ではまともにできませんでした。あたしはFFランクだから一人ではまともな依頼一つ受けることができないから、だから王都で出会った新しい友達があたしのことを助けてくれたんだ」
ああ、なんだろう、あたしは少し体が自然と前に出る。
「この数日だってそう。あたし一人じゃ、なに一つだってできなかった。水路での事件もそうだった。壊れた街を復興するなんて何にも役に立てなかった。……むしろこの場にもいる魔族の友達の方がいろんな人にために一生懸命に働いてくれた。Fランクの依頼だってそうだよ。ひとつひとつの依頼は誰かが頼んでくれたからできたんだ。少しの間しかまだこの王都にはいないけど、大勢の人と出会うことができた。途中で熱を出して倒れたこともあったけど、最後の最後ではみんながまたあたしを助けてくれたんだ。それはギルドの人達も」
あたしは手を広げる。
「そうだよ。あたしはなんにもできない。全部助けられた結果ここにいる。どうやって返せばいいのか全然わからないよ。ここにいるみんなにも、ここにいないみんなにもなんてお礼を言えばいいのかわからないよ」
いつの間にか声があたし以外の声が聞こえなくなっていた。
「あたしはFランクの依頼くらいしかしてないし、おーぜいの助けを借りたし、魔力なんて全然ないよ。でもさ。それが自分なんだ。ここにいるのは偶然だけど、全部ひっくるめてあたしなんだ」
両手を腰に当てる。
「だからさ、こそこそ言わないで文句があるなら正面から言ってきなよ。あたし――マオ様は誰が相手だって逃げたりしないよ」
ざわざわと波が広がる。あ、ミラとラナが頭を抱えている。だってさ! いろいろいわれっぱなしだったら悔しいじゃん! でも言えたからよかった!
☆
「バーカー!!」
ギルドの中は大勢でにぎわっている。街のみんなが来てくれているんだ。それと全然知らない人たちも混ざっている。この前のFランクの依頼で手に入れた報酬を使って全部あたしのおごりで宴会をしようと言ったらなんだか近くの人がいっぱい集まってきた。あ、もちろん報酬は山分けであたしの分だけね。
それにギルドの人たちにもお礼がしたかったんだ。ノエルさんなんてエールをぐびぐびのんでぐでんぐでんに酔ってさっき絡んできた。
ロイとの戦いで壊れた街の人たちも親方に頼んで連れてきてもらった。あ、水路の出会った猫もいる。なんで?!
その中でエトワールズの5人は円卓を一つ占領している。卓上にはいっぱい料理が並んでいる。ラナは骨付き肉であたしを指して言う。
「と、途中までいい話かとおもったら、なーに宣戦布告みたいなことしてんのよ。この馬鹿頭~」
肉を手放したラナがあたしの頭をぐりぐりと両側から拳で押してくる~いたいぃー。
「……うん。今回はマオが悪いよ」
ミラがあたしの頬っぺたをつねってくる。ええ? ナニコレ。
「……」
む、無言でミラの反対側をニーナがつねってくる。
「え、えっと」
も、モニカだけは何もしないよね。すごくおどおどあたしを見てくる。でもキッと最後強い視線を向けてきた。
「マオ様! 私は途中までマオ様の誤解が解けて、学園の人たちにもマオ様の良さが伝わるんじゃないかと思っていました! でも最後はいけません!」
モニカが両手を組んで怒ってくる。ご、ごめんなさい、うわ、ちょっと待って。お水の中の氷をあたしの背中に入れないで、つ、冷たい。机から転げ落ちてしまう。床にぺたんと座ってあたしは言った。
「ご、ごめんってば。だってさ。言われていることほとんど事実だし……それならあたしが全部受け止めるしかないじゃん……!」
そんな言葉を聞いてみんなは顔を見合わせた。合わせたように溜息を吐いた。な、なんだよぉ。
ミラが手を伸ばしてくる。ありがと。ミラの手を借りてあたしは立つ。……よーし、もう今日はいいじゃん、一杯食べよう。ねえみんな!
あたしが言うとギルド中のみんなが歓声を上げた。
でもあの時言ったことは全部本当のつもり。あたしはいろんな人に助けてもらった。これくらいじゃ何のお礼にもならないけど。みんなには感謝している。ありがとう!
「あ、そういえばあんたさ。私の下宿代は?」
ラナ……ぎくり。そうだねそういえばそんなのあったね。
「うん。ごめん。全部ない。お金」
「あーん-たーねー!!」
「ごめんなさいー!」
ラナがあたしを追いかけてくる。みんながそれを見て笑っていた。
第二部完結 次回から学園編になります! よかったら感想などいただければ幸いです。




