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マオ倒れる② 


 ふかいふかい眠り。


 体がふわふわする。ここがなんとなく夢の中だって思った。


 たまにあるよね、今自分が夢を見ているって自覚できること。今日はそんな日みたいだった。ここはどこだろう。そうかラナの家だ。外からちゅんちゅんって鳥の声がする。窓から朝日が入ってきていた。


 ラナが目の前にいる。フェリックスの制服を着てまっすぐ見ている。掌をあたしの額において自分の額の熱さと比べている? 少しして「少し心配だけど……よし」って言う。


「あんたさ、今からギルドにいくわよ。今日一日しかないんだから。病み上がりだからって容赦しないわよ」


 病み上がり? そっかあたしは昨日からずっと倒れていたんだ。でもさ、もうどうでもいいよ。どうあがいても間に合いっこない。疲れた。夢の中でもゆっくりとベッドに寝そべっていた――


 頭のてっぺんをげんこつされる。


「痛った!?」


 はっと目が覚めた。これ夢じゃないや。ラナが両手を腰につけて屈んで睨んでいる。細目であたしの様子をじぃーって見ながら背中を叩かれた。


「目が覚めた? さっさと着替えて、ほら早く」


 ラナがせかす。ベッドから立ち上がるとき少しふらっとしたのを支えてくれたけど、でもとにかく「急いだ、急いだ」ってせかしてくる。よくわからないけど、いいよ、どうせやり残したことだから。最後までやろう。


 そう思ってフェリックスの制服を着る。これ実際返さないといけないのかな。いや、やめよう変なことを考えるのは。どうなっても後で考えよう。今は考えられない。着替え終わるとなんとなく魔銃を掴もうとしてラナに手を「ていっ」て叩かれた。


「そんなのいらないわよ。荷物になるでしょ。ほら早く」

 

 銃を掴もうとしていた手をぎゅって握ってくれて引っ張られる。


「うわわ」


 あたしはそんな感じで最後の日に家を出た。ギルドまで軽く走る。ラナが引っ張ってくれるけど、すこしだけきつい気もする。体にはまだだるさがあった。


 だから王都の景色がよく見えた。朝日にきれいに映された光景をあたしは覚えておこうって思ったんだ。数週間だけいたけど、Fランクの依頼をこなすためにけっこういろんな人に出会ったし、いろんなところに行った。それでも全部回り切れてないのがすごいよね。いや、全部どころか全体のほんの少ししか回り切れてないや。


「ねえ、マオ」


 走りながらラナが言った。


「あんたさ。これからどうするつもり?」

「どうするって。……村に帰るしかないかなぁ」

「……バカ」


 立ち止まった。角を曲がればギルドは目の前だと思う。ラナは後ろを振り返った。両手を組んであたしに振り返った。


「いっつもバカでそれでいて明るいバカがあんたでしょ? 柄にもなく落ち込んでいるんじゃないわよ」

「バカって2回も言った……」

「はっ」


 ラナは鼻で笑った。それから二人で曲がり角を曲がる。


「バカなんてこれからも何度でも言ってやるわよ」



 ギルドには人だかりができている。こんな朝早くなんで人がいるんだろう。


 あたしが立ちすくんでいるとラナがまた手を引いて強引に前に進ませる。あたしはよろけそうになったけど、そのまま支えてくれていた。だからまた歩き始める。


「マオちゃんだ」


 誰かがあたしの名前を呼んだ。みたらその人には見覚えがある。いや、Fランクの依頼をしているときに草むしりの依頼をしてくれたおばさんだ。水路に行く前にラナと火で全部燃やしたっけ。今考えると結構危ないことしてた気がする。


 いや、みんな見覚えがある。あのおじさんはは買い物を手伝った。あの人はお話をするだけって簡単な依頼をしてたんだ。みんなあたしを見て口々に「マオちゃん」とか「マオ」とか言ってくれる。あたしは困惑してしまう、なんでみんなこんなところにいるんだろう。


「やあ、マオ君」


 神父さんが立っていた。この街に来て初めての依頼は手紙をこの人に届けることだった。


「お、おはようございます」

「うん。挨拶ができることは素晴らしい。おはよう。それに比べてラナはどうだい。師匠である私がここにいるのに君の後ろに隠れて」


 ラナがあたしを盾にしている。でもすぐに言った。


「おはようございます、ファロム先生……でもなんでいるんですか?」

「おやおやおや。なんでとは心外だね」


 ファロム先生――神父さんが両手を大きく広げる。


「昨日泣きながら私に助けを求めてきたかわいい教え子が来るというのにほおってはおけないだろう」

「ばっ?!」

「おやラナ。そのまま『か」と繋げたら僕はもっと昨日のことをありのままに言おう」

「……あががが」


 ラナが下がった。助けを求めて? 神父さんがあたしに向かって笑う。


「そう、君を助けてほしいって一日中いろんなところに頭を下げて回った、そこにいる私の教え子だよ。マオ君。Fランクの依頼を今日はいっぱい用意している。全部こなすのは大変だと思うけどやれるかな? 僕は手紙を用意したよ」

「がががが」


 ラナが赤くなって唸っている。頭を抱えてうずくまった。


「そ、そういうことは言わないでいいじゃない……みんな自然に集まったってすれば…ぁ。こいつずっとFランクの依頼をしてたんだからみんな知っているでしょ……」

「そうはいかないだろうラナ。依頼をして回ったのは君だけではないのだから」


 そんな言葉をかき消すように「俺はまた庭の草むしりを頼むぜ」「お買い物を少しだけお願いね」「道の掃除をやってくれたらいいぞ」とか、いろんな声が聞こえてくる。さっきここは夢じゃないっておもったけど、もしかしたら夢かもしれない。


「と、とりあえずギルドに入るわよ」

「ら、ラナ」

「なんも言わない。あとさっきのファロム先生の言葉を深掘りしたらユルサナイから」


 ギルドの中にも人がいた。建築の大工さん、眠たそうにしている子供が何人か、それだけじゃなくて、いっぱい。その中にはミラがいた。白い髪を片手でかきわけて、おはようって言ってくれる。


 それにモニカもニーナもいる。すでに窓口には束になった依頼書を用意している受付のお姉さんがいた。ノエルさんだ。にこにこにこにこしている顔に「はよ」って書いてある気がした。あたしが近くに行くと受付の中から手を出されて引き上げられる。


「うわぉ」

「マオちゃん、今日が勝負よ。あったことないけど、学園の性悪女をぎゃふんといわせるの! ダーツやジークが昨日から今日までで全部依頼書にしてくれたんだから。それにこれ。ぜーんぶで一直線に依頼を受けられるように地図を書いたから、それと時間は気にしてなくも大丈夫、今日一日いつでもいいから。依頼一覧もはい。この通りにして……」


 窓口から後ろをみるとダーツさんとジークフリードさんがそれぞれ机に突っ伏して死んでる……ダーツさんが手だけ挙げて親指を上げる。あたしの手元に大量の依頼書が渡された。ノエルさんがまっすぐ目を見ていう。


「全部パーティ『エトワールズ』で受けているから……頑張って。ふぎゃ」


 それだけいうとそのまま力尽きたようにノエルさんが倒れた。くーくー寝息を立てている。


 言葉が出てこない。今日一日しかない。でも「F」の印象の入った依頼書の束を無意識に抱きしめ

ていた。……泣きそうになる。でも違うんだ。あたしは振り返った。


「みんな! これ全部! 今日一日だけど、頑張る! 絶対やるよ!」


 叫ぶように言った。ありがとうってはまだ言わないよ。それにラナが答えてくれた


「それじゃあ『エトワールズ』の力を見せてやるわ!」


 それにミラとモニカとニーナが「おー」って手を上げて答えてくれた。あたしも手を上げたくても依頼書を落とせないから声だけでもおっきく叫んだ。


 依頼をしてくれたみんなも頑張れとか応援をしてくれる。そうするとあたしたちの体を光が包んだ。暖かい光に体が心地いい。


 入り口には神父様が立っていて、手を上げている。手から魔力の残りが立ち上った。笑顔のままに言う。


「簡単ではあるけど、強化と回復の魔法をかけてあげよう。一日は持つよ。頑張りなさい」


 

 ……簡単じゃないと思うけどでも、無駄にはしない! さあ、行こう!


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