死闘②
遅くなってすみません、頑張って投稿します
仮面の男がすさまじい速さで向かってくる。かなり離れているはずだけど、ここまで来るのに時間はかからない。それだけあの「術式」による身体強化は圧倒的なんだ。
――魔銃は連射ができない。
あたしにあるのは2丁だけだ。仮面の男に使える銃弾は2発。クールブロンもフェリシアの銃弾も無駄にはできない。自分の身体の強化は視力と集中力くらいしかできない。
仮面の男が閃光のように向かってくる。それを狙っている銃口も揺れてしまう。落ち着け、落ち着け! 震える手に必要以上に力を入れるな。どうせ引き金を引くだけでいいんだから!
引き金を引く。
魔力の供給された銃弾が光を放って仮面の男に向かう。
一瞬だった。仮面の男が奔りながら剣を振る。火花が散ったのだけが見えた。……銃弾を切ったってことか、乾いた笑いが出る。おなかの下あたりがすごく冷たくなる。
どうすればいい? 自分に自問する。今ので完全にわかる。あいつがあたしに集中している限り、攻撃は通らない。ぐるぐるぐるぐるぐる今までにないくらいの速さで思考が巡るのに何にも出てこない。
その間に石畳を走って男が迫ってくる。残った魔銃を掴む。フェリシアのものだ。ほのかに魔石から魔力を感じる。あたしは魔銃を立てて、額を当てる。時間がないのに何でこんなことをしているんだろう。肉薄したら負ける。ミラでも正面からは敵わなかったのだから無理。
――あいつを倒すにはどうすればいい?
それだけに精神を集中させる。無駄なことを考えたらだめだ。
過去の記憶を思い出す。自分の手札はなに? 何ができる? せめて一瞬だけでもあいつを上回ることができるのなら……だめだ。無理。
何秒経っただろう、多分すごく短い。でも今までで一番考えている。ここで出す答えが間違っていたら死ぬ。……やだな。まだ死ぬのは嫌だ、まだミラとも、モニカやニーナと一緒に居たい。もちろんラナとも。
その一瞬だけ、ラナと遊んだ水遊びみたいな掃除の依頼を思い出した。いつの間にかダンスみたいになってて、後から考えると恥ずかしかった。水を使って人形を作るあれは頭を使った。
――あたしは目を開く。
「水を司る精霊ウンディーネに命じる」
あたしと魔銃を中心に青い魔方陣が展開される。魔石が輝く。呪文の紡いでいくと思わず笑ってしまう。こんなことを思いつくなんてどうかしている。多分わずかな時間しかできない話だろうけど。
仮面の男は目の前だった。石畳を蹴って屋根の上にいるあたしまで矢のように飛び上がる。鉄剣が光るのが見える。あたしは銃を少し持ち上げて、足元の魔方陣に力いっぱい振り下ろした。
「アクア・クリエーション!」
青い光が輝きを増す。でも仮面のあいつはあたしを見失うわけがない。大量の水があふれだしても目くらましにもならない。
魔銃が宙に浮く。その前で左手と右手を演奏の指揮者のように広げる。男が目の前にいる。仮面の崩れたところからその瞳が見えた。あたしはこんな状況なのにおかしくなって笑ってしまう。いたずらをする気持ちになっちゃう。べーって片目だけとじてやってやった。
男が横から殴られてはじかれるように飛んだ。
「!」
仮面の男はすぐに体勢を立て直した。さすがだね。あたしは余裕がないから追撃はできないけどね。あたしの目の前には水で形作られた人型がいた。その水人形の背は自分に比べたらかなり高い。両手を構えている姿は懐かしい。
仮面の男が飛び込んでくる。速い。半円を描くように剣をふるう。
指先を動かす。頭がきりりと痛む。水人形が剣をかいくぐってアッパーを繰り出す。男がよけても水人形はさらに前蹴りを鳩尾にぶち込んだ! 数歩だけ男が下がる。それでも突きを繰り出してくるのが分かったから半身だけよけて裏拳を叩きこむ。そして同時に蹴りを入れる。
また男が下がった。それで少しだけ警戒するように動きを止めてくれた。驚いたのだろうか。それならとってもありがたいかな。頭が痛い。魔石に残ったすべての魔力もあたしの体に残った魔力もすごい勢いで輝きになって消えていく。
「はあはあ」
あたしは指を動かす。
確かにこの仮面の男は強い。でもさ、この水人形は最強だよ。人形を動かすたびに頭がすさまじく痛いのになんだか口元がにやつく。だから話しかけてしまった。
「ねえ、お兄さんさ。力の勇者って知ってる?」
「……」
鉄剣を構える姿がまた怖い。でもあたしはもっと怖い奴を知っている。そいつらと何度も戦ったから、戦闘の方法も全部……かどうかはわからないけど知ってる。
水人形があたしの大嫌いな構えを取る。腰を落として左手を前にして少し重心を前に出す。ああいやだ、この構えから殴られるとすごく痛いんだ。殴られて覚えたからね、よく知っているよ。
「こいつさ、力の勇者っていうんだ」
何言っているかわからないだろうなって思うと、にやって笑ってしまう。
水人形が吠えるように空に向かって口を開ける。もちろんただの水の塊だから叫ぶなんてことはできない。でも、あたしの脳裏はかつてのこいつの声のようなものが聞こえてきた気がした。




