クールブロン②
街中で戦うのはごめんだ。
「ワークスさん!」
「お。おお」
さっきので呆けていたワークスさんにあたしは言う。なんか驚ているのはさっきのクールブロンの……『領域』といえばいいのかな、あれがちゃんとあたしの力で発動するか心配だったんじゃないの?
そんなことどうでもいいや。急ぐ。
「この辺で思いっきり暴れまわっても怒られないところないの!?」
「は? …………暴れ? ……ああ、あるぜ。この通りを進んでいった先に古くて広くて汚い工房がある。大きい建物で錆びた入り口に鎖が巻いてあるからすぐわかる」
「わかった!」
あたしはそれだけ聞くと走り出した。情報としては十分。
「フェリシアもついてきてよ!!」
走りながら叫ぶ。すぐに空から銃撃がやってきた。うわっ。あぶな!
足元のタイルに銃弾がめり込む。態勢を崩しながらもそれでも足を止めない。きっと止まったらいい的だ。
振り返ると屋根の上であの魔族の少女はあたしに銃口を向けていた。ああ、以前もこんなことがあった気がするよ。あの時は弓だったけど。魔銃もフェリシアの魔力を籠めればあの時以上の威力が出せるはずだ。
――だからさっきあたしの足元を打ち抜いた銃撃はまだ手加減している。
おちょくっているのか、なめているのかはわからないけど、あたしだって負けていられない。フェリシアを見ながらべーってしてやる。これが精いっぱい、だってクールブロンで撃ったってあそこなら当たらないよ。
フェリシアの周囲に蒼い光が輝く。
次の瞬間弾丸があたしめがけて打ち出され、それが氷の槍になって襲い掛かってくる。うわっ。あたしが思いっきりジャンプすると正確に足元にそれが刺さった。石畳を削り取るそれの威力は人をしとめるには十分すぎる。
とにかく行こう。足に力を込めてあたしは走る。ああもう、ほんと今日は疲れた。早く家に帰って寝たいよ!
「まおさーん。どこにいくんですかー?」
フェリシアの声が空からする。屋根の上を伝って追ってくる。身体能力はあっちのほうが上。
「この先に暴れていい場所があるってさっ!! そこまでついてきてよ!!」
走りながら叫ぶのは辛い! 息が苦しくなる。
あたしは視線をフェリシアに送る。彼女は屋根から飛んで、走るあたしの少し前にさかさまに落ちてくる。異様な光景にあたしは時間が止まったように感じる。だって笑顔のままなんだ。その手にある光る魔銃の銃口はあたしを向いている。
ハッとする。あたしは横に転がって避ける。一瞬遅れて氷の槍が通過していく。すぐ立ちあがってみれば、通りをふさぐようにフェリシアが両手を広げていた。
「どこにもいきませんよ。マオさん。ここであそびましょう」
「いやだよ! 遊ぶのはちゃんとしたところで遊んであげるよ」
「そーですかー」
瞬間爆発的な速度でフェリシアがあたしに飛んでくる。銃口を向けて青い光を放つ。
全身がやばいって叫んでる。息をするのも遅く感じる。あれ? なんだろう、音が聞こえない。これ、昔の、前世で味わったことがある気がする。やばい時こうなるんだ。
たぶんピンチなのにあたしは落ち着いてる。
手が勝手にクールブロンのレバーを引いて、フェリシアへ銃口を向ける。ほとんど無意識に引き金を引いた。フェリシアがわずかに驚いた顔で横によける。それでも彼女の銃撃は魔法陣を展開して氷の槍になりあたしをかすめていく。
音が戻ってくる。
「かはっぁ」
息を吐く。どくどくと心臓が鳴っているのがわかる。おえ、はきそう。でも動きを止めたフェリシアに向かって不敵な感じで笑ってみる。彼女はすこしむっとした顔をしている。
「……今の動きなかなかですね、マオさん」
「そりゃあ、魔銃を扱うのにはあたしのほうが馴れているからね」
「そうですかー」
フェリシアはゆっくりと歩いている。あたしも円を描くようにその反対をゆっくりと動く。お互いに銃に装填をしている。……でも確かに今の動きはなんかおかしい、自分で言っちゃなんだけどあたしはミラやニーナに比べたら身体能力はずっと下だ。
そう疑問に思ったとき、あたしの手元でクールブロンがほのかに光っている。この魔銃にはフェリシアの魔法陣から吸収した魔力が魔石に込められている。もしかして、この銃のおかげだったり、うわっ。
フェリシアが銃撃を放つ。あたしは無様によける。もうやけだ! 別になんだっていい。とにかく走ろう! 通りの工房から人がすこし窓から覗き込んでいる気がして、巻き込むことはしたくない。
走る。走る。走る。じぐざぐに、狙いをつけられないように。追いつかれそうになるたびに道にあった樽とかよくわかんない箱とか投げて時間を稼ぐ。ごめん持ち主さんたち!
「ちょこまかと!」
フェリシアのいら立つ声がするけど、知らないよ。まともにやるのは後! 通りを走り抜けると大きな建物が見えてくる。明かりの全くない月明かりに黒のシルエットだけ浮かんでるそれ。こわ! なにあれ! 確かにわかりやすいけど入りたくない。
それにしてもこんなに暴れているのに人がいないのはなんでなんだろう……。
そんなこと思っているとすぐそばに氷の槍が刺さった。フェリシアの舌打ちが聞こえてくる。ええい、もう文句なんて言ってられない。大きな入り口は鉄格子がはめられて鎖がしてある。
入れないじゃん!
「はあ、はあ、はあ、はあ」
レンガ造りの塀に囲まれた工房とあたしを阻む大きな門。苦しい、息を整えるというか、もう息自体をしたいってくらい肺が痛い。
「どうやらここまでのようですね」
「はあ、はあ、はあ」
言葉を話すのも億劫だ。鉄格子に背中を預けて少しずつ近寄ってくるフェリシアを見る。涼しげな顔をしているなぁ。体力の違いを感じる。汗が邪魔だ。腕で拭う。うえ、シャツが体に張りついてる。
「まあ、たかが人間にしては結構頑張ったと思いますが。苦しそうですし、そろそろ終わりにしませんかマオさん」
「べっ」
話すのがめんどくさいから舌を出した。終わりにするかって言われてそう簡単に諦められるわけがない。こうなったら一か八かやってみるしかない。
あたしはクールブロンに銃弾を籠めてレバーを引く。
「そうですか。無駄な抵抗をするんですね。さっきあなたの銃撃はちゃんと無駄だって教えたばかりですが」
「そうかな」
「……?」
フェリシアが笑顔のまま小首を傾け、それでいて銃口をあたしに向ける。ようやく息が整ってきた。
「さっきフェリシアから魔力をもらったことを忘れているよ」
クールブロンの魔石が光る。あたしの顔を照らす。あたしは手で魔石を撫でて小さく呪文を詠唱する。
「……これなら十分に威力を出せる」
「へー不愉快ですねー」
フェリシアと目線が交差する。青光を放つ彼女の銃。赤い光を放つクールブロン。フェリシアは笑う。
「そんなに自信があるならちゃんと殺し合いをしましょう」
あの子が魔銃を使って展開する魔法陣はほとんどひとつだ。アイスランス。撃ち出された銃弾を中心に構築された氷の魔法があたしを襲う。でも、誰が、
「誰が殺し合いするって言ったのさ!」
全力で魔力を込めた銃弾をあたしは地面に向けて撃つ。
そして服にもフェリシアの魔力を浸透させて防御力を上げた。フェリックスの制服じゃなきゃきっとバラバラになるね! 嫌な話!
どーんと大きな音がして衝撃で体が浮く。あたしの体が思ったより簡単に飛ばされて門を超えて工房の庭の木に激突する。
「いてて」
枝に引っ掛かった。よかった。いたた。背中を打った……。でもまあ、これで中に入れたかな、よっと、ってジャンプして降りたら足をくじきそうだから枝につかまってゆっくり降りる。
見れば工房が目の前にある。古びたドアに手をかけて中に入ろうすると声がかかった。
「マオさん」
門の向こうにフェリシアがいる。あたしは振り返る。2人の間に大きな門がある。そこには鎖が巻き付いてて手では開かない。
「さっきから逃げてばかりですが、やる気があるんですか?」
「いきなり戦いを挑んできているんだからもともとあたしにはそんな気はないよ」
「はあ、なるほど。マオさん。あなたの手に持っている魔銃というものがなんで生まれたのか知っていますか?」
「知らないよそんなの。だってこれ、……じゃないや。これの前の魔銃はイオスが勝手に押し付けてきたんだからさ」
「…………そうですね。私もそこには疑問を持っていますが、でもねマオさん。それ武器なんですよ」
「は?」
「それは遊びの道具ではないということです。銃弾を籠めて魔力を練りこめば人くらい簡単に殺すことのできる武器なんです。なのにそんなに逃げ回ってばかり。そんなことならどうですか? その銃を私に渡して降参して、王都から去るなら見逃してあげますよ」
フェリシアは心底あたしを見下したような顔で言う。あたしはまっすぐ彼女を見る。
「違うよ」
「違う? 何がですか?」
「殺すとかなんだかとか、それを決めるのは武器じゃない。自分だよ。ワークスさんも言ってた。クールブロンはどんな色にも染まるって。それを重要なのは使い手だってね」
あたしはこの白い銃を立てるように両手で持つ。その先端が月にかかったて見える。
「だからこの子をどういう風に使うかはあたしが決めるし。あと王都からも逃げ出したりしない」
「…………はあ。まるで子供のいいわけですね。もういいです」
フェリシアが飛んだ。門の上に立つ。
「じゃあ。続きをしましょうか」
あたしは後ろに奔る。ドアを蹴ってあける。真っ暗な工房の中が見える。
「ここなら思いっきりやってあげるよ!」




