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クールブロン①

 戦いの音がする。


 ミラが戦っているんだ。あたしは両手で新しい魔銃――クールブロンを構える。


 視線の先にはフェリシアがいる。その手には前にあたしが持っていたような魔銃。そこにはめ込まれた魔石が煌々と光り輝いている。


 魔族は先天的に大きな魔力を生み出す力がある。だからこそ人間との戦争では少数でも有利に戦うことができた。……まあ、簡単に言えば『魔銃』という武器の性質上豊富な魔力を持った使い手のほうが有利だ。


「マオさん。戦う前にひとつ質問をしてよろしいでしょうか?」


 フェリシアの声はゆったりしているけど、どこか冷たい。


「むしろこっちのほうが聞きたいことが多いんだけどさ」

「まあ、そういわず」


 フェリシアとあたしはゆっくりと円を描くように対峙して歩く。さり気なく弾丸を手に持っていつでも装填できるようにしておく。だってさ、話がしたいなんて言ってもフェリシアは手元に魔力を籠めている。


「わかりにくいけど魔力を銃に込めながら言うセリフじゃないと思うよ」

「流石に目ざといですね。まあ、質問と言っても簡単なことですよ。あなたはとある村で生まれたしがない農民と聞いていますが、なぜ私の動きを言い当てたように魔力の扱いに長けているのですか? 師匠がおられたりします?」

「さあね。生まれつきだよ」

「へえ、天才ですね」

「まーね」


 軽口に対して、フェリシアは皮肉で返してくる。


「じゃあ仕方ありません、天才さん。本日は死んでください」


 フェリシアは銃口をあたしに向ける。その一瞬青い光が魔銃を中心に展開される。


「これが本来のこの武器の使い方でしょう。アイスランス!」


 あたしは地面を蹴った。そのまま地面を転がる。次の瞬間には氷の槍が一直線に後ろの工房に打ち込まれた。


 轟音が耳に響く。慌てて振り向くとワークスさんの工房の入り口が吹き飛ばされている。


 その瞬間、脳裏にロイとの戦いで崩れた街が浮かんだ。モニカの顔もその街の人も。このまま戦ったら被害が広がる。


「なんだ!? 何があった!?」


 その声にハッとする。ワークスさんが外に出てきたんだ。


「ワークスさん! 危ないよ!」

「なんだ? マオ……ていうかそっちのやつは誰だ? なんで魔銃を持ってやがる!?」

「説明は無理! あたしにも分らないから……! それよりも工房に隠れててよ!」


 その一瞬に気がとられた。


「そっちを気にしていいんですかぁ?」


 フェリシアの手元が青く光る。装填された銃弾に魔術を付与して打ち出す。呪文で魔法を構築するよりも早く撃ち出すことができる。彼女の銃口に蒼い魔法の光が収束して、氷の槍があたしに撃ちだされる。


「くっそぉ!」


 よけるしかない。後ろの建物の壊れる音がする。その間のフェリシアは銃弾を籠めてレバーを引く。即座に魔力を籠める。あたしもポーチから取り出した銃弾を籠めて、レバーを引く。


「おもしろいですね。じゃあこれはどうですか?」


 フェリシアの手元が赤く輝く。


「フェリシア! それはだめだよ!」


 あの魔族の少女はあたしににやりと笑った。あれは『炎を魔石の中で構成している』。もし避ければ後ろの工房が焼ける。


 あたしはクールブロンを構える。魔石に込めたのはただ銃弾を発射するだけの魔力。銀の細工が光る。銃口を向けて引き金を引く。


 フェリシアは右手をかざす。口元で呪文を詠唱する。


「エア!」


 フェリシアの周りを風が覆う。あたしの撃ち出した銃弾は軌道をそらされてしまう。その風の中でフェリシアは微笑みながらあたしを見ている。風が髪を揺らしている。


 魔力の量。それが全く違う。もし自分にあれだけの魔力があれば負けないと思う。でも、どうしようもない。フェリシアは笑顔のまま銃口を向ける。赤い魔法陣を展開する。


 よけるわけにはいかない。でも、どうすればいいのかわからない。


「おい! マオ!」


 どうすれば……。


「マオ。聞いてんのかこのガキ!」


 がちーん、痛った??? いきなり頭たたかれた?? ワークスさん! まだ居たの?


「いたいじゃん! なにするのさ!」

「おめぇこそなんであんなポンコツ魔銃に負けそうになってんだ? 言っただろうがそいつは俺の最高傑作だってな!!」

「で、でもあたしには魔法を使う魔力なんてないし!」

「関係ねぇ。そういう武器だ、……銃の表面にある銀細工にお前の魔力をありったけ流し込め。少なくたっていい」


 ワークスさんの目は本気だ。どうせ時間なんてない。


「よくわからないけど、やってあげるよ。でも失敗したらワークスさんの工房まる焼けだと思うけど!」

「そんなの許すか! 何とかしろや!」


 そんなやり取りを見てフェリシアがあきれたように言葉を投げつけた。銃口はあたし、いやあたしたちに向けたままだ。


「茶番ですねぇ」


 どういわれようともうやるしかない。胸の前に両手で立てるように銃を構える。


 クールブロンに魔力を流し込む。まともに魔法を構成することもできないような量だけど、それでも――もしワークスさんの教えてくれたように特別な武器なら、使い手の心に応えてくれるなら。あたしは願うように力を流す。


 クールブロンの銀細工が光る。


 あたしを中心に「白い魔法陣」が放射線状に広がっていく。


「なんですかこれは!?」


 地面からまばゆい光があふれる。フェリシアの展開していた赤い魔法陣が溶けるように消えていく。そして赤い光がクールブロンの魔石の中に無数の線の形になって入っていく。魔石に赤い光が灯してあたりは元に戻った。


「これは、近くの魔力を収束させる力?」


 あたしが答えを求めてワークスさんを振りむくとなんだか満足げな顔をしている。なんだろ、少しさっきのお返しに蹴りたいかな。


 でも助かったよ。あたしはフェリシアに向かい合う。彼女もあたしを詰まらなさそうな顔で見ている。


「なかなか面白いことができるみたいですね。その銃に刻まれた文様がもともと魔力を流すだけで魔法陣を展開できるキーになっている……といったところですか」

「……たぶんそうだとおもうけどさ。どうかな。正直最初からあたしは戦いたいわけじゃないから、退いてくれるとありがたいんだけど」


 それに今の発動をするだけでくらくらする。魔力を流し込むという行為だけでもすごい疲れるんだ。それを悟られないように息を吸ってゆっくり話す。


「まさか。この程度で退きませんよマオさん」


 フェリシアはたっと後ろに飛んだ。軽快な動きは魔族の身体能力の高さを表している。彼女の足元が青く光り、そのまま後ろの建物の屋根まで飛んだ。


 月を背にしてフェリシアが笑う。


「離れて狙撃するというのも一つの手ですしね。さ、もう少し遊びましょう」


 あたしはクールブロンを肩に乗せる。正直疲れたし、早くミラたちのところに行かないといけないけど。


「……仕方ないよね。新しい魔銃の扱いも少しわかったし、マオ様が遊んであげるよ」


 魔石に赤い灯が揺らめている。


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