魔銃を取りに行こう!②
繁華街を歩きながらアルミタイルの通りについてミラに聞いた。道には大勢の人がいる。親子連れもいるし、酔っ払いもいる。ぶつからないようにしないといけない。
「王都は東西に広いからいろんな地区があるよ。東の方は貴族の家が多いことは話をしたと思うけど、逆に南西の一角はいろんな職人さんが多かったりするよ」
ふーん。
あたしはミラの話を聞きながら歩いた。歩いたらそれなりに遠そうなイメージがある。まあ、言ったことがないから行ってみないとわからないけど。
後ろにはモニカが無言でついてくる。少し離れてあの緑のローブの女の子。結局まだ名前を聞いていない。あの子はまた頭にフードをかぶっている。魔族であることを隠しているのかな。
モニカもずっと無言だ。もしかして知り合いだったりするんだろうか。気になる。
その時あたしのおなかがくぅとなった。あたしは立ち止まって顔を伏せた。普通に恥ずかしい。
だって繁華街の通りを歩いているとあちこちでいいにおいがするんだもん。仕方ないじゃん。ミラとモニカが顔を見合わせて笑っているし。モニカがくすくすと笑いを押さえられないような顔で言った。
「マオ。よかったら、そのあたりで軽く何か食べよう?」
「あ! あたし出すよお金。……そ、そうだ。ごめん。いまなかった……」
「大丈夫ですよ、マオ様」
「でもさ……」
しばらく話し合った後ミラとモニカが奢ってくれることになった……。絶対返すからね!
4人で出店の一つに行って、タレをたっぷりとつけた串にお肉を付けたものを買った、あ、いや買ってもらった。名前は知らない。
でも、おいしい。もぐもぐすると口の中でお肉とタレが絡み合ってほんのり甘い。
繁華街は賑やかで串焼きを片手に歩いているだけで楽しい気持ちになる。友達と並んで食べ歩くなんてあたしはあんまりしたことはないかも。
でも篝火が煌々と光る道を話しながら歩くのは楽しくて、今日の疲れもわすれてしまいそうになる。
そう、あたしとミラとモニカはなんだかそんな気持ちを共有できている気がする。でも、後ろについてくる魔族の子は結局串焼きは食べなかった。
☆
アルミタイルは職人の街だっていうけど、静かだった。そりゃあそうだよね夜だもん。逆に職人さんたちは繁華街に行っているんじゃないかな。
レンガ造りの工房が軒を連ねている。少し道が暗いと思ったら、
「明るくしましょう」
モニカが手を前に出してポウと魔力でできた蝶を数羽出してくれた。優しい光であたしたちを照らしてくれる。
時折カーン、カーンと何かを打つ音がする。そう思ったら何か煤のにおい……っていえばいいんだろうか、独特のにおいを感じる。たぶんまだ働ている人もいるんだろうと思う。
そういえばワークスさんという人はどこにいるんだろう。あたしは少ない人通りの中でやっと歩いている人に聞いてみたら、確かにアルミタイル1丁目に工房を構えているらしい。
その方向に向かうとこじんまりとした「ワークス工房」というやっぱりレンガ造りの建物があった。入口には「クローズ」ってかけられている。
「あ、もうしまっているみたいだね」
ミラはそれであきらめちゃいそうだったけど、あたしは中に人がいないかドアに耳をつけて中の様子を探ってみた。
「ま、マオ。だめだよ。そんな!」
本気でミラが慌てている。でも中から物音がする。窓から明かりは確認できないけど。あたしは入口の傍に糸のついたベルがあるのを見つけて、引いてみる。カランカランと音が鳴った。
そしてどたどたどたと音がして勢いよくドアが開いた。ぬっと顔を出したのは意外に若い男の人で浅黒い肌をして黒い髪。少し眠そうな顔をしている。あと無精ひげだね。職人らしく太い腕をしている。
「あ、こんばんは」
あたしはなんとなく挨拶をした。じろりと男はあたしを見た。
「お前……マオってやつか?」
「え? ああ、そうだよ。あたしはマオ」
「そうか。俺がワークスだ。もっと早く来ると思ってたが……遅いんだよ!!!」
あたりに響く大声。あたしはびっくりする。ミラとモニカもびくっと体を震わせた。
「イオスがすぐ来るって言ってたが来なかったから、毎日待ってたんだぞ?」
すごいめんち切ってくる。なんかヴォルグといい、豪快や人多いね……。でもあたしは両手を腰に置いてはっきり言う。
「遅くなったのは悪かったけど、いろいろあったんだよ。それにイオスは『困ったら行くように』としかメモでくれなかったからすぐ行くようにとか書いてなかったんだ」
「ちっ……緑まりもの屑が。まあいい。工房に上がれ。あ。そっちの3人はそこで待ってろ」
ごめんみんな、すぐ戻ってくるから。ってあたしは3人に手を合わせるジェスチャーをしてからワークスさんの後ろをついていった。
工房の中はほのかに暖かい。熱がこもっているような気がする。意外に広い。奥の方には大きな窯が見える。
壁には剣だと盾だとかいろんなものが飾ってある。わ、大きな斧だ。たしかハルバートとか言うのだったはずだ。
ただワークスさんはものであふれかえった机の前にきて、豪快に上に載ってたものを叩き落した。荒いなぁ!
その下から長方形の木箱がでてきてワークスさんがそれを開け……る前にあたしを見た。
「お前がなんであのイオスに気に入られたかはわからないが、こいつは俺の傑作だ。ちゃんと大切に扱えよ」
「……正直なんであたしに魔銃を渡すのか全然意味は分からないけど、でもワークスさんの大切なものならちゃんとするよ」
「はっ……まあいいだろう」
木箱から出てきた堤に入った銃。その包みを解いたとき、中から黒い銃身と木材で滑らかに作られた持ち手には白い銀の線で作られた文様があった。そしてそこには大小2つの魔石が輝いている。
綺麗だった。工房の光に照らされた魔銃が白く光っているように見えた。
「なんか、お前にやるのはわるくねぇかもなってお前のだらしねぇ顔を見たら思ってきた」
はっ! あたしは頭を振る。ワークスさんは初めて笑った。綺麗なのは間違いない。ワークスさんから手渡されたそれはずしりと手のひらに重さを感じるけど、前のものより軽い気がする。
「この銀の細工は魔力の通り道だね。魔石が2つになっているのは……使い道が違うのかな」
「よくわかったな。まあ、お前からは全然魔力は感じねぇが。イオスはお前に預ければいいと言っていたからな。ちゃんと肩に掛けられるようにベルトもつけてやったんだからな」
あたしは肩に魔銃をかけて、その場でくるくる回る。うん、動きやすい。
「その銃の名前はなクールブロンだ」
「名前なんてあるの?」
「いいだろ、お前の友達の聖剣もライトニングスという名前があるんだからよ、作品には題名があるんだ」
「ふーん。意味は?」
「白い心だ。……マオ、お前に渡したそいつは俺の作った傑作だという自負がある。だがなぁ、武器は武器だ。使い手によってどんな色にも染まってくれる。だが、銃自体にはなんの気持ちもない。重要なのは使い手だ」
「わかったよ。ありがと……いやうーん。ありがとうございます」
あたしはなんとなくワークスさんが伝わった気がした。
☆
工房を出るとミラとモニカが出迎えてくれた。
「それ、新しい魔銃なんだね。マオ」
「ミラ。そうだよ、前のは船で失くしちゃったから。久しぶりな気がする」
モニカはクールブロンを見て言う。
「綺麗ですね。これが魔銃という武器ですか?」
「そうそう。まあ、これでいきなり絡まれてもそれなりに戦えるよ」
ロイの名前は出さない。そういえばミラにクリスのことを相談したいなぁ。
「まあ、これで依頼は完了だよ。さ、帰ろう」
「あのー?」
わっ。なんだかほとんど初めて話しかけられた気がする。魔族の女の子は手を挙げて聞いてきた。
「その武器があればいきなり襲われても平気なんですか?」
「…………まあ、それなりには戦えると思うけど」
「じゃあ、こういうのはどうですか?」
魔族の少女がローブを跳ね上げる。その下から出てきたのは長く黒い銃身。その魔力の波に光る魔石。
――魔銃!?
少女はすばやく肩に銃を構えて。あたしに狙いをつけた。刹那の時間がゆっくりと流れる。
にやりと笑う顔が見える。
彼女は引き金を引いた。
乾いた音が鳴り響いた。




