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魔族の少女

 ギルド本部。


 ラナに連れられてきたそこは白い大きな建物が建つ場所だった。その広い敷地をあたしとラナは歩いていく。芝生の中に石畳の道が通っている。


 あたしが今まで何件か行ったことのあるギルドとは全然違う。


「このギルド本部は各地の支部から集まってきた情報を集約したり、大きな依頼に対処したりするためにあるのよ。あんたみたいにFランクの依頼なんかで来る意味はないから」


 ラナはそう教えてくれた。あ、そうだ、あの緑の頭のイオスもどこかにいるかもしれない。


 そう思ってきょろきょろしていると、ラナに「田舎者」って言われた。ち、違うし。人を探してただけだってば。


 ここに来た理由は昨日の水路探索の依頼をFランクの評価から上げてもらうためだ。確かにあれだけ命をかけた戦いをしたんだから正当な理由とは思うけどでもなぁ、ポーラ先生との勝負もあるから釈然とはしない。


 でも、反対するのも変な気がする。ロイを退けたのはあたしだけの力じゃないし。


「そういえば昨日のこと結構話題になっているみたいね」

「うん、そうだね」


 ロイとの戦いで街の中心に大きな穴が開いた。それも魔族がやったってことでこのギルド本部に来る前のいろんなところでその話をしている人がいた。


「うーん」


 悩ましいな。昨日の事件であたしたちがロイに出会ったのは単なる偶然なんだけどさ、そりゃあ、あれだけ暴れたらみんな反応するよね。まあ、でもカオス・スライムの危険性を考えたら先に討伐できてよかったと思う。


「それにしても魔族はろくなことをしないわね。あいつら」

「そんなことはないよ。そんな風に一概に言えるわけじゃない」

「え? あ、ああ、そ、そうね。……なんであんた魔族なんてかばうの? へんなの」


 ラナはそれだけで話題を変えてくれた。同じような話題で港町で一度ニーナとケンカしたこともあるから気を付けないといけない。


 その時ふと思った。いや、違う。ずっと思ってたけど言葉にすることを避けてきたんだ。


 あたしは足を止める。ラナに聞かれたくない気がしたんだ。


「……今の魔族ってどうなっているのかな」


 あたしの生きた時代は大きな国があった。……3勇者に負け続けて最終的にはほとんどの領土を失ったけど、あれから数百年経った今はどうなっているんだろう。


 正直確認するのは怖い。


「……あんた、早く来なさいよ。……? なに、あんた寒いの?」

「え? あ」


 気が付いたらあたしは自分の体を抱くようにしていた。


「い、いや寒くなんてないよ。へーきへーき」

「それならいいけど」


 今は考えても仕方ないや。……ラナに聞けば少しわかるかもしれないけど、言葉にすることはもう少し待ってほしい。……今度ミラに聞いてみようかな。


「そういえばさ、ラナ。あのおっきな塔は何なのかな」


 ギルド本部の中央に立つ大きな尖塔。白いそれの上部に目を凝らすと魔法陣が展開しているように見える。


「ああ、あれは…………あれはー」

「あれは?」

「知らない」

「え、えー……」

「何よその反応は! 優秀な私だって何でも知っているわけじゃないわよ! そんなに気になるなら行ってみるわよ。ほら」


 また、強引にあたしはラナに引っ張られていく。ああー。



 尖塔の前は円形の広場になっていた。噴水が水を噴き上げている。見上げると高い。あたしとラナは純粋に「おおきいな」と驚いた。上のほうにうっすらと展開した魔法陣はどういう意味があるんだろうか。


 誰かに聞いてみたいけど、広場には誰もいない。水の音だけが聞こえてくる。


 あ、違うな、一人だけいる。明るくて赤い髪を後ろで結んだ女の子。あたし達と同じ格好をしている。広場の中心で空を見上げている。フェリックスの制服は見分けるのは簡単だなぁ。


 その女の子はあたしたちに背を向けている。後ろからはどんな表情をしているかわからない。


「あ」


 気が付いた。


 耳が長い。


「ね、ねえ!」


 そう思った時あたしは駆け出して、叫ぶように言った。ラナが静止してくれているような気がしたけど、耳に入らなかった。


「……」


 少女が振り向いた。深い赤の瞳があたしを見る。ウェーブのかかった髪を手で押さえている。あたしは固まってしまった。魔族だ。間違いない。


「……何か?」


 やわらかい声だった。優しそうだって最初に思った。


「い、いや、なにをしているのかなって」

「何を……そうですね。私はここで尖塔を眺めておりました。父を待っておりましたので。ああ、大変申し訳ありません。申し遅れてしまいました。私の名はモニカと申します。……失礼ですが貴女様は?」

「あ、あたしはマオ」

「マオ様……以後よろしくお願いいたします。それで私に何か御用でしょうか?」


 丁寧な態度だった。悪意も何も感じられるところはない。でもどことなく他人行儀……初めて会ったんだから当たり前かもしれないけどさ。


「……気になったから声をかけてみただけなんだ。突然ごめん」

「そう、ですか。いえ、謝られることはございません。マオ様も私と同じく学園にいらっしゃるんですね」

「あ、いや、まだ入学前だからさ。正式には入ってないよ」

「これは失礼いたしました。ご入学の後はどうぞご鞭撻の程よろしくお願いいたします……」

「あ、うん」


 なんかうまく話せない。何か話題が欲しいと思う。


「あ、あのさ、この尖塔はなんで立っているのかな」

「……この白い塔は各地のギルドからの情報を特殊な魔法で暗号に変換して集約するためと聞いております。まあ……これだけの巨大ものですからほかのことにも使えるとは思いますが」

「へー」


 あたしはモニカと並んで見上げる。モニカはそれをみて少し驚いたように離れた。


「あの」

「え? なに」

「いえ。マオ様は私が魔族だとお分かりになられていると思うのですが……」

「それがどうしたのさ」

「……え?」

「え?」


 モニカは目を丸くしてあたしを見た。


「なんでもございません。ただ、少し驚いてしまいました。……そういえば先ほどご一緒におられたのはラナ・スティリア様でございますね」

「ラナを知っているの?」

「尊敬すべき先輩としてお慕いしております」


 なんか、すごい『決められた答え』みたいに思う。出会った頃のニーナっぽい……いや、本質的は少し違う気がするな。というかラナもあまり近づいてこないのはモニカが魔族だからかな。


「私はそろそろいきます。マオ様」

「マオでいいよ」

「いえ、そのような失礼はできません。それでは」


 モニカはあたしに深々と頭を下げて離れていった。


 そのあたしの後頭部にチョップが来た。


「いたっ!」

「あんたねー。なんでいきなり話しかけてんのよ」


 頭をさすりながら後ろを向くとラナがいる。


「話しかけるくらいいいじゃん」

「はああ、あんたさ……。あたしと歳が違うってことは学園に入った時には別の奴と一緒になるのよ? 友達は選ばないといじめられるわよ。みたらわかるでしょ。あいつは魔族なの」

「だからなにさ」

「だからって……あー。まあいいわ。あんたって変なところ鈍感よね。あ」


 あ、といってラナが固まった。なにを見ているんだろう。え? なんかこっちに走ってくる男の人がいる。すごい手を振っているしにこやかだ。


 金髪にコート、あれは……Sランク冒険者のウォルグだ。


「おーい! お前ら―! 関係者は集まるんだぞー!!!」


 関係者って何さ。ウォルグはすさまじい速さで近づいてきて、ラナが何か言う前にあたしたちの腰を持って担いだ。


「え? ちょっと、なによこれ!?」


 ラナの悲鳴に近い声。え? なんであたしも担がれてんの? どういうこと??


「お前らなぁ!! 関係者はアホのアリーが集めたって言ってただろう。俺が窓からお前らを見つけなかったらどうするつもりだったんだ。ほら行くぞ!!!!!」


 やかましいぃ。声がでかいし言っていることがさっぱり理解できない。そもそもアリーって誰さ! あ、あー。すごい速さで走っていく。ぐ、ぐえぇ、おなかが痛い。


 は、はなせー!!


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