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湯船に浸かって

 王都にきてまだ数日しかたっていない。


 今はラナが住んでいる借家に泊っている。小道に入ったところにある小さな家だった。まあ小さいって言ってもあたしの家より大きいけど。


 ラナが借りたときは蜘蛛の巣が張ってあるようなぼろぼろの状態だったらしい。


 でも、あたしが最初に来たときはきれいだった。時間をかけて掃除したって。


 ラナは基本的に全部自分でやる。ご飯も作るし、掃除もする。あたしの服の洗濯をしてくれることもある。あ、あとでお金はとるって言われるけど。

 

 あと、お風呂もある。王都は水が豊富だからかな、それにラナは「炎」の魔法が得意だから沸かすのは普通にできる。こういう時便利だよね。


 そんなことを考えていると、あたしの頭の上からざばーってお湯をかぶせられた。今日一日で疲れた体にお湯が気持ちいい。でも少し目にはいった。


「うー」

「うーじゃないわよ。ほら」


 お風呂場はあったかい。あたしは木でできた小さな椅子に座ってる。ああ、眠い。


 後ろからラナがあたしの頭をわっしゃわっしゃ洗う。よくわからないけど、あたしの頭になんか液体を付けられてすごく白い泡がでてくる。これ、目に入ると痛いから。目をつむっている。


 わしゃわしゃ、わしゃわしゃ。


「あんたってさ、少しくせ毛よね」

「そうだね」


 そうなんだよね。昔から結構悩んでる。起きるとさ、寝癖が付きやすいんだ。


 もう一回ばしゃーって頭からお湯をかけられる。あたしはふるふると頭を振って水けを払った。少し犬みたいと自分でも思う。


「よし。後は自分で洗いなさい」


 何かに満足したみたいにラナは言って、湯船につかる。あたしはタオルに石鹼を溶かして体をごしごしと洗う。


「しっかり洗いなさいよ。その石鹸は肌にいいからすべすべになるわよ」

「ふーん。興味ないや」


 ごしごし、ごしごし。少し念入りに洗う。


 ラナがあたしをにやにや見てる。


「な、なにさ」

「べつに。あんたも女の子なんだって思って」

「…………」


 ふん。


 あたしは湯船に桶をいれて、体にお湯をかける。さっぱりした。


 湯船は意外と広い。あたしとラナは向かい合って座る。


「ふー」


 声が出る。やばい、眠い。目がとろんとしてくる。


「あ、お風呂の中で寝るんじゃないわよ」

「はーい」


 そういっても眠い。あたしはふちに手をかけて、それを枕代わりに顎をのせる。ぐえっ。ラナに蹴られた。


「な、なにするのさ」

「寝そうだったから」

「このっ」

「なにすんのよ」


 ぱしゃっとお湯をかけるとラナもかけてくる。うっ。顔にあたった。いや、別になんてこともないんだけどさ。


 それから少し2人とも黙っていた。あたしは自分の髪をゆっくりと流れる水滴をなんとなく見てた。


「あんたさ」

「なに?」

「あの時……魔族のあいつにに対して自分に秘密があるって言ってたわよね」

「…………」

「その秘密って何? 気になるのよ……私には教えてくれない?」


 あたしは魔王の生まれ変わり。ちゃんと昔の記憶もある。なんて言ったら信じてくれるだろうか? でも、口をつぐんだ。だって、ミラに冗談で言ったことが危うく取返しもつかない状態になるところだった。


 でも、いつまでも隠していけるのだろうか? 誰も信じないと思うけど、誰かが信じたら全部壊れてしまうんじゃないかな。


 そう考えるとすごく寒くなった。なんでかな? あったかいところにいるのに。


「言えない……」


 正直にそう答えた。ラナは少しだけ寂しそうな顔をしている。あたしはそれをみると、心がきゅっとなるような気がした。


「ミラは知っているの?」

「……知ってる」


 ああ、馬鹿だな。正直に言う必要もないのにさ。なんだかラナを仲間外れにしているみたいじゃないか。少しラナの顔を見るのが怖い。どんな表情をしているのかが怖い。だから、あたしは自分の腕に顔を押し付ける。


 身じろぎすると、水音がするだけ。静かだった。


「私さ。最初あんたをつぶそうとしたじゃない」


 ラナと最初の出会いはまあ、最悪だった。でも、なんでも今そんなことを言うのさ。


「冒険者になるやつってたいていなんかの才能を持ってたりして、鼻持ちならないやつが多いのよ。だからさ、FFランクで何の魔力もないあんたのことを先生に聞いてさ……どうせ、学園に入ってもいじめられるか潰されるんだから、門前払いにしてやろうっておもったの。どうせ傷つくくらいならって」


 ラナは体を抱くように小さくうずくまった。


「そう思った……。そう思ったんだよ。……余計なことをしたって思ってる。だから、一回だけいうけど……ごめん」

「…………いいよ、べつに」


 そんなこと気にしてない。


 ラナ口元をお湯につけてぶくぶくと息を吐いている。


「そうだ、ラナ。あたしも謝らないといけないことがあるんだけどさ」

「何?」

「お金全部使っちゃったから下宿代払えないや。ごめん」

「は? はぁー!?」


 ざばーとラナが立ち上がってあたしに迫る。両肩を持たれて上下に揺らされる。いたいいたい!


「あんたあんだけ依頼をこなしてたんだからちゃんとお金あるでしょ!? な。なにに使ったのよ。馬鹿なの? ほら、吐け! 何に使った!」

「え、えっと。た、たぶん石とか木とかか、買うんじゃないかな」


 家を建て直すから。


「ばか??? なんでそんなものを買うのよ?? 石なんて山に行ってとってきなさいよ」

「ま、まあいいじゃん。あたしのお金だし。だからさ、今日まで泊めてくれたのは今度返すよ。ごめん、あ、いや、ありがと」

「……なにそれ。あんた出ていく気?」

「だってお金ないし」


 突然ラナが止まった。ど、どうしたのさ。


「行く当てあんの? あんた」

「ないけど、山じゃないから野宿くらいはさ」

「ばかー!!」


 ざばーんとあたしにお湯をかけてきた。うわっ。


「馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、あんた本物の馬鹿ね? 野宿? なにそれ。いいわよ、おいてやるわよ。下宿代は全部ツケ! ちゃんと後で払いなさいよ」

「……いいの?」

「野宿するって言っている年下の馬鹿をほっぽりだすほど私は人でなしじゃないし」


 ラナをあたしはまっすぐ見る。口は悪いけど。その目が、なんとなく心底心配してるような。なんていうか、優しい目だった。


 口調とさ、表情があってないよ。…………いいのかな。あたしはラナに秘密を話せない。でもここにいていいって言ってくれるなら甘えてもいいのかな?


「………甘えて、いいのかな?」


 馬鹿正直に聞いた。ラナに「馬鹿」と言われたのはその通りだと思う。


「年下のくせに何言ってんの? あたりまえでしょ」


 それだけ言って顔をそむけたラナ。顔を赤くして湯船にゆっくりとつかった。なんか安心しているんじゃないかなって思う。だめだ。あたしも顔をお湯で洗う。わからないように。


「それよりも明日からFランクの依頼を再開するんでしょ? まだまだ数が残っているんだからバリバリやるわよ。いや、ていうかもう計算してやらないと間に合わないわよ」

「そうだね」


 今日一日は全然進まなかった。ここまで来てミラとニーナとラナと同じ場所にいけないのは嫌だ。


「よし。がんばろう!」


 だから今日はいっぱい眠ろう。明日頑張るためにさ。


幕間的な話。


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