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依頼はかさむよどこまでも

「それでは依頼は完了です」


「よしっ」


 あたしはギルドの受付でガッツポーズした。


 ぱちぱち


 あ、受付のお姉さんが拍手をしてくれている。照れるなぁ。でも別に手紙を持って行っただけだし……でもまあ、途中でいろいろとあったから大変だったけどさ。


 まあ、初めての依頼が終わったのは普通にうれしいかな。でも、魔王であるあたしはよゆーの表情を崩したりしない。


 受付のお姉さんにお礼を言ってから、あたしはかつかつとギルドに併設されたカフェに移動した。前に行った街では酒場とかだったけど、こっちのほうがお洒落でいいな。だってあたしお酒飲めないし。でも夜にはお酒も出すみたい。


 奥の席に行く。そこにはテーブルに突っ伏している赤い髪の女の子がいる。……ラナだ。


「あぁー、あー。ぁー」


 なんか唸ってるし。あたしは向かいに座って足と腕を組んだ。


「そろそろあたしも次の依頼をしないといけないんだけど」

「あー?」


 ラナが顔をあげた。ついさっきの教会での情けない顔が打って変わってあたしを睨みつけている。


「あんたさ、たとえFランクの依頼だからってあと何十個もほんとにする気なの」

「もちろん。売られた喧嘩だからね」


 ラナははッと馬鹿にしたように笑ってきた。あたしはむっとしたから言ってやった。


「泣き虫のくせに」

「はぁあ???」


 ばぁんと机をたたいてラナがあたしに詰めよってくる。ぐぬぬと少しだけほっぺたを膨らませてあたしを睨んでいる。あたしはよゆーの態度でそれを流す。ふふん。


「でも、まあ、あの神父さんに言われるからってあたしの手伝いをする必要なんてないよ。あたしはあたしでやるつもりだからさ」

「…………そ、じゃあ。私はかえろっかな」


 言うとラナは立ち上がってどこかに去っていく。あ、意外とあっさりじゃん。じゃああたしももう次にいこっかな。


「よし、頑張るぞ!」

「よしじゃない!!」

「わっ!? 戻ってきたの?」


 ラナがあたしの背中を押したからびっくりした。ラナはあたしの前で口をとがらせている。


「FFランクに全く頼りにされないのはそれはそれでムカつく!」


 わがままだな。でもいいや、あたしはカフェから出よう。だって別にいらないし、ぐえっ。襟元掴むな!


「あんたさ、私はこれでも先輩だし、学園ではAランクなのよ。少しは敬意をもっていいんじゃないの」


 なんかすごい怒っているけど。


「いやだって、いきなり襲われたし……。あとあのあたしを入学させないようにしている先生とつながっているって自分で言ってたじゃん」

「それはそれ、これはこれ」

「無茶苦茶過ぎる……」

「とにかく私はあんたの手伝いをしないで帰ったら教会でひどい目に合わされるん間違いないんだから。とにかく依頼を適当に受ける。そしてすぐ終わらせる。ほらきて」


 う、すごい強引なんだけど。あたしの手を引いてギルドの受付にもどってきたし。


「すみませんこいつとパーティーを組むから、Fランクの簡単な依頼がありますか?」


 ラナは受付のお姉さんに対して言ってる。はあ、まあてきとうに1つくらい一緒にやればいいかな。あれ? なんだろあれ。んー?


 ギルドの片隅に置いてある観葉植物に人が隠れている……金髪が見えるし。あれフェリックス学園の制服だし。別に珍しくはないけど。あれで隠れているつもりなのかな。


 うん。あれはミラだ。ミラスティアじゃん。


 どうしよ。ほっとくべきかな。たぶんあたしを心配で来てくれたんだと思うんだけど、周りの冒険者も普通に気が付いてるしさ。……観葉植物で見えないけど、ミラは絶対気づいているし。恥ずかしがっている気がする。


「あれ、何」


 ラナが指さしている。あたしは反射的にその指をつかんだ。


「いだぃい!?」


 あ、力入れすぎちゃった。でも気が付かないふりをするのがいいんだから、しーって。あたしは人差し指を自分の唇の前にもっていく。


「なんなのよ……。あの変人はあんたの知り合いなの?」

「友達だよ」

「へえ、変な友達がいるのね。まあ、FFランクにはお似合いかな」

「……」


 あの後ろにいるのは学園では「Sランク」らしいけど、あたしは黙ってる。ミラがあたしにお似合いかどうかは知らないけど、あたしには大切な友達だ。


 ラナは才能はあるみたいだけどすごい棘がある物言いをしている。でも時折、子供っぽいのはなんだろ。


「ところでマオ、だっけ? 次の依頼はまずこれ」


 ラナはあたしに依頼書を見せた。てか、勝手に決めたんだ。


「なになに」


 でもいいや、どうせ何でもやらないといけないし。……「猫探し」。ふーん。え? これ1日で終わるの? 特徴は……白猫で右の耳だけ黒い。それだけ!?


「いや、これ猫見つけるってすごいタイヘンじゃん! 別の依頼の方がいいと思う」

「はあ? これだけやるわけないじゃない。ほらこれとこれとこれとこれとこれとこれとこれとこれとこれ」


 ばさばさばさばさばラナはあたしの腕に依頼書を積み上げていく。え? なにこれ。

 「買いもの」「犬の散歩」「剣磨き」「草むしり」「用水路掃除」……これ一気にやるの?


「冒険者ギルドでは私は何度か依頼をこなしているからFランクの依頼なら一気に受けられるの。だからあんたにあげる。あ、全部手伝うわけじゃないからね。一個だけやってあげるわ」

「じゃあ、用水路掃除」

「いやだ」

「あたしだってやだ!」


 あたしとラナがにらみ合いをする。……ただ、まあいいや。これも全部やらないとならないんだし。よしやってやろ。あたしは依頼書を折りたたんで腰のポーチにいれようとしてもちろん入らない。


「邪魔なんだけど」

「まあ、預けていけばいいんじゃないの、いくつか」


 預けることなんてできるんだ。なんて考えていると観葉植物の後ろから音がした。


 へくち。


 かわいいくしゃみ。あたしは少しわらっちゃったし。


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