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教会

 アー重たい。なんであたしはこんなことをしているんだろう。そもそもラナがあたしを襲ってきたんだからほっておいてもよかったはずなのに。……うーん。それ、たぶんあたしの性格上できないな。


「ま、魔王として弱いものを守らないとね」


 あたしは自分でもよくわからないことを言った。言うだけでも恥ずかしい。


 ま、まあいいや。ともかく教会に入ろう。あたしは重たいドアを肩で押した。開かないし……ぐぐぐ。少しずつしか開かない。


 なんとか中に入ると長椅子が綺麗に整列している。奥には祭壇があってそこには両手を広げた像が置かれている。あれは……神だ。


 あたしはお父さんとお母さんのことは尊敬しているしその、す、す、すき……ま、まあいい。それでも昔から「神様にお祈り」だけはやらないことにしていた。


 だってそうでしょ? あたしがこの場にいるのは全部こいつのせいだし。なんならあたしが死ぬ原因になった「聖剣」も「聖甲」も「聖杖」も全部こいつが作ったものだっていう。


「まったく忌々しい話だなぁ」


 あたしはラナを長椅子に寝かせてから物言わぬ像に近づいた。近くに人はいないみたいだったから、言いたいことがある。


 あたしは「神様の像」と対峙した。両手を腰において少し胸を反らして。


「なんか久しぶりだね。まあ、あんたがそこにいるのかは知らないけどさ…………あたしはさ、あんたの望み通りめちゃくちゃ弱くなったけど……でも、成り上がってやるから、今に見てろよ」


 像は何も言わない。もちろんあたりまでの話だ。でも、少しすっとした。本人がこの場にいるならもっと言ってやりたいことがある……って神って「本人」とかいうのだろうか? 


「うーん」

「不思議なお祈りは終わりましたか」

「……ひ!?」


 びっくりした! へんな声出しちゃった!!


 神父さんがいる。優しそうな顔をした男性が黒くて丈の長い服を着ていた。その袖に蒼く紋章が光っている。


「おや。驚かせてしまいましたか?」


 うん、び、びっくりした。神父さんは若そうだけど白髪の人。丸いメガネをして優しそうな顔をしている。


「い、いえ。まあび、びっくりし、しました」

「それはすみません。それにしてもいけませんね」

「え?」

「我らの主に対してもう少し慎みを覚えなければなりませんよ」

「あ、……ご、ごめんなさい」


 今謝ったのは神父さんに対してだから。神に対してじゃない。


「よろしい。それで貴女はここに何をしに来たのかな? 先ほどの様子だとお祈りと言うわけじゃなさそうだが」


 そういえばあたしの言葉を聞かれてたのか……ああーああー、ちょっと恥ずかしいかも……。こ、こほん。気を取り直そう。


「あの、あたしはマオっていう、冒険者のえっと、見習いみたいなものかな? 自己紹介が難しいや。とにかくここにお手紙を届けにきました」


 あたしは懐から封筒を取り出して神父さんに渡した。


「これは、そうでしたか。ありがとう。私の名前はファロム。この教会を預かっているものだ。それにしても貴女はラナを担いでくるから少し警戒してしまいましたよ」

「あ、ラナを知っているの?……ですか」

「知っているとも。彼女に魔法をいくつか教えたのは私だからね」

「へ、へー。あのなんか倒れてたから休ませてもらえるかなって連れてきました」


 あたしは嘘をついた。まあ魔王だしいいよね?


 あと、ぶちのめしたことはだまっとこ。そういえばあたしから手紙を奪おうとしたときにラナが自分はここのことを知っていると言ってたっけ。


「彼女は遠くの村から来た子でね。この王都では身寄りもなくてたまたま知り合ったところからいろいろと教えたのだけど……少しお調子者でね。魔法の才能はあるんだけど、競争意識が激しくていけない」

「そうなんですね。まあ、魔法がすごいできるってことはさっき見たけど」


 うーん。ラナが起きる前にここから立ち去った方がいい気がする。ただ神父さんはあたしににっこりと微笑みかけて言った。


「いえいえ。そのラナの魔法陣に強制的に『書き加える』などということができる貴女に比べれば大したことありませんよ」


 あたしは身構えて下がった。


「………………見てたの?」

「魔力の波長を合わせて一瞬で魔法陣を解消させる魔力の流れを誘導したこと……そのようなことができる人間は王都に何人いるものでしょうね」


 神父のメガネが光っている。


「君はある意味異常だ。それなのに体の中に内包する魔力が極端に少ない」


 あたしは一度入り口を見る。ラナとの闘いをただ傍観していたというなら、この人も敵なのかもしれない。いや敵ってなんだろ、なんであたしは喧嘩売られることが多いんだろ。ソフィアと言い、暁の夜明けといいもう!


 そんな身構えていたあたしに神父はにこりと笑いかけてきた。うっとあたしは気持ちがそがれた。そのまま神父はくるりと後ろを向いてかつかつとラナに近づいていく。


「ああ、マオ君に対する興味は尽きないところだが今はこの不肖の弟子に対するお仕置きが先だったね。ほら、ラナ。起きなさい。ラナ」

「う、うーん」


 ラナが長椅子の上で起き上がった。頭を抱えているのはあたしの頭突きが効いたからだろう。あたしは少し遠くから様子を見ている。ラナがまたあたしに攻撃をしてきたら怖いし。


「あ、あれ。私は何をしてた……あ! あのFラン、どこへ行ったってぎええええええ!! ファロム先生!!??」


 ラナが逃げだした! はやっ! すごいスピードで入り口に縋りついてドアノブをがちゃがちゃしている。


「なんで、なんであかないの??」

「ああ、そこはドアじゃありませんよ」

「え?」


 あ、あれ!? いつの間にかラナが長椅子に座ってる。あ、あれ? さっきまでドアから出ようとしたはずなのに……あたしは目をごしごししてもう一度見ると、ラナが涙目で神父……さんを見てる。


「こ、これ混乱の魔法ですか? せ、先生ぃ」

「さて、ふふふ。どうでしょうかね? 魔法で年下をいたぶろうなんてしている悪い子にお仕置きするための魔法でしょうね」


 魔法……認識そのものを乱す魔法? あたしがそれに気が付かずにかかってた……? この神父さんはもしかしてやばい人かもしれない。


「それじゃあラナ。罰を言い渡します」

「ひっ。違うんです先生。これは学園の先生に頼まれて」

「そのような頼みごとを受けることには責任が伴います」

 

 あたしは止めに入った。こんなにヤバイ魔法を使えるならラナに対する「罰」もひどいものかも。


「ちょ、ちょっと待って。ラナは確かにあたしをすごい焼き殺そうとしてたり……あ、とあたしの手紙を奪おうとしてたりしたけど」


 あ、弁解の余地ないし。だめだ。もう何も言うことがない。


「ほう、マオさん。ラナがそのようなことを」

「あ、あんた余計なことをいうんじゃないわよ!!」


 いや、だって。もう!


「ま、まあいいじゃん。そいつも反省しているみたいだから許してやれば」

「マオさんはなかなか優しいですね。この子も口だけのところがありますから本当に炎で焼くつもり何てなかったとはおもいます……いいでしょう。罰は軽めでいきましょう」


 流石にラナがあたしを殺すつもりなんてなかったことはわかってた。そのつもりならもっと別の方法もあっただろうしね。あたしはほっと胸をなでおろした。


「じゃあ、おしりぺんぺん100回でいいでしょう」

「は?」


 ラナが固まってる。


「あの。先生。私がいくつか……そのと、歳を、し、知ってますか?」

「ええ、かわいい弟子ですからね。全然関係ありませんが教会の近所のみんなもそろそろ来るでしょう」

「…………ご、ごめんなざい! ゆるじてください!」


 ラナが本気で謝ってる。う、うんおしりぺんぺんなんてラナくらいの女の子がされたら恥ずかしすぎて死ぬね。あたしがされても、うわ、考えただけで怖い。


「困りましたね。せっかく軽い罰をと思ったのに」


 神父さんはわざとらしく頭をかいている。それからぽんと手を叩いた。


「それじゃあこうしましょう。ラナ。君はしばらくの間マオさんのことを逆に助けてあげなさい」

「は、はあ? な、なんで私が!」

「彼女を邪魔するように頼まれて今回のことを仕出かしたのだからその逆をすることによって罪滅ぼしをしなさい。ああ、いいのですよおしりぺんぺん200回でも」

「ぐ、え、ぐ」


 な、なんか話がどんどんよくわからない方に進んでいっているけど……。

「ほら。マオさんにお手伝いすることをお願いしなさい、ラナ」

「え、ええ」

「おしりぺんぺんですか? 好きな方を選びなさい」

「ひぇえ」


 ラナがあたしをこの世に終りみたいな顔で見てる……な、なんか泣いてる。あたしは手伝いなんていらないと言おうとして、それをいったらラナがもっと恥ずかしい目にあう選択肢しかないことに気が付いた。


 ラナがあたしに近づいてくる。


「あ、あんたのことそ、その手伝ってあげる」

「ラナ! お願いしなさい」

「ひい、その、て、手伝わせてく、く、くください」

「……………う、うん」


 あたしはこういうしかないじゃん。


 神父さんがぱちぱちと拍手をしている。その音が教会に鳴り響いているけど、ラナは憔悴しきった顔であたしを見てた。



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