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魔王の必殺技!

「指一本で私に勝てるって? へえ」


 あたしの言葉にカチンときたんだろう、ラナはすごく残忍な笑顔をあたしに向けてきた。


 まるで踊るように両手を広げて振ると、炎がラナの周りを綺麗に円を描いた。

 

 唇を舐める。あたしだって別に考え無しでいっているわけじゃない。


「それじゃあ、その余裕の正体をみせてもらおっかな」


 ラナの右手が振られる。ぞくりとしてあたしはその瞬間に横に走り出した。


 赤い竜のように炎が立ちがった。それは魔力の生み出したものだ。それが一直線にあたしに向かってくる。


「うわわ」


 あたしがなんとかよける。後ろを見るとさっきまであたしが立っていた場所が黒く焦げている。


 今のあたしにあんなのを防ぐ力はない。魔銃でもあればなんとかなるのかもしれないけど。今のあたしは手ぶら、それに防御の魔法を形成するにはそもそも魔力が足りない。


「……」

「ほらほら、どうしたのカナ? 私を指一本で倒すんじゃないのかな」


 熱気が充満していく中で、冷や汗がでる。


「ラナ! なんであたしの入学の邪魔をするのさ。別に関係ないじゃん」

「んー。弱い後輩なんていらないってのはあの先生と同じ考えかな~。だからさっさと諦めてくれたら私は引いてあげるよ」

「だーれがそんなことするもんか!」


 ラナの魔力量はあたしとは比べものにならない。にこにこと両手を振るだけで炎を操れるのは魔族でもなかなかできないはずだ。


 でも、ラナはあたしのことを舐めてる。無詠唱はすごいことだけど、その分魔法としての完成度が低くなる。それはあたしにとっていいことでもあるけど、悪いことでもある。


 だから。


「あんたの魔法何てたいしたことないじゃん! へーんだ! べー!」


 べーって舌をだしてやる!


 ラナはあたしをみて引きつった笑顔を見せる。周りを囲んでいる男たちから小さく笑いが漏れる。


「そんな安い挑発に乗ると思うわけ?」


 ラナの周りに炎の竜がまとわりついている。


「挑発? 違うよ、あたしから見ればそんくらい大したことないって事実を言っているだけだよ」


 周りから「いわれてるぞ」とか「やってやれ」って声が響く。あ、「お嬢ちゃんいいぞ」ってあたしを応援している奴がいる。…………なんだろ、こいつら悪いやつじゃない? いやいや、囲まれてんだからそんなのわからないよね。


 ラナは大きく息を吸った。


 赤い髪が炎に照らされて綺麗だった。


 ゆっくりとあたしを見たその瞳はひどく冷たい。ラナについていた炎の竜が消えていく。


「じゃあ、焼いてあげる」


 ラナが右手をあたしに向けて。呪文を詠唱を始めた。炎の竜を消したのはそれに集中する気なんだ。


 その右手を中心とした空間に赤い紋章が広がっていく。


 ――それを待っていたんだ!


 あたしは走り出す。右手の、人差し指の先に魔力を込める。足に力を込めて赤い魔力が集まるラナの懐に向かう。ラナの数歩前に展開されている魔法陣は複雑な螺旋を描いている


 その魔力の回路に赤い力がみなぎっていく。


 ラナは笑った。あたしの無謀を嘲笑っているのだと思う。そりゃあそうだ、あの魔法陣に注入された魔力を全力で炎として開放したらあたしはきっと黒焦げになっちゃう。


「さあ、どうするか見せてよ。フレア!」


 ラナが叫んだと同時だったと思う、あたしは魔法陣の前に飛び込んだ。あたしの少ない魔力を溜めた右の人差し指をたてて、腕を振った。


「残念!」


 魔法陣に一画を描く。あたしの魔力で強制的に魔法陣に一つの線を書き加える。


「え?」


 ラナの驚いた顔と同時に魔法陣が光、ぱぁんと赤い光をだして分解された。炎になり切れなかった魔力が無霧散する。


 魔法陣は精密な魔力回路だ。そこに「意味のない線」を書き加えたら、途端に不安定になる。


「やぁああ!」


 あたしは止まらない。


「ひっ」


 ラナはおびえるけど、えっとどうしよ、あたし武器なんて他にないし! えーとえーと。


 えーい頭突きだ!!! 魔王の必殺技だ!!


 あたしとラナの頭ががつーんとぶつかった。


「いだぃ!?」


 ラナが吹っ飛び、あたしもめっちゃ痛い! あーいたい。くらくらする。でも、このあたしを落とそうとした先輩は目をぐるぐるさせて地面に両手を広げて倒れ込んだ。


「ど、どーだ、参ったか」


 だっさい、勝ち方。で、でもいいもん。勝ちは勝ちだよ。


 ――ぉおー!


 歓声があがった。周りを囲んでいた連中がひゅーひゅーと口笛を吹いている。


 あれ? この人たちってラナの味方だったんじゃないの? でもぱちぱちと拍手を受けるとなんか、すこし照れくさいなぁ。どーもどーも。


「いや、こんなことしている場合じゃない。あたしは忙しいんだ」


 あ、少しくらくらするや。魔王が頭突きなんてするもんじゃないな。


 ラナを見ると後頭部を打ったのか動かない。めがぐるぐるしてる。


 へん。人を邪魔しようって思ったからだ。あたしはそう思って走りだそうとした……けど。


 あーもう。仕方ないな! あたしはラナの手を引いて無理やりおんぶする。なんか男の人たちが集まってくるし、大丈夫かって聞いてくるけど、あんたらなんなの??


「むーー」


 なんとかラナをおんぶして立ち上がる。お、重い。あたしはのろのろと歩きながら、角を曲がる。

  

 そこには古ぼけた教会があった。まあ、ラナを寝かせてくれるくらいしてもらえるよね。


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