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ギルドで出会う剣の勇者

 いててて、あたしはくらくらとする頭を抱えながら歩いている。


 弟を助けた時に頭をしたたかに打った。いや、助けた時っていうかどっちかというと走っていくときに木の枝とかにぶつかったのだ。よく考えたらオオカミのような獣に出会って無傷とは運がい……いやいや魔王として当然のこと。


 今日は村長の家に大人みんなで集まっていた。村長って言ってもこんな小さな村だ少しはげた小太りのおっさんだ。けっこう面倒見のいいおっさんであたしもよく遊んでもら……暇つぶしに付き合ってやったものだ。


 村長を中心にみんなで輪になっている。お父さんもその中にいてあたしはその後ろにちょこんと座っている。あたしも大人として認められているのかと言うと遺憾ながら違う。オオカミのようなモンスターをおっぱっらった当事者だからだとおもう。

 

「村の周辺に出るという魔物を退治しなければ安心して暮らせない」


 そう言ったのはお父さんだ。みんながうんうんと頷いている。あたしも近くの森の中に化け物がいるかもしれないと思うと困る。


「街に行って冒険者に依頼しよう」


 村長が言った。それにもみんながうんうんと頷いている。あとは大人たちは共同の蓄えからお金をだそうとかいろいろと言っている。


 冒険者か、いろんな依頼をこなす人間達のことだ。そういえばあの勇者たちも最初は冒険者ってやつだったはずだ。あいつらこの魔王を倒したんだからあれからきっとガッポガッポとお金をもらったに違いない。


 ……あれ、あたしもそうしたらいいんじゃないかな? 冒険して稼いだらあたしは豊かになるしついでに村も豊かになるじゃん。お父さんの後ろであたしは勝手に目を輝かせている。


 金貨に埋もれた自分の姿を思い浮かべると意味もなく立ち上がってしまう。


「決めた!」


 いきなりあたしが立ち上がっていったものだから、みんながあたしを振り返った。あ、やっちゃったね。あたしはほっぺたが少しあったかくなるのを感じながら、なんかいわなきゃって思った。


「あたしも街に行く」


 ぽかーんと大人たちは口をあけてあたしを見ている。あたしは恥ずかしさを抑えようとぐっと自分の前で右手を握ってみる。

 

 少し間を空けて狭い室内で笑いが起きた。


「年頃だからな」

「街に出たいんだな」

「俺もそういう時はあった」


 おっさんどもが勝手をいう。まるであたしを「街」に憧れるいたいけな少女のようにいっている。違うから! もっと崇高な理由であたしは、行こうって思っている。ただ、村長もうんうんとしたり顔で頷いているのをみてあたしはわずかにほっぺたを膨らませた。


「まあ、マオが冒険者ギルドに付いていくのはいいだろう。それよりもだ」


 村長がそう言って話を別の方向にもっていった。あたしはとりあえず街に行くことができるらしい。彼等にはなんてことない取るに足らないことなんだろうけど、しゃっくぜんとしなぁあい!



 村を出る日。朝早くに村を出た。お昼前にはつくことができるだろう。


 弟のロダにお土産をせがまれたがそんなおかねはありませーん、と突っぱねた。あたしとお父さんと村の数人だ。一応大人は剣とか槍で武装している。あたしが追い払った程度のオオカミなら特に問題ないと思う。


 そもそも本当に森には魔物がいるんだろうか、でも深く入って確認するわけにはいかないので結局はその調査も冒険者にお任せするしかない。


 村からの道は一本道だ。領主の馬鹿に年貢を納めに行ったり、村のことを報告するためくらいにしか使わない道だけど、定期的に使うからそれなりに草刈をしている。あたしは自分で作ったサンダルで歩いていく。


 片手に持ったパンにかじりついて、むう! と力を込めて食いちぎる。自分で言うのもなんだけどめちゃくちゃ固い。口の中でふやかせてからもぐもぐして食べる。おいしいかどうかと言うとお母さんと一緒に作ってくれたんだからおいしいことにしている。


 それにしてもいい天気だ。雨が降ったら最悪だった。傘なんて持ってない。そういうのは上流貴族とかしかないのだ。あたしが口をもごもごさせながら歩いていると、お父さんが後ろから声をかけてきた。


「ごめんなマオ。せっかく街に出ていくから、お前に何か首飾りでも買ってやりたいけど……何も買ってやれないとおもう」


 ……なんかやっぱり勘違いされている気がする。あたしは冒険者と言う職業をこの目でみて成り上がりに利用してやろうって思っているだけなんだから、そんなこと全然微塵も気にしてなんかいやしない。お父さんはいっつもそうだ、勝手に人このことをわかっているつもりなんだけど村人が魔王のことなんてわかるはずないじゃん。


 ここはあたしが魔王のよゆーってやつでにっこり笑って。


「わかってる、全然大丈夫」


 っていう。お父さんはあたしに微笑み返して前に歩いていく。あたしはふうと息を吐いて少し立ち止まる。足元にあった小石をかつーんと蹴って。ちぇーっ……となんでか自分でもわからないけど言った。



 バーティア、それが街の名前。古い城壁に囲まれたなんてことない田舎街。月に何度か市場が立つからその時にいろんな村のみんなが集まってくる。


 街の真ん中に教会と領主の屋敷があった。冒険者ギルドというのは冒険者の組合のようなものでそこに依頼をすると冒険者を派遣してもらえる。外で待っているように言われたけど。あたしはせがんでギルドの中にまで付いていくようにした。せっかく冒険者が見れるんだから行かなきゃ損だ。


 ギルドの建物は思ったほどは大きくなく、中にはあんまり人がいなかった。酒場と奥に受付がある。村人でぞろぞろと受付に行く姿はすごい田舎者っぽい。


 あたしはほんのり離れてギルドの中をきょろきょろとみていた。どうせ依頼は大人たちにさせておけばいい。あたしはよくわからない。


 ギルドと言ってもこんな田舎だ。冒険者の数も少ないんだろう。あたしは長椅子に腰かけた。大人たちは受付で何かしている。掲示板のようなものがあり、そこに数枚の紙が貼ってある。あたしは村で唯一文字が読める。秘密だけど。


 まあー、魔王なんだからあったりまえなんだけどね。


 みればクエストの依頼だとか、パーティ募集だとか書いてあった。なるほどここで誰かの仲間になるのかと冒険者の心得みたいなものを勝手に納得していく。あたしは興味を持っていろいろと観察を続ける。


 すると長椅子の反対側に人が座った。あたしは横目で座った相手を見る。


 そこにいたのは女の子だった。背はあたしよりも高そうでウェーブの少しかかった銀髪が肩まで伸びている。肌は羨ましいくらい白い。雪みたい。なんだかはかなさげな感じがするけど、銀の鎧をまとって手には装飾の煌びやかな鞘に納めた剣を携えている。……なんかあの剣見たことがある気がする。


 冒険者だろうか、前をじっとみている。


「はあ」


 ひとつため息をついた。あたしじゃない。横の女の子だ。知り合いでもないのに「どうしたの」とはいえない。ただ、あたしはうかつだった。その見た目になんとなく目を奪われていたのだろうか、じっと彼女を見続けてしまっていたのだ。


 彼女があたしと目を合わせる。


「?」


 少し困惑したような表情であたしと彼女は視線を交える。なんだろう、なんか視線を外すことが逆に出来なくなった。先に外したら失礼っぽいじゃん。ああ、どうしよう。


「あの、どうかしましたか?」


 そう彼女は言った。声も綺麗だった。


「え? いや、あの、なんだか困ってそうだなぁっておもって」


 あたしは訳の分からないことを言ってしまった。だいたいため息くらいしか見ていないのだ。言うことが見つからないとこうして変なことを言ってしまうことがある。あたしの悪い癖。ただ、彼女はふふと笑った。


「そんなひどい顔をしていましたか? ありがとうございます、心配してもらって」

「え、いやー、ど、どーいたしまして」


 丁寧に対応してくれる相手にあたしはしどろもどろになってしまう。魔王らしく「汝。如何した」などといってもまあ、馬鹿っぽいし。


 女の子があたしに話しかけてきた。


「あの。冒険者志望の方……ですか?」

「え? いや、そんなんじゃなくて、まあ。今日はあたしの村のモンスター退治を依頼しに来ただけ」

「そうなんですね。失礼ですけど、お名前は?」

「あたし? あたしはマオ」

「マオさん……いい響きですね。私はミラスティア・フォン・アイスバーグ。冒険者の見習い、のようなものです」


 げっ!!??


 アイスバーグ??


 こいつ、こいつもしかして。


 あたしは内心の狼狽えを隠しながら、こほんと咳ばらいをした。ここは威厳を保たなければ。あたしはその名前を知っている。それもよく。


「アイスバーグ。ってもしかして、あの剣の勇者の」

「…………ええ、そうです。先祖は魔王討伐を為した剣の勇者になります」


 しゅくてきー。ここであったが何年目?? 


 ばくんばくん言うあたしの心臓。この少女の掴んでいる剣はあたしにとどめを刺した聖剣ではないだろうか。鞘の装飾が変わっててすぐには気が付かなかった。


「も、もしかしてその剣はあの有名な聖剣ですか?」

「……あ、そうですね」


 あ、そうですねってあたしを抹殺した武器を見せられる気持ちにもなってみてよ。まあ言えないんだけどさ!! どうしよ、どうもできないけど、どうしよ。


 あたしがテンパりながらミラスティアをみる。すると彼女はなんだか不安そうな顔をしている。逆にあたしは聖剣を見た時よりその顔にうっとなった。


「おーい。マオ」


 お父さんの声だ。あたしがみると、お父さんを先頭にぞろぞろとやってきた村の大人たちとなんか3人増えている。赤い髪の剣を持った人と、なんか盗賊っぽい短いピンクの髪の女の人と、ローブ被った陰気な男だ。


「この人たちが私たちから依頼をやってくれる冒険者さんたちだ。今からさっそく村に戻るぞ。それにマオ驚いたぞなんと、あの剣の勇者の子孫が今回は参加してくれるそうだ」


 あたしは横を見た。ミラスティアがどことなくきまりの悪い顔をしていた。



 村へ帰る。来た道を帰るだけで今度は冒険者もいる。お昼前についたから、付くのは夕方ごろになるだろう。その道中にあたしは大人たちの話を右の耳で聞きながら、左側で冒険者たちの話を聞いていた。


 冒険者にはランクがあるらしい。お父さんから聞いた話によると「F」が最低で「S」が最高だという。実はおとうさんも文字が読めないから話半分であとはあたしが解釈しただけだ。


 Fランクの冒険者は見習いの見習いのようなものでまともなクエストはうけさせてもらえない。だから今回雇った冒険者はリーダーの赤い髪の戦士は「C」他二人は「E」……らしい。


 「C」ランクの冒険者を雇えたのは幸運だったと、お父さんが言ってた。

 冒険者にはそれぞれ自分の身分を示す冒険者カードが配られるらしい。おねがいして盗賊っぽいお姉さんに見せてもらったが確かに「E」と書いてある。


 ミラスティアのも見たいなぁと村に帰る道中に彼女を見た。


 姿勢よく背筋を伸ばして歩く姿はどことなくかっこ……いやいや。背はあたしより少し高いくらい。胸も……いやいや。


 いらんことを考えていたのをあたしは頭を横に振って邪念を払う。それからさっきから気になっていたミラスティアのカードについて聞いてみた。


「みます?」


 と、まあ案外簡単にカードを出してくれた。あたしがそれを見ると「SC」と書いてあった。なんでこの子のだけランクが2文字あるんだろう。ただあたしには『S』の文字が印象的だった。


「へー『S』ってすごいんだよね」

「い、いえ、そんなことありませんよ」


 流石は剣の勇者の子孫と言うつもりで言ったのだが、あたしが「S」という言葉をいうとミラスティアはなぜかおろおろし始めるし、リーダの男がこっちをじろりと睨んできた。なんだかわけがわからない。あたしも少し驚いてカードをミラスティアに返してしまったからランクが2文字あることを聞けなかった。


 なんだかミラスティアはしょんぼりしているような気がする。


 あたしはちらりと3人の冒険者を見るとミラスティアとは離れて談笑している。なんだろ、なんか仲悪いなこいつら。理由はわからないけど。


 まあーあたしは魔王として全然関係のないことなんだけどさ。


 そう思うとふと、ギルドでため息をついていたミラスティアの顔が頭に浮かんだ。

 あー。

 うー。

 いー。


 勇者の末裔なんてあたしにとっては不倶戴天の敵。前世でぶち込まれた聖剣の一撃は鮮明に思い出すことができる。というかそれまでの間にあいつとはけっこういろんなことがあったんだから……。


 あたしは立ち止まった。ミラスティアの後姿にあたしはなんて声をかけようか、いい案はない。だから次にいったことは何にも考えていなかったから出た言葉なんだと思う。

 

「ミラ」

「え?」


 ミラスティアが振り返った。


「いや、あ、あたしには名前が長くてよ、呼びにくいからさ。ミラって呼んでいい?」

「……」


 なーにいってんだろあたし。


 ミラスティアも意味わからないって顔で目をぱちくりさせるじゃん。相手からみればあたしは見た目は村娘、勇者の子孫ってんだからきっと貴族の一員だと思う。どーしよこの感じ。


「はい」


 ミラスティア、いやミラはぱぁっと明るく笑った。なんだかあたしが恥ずかしくなるくらい純粋な、そんな感じのする笑顔だった。いや、なんで喜んでんの……? ああ、なんかほんと転生した後のあたしは馬鹿かもしれない。


「じゃあ、私もマオって呼びますね」

「あ、はい」


 ほら、ぼけっとしてたから変な返事をしちゃったじゃん。でも、マオってそのまんまじゃない! あたしの名前略すところないんだけどさ……そういえばこいつ「マオさん」って言ってたなぁ。さんづけなんてあんまり記憶ないわ。


 あーもう頭の中こんがらがってきた、何やってんだろあたし。もーどーでもいいやっ!!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 初めまして! 魔王が転生してマオーに! でも弱くてニューゲーム、そこは辛い。 そして勇者の末裔と邂逅。 ここからどう物語が進むか、楽しみです。 面白かったので、ブクマさせて頂きました。
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