ラナ・スティリア
遅くなりました。2部更新していきます!
王都は広いや。あたしの村とは大違い。
「あ。ごめんなさい」
人と肩をぶつけるたびにあたしはぺこりと謝る。相手もあんまり気にしてないみたいなのは、ぶつけ慣れているのかも。
「ぶつけ慣れているってなんだろ」
くすりと自分の言葉にしてしまった。とりあえずあたしはできるだけ早く歩く。ギルドでもらった依頼書にはちゃんと住所も乗っているんだけど……エグゼスト通りをまっすぐ……。どこ、それ。
あたしはその場できょろきょろする。こんなに人がいるのになんだか一人ぼっちみたいに感じる。ううん、いやいや、あたしはこつんと頭を叩いて気を取り直す。
このくらいは一人で問題なくできる。とりあえず人に道を聞いてみよう。
☆
「君、君」
道を歩いているとあたしに向かって呼びかける声がした。女の子声だ。振り向くと道のベンチに足を組んで赤い短髪の女の子が座っている。学園の制服じゃん。
その燃えるような赤い髪をした女の子は少しにやついた顔であたしを見ている。
「えっと、何?」
「いや、急いでどこに行くのかなーって思ってね」
「依頼を受けて……お手紙を届けに行くところ。ここに」
あたしは依頼書を女の子に見せた。
「ふーん。ここは結構治安の悪い場所だよ。仕方ないから私もついていってあげようか」
「え? いいよ。あたしの仕事だし」
学園のよしみってやつかな。なんか手伝ってくれるみたいだけど、知らない人に手伝ってもらうのも悪いし、これはあたしの仕事だ。
「まあまあ、ここは先輩の言うことは聞いておくもんよ。ほら、私の冒険者カード」
そこには「AC」と描かれている。つまり学園のランクはAってことだね。名前にはラナ・スティリアと書かれている。
ラナは立ち上がった。背丈は少しあたしより高い。少し着崩した上着とその表情は余裕のある笑みを湛えている。
「いやいいって」
「いやいや、遠慮することないわよ」
ラナはあたしの背中を押して無理やりついて来ようとする。いや、なんでこんなについてきたがっているのさ。
あたしは抗議したけど「先輩だから」とか訳の分からない理由でしぶしぶ連れていくことになった。……正直いって道に迷ってたから、よかったってことはある。
ラナの案内で王都を歩いていくとだんだんと左右の建物が崩れてたり、みすぼらしくなっていった。
「このあたりには裕福じゃない人が大勢住んでいるからさ。1人で歩くには危ないんだよね」
「ふーん」
だから無理やりついてきてくれたのかな。でも、なにか引っかかる気がする。
それにしてもこの手紙の受取人はこんなところに住んでいるんだ。うわ、道がデコボコで穴だらけじゃん。そこら中に洗濯物を干してある……。
「ほら見えてきた。あの通りを曲がると行き先の教会につく」
「教会?」
「そう、教会にその手紙を届けるのが仕事だって書いてあったよ依頼書に」
「教会かどうかは知らなかったけど……でも助かったよ、ありがとう」
「いえいえ、ちゃんと最後まで面倒見るよ」
ラナはにこにこしている。なんだろう、すごくその表情があたしには怖い。
あたしは魔王として君臨しているときにいろんな魔族の表情を見てきた。だからなんだか、違和感がある。のっぺりと張られた絵みたいにおもっちゃう。
「でも、ほんといいよここで」
「そう? でも周りを見てみてよ」
「周り?」
あたりを見回すと物陰から若い男たちがのそのそと出てくる。それぞれ手にこん棒とか、ナイフとか持ってる。げっ、やばそう。
あたしは構えようとして、その背中をどんと押された。そこにいたのはラナだった。
「……それじゃあ、私が面倒を見るのはここまでにしようかな」
ラナの表情が冷たい笑みに染まっていく。伸ばした手から赤い魔法陣が発動して宙に浮かぶ。
「どういうつもりなのさ」
一応聞いてみる。意外とあたしは落ち着ている。魔銃もない状況なのに……あの船の戦闘で少し慣れたのかもしれない。
周りの連中もラナの味方? でもあたしをはめて何の意味があるのかわからない。
「いや、ほら、君さFFランクだって? そんなことじゃ、これから先やっていけないって先生からテストするように頼まれたんだよ。安心してね。ちゃんと手加減してあげるから」
先生? あたしの頭にピンク色の髪の女性が浮かんだ。ポーラだ!
「そっか、どうしてもあたしを入学させたくないんだ」
「そうなんじゃない? ここで負けてもその手紙はちゃんと私が届けてあげるよ。知り合いだからね」
ラナは両手を構える。彼女の周囲に赤い魔法陣が展開されて、赤い炎がラナを包む。
無詠唱だ。ソフィアと同じで呪文がなくても魔法を展開できる高等技術。豊富な魔力と技術がないとできないものだ。
「ギブアップしてくれたら私としては楽よ。これは本心から言うことだけど、弱い者いじめはしたくないんだから」
「それにしたって、周り囲んでるじゃん」
「みんなはただ逃げ出さないようにしてるだけだよ」
ラナは楽しそうに微笑んだ。さっきまでの張り付けたような顔とは違う気がする。後ろを見たらちゃんと逃げ出せそうな路地は男たちが固めている。
逃げるのは無理そう。
それに今のあたしには魔銃もなにもない。ミラやニーナも助けに来てくれるわけない。だから絶体絶命ってやつだ。
あたしは大きく息を吸った。そしてラナに言ってやる。
「だからなにさ」
そうだ、だからどうした。あたしは魔王だ。これくらいのことであたしはめげたりなんかしない。あたしは人差し指をたてて、ラナに向けた。
「あんたなんか指一本でも倒せるよ」
ラナはぴきっと引きつった顔をした。でもあたしは手を下ろさない。
「そっかー。じゃあさ。安心して黒焦げになってね」
炎がラナを中心に燃え上がった。




