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『暁の夜明け』創始者

時間かけてすみません!


 空は晴れている。


 イオスは一人空を見ながら歩いていた。彼はギルド職員の制服に着替えているが、今いる場所は王都のはずれにある墓地である。そこは広い。王都は地下に水道が通っているため水質汚染の問題が昔にあり、いろいろともめた後に火葬を義務付けている。


 手入れされた芝生。そこに等間隔で墓標が並んでいる。半円の形をした石造りのものが多い。それほど大きくはないそれらが整然と並んでる。最近では土地が足らないため埋葬するにも相当にお金がかかるという。


「そろそろマオ君たちはセレーナ島に着いたかな」


 イオスは呟いた。自分の行動がどう転ぶのかはわからない。しかしどう転んでもよいような気もしていた。


「虐殺をしようとした僕だ。どうなっても文句は言えないな」


 くっくと笑う。魔族と共謀し、そしてあらゆるものを出し抜いて全ての壊滅させるための計画をただ一人の少女に潰されたことに可笑しみすらも感じていた。


 イオスは歩いていく。とある場所で草刈りをしている男がいた。茶髪の彼は背を丸くしてせっせっと手に持った鎌を動かしている。イオスが横に立つと男は顔を上げた。たるんだ目元に太い眉。覇気を感じさせない表情の彼はぼんやりとイオスを見ている。口髭が少し印象的な平凡な顔の男だった。


「やあ。ボッシュさん」


 イオスが立ったまま言うと、男は返した。地味な色の短衣についた土を彼は手で払う。


「へえ」


 ボッシュと言われた男の返事には張りがない。彼は鎌を地面に下ろした。一度周りを見る。


「主は疑問に思っておられましたよ。イオスさんがね。その、冒険者をセレーナ島に行かせたいと許可を求められたからね」

「お聞きいれくださって感謝していますよ。そうお伝えください」

「……『暁の夜明け』でしたっけね。アタクシには難しいことは何にもわからんのですがね。あの島に残つている話をその、なんでしたっけ。……えーと、ああ、たしかオマ……いやマオ? でしたか。なんかに聞かせてなんの意味があるんですかね」

「さて、僕もそれはわかりません」

「あなたが分からないならだれにもわかりゃしませんわね」


 ボッシュは笑った。げひゃと笑う彼は洗練とは程遠い。ただイオスは軽蔑するわけでもなく彼を見ている。


「あなたの『主』はマオに興味があるんですか?」

「ああ、最近少しだけいろんな噂がある少女だってんでさ。王都中を駆け回っているとか、街を復興させたとか……まあ、まあ、ニュースペーパーなんていう適当なことを描いているだけの紙屑の情報でもね。読み物としては面白いんでしょうぜ」

「……」

「まあ、その少女がイオスさんが興味を持っている。こりゃあ偶然なのかね?」

「彼女は『魔銃』の実験台……とでもいえばいいですね。たまたま出会っただけですが。魔族に肩入れをする奇妙な考えを持った女の子……だから興味がありましてね」

「あなたの半身を打ち破るほどの手練れってことも?」


 イオスは音が消えたように感じた。イオスとボッシュは同時に口を閉じたからではない。空気が張りつめていくことを肌で感じた。


 半身と表現されたものはイオスがマオに殺意を持って放った『仮面の男』の他ならない。どう調べたのかと思いを巡らせるよりも先にイオスは笑った。笑顔を作ったといった方がよい。


「あなたの『主』はお耳が早いですね」

「そりゃ、われわれが付いていますからねぇ。貴方に付き従う彼をアタクシともい~勝負ができる男と見込んでいるんですがね。まさか年端もいかない少女に後れを取るとは……ね」

「……人間だれしも油断はあるものですね」

「アタクシ個人もその少女に興味はあるんですがね……」

「……首切りボッシュ、に狙われるとは不運ですね」

「……そんな物騒な名前で呼ばないでくださいよ。アタクシはどこにでもいる平凡なおじさんなんですから」


 どこでもいる。


 どこにでも溶け込める。


 イオスはいつの間にか草刈りを再開したボッシュを見て思った。案外化物は平凡な姿なのかもしれないと。


「それはそうとイオスさん。セレーナ島には『暁の夜明け』の創始者が行っているんでしたね」

「ああ、そうですね。まあ、アレはどうでもいいですが」

「ひどい話だ。貴方の言う『アレ』が主と貴方とそして魔族のあの男を結び付けたんですからね」

「昔のことです。そもそも彼女は死んでいる。すでに何かできるような状態じゃない」

「動いてるじゃあないですか」

「確かに、動いてはいますね。それは間違いない。何かの拍子に死んでくれてもかまいません」

「……へっへ」


 ボッシュは下卑た笑い声をあげるが、その笑い方は悪意というよりはた目から見れば平凡な男の下劣さからにじみ出たもののようだった。彼は笑いながら言う。


「かくいうアタクシもね。たまたま部下を仕事ができるということでセレーナ島に送ったんですよ」

「……マオに手を出すのは困りますよ」

「そっちには手を出しませんよ。アタクシの目標は貴族様のご息女ですからねぇ」


 ボッシュは落ちていた小さな枝を手に取りぽきりと折って捨てる。


「聖剣なんていう刃物を一貴族が持っていることも、多少の才能があるだけの子供が持っているのも危なっかしくていけない。今回送り込んだ部下はエーベンハルトの始末に失敗した役立たずですがね。まあうまく殺るでしょ」

「…………」


 ボッシュは笑顔で枝をもう一つとってぽきりと折った。


「ミラスティア・フォン・アイスバーグの首も首尾よくこうなればいいんですがね。へっへ」


☆☆


 王都にはギルド本部がある。広い敷地を有するそこには様々な地域からの情報が集まってくる。本部機能があることにより膨大な事務処理や王都の役人との折衝など仕事は多岐にわたる。


 それを支えるために様々な施設を有していた。資料を保管する巨大な書庫はもちろん、魔法を研究する施設や武具を研究する工房。それ以外にもギルドに依頼をする貴族や王族から預かったものやそれ以外の物資を置く倉庫……ひとつひとつの施設を説明すれば膨大になるだろう。


 その中で模擬戦を行うための演習場は多くある。ギルド本部には『Sランク』冒険者をはじめとする高ランク冒険者が滞在することも多い。依頼の業務は基本的に各地の支部が行うが高ランクの依頼については政治もかかわる。


 演習場の一つをアリーは借り切った。石材で作られた長方形の演習場は野外に作られている。その周りを観客席に囲まれた場所だった。ただ観客はいないがひとりだけギルド職員の服を着た女性が立っている。ノエルであった。


 演習場の真ん中でアリーは立っている。スリットの入った赤いスカートには黒で模様が描かれている。彼女が一振りの白い剣を抜くとふわりと優しい風がふいた。彼女の黒髪が揺れる。


 対峙するのは3人の未熟な少女だった。


 魔導書を構えたラナ。ハルバードを手にしたモニカ。そして手には何も持たないニナレイアである。アリーは彼女たちを見て言った。


「武器には刃引きの加護を行ってください。……このアリーに一撃でも入れることができればあなたたちのお願いを聞いてあげましょう。ただ、そう簡単に私へ一撃を入れることができるとは思わないでください」


 アリーの体から魔力が溢れる。それは対峙する三人に対する彼女のメッセージでもあった。始まりの合図である。

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