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冒険の準備!


 冒険の準備をしよう。


 どこに行くのかよくわからないけどSランクの依頼だっていうからには準備をしておかないといけない。星屑の丘ってどこのことなんだろう。


 朝に目が覚めたらあたしはクールブロンを手入れした。しっかりと布で拭いて、朝日に照らすときらきら光る。クールブロンは武器なんだけどちゃんと手加減もできるし、本気で戦う時も強い相棒にもなるからあたしは気に入っている。最初は魔銃なんていらないって言ってたんだけどなぁ。


 ポーチの弾丸はちょっと少なくなっている。これ、ワークスさんにいえば売ってくれるのかな。後で頼みに行こう。


 あとはこの前も使ったけどバッグに着替えと必要なものを最低限詰め込む。出発前には水や食料を入れるスペースをちゃんと考えておく。背負うものだから軽い方がいいけど、あまり物が少ないと困るかもしれない。こういうと小難しいよね。


 それから朝ご飯を食べる。アルマとメロディエは昨日のうちに帰った。メロディエは……たぶん魔族の公館に帰ったと思うけどいつの間にかいなくなっていた。だからニーナとモニカだけが泊った。……お泊りの時はだいたい夜まで話をして眠るから結構楽しい。


 昨日はお風呂上がりにラナがお茶を入れてくれてみんなでおしゃべりをしながらそれを飲んだりした。……ミラがいないのが残念な気もするけど今度は一緒にできると思う。そういえばミラはお父さんと大丈夫だったかな。心配だよね……。


 朝ご飯を食べてあたしは一足先に家を出る。ワークスさんに会いに行く。あとでみんなとは学園で落ち合う予定。授業が終わったら冒険の買い出しに行くことにしている。


 今日はいい天気だ。あたしは何となく体が軽い気がする。


 職人街まで走っていく。ワークスさんのところまでの道はもう慣れた。朝に走るとなんか気持ちいいよね。


「そこいくひと、そこいくひと、ちょっとまってね。きしし」


 なんか聞き覚えのある笑い声がする。あたしは足を止めて声の方を見ればフェリックスの制服を着た女の子が笑っている。あたしが見上げた屋根の上で。彼女は「とお!」って言ってあたしの前に降りてくる。


 その恰好をしている時の彼女を「キリカ」というべきか「チカサナ」っていうべきかよくわからない。


「おはよ、チカサナ先生」

「うわ、反応薄いですね。こういう時はキリカでいいんですヨ。きしし」

「名前はどっちかにしてよ……」

「まーいいです。一応マオさんにも聞いておくことがあってですね」

「何さ」

「今回は『Sランク』を受けるにあたって私も同行しますし道案内もしますけど、信頼できる仲間を連れていくことは重要ですよってこと」

「……? そんなのわかっているよ」

「ほんと、ですかねぇ」


 チカサナ先生は笑いを収めた。


「信頼できる仲間と仲の良い友達は違うんですヨ」

「……! この依頼は危ないってこと?」

「さあ、どうですかね。危ないかもしれないし、そうじゃないかもしれない」


 チカサナはあたしの横に並んで耳打ちする。


「ただ、イオス同志にかかわるということは危険かもしれませんね。貴方の友達にとっては」

「……」

「私はこーみえてSランクの冒険者と言われていますが、痛い目もそれなりに見てまス。マオさん。イオスって人が何をしたのかよく思い出してみてください」


 チカサナは両手を広げている。その後ろに朝日に照らされる王都があった。白い鳥が飛び立つのが遠くに見える。


「この平和な王都を焼いて落とそうとしたのですよ。普通に考えて、許されると思いますか?」

「……何が言いたいのさ」

「どんな悪逆も許されるというのは歴史が証明しています」

「そんなわけないじゃん」

「そんなわけあるんですよね。例えば魔族を虐殺した人は英雄と言われるでしょう?」

「…………!」

「……どんな悪行もそれを書き換えてしまう力を持つ『なにか』が常にいるわけです。どんな場所でも、時代にもね。イオス同志は一人で動いているわけではないことをわかっておいてください。マオさんは一応私の生徒ですから忠告しておきますね」


 チカサナ先生はふっと笑った。それは……この話にかかわるとみんなにとって良くないことがあるってこと?


「私たち冒険者にとって……信頼できる仲間というのはネ。生き残る力を持っている人なんですよ。だからもしも友達を大切にしたいなら、考えておくことですね」

「…………」


 それだけを言うとチカサナ先生は踵を返して去って行こうとした。だからあたしは聞いた。


「いきなりなんでこんなことを言うのさ」

「まあ、うすうす感じていると思いますし、正直に言いますけど。私は貴方の監視役ですから……そうですね。理由……か、強いてあげるなら昨日もその前もあなたたちは楽しそうだったからですネ。きしし」


 チカサナは振り向いた。少しさびしそうな顔だとあたしは思った。


 この人はあたしたちのことを見ていた。本当ならこんなことを言う必要がないはずだ。それなのにあたしの前に姿を現したのは……この人なりの思いやりなのかもしれない。


「関わらせるなら失うくらいの覚悟はしておくべきですし。仲の良い友達にとどめておくのも一つの道ですよ」


 チカサナはそれに付け加えた。


「そうですね。出発は明後日の朝ですが、明日の夜でもいいですよ。どちらかに港に来てください」

「なんで時間が違うの?」

「どう使っても自由ですね。それじゃ」


 チカサナは足に魔力を溜めてジャンプすると民家の屋根を走ってすぐに消えていく。


 ……失う覚悟? そんなのは……嫌だ。


☆☆


 連日の訪問があるとはさすがに思っていなかった。


 エリーゼは魔族の公館に来た来訪者に会うために着替えて、髪を整えた。中庭にいるというから足早に向かう。


 公館はもともとは貴族の屋敷だった場所で中庭もそれなりに広い。流石に荒れたままにするには忍びないのでエリーゼと公館に努める女性の魔族で花を植えて整えている。色とりどりの花の咲く庭園はそれなりにエリーゼは気に入っていた。


 エリーゼは白いマントを羽織っている。


 その花の園の真ん中に彼女は立っていた。美しい銀髪の少女。ミラスティア・フォン・アイスバーグ。フェリックスの制服を着た彼女が振り返る。エリーゼはそれにニコッと笑った。


「どうしたの? ミラスティアさん。朝早くに」


 ミラスティアはぺこりと頭を下げる。


「すみません。連日押しかけてしまい」

「あはは。固いなぁ。大丈夫だよ。私は結構あなたたちとの会話は楽しいから。ただアポイントはとってくれると嬉しいかな」


 それに対してミラスティアは「気を付けます」と答えて頭を下げる。エリーゼは自分の青い髪を手で触った。風の気持ちいい朝だと思った。それでも余裕の表情の裏でこの剣の勇者の子孫は何をしに来たのだろうとおもっている。


 その彼女をミラスティアは見つめている。


「ふふ。私の顔に何かついている?」

「……あの、エリーゼさん」

「何かな」

「これは仮の話ですが……人間と魔族にとって重要な場所があるとすればそこ行きたいと思いますか?」

「……なんだろう、抽象的のようでいて具体性のありそうな話だね。……そうだな。それが魔族のためになるなら見ておきたいかな。こういう答えでいい?」

「はい」


 ミラスティアは息を吸う。そして言った。


「無礼を承知でお願いします。私と手合わせをしてもらえませんか?」


 エリーゼはその言葉の真意を測りかねた。純粋に困惑した彼女だったが、短く答えた。


「本当にいきなりだね。…………いいよ。ミラスティアさん。きっと魔族と人間のための何かにつながることを考えているんだよね。でも、大丈夫? 私は結構……」


 赤い瞳が魔力に光る。


「強いけどね」


 彼女は不敵に笑う。







 

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