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魔族と人間の食卓 後編


 モニカはあたしたちをゆっくりと見まわしてから話をする。


「私はご覧の通り魔族ではあります。アルマ様……ですか? 失礼ですがまだ自己紹介もできていませんでした…………私はモニカと申します」

「あ、あ。さ、様? アルマでいいですよ。貴方はさっき学園で……」

「あの場におられたんですね」


 一度目を閉じてからモニカは言った。さっきのことというのはソフィアとのいざこざだと思う。ラナがぴくりと反応して「なんかあったの?」って言ってる。


「私たち魔族の扱いとしては『ああいうこと』はよくあります。……だからこそ今回もマオ様にはご迷惑をおかけしてしまいましたが……」


 迷惑なんてないよ! あたしは否定しようする前にモニカがあたしを見た。目で制された気がする。


「私はですね。ここ数か月皆さんと過ごしてきて一緒に食事をして、出かけたり、ギルドの依頼をこなしたりしてきて……この前ふと気が付いたんです」


 彼女は手元のシチューに目を落とす。湯気の立つクリームシチュー。みんなで作った料理。


「当たり前にここ来て、当たり前に過ごしている自分がいて。魔族とか人間とかそういうのは言われるまで頭の中からなくなっていることに」


 モニカ……。


 彼女はアルマをまっすぐに見つめた。


「……私にとってこの時間も場所もすごく大切だと思います。……すみません。何がいいたいのかわかりにくいですよね……。私は、ずっと魔族として王都にいて魔族としてふるまっていたんです。そして……私の前に立った『人間』を人間として見ていました……。ただここで皆さんと出会ってから私は自分のことをモニカと呼んでくださる方に囲まれて……私はマオ様にもラナさんにもニーナさんにも……ここにはいませんがミラさんとも名前で意識ができるようになった気がします」


 モニカは少しだけ微笑む。自分の手を胸に当てたまま。


「もし、アルマさんが良ければですが私のことを『魔族』ではなくてモニカと呼んでくれませんか?」

「……ぅ」


 アルマは小さくうなったまま少しだけ俯いた。その時にラナが立ち上がってモニカのそばに来る、それで彼女の頭を両手でつかんだ。


「なんかいきなりいいこと言ってんじゃないわよ」

「いたた、ラナさん、何ですか。少しかっこつけただけです~」

「こいつ」


 少し楽しそうに抵抗するモニカ。


 あたしはラナの行動の意味がなんとなく分かる。うれしい気持ちとなんか気恥ずかしい気持ちがあってむずむずする。だからあたしも言った。


「モニカ、じゃ、じゃああたしも『様』とかいらないかな」

「……」


 モニカはじっとあたしを見てにやっと笑った。


「だめですね」

「なんで?!」


 なんで? うう。ニーナもなんか言ってやって! あたしはニーナの背中をたたいて言った。


「あ、ああ。そうだな。なんか……。なんかか……んん」


 いや、真面目に考えこまなくていいよニーナ。ニーナは目を閉じて両手を組んで考え込んでいる。それから「あっ」といった。彼女は片目だけ開けてあたしを見て笑う。


「ふっ私のあだ名を強制的にニーナにしたマオの手伝いはできないな」

「そ、そんなぁ。じゃ、ニナレイア……ガルガンティアさん……これでいいでしょ!」

「ニナレイアとお前に言われると気持ち悪いな」

「ひどくない!?」


 ぎゃあぎゃああたしとニーナが言い争い? をしてラナとモニカがいつの間にかそれを笑ってみてるし。


「え? ガルガンティア?」


 ん、振り向いたらアルマがきょとんとした顔をしていた。彼女は「え?」ってもう一度言う。アルマはニーナにおずおずを話す。


「も、もしかして『力の勇者』の一族の方……ですか?」

「あ、ああ。そうだ。私はニーナ…あ…いや、違う。ニナレイア・フォン・ガルガンティアだ」

「ええ?」


 ラナがその上で言う。


「たぶん後で驚くと思うから言っとくけど、ここにいないもう一人のミラって子は『剣の勇者』の一族さんよ」

「ええ~?」


 アルマは目をぐるぐるさせて混乱している。


「魔王を討ち取った一族が魔族の方と一緒に食事しているんですか?」


 口には出さないけど正確に言うと魔王とも食事しているね。何回も。ン―そう考えると不思議かもね。


 アルマは頭を抱えている。


「いろいろ混乱していますが……でもわかりました。あ、あの……も、モニカさん?」

「はい」


 モニカの赤い瞳にアルマが映る。その表情は優しい。その顔にうっとアルマがひるんだように見えた。


「その、私はその……嫌な言い方かもしれませんけど魔族の方とはつ、付き合いがなくてですね……さ、さっきのようなことは考えたこともなかったのですが……これからも名前を呼ばせてもらえますか?」

「……はい。よろしくお願いしますね。アルマさん」

「は、はげぼっ」


 だんと立ち上がったメロディエの勢いに巻き込まれてアルマが横に倒れた。あたし達は驚いてメロディエを見る。彼女はまっすぐにあたしを見ている。


「「「!!?」」」

「…………」


 足元ではアルマが「な、なぜ」とか言っている。メロディエは唇をかみしめてあたしを睨みつけている。彼女はびしっとあたしを指さした。


「マオ!」

「は、はい!」


 はいとか言っちゃった。


「私はお前には負けないからな!」

「え? 負けないって何が」

「だからこれだ、ここだよ!」


 だんだんとその場で足踏みをするメロディエ。床がぬけるかもだからやめてって!


「負けないって何がさ」

「森で出会った時に言っただろ、私は魔族も人間も私の演奏で一緒にしてやるって」

「う、うん」

「それなのにマオが先に一緒に食事をする場所なんて作って……なんかこう! 悔しい!」

 

 メロディエが気持ちをそのままに叫んだ。あたしは驚いたけど、でも最近元気がなかったメロディエがそんな風に思ってくれているなら受けて立つしかない。あたしは立ち上がって両手を組んで胸を張る。


「別にあたしがやったわけじゃないけど勝負なら負けないよ!」

「言ったな! このちび!」

「メロディエだって同じくらいでしょ!!」

「すこしおおきいわい!」

「ほとんどわかんないじゃん!!」


 いつの前にかあたしとメロディエは取っ組み合いになっていた。というかだれも止めてくれないし。


「笛が壊れているのも全部直して、王都で演奏会をしてやる! お前には負けないからな!」

「へへん。じゃああたしは……えーと……と、とにかく負けないよ!」


 この勝負……あたしが何をすれば勝ちなのかさっぱりわからない。……そもそも何の勝負なの? 


 しばらくしてラナがあたしたち二人の首根っこを掴んで言った。


「暴れるな。さっさと食事をしろ」

「はい」

「はい」


 ラナにはかなわない……。



 そんな感じでみんなで食事をして後片付けをする。


 ラナの魔法で桶に水をたっぷり入れて皿を洗う。ごしごし、布で拭く。なんか体を洗う時の石鹸みたいに皿用の石鹸とかあればいいのにね。きれいになるやつ。油汚れとか取るの大変だったりする。


「ふふーん」


 あたしは鼻歌を歌いながら、家の外で作業をする。桶を一つひっくり返して椅子代わりにしている。じゃぶじゃぶ。


「おい」


 ん、メロディエ。


「私も手伝う」


 いいのかな。じゃあ洗ったのを拭いてよ。今日使ったのは木製のものばかりだから落としても大丈夫。さっきみたいに食器を割ったらラナがまた怒るもんね。


「……」


 メロディエはかがんであたしが渡した皿を乾いた布で拭く。なんか黙っている。なんだろ、何か言いたいことがあるのかな。


「あのさ」

「あの」


 あ、声が重なった。


「メロディエからいいよ」

「マオから言え」


 なんか先に進まない。あたしはメロディエに手で話をするように促した。


「いや、さっき言ったら怒るかと思ってな」

「怒るって」

「……学園とかいう場所でお前と喧嘩してたやつがいただろ」

「ああ、ソフィアのことだね」

「なんか、きつそうなやつだなって」

「きつそう?」


 きつそうってなんか変な言い方だね。メロディエは皿を拭いて地面に落とした。あたしをちらりと見てくるから、もう一度洗うよ。貸して。


「そのソフィアとかいうやつ……なんか余裕がない気がしたから。どういえばいいのかわからんのだけど」

「もしそうでも、モニカのことを傷つけていいことにはならないよ」

「そうだな……そうだ。……んんん。だから言えなかったんだ」

「何を言いたかったの?」

「…………忘れてもいいけど、ああいうやつ……きつそうだなって」

「同じこと言っているよ」

「どういっていいのかわからないって」


 メロディエはそう言った時に皿を地面に落とした。……もう一回洗うからちょうだい。


 ……それにしてもソフィアのことか。あった時からずっとあたしのこと嫌いっぽいからなぁ。


 ソフィアのことか。あたしはメロディエの言葉で少しだけ考えた。


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