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マオ、戦う②

 ぱちぱちぱち。


 あたしの前でソフィアがわざとらしく音を鳴らしながら拍手をしている。ただ表情は冷たい、面白くないと顔に書いているみたい。だいたいこういうやつはまだあきらめてないよね……。


 ソフィアは立ち上がった。


「妙な武器を使うのですわね。魔力で弾? のようなものを発射するといったところかしら?」

「……そうだよ」


 あたしは魔銃を見よがしに肩にかけて、ふんぞり返るように首を反らした。正直もう魔力の回復はあと少し必要だから、今連戦されたらやばいと思う。そうだ、今のうちに弾の装填だけはして……とポケットをまさぐって気が付いた。


 あたしの掌で全て確認できるくらいの残弾。えっと、残り3発しかない。


 やばい、やばい。あたしは表情に出ないようにふふんと鼻を鳴らした。


 ぴきぴきとソフィアの後ろにいた冒険者連中の顔がひきつる。


 げっ、あたしが挑発したみたいになっているじゃん。違うし、やばいのはあたしだし。ソフィアは氷のような表情と赤い瞳であたしを見る。


「あんたの口車にのった冒険者を倒したからあたしの勝ちだよね? じゃあ、約束通り撤回して冒険者のカードも返してよ」


 あたしは余裕の表情のままそういうと、ソフィアは少し眉をひそめてからふっと馬鹿にしたように笑う。


「あら、わたくしの出した条件はわたくしの用意した冒険者を『全て』倒したら、ということだったはずですわ」


 ちぇ。やっぱりそう簡単にあたしの言葉で煙に巻かれる性格じゃないよね。あたしは残り少ない弾を装填してレバーを引く。魔銃から排出された薬莢がからんと床に落ちた。


 ソフィアは人差し指をたてて、自分の前に伸ばした。ほわ、と指の先が赤く光る。


「みなさん。このFFランクは妙な武器を使いあなた方を舐めておられるようですわ」


 ソフィアの指が踊る。空中に赤い文様が浮かぶ。これは……魔法陣だ。しかも呪文を使わずの無詠唱。……何する気かは知らないけど、やばいなぁ……。でもあたしはよゆーある表情を崩したりはしない。


「ここでこのような小娘に馬鹿にされたままでは冒険者の名折れ。どうでしょう、皆さん。わたくしも報酬を上乗せして先ほど提示した宝石とまた別に金貨10枚をお出ししますわ」


 ソフィアの後ろにいた冒険者たちの顔が引きつっていく。ソフィアの前で描かれた魔法陣は円の中に複雑な線で描かれた星のようなものだった。赤い紋章を描き終わったあと、ソフィアは言った。


魅了(チャーム)


 甘い香りがギルドの中を満たしていく。あたしはあわてて制服で口元を覆って後ろに下がる。がん、とドアに背をぶつけた。イッタ。


 でもこれはやばい。今の魔力のないあたしもまとも……あま……あ、……。


 はっ! 今やばかった!! これは洗脳の魔法だ。魔力の抵抗がある人間やあたしのように知識のあるものは抵抗できるだろうけど……。


「FFランク袋叩きにする」

「報酬はもらう」

「あー」


 あーあー。ソフィアの後ろにいる冒険者数人の目がやばいよ。全員じゃないみたいだけど、あたしを親の仇みたいな顔で睨んでいるし。ソフィアはというと、両手を組んであたしをゴミを見るような目で見てる。あたし自身が「魅了」に引っかからなかったことが気に入らなかったみたい。……こちとら魔王様だから、その程度ひっかかったりしないよ。


 でも甘いにおいの漂うギルドではどうしようもない。


「ソフィア!」

「…………気安く呼ばないでくださる? 汚らわしい」

「あたしがあんたの魅了にかかった冒険者を全員倒したら。さっきの発言はちゃんと撤回してもらうからね」

「わたくしの用意した冒険者を全員倒せたら、考えてあげますわ」


 あー生意気。いちいちとげがある。


「それで、いーよ!」


 あたしはドアを蹴って開けた。夜の町に浮かぶ月が見える。


「ほら、付いておいでよ。マオ様が相手になってあげるよ」


 残弾は3。魔法にかかっているとはいってもたぶん冒険者たちはあたしよりも手練れ。じゃあやることはひとつ。あたしはギルドから飛び出した!


 石畳を走る。あたしは夜を駆ける。


「はあ、はあ」


 ちゃんとついてきているかな? とあたしがちらっと後ろをみると、いるね。槍を持った鎧着たやつと筋肉質な男と、ナイフ嘗めながら追ってくるやつ。全員眼が血走ってる。


「こわっ」


 あたしは素直にそう言ってしまった。だって、こわいもん。なにあれ。うっわ、ていうか速い。あたしは全力で駆ける。こうなると魔銃が重い。投げ捨てたい。


 あたしは走りながら周りを見た。浜辺までゆるやかな下り坂になっている。だから、あたしも走りやすい。上り坂だったらたぶんもう捕まっているね。


 息が切れるぅ。ぜえ、ぜえ。後ろの連中は足音高らかにあたしを追ってくる。夜の街といっても人通りはそれなりにある。港町だからだろうか。あたしは星明りと街中の篝火を目印に海岸まで走っていく。


 街の中心に立つ斜塔が見えた。


 鐘のそなえつけられたものでたぶん決まった時間にそれを鳴らしているんだと思う。ただ、あたしにはそこに人影が見えた。それは弓をつがえてあたしを狙っている。


 はあ? なにあれ、ほんとに殺す気か!!


 弓をつがえているそいつの後ろには月が浮かんでて、影しかみえない。ただわずかに魔力が周りに見える。次の瞬間にあたしに向かって矢が飛んできた。


「うわぁあああ」


 あたしは転んで、あわてて避けた。一瞬おくれてあたしのいたところに矢が突き刺さっている。石畳を貫通して金色の魔力の残りがたちあがっている。…………あいつ、あたしを殺すつもりだった。


 あたしは斜塔を睨む。あそこに明確に殺意を持った「弓使い」がいる。あたしの手にある魔銃であそこまで届くか、無理。魔力が足りない。それに狙う方法がない。塔は高い、狙って当てるのは無理。


「へっへっへ」


 あたしははっとした。座り込んだままあわてて後ろを振り返ると、あたしを追っていた3人がそこにいる。やばいと思って逃げようとすると筋肉質な男があたしを仰向けのまま押さえこんできた。


「観念しなぁ」


 目が血走っているくせに冷静にあたしの両手を抑えてくる。ち、力が違う……ぜ、ぜんぜんうごかない。


「は、はなせ」


 もがいても動かないし。ほかの鎧の男とナイフの男もあたしを見下ろしている。


「そいつの服はなんか魔法のアイテムだったよな」


 鎧の男が言うと筋肉がへらへら笑いながら。片手であたしの両手をまとめて抑え込んできた。そ、それでも動かないし。


「じゃあ脱がすか」


 とかいいながらあたしの襟に手をかけてきた。って、触んな! あたしはその手をがぶりと噛む。思いっきり!


「いってぇ」


 チャンス。あたしは自分の足を引き寄せて、そのまま筋肉の股間に突きだす。あたしのブーツの先にぐにゃあって感触があった。


「おごっ」


 妙な声をあげて男はあたしから離れた。股間を抑えてうずくまってる。いた、痛いのかな? 罪悪感が少しあるんだけど。


「おごごご」


 ……股間を抑えてのたうち回りながら奇声をあげてる。…………ごめんね? 


「てめぇ」


 おわっ。槍があたしに突きだされた、鎧の奴だ。あたしはなんとかよけながら、魔銃をとって立ち上がる。鎧の奴がまた槍をあたしに突きだそうとしている。避けられない。あたしは魔銃を構えて、引き金を引く。銃の魔石が光り、弾丸が発射される。


 鎧に銃弾が直撃する。鎧の奴は後ろに飛んだ。たぶん仕留めきれてない、いや仕留めちゃったら困るんだけど!


「しっ」


 ぐえ。ナイフを持った奴の蹴りが横腹に突きささった。息が、できない。


 ナイフ使いは軽装で、目が血走った男だった。ああ、くそぉ、盗賊みたいな格好しやがって。あたしはポケットの中の銃弾を掴んで、投げた。


 ナイフ使いはよけた。でもいいんだ。それで一呼吸できる。痛みは我慢する!

 あたしは銃の金属の部分を両手で持った。そのまま振りかぶって、思いっきり振る。


「おらー! とんでいっちゃえ!」


 魔銃の銃身にナイフ使いの頭にクリーンヒット! ナイフ使いはのけぞった。いたーい。手が痛い。すごいしびれる。


「ころす」


 げっ、気絶もしてないし。


 あたしは一歩下がってからべーと舌を出して背を向けて走りだした。走りながらレバーを引いて次弾を装填する……。あと一発しかないじゃん! 一発はなげちゃったし……。


 そのあたしの肩に矢が突き刺さった。



「ぐあ」


 焼けるような痛みを感じる。痛い、痛い。あたしの袖に血がながれている。制服はさっき禿との闘いで魔力を通して防御力をあげてたから矢の威力を軽減してくれたみたいだ。あたしは矢が刺さったまま物陰に隠れようとする。


「てめぇ」


 ナイフ使いも来てるし。はは、やばいね。

 弾丸は一発。このナイフ使いですらあたしよりも強い、んで弓使いもいる。どうしよう、こ、こんなときにミラがいたら。


「……ちがう!」


 あたしは自分の弱気と痛みを吹き飛ばすように叫んだ。こんなところで剣の勇者の子孫に頼るなんて魔王としてあるまじきことだ。迫ってくるナイフ使いも、遠くにいる弓使いもあたしは倒す。魔王様、いーや、マオ様をなめるな!


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