チカサナの罰
いつの間に帰ってきたんだろう。
家の寝室……。あたしはベッドから降りて体を伸ばした。今何時だろう? さっきまで何をしていたんだっけ。……そうだソフィアと争いになって……それで、なんでかうまく思い出せない。
とりあえずあたしは寝室を出る。
テーブルには三人がいた、ラナとモニカとニーナだ。それぞれが椅子に座っていた。あたしは今何時かわからないけど、声をかけた。ミラはいないね。
「あ、おはよ」
その声に三人はピクリと反応してゆっくりとこちらをゆっくりと見た。
何も言わずにそれぞれがこちらをじっと見てる。
「え? なに、どうしたの?」
あたしの問いかけにも何も答えてくれない。みんなただ黙ってあたしを見ている。その目はどことなくあたしを……蔑んでいるような、そんな気がした。何かしたっけ。
「マオ様」
モニカが立ち上がって言う。冷たい視線は変わらない。
「魔王の生まれ変わりだったんですね。すっかりと騙されていました」
「……?!」
なんで、え? なんで? あたしは背筋が冷たくなる。お腹から気持ち悪さがこみあげてくるのを唇をかんで抑える。
ニーナやラナも立ち上がる。あたしを軽蔑の眼で見ている。足が震える。逃げたくなって、寝室のドアノブに手をかけようとしてうまくいかない。あたしはドアに背を張り付けるように下がった。怖い。
「王都の潜り込んで何か企んでいたの?」
「ラナ……違う、違うよ」
あたしは首を振る。
「私の先祖の宿敵だったとはな。魔族に対して同情的なのはお前もそうだったからか」
「ニーナ……あたしは……」
三人が近づいてくる。
あたしは怖くてでも逃げ場がない。
ミラを探すけどどこにもいない――
☆
「マオ様!」
天井が見える。はっと目を覚まして飛び起きる。シャツが汗でぐっしょりと濡れている。さっき見たのは夢? あたしは横を見るとそこにはモニカが心配そうな顔をしている。
「……すごくうなされてましたよ。大丈夫ですか?」
「……え? あ、うん。ただ、夢だよ……夢」
怖い夢だった。……ゆめ? あたしはゆっくりとモニカを見る。この子があたしを本当に魔王だったと知ったらどうなるんだろうか? 前からずっと思っていることだった。ただ、いうのは怖い。でもいつかは言わないといけないんだろうか。
「そんなに怖い夢を見たんですか?」
「うん……それよりここは」
「学園の医務室です。この前とは逆になりましたね」
「逆……あ、そっか、前はモニカがベッドで寝たもんね」
あたしはベッドから降りる。軽くめまいがしたけどたぶん大丈夫。無理に魔力を使うとこいうことはよくある。
「そういえばソフィアはどうしたの?」
「そのことですがマオ様が目を覚まされるのを待っていました。あ、あの人がということではありません。その学園長がですね。目を覚ましたら学園長室に来るようと」
「学園長が?」
グランゼフ学園長……いきなり出てきた。……校門であれだけ暴れたんだから仕方ないのかな?
「あ、メロディエとアルマはどうしたんだろう」
「メロディエはさっきまでそこにいたんですど、あ、たぶんその方と思いますが女性も一緒でした。どこに行ったんでしょうか?」
「……そっか。じゃあ後で会えるよね」
あたしは近くに置いてあった上着を羽織る。学園長が呼んでるって久しぶりだよね。
「モニカ後でまた話そう。ちょっと行ってくるね」
モニカはその言葉で「はい……」と小さな声で答えてくれる。その時ふと思った。あたしはソフィアと対峙した時に妙なことが起こった。ソフィアの眼の光が赤色から鮮やかな紫色になった。あたしは宝石のアメジストのようだって思った。
「あのさ、ソフィアの眼の色のことなんだけど」
「はい?」
「あ、いや何でもないや」
今はよくわからないし、時間もないから。そう思った時に逆にモニカに聞かれた。
「マオ様……さっきの夢のことですが」
びくっと体が強張る。ただ、それを表に出ないようにしたい。
「すみません。ずっとうなされながら、違う違うといわれておられたので……本当に大丈夫ですか?」
「あたし……そんなこと言ってたんだ。大丈夫だよ。怖い夢だったけど、どうせ夢だから」
「……今回のことまたマオ様に庇ってもらいました。すみません」
「あ、さっきのことは全然気にしないでいいよ。ソフィアに対してあたしも怒っちゃったからさ」
「マオ様は怖い顔をされていました。それで少し……心配で」
「……そっか。ごめん。いつも感情的になっちゃうからさ」
「もしも、もしもですね」
モニカは自分の胸に手を当てて言う。
「何か……私が聞いてマオ様が楽になることがあれば……いつでも言ってください」
「…………」
その瞬間『夢』のことが頭によぎった。……モニカは純粋にあたしのために言ってくれているのに……疑うようなことを思ってしまう自分に対して嫌な気持ちが溢れてくる。何か返す必要があるのに言葉にならない。沈黙をしてしまった。
ただ、モニカは少し悲しそうな顔を一瞬だけしてそれから笑った。
「すみません。変なことを言いました。……グランゼフ学園長とのお話が終わるまでお待ちしていますね」
彼女の気持ちに応えてあげられないことが……つらかった。
☆☆
「マオ。久しぶりじゃな。元気にしとった……などと聞くのはおかしいな、なんといっても元気すぎて呼ばれたんじゃからな! がはは!」
グランゼフ学園長は両手を組んでそういった。白い髪に真っ白なふさふさのおひげ。でも体は大きくて筋肉が服の上からでも盛り上がっていることが分かる。ウルバン先生といいなんかお年寄りなのにみんな元気だよね。声も大きいし。
グランゼフ学園長は黒いローブを着ている。そこには学園の『剣の紋章』が金の刺繍で編まれている。
あたしとソフィア彼の前に並んで立っている。ソフィアは両手を組んで少しそっぽを向いている。グランゼフ学園長は笑顔のまま少し困った感じで言う。
「一応、本当に一応なんじゃが、この学園にも校則があってな。生徒間の私闘は禁止なんじゃが、まー。毎日いろいろとあっているからのぉ」
髭をなでながらグランゼフ学園長はあたしたちを見た。
「お前たちも仲良くできんのか?」
「お断りしますわ。」
ソフィアはぴしゃりという。
「あたしは別にソフィアと喧嘩したいわけじゃないけど。モニカには謝ってほしいよ」
「……その話はさっきも言った通りですわね。あと私の名前を気安く呼ばないでくださる」
「じゃあなんていえばいいのさ。名前を言わないなら呼べないじゃん」
「呼ばなければいいだけのことですわ」
「いや、それはおかしいでしょ。それに今回のことはソフィアが悪いんだからね!」
「……いきなり話に入ってきて場をかき乱したのは貴方でしょう?」
ううう。ああいえばこういう。あたしとソフィアはにらみ合う。そこでぱんと大きな音がしてびっくりした。グランゼフ学園長が手をたたいたんだ。
「わかったわかった。相性が悪いのはよくわかった。しかしまあ、喧嘩するほど仲が良いという言葉もあるしの」
「そう表現されるのは不快ですわね」
「お主は態度がはっきりしすぎじゃ……ワシは一応学園長じゃぞ。いや、そういう態度もマオの前だからか? そもそも前は不問にしたが2回目じゃろおぬしら」
ソフィアはふんと鼻を鳴らす。確かにソフィアはあたしと初対面から喧嘩をしている気がする。最初から仲が悪いというか一方的に嫌われている。……あたしはソフィアに対して何かした記憶がない。何で嫌われているのかよくわからない。村娘だから……? 理不尽だなぁ。
「それはそうとさ学園長はあたしたちを呼んだのはなんでさ」
「いや、まあ。怒ってくださいと職員に言われたからじゃが、怒れと言われてものぉ。喧嘩するのも子供の特権じゃし。しかし、あれじゃな。おぬしらも反省をしてもらわないといけんな」
「子ども扱いしないでくださる?」
「おお、すまんすまん」
グランゼフ学園長は立ち上がって髭をなでている。
「大人は嫌な相手とも折り合いをつけて仲良くしていくものじゃからな。ソフィア嬢の言う通り子供扱いをしてすまんかった。大人として仲直りせんかね?」
ソフィアは黙りこんで少しだけグランゼフ学園長を睨んだ。
「……校内で私闘に及んだことを反省しておりますわ。申し訳ございませんでした」
そうソフィアは言った。
「あたしもソフィアと喧嘩してごめんなさい」
「うむ。まあ、微妙におぬしら二人とも話をずらしている気がせんでもないが、とりあえず入ってきていいぞ」
その時バーンとドアを開けて仮面で上半分を隠したをつけた女の子が入ってきた。チカサナ先生だ。
「どーもどーも! この度はまーたいろいろとやってくれたそーですネ! きしし。お二人にはこのチカサナがきっちりと反省のための課題を与えます」
チカサナは中に入ってくるなり言った。
「マオさんとソフィアさんには同じ依頼を受けてもらいます。よーするにパーティを組んでいただくことになりますネ。依頼はもともとマオさんとやる予定だったものがあるのでそれでいきましょう」
「お断りしますわ」
「断れませーん! きしし!」
チカサナはソフィアに近づいて何か耳打ちする。それでソフィアは驚いたように目を見開いて言った。
「わかりました」
「すなおなのはいーことです。それとマオさん前からの依頼についてそろそろ出かけましょうか、出発は三日後としましょう。詳しくは後で言いますが、信頼できるお仲間に声をかけておいてください」
「え……じゃあ、ソフィアとあの話を?」
「そうです。もともと必要でしたからネ。安心してくださいこのSランク冒険者の私も同行しますし大丈夫大丈夫。きしし」
チカサナは笑う。
必要ってことが何なのかわからないけどあたしは言う。エトワールズとソフィアが一緒になるってことだから。
「ソフィア……やっぱりモニカには謝ってね」
「…………ふん」
ソフィアはそっぽを向いたまま鼻を鳴らした。




