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「ひどい目にあいました」


 アルマはこほんと咳ばらいした。立ち上がると背丈はあたしよりほんのり、ほんとちょっとだけ高いくらいかな。ただ透き通ったようなって言葉がそのままな白い肌に青い瞳。整った顔立ちは初対面があんなのじゃなければ少し気後れしそう。


「大丈夫か? すまなかったな」

「……事故と思っておきます」


 ワークスさんが謝罪をするのをアルマはそう返した。


 アルマは片手でツインテールの片方をおさえながら青い空色のローブを手ではたいてる。さっきのことで埃が付いているからね。ローブの中には白いブラウスとフリルの着いたスカートをはいている。


 ――あの顔をまた思い出した。


 いや、忘れよう。あたしはさっきのアルマの顔を思い出して頭を振る。あんな顔をこんなかわいい人がしてたなんて記憶から抹消してあげるべきだと思うんだ。あとリリス先生は謝るべきだよ! いつの間にかまたいなくなっているし。


「どうしたんですか?」

「あ、いや……あ! そういえばまだ自己紹介してなかったけどあたしはマオ」

「ああ、私はアルマ・オリバーです。主に楽器の製作……そうですね笛の修理を依頼されると聞きました。依頼者はマオさん……でよいのですか?」

「あ、あたしじゃなくてこっちのメロディエ」

「ん?」


 アルマはメロディエの方を見ると顔をひきつらせた。メロディエは軽く頭を下げてから怪訝そうな顔をしている。


「……どうした。おまえ」

「ま、魔族?」


 アルマは後ろに下がる。彼女はワークスさんを振りかえった。


「こ、今回の依頼は魔族からとは聞いていませんでしたよ? す、すみませんが私は受けれません」

「…………」


 ワークスさんは何も言わない。だからあたしが言った。


「待って! 魔族だからって関係ないじゃん。本当に困っているんだから」

「……いえ、ほかを当たっていただけますか? 魔族との取引を知られたら私の工房は……。と、とにかく受けれません」

「は、話を聞くだけでもしてくれていいじゃん! 何も知らないのにいきなり断るのはおかしいよ」


 あたしはアルマの肩を持って訴える。彼女は困ったように目を泳がせている。


「話を聞いたとしても私は仕事を受けませんよ……」

「聞いてくれてそれでもだめなら……ほかを探すよ」

「そういうことなら。聞くだけは聞きます」


 はあとため息をついてアルマはあたしに向き直った。


「メロディエ……あたしが話をするけどいい?」

「ん……ああ」


 メロディエは頷いた。



 ワークスさんの工房の奥を借りてあたしとメロディエとアルマは椅子に座って話をした。ワークスさんは仕事があるって仕事場に戻っていった。槌の音が響いて、職人さんたちの声が聞こえる。


 そんな中でメロディエとの出会いから、彼女があたしに伝えたことをできるだけあたしなりに話をした。もちろん今回ワークスさんにお願いをした「フルートが壊された」は話もした。壊れたお母さんの形見を実際にメロディエに出してもらってアルマに見せた。

 

 話し終えるとアルマは黙っている。やっぱり仕事は受けてもらえないのかな……でももう一度頼もう。


「だから、お願いしたいんだ。このままメロディエの考えていることが終わるのは嫌だ」

「…………ぐす」

「アルマ……さん?」

「アルマでいいでず」


 アルマは突然ぶわっと泣き始めた。ぽろぽろと涙がこぼれていく。びっくりした。大きな瞳をウルウルさせている。


「わだじもぞのお母さんのかだみをこわじたひとたちと同じような人間だったんでずね……ご、ごめんなざい」


 アルマがっ身を乗り出してメロディエの手を取った。


「ごめんなざいぃ」

「ひ、ひえっ」


 メロディエが逃げ出そうしている。あたしはアルマをなだめてなんとか引きはがした。彼女はローブの裾で涙を拭いて、しばらくして落ち着いたアルマはきりっとした顔に戻った。


「ふう。わかりました」


 なんか落差が激しいなこの人……。


「じゃ、じゃあメロディエの笛の修理をしてくれるの?」

「修理というのは……」

「え? だめなの!?」


 そ、そんな。メロディエも目を閉じて下を向いてしまう。


「まって、まってまって、私の言葉を聞いてマオさんにメロディエさん? そ、そんなに落ち込まれるとざ、罪悪感で胃が」


 あわあわするアルマは深呼吸した。


「さっき見せてもらったメロディエさんのフルートをもう一度見せてもらえる?」


 メロディエは半分に壊されたフルートを取り出して見せる。黒塗りのそれは下半分が壊されてそこにあったはずのものはない。痛々しいフルートを優しくアルマは両手で持って観察する。


「流石にこれを修理するということは厳しいとは思います。あ、あ、あ。ご、誤解しないでくださいね。先に言っておきますね、話は続くので悲しそうな顔をしないでくださいね。いいですか? いいですよね? ……つ、つまり通常の方法ではもう修復は不可能ということです」

「……それはてやっぱり修理はできないってことなのか?」


 メロディエはが恐る恐るという感じで聞いた。アルマは「通常の方法では」と繰り返した。


「笛というものは奏者が――」


 アルマはふーって息を吐く。


「このように息を送り込んで音を鳴らします。フルートの作成には様々な音が操れるように細やかな調整をして作成するものです。つまりこの笛を形だけ元に戻すことが仮にできたとしても楽器としての能力は落ちていることは間違いありません」

「そうか」


 メロディエはわかりやすく落ちこんだ。


「まあ、そりゃそうだよな。わかってはいたんだけどな。というかわかっていたから何も言わなかったんだ。マオが私のために動いてくれているのはさすがに分かったからな。はあ、仕方ないよな」

「だから、通常の方法と言いました」


 アルマはフルートをメロディエに返して自分の懐から小さな笛を取り出した。青い表面のそれを彼女はメロディエに渡す。


「なんだ、これ。この笛は穴が少ない」

「吹いてみてください」

「?」


 メロディエがそれに唇をつけて息を送る。ふすーーって空気が通る音がしただけだった。


「音がしないぞ」

「ええ、それはですね。こう吹くんです」


 アルマはそれをまた返してもらう。ハンカチで口をつける場所をぬぐって、それから自分の唇を当てる。


 彼女の手元で笛が青い光を放つ。

 

 魔力を通す光に笛が輝く。アルマの笛が高い音でメロディを奏でる。アルマは「ん」って少し困ったような顔をして唇を離す。


「ふう、難しいです」

「なんだ今のは! 私がした時は音が鳴らなかったのに」

「それはそうです。これは通常の笛の構造とは全く別のものですから。この笛の表面には魔力を通す文様が刻まれています。風の魔法を使うためです」


 アルマの青い瞳があたしたちを見た。


「音の世界とは奥の深いものですがどうしても制約もある。だからもし風の魔法を応用して笛の中にある空気を自由に操れるのなら……そう思って作ったのがこの青い笛です。これは試作品ですが……さっきいたリリスと一緒につくりましたが……あの人は悪魔です。作製費がとんでもないことになったのを隠してて『ダイジョーブイ』って言ってきたのを無邪気に信じて死にそうになりました」


 アルマは目を閉じて「あのひとは悪魔です」とすごく感情のこもった言葉を口にした。……な、なんかすごいかわいそうな気がしてきた。


「と、とにかくメロディエさんの笛を修理してまた音を奏でるようにするにはこの方法があります。お金はかかりますが……。それに形を整える時に密閉もしないといけないのでつぎはぎのようになると思います……ごめんなさい。ここまでこんなことを言ってもなんですが、まだ実験段階ですし試作品ですらこれしかありません……笛というか全く新しい楽器に生まれ変わることになります」


 アルマはメロディエに聞いた。


「それでよければ私は仕事をすることができますがどうしますか? はっきり言って演奏を続けるのであれば……厳しいことを言うようですが別の笛を用意した方がいいと思います」

「…………」


 メロディエがあたしを見る。彼女の赤い目にあたしが映っている。ただすぐに視線は外した。彼女は笑った。


「じゃあ、いいや」


 メロディエ!?


「悪いなマオ、だって私には金なんてないしな」

「お金……」

「それに私には魔法を使って音を奏でるなんて器用な真似はもともと無理だ。だから……悪かったな」


 メロディエは壊れたフルートをしまうと立ち上がった。


「……メロディエさん」


 あたしが何か言う前にアルマが声をかける。彼女はさっきのメロディエの手を取ってさっきの青い笛をその手に握らせる。


「さっきも言った通りこれは試作品でしかありません……少しの間お貸しします。もしもそれでも気持ちが変わらないのであれば返してください」


 あたしにアルマは振り返った。


「マオさん。楽器というのは道具というより相棒とでもいえばいいでしょうか。不思議な愛着があるものですから、別のものに生まれ変わるとしてもあるいは……今までとは違う楽器を使うとしても時間がかかるものです。特にメロディエさんはいろんなことを経験してしまったから……なんにせよ考える時間はあった方がいいと思います」


 アルマはそれだけを優しく言ってくれた。それから「私の工房はここからすこしはなれたところにあります」と窓を開けた。そこからにょっきり手が伸びてきてアルマを窓の外に引きずりだした。ここは平屋だからそのまま外に引きずり出された。


「!!!???」

「アルマ!!」

「な、なんだ! 何が起こったんだマオ」


 窓に駆け寄るとにっこり笑う水色の髪の女性がアルマを捕まえている。


「ひ、ひええ。り、リリス。悪魔ぁ」

「やーっぱり、クールブロンとかいうやつの製造にあんたがかかわってたんだ。まーいいけど。それじゃあ帰ろうか」

「ど、どこに連れていくつもりですかぁ……た、たしゅけてマオさ――」


 リリスの体から緑の光がほとばしる。これ、さっきと一緒だアルマの体が少し浮かんでそのまま、リリスに引っ張られて走り去っていく。ゆ、誘拐された?! お、追わないと!!



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