悪魔襲来
リリス先生速い。
あたしとメロディエは走って追いかけるけどすいーって行ってしまう。あの魔力で動く靴は便利そうだけど……さ。
「待って!」
よく考えたらリリス先生と一緒に行く必要なんてないんだけどさ、なんとなく呼び止めてしまった。彼女はふいっと後ろを向いて戻ってくる。
「何? 何かくれるの?」
「はあはあ。いや何もあげないけど……速いって」
「なんだマオとそっちの魔族は足遅いんだ」
かちんってくる言い方! これでも村では足が速い方だったんだ。追いかけっことかオーガごっこで村の子供の中ではあんまり負けたことがない。
リリス先生は「仕方ないなぁ」って言って後ろを向く。そして腰のあたりをぽんぽんと叩く。
「ほれ、掴まって」
「掴まってって?」
「いいから早く」
「う、うん」
「そっちの魔族はマオの腰に掴まって」
「お、おう?」
リリス先生にあたしが、あたしの腰にメロディエが……3人並んだ!
だから何だ!
もしかして引っ張ってくれる気だろうか、いや引っ張られてもあたしこける自信があるんだけど。なんか道行く人があたしたちを見て「?」とか頭に浮かべて通り過ぎていく。
リリス先生は何か呪文を小声で唱える。体から魔力を放って手で魔法陣を描く
「ウインドフロー」
その瞬間に彼女の足元の靴からぶわっと風が巻き上がった。あたしとメロディエの足元が地面から離れて……いや! スカートがめくれる! あたしは膝でスカートの裾を挟む。リリス先生!
「それじゃあいこっか」
「いこっかって。う、うわああ!」
急に加速した。
行こうかって言ってリリス先生が動き始めるまで一秒なかった。彼女は足元の車輪で滑るように走っていく。速い。疑似的に風の力で浮いでいるだけであと強引にリリス先生が引っ張ってる力技。あたしは振り落とされないようにぎゅっとリリス先生を掴むし、
「ま、マオ」
あたしを力いっぱいに抱きしめてくるメロディエ。ぐ、ぐえー。きつい。よく考えたら手を離した瞬間にあたしたちは地面に転がることになるんじゃないかな。痛そう!
風景が流れていく。アッという前に進んでいく。昨日も来た通り。もうすぐ着く……手の力も限界だから早くしてほしい! その時リリス先生がいった。
「あ、やべ。止まらないね」
…………!? ……いっつもこうだ!!!!!
「リリス先生!?」
「あははは、まーなんとかなるでしょ。目的地のワークスの工房はまっすぐ一直線だから。おーどいたどいた!! あぶないよー!」
加速した! なんで加速するのさ!? リリス先生笑っているし、メロディエはさらに強く抱きしめてくるし!!
「あははは!! プロテクション!」
「わあーー!!」
「マオの知り合いは変人ばかりだぁ!!」
「そんなことないぃ!! リリス先生がひどいだけだよ!!」
メロディエは涙のにじんだ声に反論したとき、ワークスさんの工房に突っ込んだ!! ドアをぶち破って中に文字通り転がり込む。世界が反転する。白い魔力があたしを包んで地面の接触の衝撃を和らげてくれる。
がらがらーどーんって音がしてもくもくとほこりがとぶ。ぺっぺっ。さっきのはプロテクションの魔法……リリス先生がかけてくれたんだろうけど、強化された防御力魔法壁を体に張り付けたまま突入したからドアを壊すし、なんかいろいろとぶつかってしまった気がする。
「あ、そうだ。メロディエは?」
リリス先生はいいや!犯人だし大丈夫でしょ!
あたしはあたりを見回す。たぶんプロテクションで守られていたから大丈夫だと思うけど……埃が待ってよく見えない。あ、っと思ったら人影を見つけた。あたしはそれに近づく。
「メロディエ……大丈……夫……」
それ、ワークスさんだった。
怒りの形相でハンマー片手にあたしを振り返ってくる。
「お……ま……え……か」
「ひ、ひえっ。ご、ごめんなさい!」
☆☆
「あはははは楽しかった! あ、そうだ魔銃の作り方教えて」
「てめぇ何をしてんだこらぁ!! 待ちやがれ!!」
リリス先生をワークスさんが追い回している。あたしとメロディエは並んで頭をさすっている。げんこつをそれぞれもらって座っておくように言われた、痛い。ジンジンする。メロディエは泣いてるし。
「私のせいじゃないだろぉ」
それ、あたしもそう思う。リリス先生は逃げ回っている。あの人本当なんなんだろう。頭がいいのはあれだけど、後先考えてるようで考えてないし。あ、窓から逃げていった。ワークスさんがはあはあ言ってる。それで振り返った。
「マオぉ! なんだあいつはぁ!」
「あ、あたしに聞かれても」
「てめぇが連れてきたんだろうが!」
あたしは連れてこられただけで連れてきてはいないよ!
でも、そんなことを目の前で両手を組んで見下ろしてくるワークスさんには言えない。工房の入り口を壊しちゃったし……。
「ご、ごめんなさい」
あたしが謝るとワークスさんはじっとこちらを見てから舌打ちしてそっぽを向いた。はあ、何でこんなことに。全部リリス先生が悪い。人のせいにするのは良くないけどさ……このケースは100パーセントリリス先生が悪い。ていうかどこに行ったのあの人。
ワークスさんはそっぽを向いたまま言った。
「ちっ。朝にお前らが来るって行ってたから職人仲間を連れてきて待ってたってのによ」
え、そうなんだ。ますます悪いことした気がする。
「ご、ごめん」
メロディエも謝っているけど。本来謝るべき人は……窓からこっちを見ている。
「リリス先生!」
あたしが立ち上がって指をさすとすっと逃げた。何あの人!!!!!! くう!!
「マオ、お前付き合う人間を考えた方がいいぞ」
ワークスさんが諭すように言うけどさ……あの人あたしの先生なんだよ!!
「そ、それよりもさ。ワークスさん。メロディエの笛を修理してくれる職人さんってどこにいるの?」
「あ、ああ。それはさっきまでそこに」
そちらをみると壊れたドアの下から白い足が見えている。一瞬時が止まった気がした。
「おい! 大丈夫か!」
「マオっ。私の笛をなおしてくれるやつがとんでもないことになってないか!!?」
「あたしたちの壊したドアの下敷きになっている???!」
あたしたちは慌ててドアをどける。
そこには美少女が倒れていた。
桃色の髪をツインテールにした少女。空色のマントに赤いリボンを付けた彼女は……白目向いて……舌を出して気絶している。最悪の初対面だよ。
たぶん整った顔立ちなのにとんでもない表情をしている。ワークスさんは彼女を抱え起こした。
「おい! 起きろ!! 死ぬな!!」
ぱちーんぱちーんってほっぺたをびんたする。そのたびに「げふ」「ぐふっ」って言っている気がする。かわいそう。
「わ、ワークスさん、女の子の顔をたたいたらだめだよ」
「そんなこと言ってもこいつ死にかけているぞ」
「あ、あたしが治療するから……!」
倒れている少女に治癒魔法をかける。魔力はメロディエに借りた。
しばらくしてその少女は目を覚ました。青い瞳でかわいらしい表情であたしたちを見上げてくる。ほわっとした感じの印象の少女。その顔を見るとさっきまでの悲惨な顔がフラッシュバックしてあたしは目を背けてしまった。女の子があんな顔をしているのは……うう。
「わたしは……何を。なにかとんでもないことになっていた気がするのだけど」
そうだね。
そこにぬっとリリス先生がやってきた。
「なんだ。アルマじゃない。よっ」
「あ、おはようございます。リリス……リリス? ひえええ!! 悪魔ぁ!!」
突然現れたリリス先生にアルマと言われた少女は四つ這いで逃げようとする。
「わ、私は貴方とは仕事しませんンん、とんでもないことになるのは目に見えてますぅ」
「あはは、ひどい言い草」
リリス先生がアルマを捕まえる。その後ろからワークスさんが近寄ってリリス先生の頭にげんこつをお見舞いしようとした。
「おっと」
リリス先生がよけた。
「ぐえっ」
アルマにヒットした。
「す、すまん。てめぇ避けるんじゃねぇ!」
「どぼじて、わだじが」
アルマは頭を抱えている。
も、もう一回治癒魔法かけてあげるから……い、いたいのいたいのとんでけ!!




