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マオ、戦う①

 あたしの前で両手を組んでソフィアはニコニコしている。ただその目の奥は笑っていない。明らかにあたしに対して敵意を持っている。あたしが「知の勇者の子孫」かどうか聞いたことにはソフィアは答えなかった。


「ま、いいや。あたしは急ぐからさ」


 あたしはぱんぱんをお尻をはたきながら立ち上がった。関わったらダメな気がするし、今はミラたちを探すことの方が重要だった。

 

「あら、急ぐとは? ミラスティアさんを探しに行くのですか……? 剣の勇者の子孫の傍にいればなんらかのおこぼれをもらえると思ってのことでしょうけど」


 んん。


 こいつすごい喧嘩売ってくるなぁ。なんで挑発してくるかは知らないけど、あたしはミラからなんかもらおうとか思ったことないし。


「うっさいなぁ。あたしはミラに何かしてもらおうととかぜんっぜん思ってないし。そもそもあんたみたいに人に喧嘩売ってくるのはわけわかんないよ」

「………ミラ?」

「そう、ミラ」

「なれなれしい」


 はっと侮蔑を込めたような笑いをソフィアはした。なんでここまであたしに突っかかってくるのかは知らないけど、もうめんどくさい。とにかくこの場から離れよう。そう思って踵を返したとき、あたしの後ろからソフィアが声をかけた。


「あなたの貴方の冒険者のカードはここにありますよ」

「!?」


 あれ、あたしのポケットに入れてた冒険者のカードがない。さっきので落としたんだ。


 あたしが振り返ると、あたしの冒険者のカードをソフィアは指でつまんで持っている。


「FFランクの冒険者さん。落ちこぼれ以下の分際でよくそんな口がきけましたね」


 ニコニコしながらギルド中に響き渡るように言った。周りの冒険者たちもその声に「FFランク?」などといい、ざわざわした空気がだんだんと嘲笑に変わっていった。ギルドをあたしを嘲笑う声が満ちていく。


 そんな中であたしはソフィアだけを見てた。

 

「とりあえず、返せ。ドロボー」


 あたしはソフィアを睨みつけながら言う。


「あら、あなたが勝手に転んだ時に落としたのわたくしが拾って差し上げたんですのよ。お礼を言って当然じゃない?」


 あたしとソフィアは睨みあいながら対峙する。


「そ、ありがと、ほらお礼言ったじゃん。早く返せ」

「そんな心のこもっていない。それにこれは貴方にはないほうが良いと思いますわ。だって、見たところなんの魔力も才能もなさそうなのですから。まったくこんな馬の骨を生んだのはどこの賤民かしら……」


 …………あたしは怒った。


「ふざけんな! 取り消せ!」


 ギルドにあたしの声が響く。お母さんを馬鹿にしたことは絶対許さない!


 ソフィアはにやぁっと笑って、さらに馬鹿にしたように言う。


「あら、怒りました? でも仕方がありませんわ……FFランクなんてそこら辺のゴミ拾いの依頼くらいしか受けられないんですもの」


 ガオが確かあたしにいった。Fランクの依頼しかあたしには受けられないらしい。それは命の危険がない代わりに雑用みたいなものだ。ただ、そんなことはどうでもいい。


「だからどうした。あたしはFFランクだ! そんなこと、別にどうだっていい。そんなことよりもさっき言ったことを取り消せ!」

「……どうしても取り消せと申されるのですか?」

「そうだ。お父さんとお母さんを馬鹿にしたことを取り消せ!」

「じゃあ、こうしましょう。わたくしの出す課題を出来たらわたくしは貴方の冒険者のカードを返して、発言を撤回しますわ。ただ……もしそれができなければこのカードは廃棄してもいいですわね」

「課題?」

「そう、簡単なことですわ。わたくしの用意した冒険者を全員倒してくれたいいんですの」


 ソフィアはあたしに背を向けてギルドに置いてある机に向かった。それからそこにドンと何かを置いた。それは赤い宝石。ギルドの明かりの火に煌ている


「皆様、今からそこのFFランクの冒険者を相手に決闘をしていただきたく思います。もしもあれを叩きのめすことできたらこれを差し上げますわ」


 は? 


 ソフィアの周りに冒険者たちが集まっていく。屈強な男たちがソフィアに何か言い含められている。


「そう、あの小娘を叩きのめすだけですわ」


「FFランクなんて、逆に可哀そうじゃありません? モンスターに殺される前に引退させてあげるのは善行とはおもいません?」


 ソフィアは見た目がいい、それに口がうまい。集まった男たちは彼女を中心に盛り上がっている。ギルドの人間が止めに行ったみたいだけど、周りから推し止められてどうしようもなくなってる。


 その中から一人、よく日に焼けた肌をした男が出てきた。大柄で頭は剃っている色黒の男。大きな剣を抜いて、あたしにいった。


「おい、クソガキ。そういうことだ。さっさとあきらめて降参したら痛い目見なくてすむぞ」


 男は笑った。周りも合わせて笑っている。ソフィアは勝ち誇ったような顔をしていた。


「…………」


 あーそうかい! 


 そういう風にやってくるのね。あたしは魔銃をケースから出す。肩に担いだ。


 このマオ様を簡単に倒せると思っているんだ。ふむふむ……そーかそーか、じゃあさ……全員ぶちのめしてやる!


「いい歳こいて女の子いじめようってダサいやつが。あたしに勝てるわけないだろ!」


 魔銃に弾を装填してレバーを引く。ガシャンと音がした。


「なんだぁ。その妙ちくりんな武器は。安心しろよ。刃引きの加護くらいはしてやるよ」


 色黒の男は自分の剣に手を添えて、呪文を言う。それで剣の刃を光が包んだ。


「行くぞ、おら」


 突進してくる。早い。男の体が一瞬で大きくなったように思えた。

 

 剣が空から落ちてくる。そう思わせるような剣圧。あたしは転がってよけた。周りには嘲笑う声がする。


 あたしは上着のボタンを外す。

 今のでわかったのはあたしよりもこの男はずっと強い。でも、クリスよりは弱い。


「さっきの大口はどうしたんだぁ!」


 剣が横なぎに来る。あたしは魔銃で防ぐ。衝撃が吸収しきれない、後ろに転げたけど、すぐにおきあがる。ぺっ、口に砂が入った。男は剣を担いであたしにのっしのっしと余裕たっぷりに歩いてくる。


 刃引きの加護、剣を魔力で包むことで逆に攻撃力を低下させる訓練ためのの魔術。ガオとミラが戦ったときにも使ったのを見た。今、あたしが魔銃で防げたのはそれがあったから、なかったらもうあたしごと切り殺されていただろう。


「そろそろ降参したらどうだ? 顔はいいんだから、別の仕事をしょうかいしてやるぜ」


 だーれが降参何てするか。べっと舌を出す。


 男がはあと息を吐いて、一足に飛び込んで剣を振り下ろしてくる。全力で踏み込んだ一撃にあたしはかろうじて魔銃で防ぐ。転げながら、あたしは上着に魔力を浸透させる。


 この服は魔力を通せば防御力をあげることができる、それはクリスに飛びついて地面に転がったときにわかった。でも上着に魔力を浸透させるのはそのためじゃない。


「おいはーげ!」


 あたしは挑発する。男はあたしを睨みながら近づいてくる。


「生意気な小娘が、そろそろおねんねしな!!」


 あたしは上着を脱ぐ。リボンがゆれて下の白いシャツになる。


 あたしは突進した。上着の袖を持って男の顔に目掛けて思いっきり振る。魔力を浸透させた黒いそれが男の顔に巻き付いた。


「うおっ何だこりゃ」


 あたしは魔銃の銃口を男の顔に向けて、引き金を引く。どぉんと音がして、男の顔に弾丸が直撃する。でも、あたしの制服は破けない。衝撃だけが男に通った。ぐらぐらと男の体が揺れて、倒れた。


 上着を取って羽織る。少し焦げたようなにおいがする。


 魔力で防御力をあげた上着の上からこうすればこいつ死なないだろうと思ったけどやっぱり大丈夫みたい。気絶しているだけ。冒険者って頑丈でよかった。


「………次はだれ?」


 あたしは銃を担いで言う。ああ、一発撃つだけでも疲れるのにやばいかもしれない。


 でも負けるわけにはいかない。あたしの視線の先には冷たい目をしたソフィアがいた。




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