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抱きしめること


 ニーナと一緒にお菓子を買ってきた。


 ワッフルって丸い形をした焼き菓子。パンみたいな形をしているけど焼くときの型なのかでこぼこな形をしている。はちみつを使っているってお店の人に聞いた。


 いいにおいがするから持ってくるまでにつまみぐいしそうになったけどあたしは耐えた。今日一番頑張ったかもしれない。


「おまたせ」


 あたしはラナ達が待ってるところまで走って言った。あたしはつかつかとモニカにワッフルを手渡す。


「はい! 甘いもの」

「あ、ありがとうございます」


 モニカは少し戸惑いながらあたしから受け取る。ミラとラナにも渡す。二人はお礼を言ってくれる。


 ふーやっとあたしも食べられる。ニーナも自分の分を……あ、もう食べているし! まあいいけどさ。


 みんなで芝生に座ってお菓子を食べる。


 ……ワッフルをかむとほんのりはちみつの甘い味が広がる。……少しもちっとした生地を嚙むとあたしはおいしくてうれしくなる。おいしいもの食べる時ってうれしくならないかな。もぐもぐ。


 そうしているとモニカがじっとあたしを見ているとことに気が付いた。なんか少し笑っている。というか、手元のお菓子はまだ食べてない。


「何? どうかした?」

「あ、いえ。なんだか見ているだけでマオ様は面白いなって……へ、変な意味じゃないですよ」

「……ん、よく意味が分からないんだけど」

「あんまりおいしそうに食べておられるので……」


 あたしはワッフルを食べ終わって指をなめる。そうするとラナに怒られた。


「ほら、マオ。ハンカチ」

「ありがと、ラナ」


 あたしはラナからハンカチをもらって手をふく。あとで洗おう。……なんかミラもあたしを見ている。すでに食べ終わっているみたいだ。


「ミラ、おいしかったでしょ?」

「うん」

「……?」


 ミラはなんか少しくらい気がする。なんだろう、なんかあったのかな。あたしはみんなに聞いた。


「なんか話をしていたの?」


 ラナが答えてくれる。彼女はワッフルをかじっている。


「ニーナとマオが来るまでの間にさっき私が言ってた魔王の性格の話をしていたのよ」

「へえ。魔王の性格……」


 なんだあたしの話か。


 ミラを見ると少しだけ目をそらしている。まあ、いいようには思われてない話があったのかな? 


「魔王の性格か」


 ニーナが言う。


「そういえば前に……マオと魔族と人間の戦争のことで口論したことがあったな」


 口論……? ああ、そういえば王都に来る前の港町でしたかも。あたしをモニカが無言で見てくる。ニーナが続けた。


「魔族との戦争では奇襲を魔族がしたことで戦争が始まったと思っているが……マオは別のことを言ってたな。……その時私は……ああ、いややめておこう」


 ニーナはそこで話をやめた。あたしも特に深くは言わない。過去の伝承なんて正確に伝わっているわけじゃない。だって同時代を生きたあたしでもほとんどのこと知らない。戦争を初めた魔族も人間も戦争の終盤にはそもそも『いなくなって』いた。


「マオ様は魔王様はどんな人だったと思われますか?」


 モニカが聞いてきたからあたしは彼女を見た。どんな人って言われてもなぁ。自分のことを言われると……。


「そ、そんな話はいいと思うよ」


 答えようとするとミラが遮るように言った。モニカが振り返る。すこしむっとしている。


「なんとなくお聞きしてみたいなって思いまして。……マオ様は前に私に魔王様について聞かれたことがるんです」

「マオが……? なんて……?」


 ミラがあたしを見てくる。確かに聞いたことがある。モニカがミラに答える。


「人間との戦争に負けた魔王に何か言うならなんと伝えるか……と」

「……! ……それは」

「私はその時に魔王様に言うとすれば……『今の魔族はあなたのせいで大変』と答えたんですが……」

「……そう……マオに言ったの?」

「え? そうですね。魔族の中ではあまり言えませんがそう思っていましたから……同族には言えない……少し軽率な答えかもしれませんが……あの時のマオ様の質問の真意はわかりませんでしたが……逆にマオ様はどう考えておられるのかなと」

「…………そ……っか」


 ミラがあたしを見てくる。……大丈夫だって。モニカが言っていることは何も間違っていない。その通りだと思う。あたしはどう答えるか少し悩んだ。その間にラナも会話に参加した。


「なんか凱旋門のところで私が魔王の性格なんて言ったけど、意外とあんたら食いつくのね。……まー、そうはいっても魔王ってんだから仮に実は陽気な性格をしていたって言われても……大勢の人を殺しているわけだからあの世で神様に裁かれているのかもね」

「ラナ!」


 ミラが立ち上がった。ラナが驚いている。いや、みんな驚いた。ミラは悲しそうな顔をしている。


「な、なに?」

「…………この話題はやめよう」

「い、いやならやめるけど」


 …………。それから少し不自然な形でラナもみんなも話題を変えた。ワッフルの味の話とか、公園の話だ。その間にあたしはぼんやりと考えている。


「でも、みんなの言う通りだとおもうよ」

 

 あたしの言葉はかなり後になったからみんな何の話か一瞬わからなかったみたいだ。……それでもさっきあたしはモニカに質問をされたから答えておこうと思った。


「あたしは魔王がどんなやつかって言われたら……」


 あたしは空を見上げながら言う。


「きっとただの迷惑な奴だったんじゃないかな」


 今につながる過去すべてにおいて『魔王』は役に立たなかった。


「人間と戦って、魔族を守るつもりでも結局負けちゃったし。モニカ達の今の魔族が大変なのは全部『魔王』がちゃんとしてなかったからなんだろうと思う」


 がむしゃらにやって、ぐちゃぐちゃにして。抜き差しならない泥沼に突き進んだ。どうすればいいのかわからない間抜けがその場その場で戦って……いろんな人を巻きこんだ。抱えきれないくせに、抱えようとして全部零れ落ちた。


 助けを求めてきた人も、あたしに縋った人も全部巻き込んで破滅した。


「そう考えれば魔王なんて最初からいない方がよかったのかもしれないね。迷惑ばかりかけて、とんでもないやつだよ」


 ミラが立ち上がって、


「ラナの言う通り、やったことの報いを受けることになるんじゃないかなって、あたしもそう思う、いつかさ。……いつか。……この世界に生きていた人間も魔族も全部巻き込んでだことはずっと、ずっと許されることはないと思う。……この世すべてに災いをもたらしたんだからまるで災害だね。いや……災害というか『化物』かな――」


 急にミラがあたしに抱き着いてきた。ぎゅうって強い力で抱きしめて……あたしは目を見開いて、困惑した。あたし以外のみんなも驚ている。でも、あたしはミラが抱きしめてくれるのがなんだか暖かいって感じた。


「そんな言い方は悲しいよ」


 耳元で小さく……あたしにだけ聞こえるように言ってくれる。それからミラはあたしから手を離した。でも彼女の目はあたしを見ていた、悲しそうで……そして優しい表情だった。


 モニカもラナもニーナも、あたしたちのことを見てわからないって顔をしている。ごめん。そうだよね、わからないのはそうだよね……。


 それでもあたしはミラが止めてくれたように感じたことがうれしかった。


☆☆


 夕方になってあたしたちは家路についた。


 休みってことでいろんなところに行ったから楽しかった。ラナとミラと今日は夜ご飯を食べてお風呂に入って……また食事の話をしていると自分で思って少し落ち込んだ。


「今日は楽しかったよ」


 あたしはそう素直に言葉にした。家に帰ろうとしてモニカがそばに来て言った。


「あの……マオ様。今日は泊ってもいいでしょうか?」

「え? ラナがいいならいいと思うよ。でも、体大丈夫かな。家に帰らなくて大丈夫?」

「ええ、それに今日の夜は」

「夜?」


 そこにミラが来た。


「マオ……きっと幽霊が出るってことだよ」

「!!」


 ミラの言葉にモニカが振り返った。


「そ、そんなんじゃありません」

「みんなでいたら怖くないから」

「ミラさん!!」


 モニカの口を押えようとする。あたしはそれを見て笑った。


 だからニーナは明日の朝に特訓に来るってことで帰っていく。ラナとミラとモニカで家路につく。夕日が綺麗だった。王都って夕日がよく見える気がする。気のせいかもしれないけど。


 あれ?


 家の前に誰か倒れている。


 ライトグリーンの髪にポニーテール。それに半ズボン……あれ、女の子じゃないかな。


「メロディエ!?」


 あたしは走り出した。家の前に行き倒れている魔族を抱き起した。近寄ってみるとやっぱりメロディエだった。彼女を抱え起こして声をかける。薬草探しの依頼の時に出会った音楽好きの魔族。メロディエが倒れていることにあたしは混乱した。


「ど、どうしたの。何でここにいるの」

「……ま、まお?」

「そうだよ、あたしだよ」

「へった」

「なに!?」

「はらへった……」


 メロディエはあたしにしがみついた。


「なんか食べさせてくれ……」


 ぎゅうううーーぐるぐるっておなかが鳴る音がした。


 


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