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遊びに行こう!①


 みんなで遊びにいくなんて初めてかもしれない。お出かけだから何か服を別にするべきかと思ったけど結局フェリックスの制服で行くことにした。


 思い返したら王都に来てからすごく忙しい毎日だった。来てからすぐにFランクの依頼を100件することになったし、学園に入学してからもごたごたがずっとあったからね。いや、よく考えたらほんとこの短い間にいろんなことがあったなぁ。しみじみ。


 そしてやってきたのは王都の西側。


 王城や貴族街のある東側から反対側のここは商人や旅人が訪れる場所。元々王都に住んでいる人は中央や南側に住んでいる。要するに外から来た人たちが多くいる場所ってことだね。商人がいるっていっても市場は中央側だから宿屋とか料理屋さんが多い。


 立ち並ぶお店。大勢の人。何かを焼く音とか、誰かの笑う声の響く道をあたしたちは歩いている。


 いいにおいがする。


 あたしはふらふらと歩いていきそうになると両手をそれぞれ捕まえられた。


「どこに行くんですか。マオ様」

「こんなところで迷子になるなよ」


 あたしの右腕をモニカ、左腕をニーナがつかんだ。だって……立ち並んだお店からそれぞれ別のなんかおいしそうなにおいがするんだよ。あたしはそう目で訴えるとモニカが困ったような顔をしている。フードを被っていたモニカは赤い目でラナを見る。


「ラナさん。食事にしますか?」


 その声に振り向いたラナ。横にはミラもいる。


「いつもおなか空かしているいるわよね、マオは」


 はーやれやれって聞こえてきそうな感じで首を振るラナ。な、なんだよ。いいじゃん! ミラも笑っているし。


「い、いや、そ、そこまでおなかへってないよ」


 あたしは両手を組んでふんって言ってみるとラナがぽんぽんと肩を叩いてきた。


「わかったわかった。食べ歩きでもしましょうか」

「ぜ、全然わかってないよね。あたしはさ……」

「マオ。あれ見て」

「何?」


 それは道に面したお店。おじさんが元気よく客寄せをしながら手元のプレートでじゅーって何かを焼いている。串に刺さったお肉。鳥……かな。あ、タレをつけて焼き直している。いいにおいがする。


「マオ。あれ食べたい?」

「…………」


 ラナが意地悪く聞いてくる。あたしはさ、さすがにここで折れるわけにはいかない。ここで食べたいって言ったら……。ごくりとあたしは唾をのみこんで、ふ、ふんって言ってやる。


「じゃあいいわ。さっさと別のところにいきましょう」

「そ、そうだね」

「……何やってんの?」

「何が?」


 ラナが聞いてくる意味が分からない。わからないよ。全然。


「いや、私の服を引っ張ってない? 何この手は?」


 あたしの手が勝手にしているだけだし……! ……ご、ごめんなさい。買おう!


☆☆


 市場を食べ歩く。手に串焼きを持ったままもぐもぐしながら。


 それでみんなと話をしながら歩く。みんなで横に広がって歩くと邪魔だから……。話をするって言ってもいろんなお店を指さして何かを言ったり、冗談を言ったりするだけ。


「食べ歩き……」


 ミラの横に来た時、まだミラは手元の串焼きがそのまま残っている。食べないの? って聞いてみる。


「ううん。でも食べたまま歩くなんてあまりしないから」

「そっか」


 そりゃあそうだよね。歩きながら食べるのはミラみたいな生まれならほとんどないかな。あたしは少しいたずらっぽく言ってあげる。


「じゃあもらってあげようか?」

「……ダメ!」


 はむってミラがお肉にかじりつく。あたしは少し笑ってしまう。ミラはほっぺたをもぐもぐと動かしている。あたしはその横を歩きながら見ているとなんか面白い。


「マオ様」


 モニカの声にはっとした。振り向く。


「あちらに何か人だかりが」

「ほんとだ、なんだろ」


 目的なんてない。行先はてきとう。気になることがあったらそちらにみんなで行ってみる。


 食べ物屋さんだけじゃない。


 髪飾りとか木彫りの熊とか、いろんなものが売ってある。王都の中心にある市場に比べたらなんかこう、物珍しいものとかもいっぱいあった。


 その途中でまた別のものを食べる。カエル型の魔物の串焼きとかあったけど流石に食べられなかった。ただみんなで見て騒いだだけ。ちょっとお店の人に悪かった気がする……。


 それと王都の西側には歴史的な建造物も多い。……らしい。らしいっていうのはラナとかミラの言葉をそのまま聞いているから。


 まずは大きな円形の劇場みたいなところがあった。大きな柱が何本もある場所で円形のそれは昔の『闘技場』だったらしい。今ではいろんな催しをしたりしている。あとたまにだけど、昔みたいにトーナメントをしてるって。


 中に入ったら中央に大きな広場があってそれを囲むようにぐるりと観客席がある。あたしたちのいる向こう側の観客席も遠く見えるくらいに広い。


「闘技場か……技を競い合ったりしていたのか」


 ニーナが何かを思いながら見ている。


「そういえばニーナの家のガルガンティアはそういうことしたりするの?」

「……年に一度、新年の前に磨いた技を競い合う、まあ、私は毎年簡単に負けていたが」

「なら今年もあるんじゃないの?」

「そうだな……。まあ、うん。故郷に帰ればな……」


 ニーナはふうと息を吐いた。あたしがじっと見ているとニーナがはっとした顔をした。


「まあ、次はそう簡単には負けたりしない」

「うん!」

「……マオ」

「ん?」

「……あ」

「あ?」

「いや、やっぱりいい」


 ニーナはそれ以上は何も言わない。何が言いたかったのかはわからないけど、毎日の特訓にやる気がでてきた……。


 その次に行ったのは凱旋門。


 ……ここは魔王を討伐した勇者がくぐった昔の城門がそのまま残っている。複雑な気分ではあるけど、まあいいや。


 見上げるほど高いその門。門と言っても城壁とは切り離されてて聳え立つのは昔ながらの……というかあたしの時代によく合った形の城門だけが残っている。


 ここにも大勢の観光客がいる。門の下に来ると見上げるほどに天井が高い。門はできるだけ大きく作って魔法陣を描く。侵入してきた敵を焼くために炎を描いたり。強度を上げるために大地との連動を高める魔法陣を描いたりする。魔法陣は巨大な方が発動にかかる魔力は必要だけど、威力は上がる。


 いけないなぁ。そういうのは今はどうでもいいし。


 ラナがさっき市場で安く買った観光名所を書いてあるって紙をめくっている。 


「ここはミラ達のご先祖様が魔王を討伐した後に大勢の人々に祝福されて通った……あ」


 ラナがモニカを見ている。魔族であるモニカからすれば複雑な話だと思ったんだと思う。


「あの……気にされなくていいですよ。ラナさん」

「……うーん。まあ王都ってその手の勇者伝説みたいな名所ばっかりだからね……。力の勇者の腰かけた岩とかあるし。本当かどうかはしらないけど」


 そんなのあるんだ。じゃあ、あたしの腰かけた椅子とかもしかしたら残ってたりするのかな。


「マオ」


 いつの間にかミラが横にいた。うーん、ミラもあたしを気にしている。


「全然気にしてないよ。大丈夫」

「そっか……」


 短く答えてわかってくれる。


 ラナが頭を掻きながら天井を見上げる。


「そういえばふと思うんだけどね」


 赤い髪を指でつまみながら彼女は振り向いた。


「歴史上の人物ってどんな性格してたのかしらね。どうでもいいことかもしれないけど。というか昔の英雄に言うのは失礼かもしれないけど……ミラやニーナのご先祖様だって人間だったわけでしょ。物語じゃすごい善人みたいだけど本当はどうだったのかな」


 ラナは独り言みたいに言った後に「あ、別にミラ達のご先祖様になにかいいたいってわけじゃないのよ」って付け加えてから、一度だけあたりを見回す。それから一歩あたしたちに近づいてきてほんのり小さな声で言ってた。


「剣や力の勇者に倒されたっていう『魔王』だって魔族の一人だったわけでしょ。なんていうかモニカやフェリシアと関わって思ったんだけど、『彼』もなんか今言われているような人物だったのかなって。実は意外なところもあったりして、って。ああ……どうでもいいこと言った……。……何よマオ」


 ラナ……。いつの間にかあたしはラナをじっと見ていた。


「何でもないよ」

「な、なんで少し笑ってんのよ」

「別に」


 あと、『彼』ではないよ。


「て、ていうか何よあんたら。ミラもマオも何こっち見てんのよ。さ、さっき言った通り『剣の勇者』の伝説に何か言いたいわけじゃないわよ」


 あたしの横でミラも彼女をじっと見ている。あたしの親友を見れば優しく笑っている。ミラは一度だけあたしを見る。


「……ラナの言う通り意外な性格をしているかもしれませんね」

「あんたが言うの?」


 ラナが意外そうな顔をしている。『剣の勇者』の子孫のミラが言うことに少し困惑しているみたいだった。それをおかしそうにミラは笑う。


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