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旅の疲れはお風呂で流せ

「ただいまっ!」


 どーんとドアを開けてあたしは元気よく言った。家の中には中にはポカーンとした顔をしているラナがいた。あたしの後ろから顔を出してミラが「た、ただいま帰りました」って言っている。


「あー疲れた」


 あたしは上着を脱いでバッグを下ろす。


「いきなり帰って来たわね」


 数日しか経ってないのにラナと会うのが久しぶりな気がする。あたしは椅子に座ってふーって息を吐く。


「大変だった。……でもラナ」

「なによ」


 ふふふふ。あたしは懐に手を入れて……あれ、ない。あ、そっか上着の中か。がさごそと脱いだ上着をまさぐってパンパンになった袋を取り出す。ギルドの紋章が入ったそれをラナに渡す。


「あげる!」

「わっ、なにこれ。けっこうなお金」

「今回アリーさんについていったらいろいろとあって報酬が増えたって」

「いろいろって何よ」

「災害級の魔物を一体ぴーちゃんが倒したかな」


 もぐもぐしたかもしれないのは黙っておこう。


「いろいろありすぎでしょ……何よそれ。あんたら薬草を探しに行ったんじゃないの? ま、まあそれでも、なんでいきなり私に渡すのよ」

「家賃とあと食費とか生活費とか……」

「こんなに要らないわよ」

「まあまあ、これからの分もそれで出してくれていいからさ」

「そう。まあ、じゃあありがと」


 ラナはあたしに向けて少し微笑んだ。それから言った。


「それであんたは報酬の残りは何に使うの?」

「残りって?」

「……」


 ラナは一度手元の袋を見て、もう一度あたしを見てにっこり笑った。


「マオさん」


 ひっ。敬語になるってことはなんかある! 怖い。


「な、なに?」

「お金ができたら全部渡したり使ったりする癖をやめろっ!」

「ひ、ひえっ」

「そもそもあんたは仕送りとか学費もあるってわかってんの? ちゃんと分けて使えっ。こら、にげんなっ」


 あたしとラナは狭い部屋の中で小さな追いかけっこをして、あたしが捕まってはがいじめにされる。


「くぐるしい」

「とにかくこのお金を何に使うかは後でもう一度考えるようにしないさい、手伝ってあげるから」

「わ、わがった」


 けほけほ。確かにラナの言う通りだ。もう少しちゃんと考えないといけないってことだね。あ、そうだ。


「ミラも荷物を置いて」

「うん」


 ミラも上着を脱いで荷物を下ろした。ラナはそれを見て行ってくれる。


「あんたら、お風呂入る?」


 ミラがはっとしてうれしそうに言う。


「はい!」

「あたしも」

「はいはい。じゃあ、ちょっと待ってて。旅から帰ったらまずそれよね」


 ラナは肩をすくめてお風呂場にいく。あたしとミラはやったって笑った。


☆☆


「マオさんこのドラゴンを私に預けませんか?」


 王都に向かう空の上でそう言ってくれたのはアリーさんだった。ドラゴンはもちろんピーちゃんのことだ。あたしはアリーさんを見た。黒髪を風になびかせて竜の上にたたずむ姿はなんとなく似合う。


「流石にこのドラゴン……こほん、ぴ、ぴーちゃんを放っておくわけにはいかないでしょう。このアリーのドラゴンということにすれば暴れない限りは大丈夫でしょう。ギルドや騎士団にも話を通しておきましょう、いかがですか?」


 そ、それはありがたいけど。


「すごくうれしいけどアリーさんなんでそんな風にしてくれるの?」


 アリーさんは困ったよう顔をして首をかしげる。それからくすりとした。


「そもそもこの小さな旅の最初に私はあなたに約束したはずですよ。どんなことでも相談に乗るとね。その約束を履行したいだけ、といえば聞こえはいいですがもしも……ぴーちゃんが私を乗せて移動してくれるなら多くの人を助けることができるとそう思った……いえ打算したことも間違いありません」


 あたしは一度ミラを見た。彼女はうんと小さくうなずく。アリーさんなら信頼できそうな気がする。それからぴーちゃんに言う。


「ねえ、ぴーちゃんもアリーさんと一緒なら大丈夫?」


 ぴーちゃんはそれが聞こえたかわからないけど空の上で咆哮をあげた。あたしは両耳を手でふさぐ。嫌ではなさそうな気がした。


「アリーさん、ぴーちゃんをおねがいします」


 あたしはそういって頭を下げた。アリーさんは返してくれる。


「このアリーに任せておいてください。むろんあなたに必要なときはいつでも言ってください。そうですねノエルに言ってくれればギルドを通して私に伝わると思います」


 アリーさんはぴーちゃんの背中を撫でて「よろしくおねがいしますね」と言ってくれる。でもふと思いついたようにアリーさんは顎に手を入れて何かつぶやく。


「そういえばドラゴンって何を食べるのでしょうか……いや、そもそも、どれだけ食べるのでしょう。食費……はっ」


 アリーさんが頭を抱えている。でもすぐに立ち上がった。


「わ、私はSランク冒険者です。何一つ問題はありません。マオさん、ミラスティアさんギルドに依頼完了の報告に行きましょう。……あ、でもこのままぴーちゃんで王都に乗り入れたらまずいことに……ど、どうするべきか。ええい。着くまでに考えます」


 にぎやかな人だ。それでもすごく優しい人。


☆☆


 ばしゃーって頭からお湯をかぶる。ふるふる。


 はぁー気持ちいい。あたしは浴室で小さな椅子に座って体を洗う。お風呂って魔法が使えないとなかなか使えないからラナがいてくれてほんと良かった。村じゃ水浴びとかだったし、風呂って薪とかも使うから無駄にできないんだよね。


 ミラは湯舟に漬かっている。湯気が立ち込めている。あたしは立ち上がって桶にお湯を入れて体にかける。それから一緒にお風呂に入る。


「あああ」


 気持ちいい。歩くことが少ない旅だったけどそれでも戦闘もあったし疲れた。あったかいお湯が体を包んでくれる感覚がすごく気持ちいい。それはミラも同じみたいだった。銀髪をまとめて肩まで使っている。……あたしはミラを見る。少し首から下くらい。べーつにうらやましくないけどさ。


「マオ」

「なーに」


 すごいゆったりと話す。眠たくなりそうなほど心地いい。ミラはじっくりと時間を使ってあたしに話しかけた。


「……メロディエが王都に来るの楽しみだね」

「そうだねー。最初会った時はなんだって思ったけどさ。……あ、そういえばミラ歌がうまいじゃん。練習したの?」

「練習したというより子供のころからダンスとかと一緒に教養としてなんて言われて……」

「はー流石、お姫様みたい」

「お、おひめさま……そんなんじゃないよ。それならマオもさ、マオもそうだったんじゃないの?」

「あたし? あたしはそんなこと……ああ『前』ね。いやーそういうのはなかったね」


 メロディエ。フルートを持った奇妙な魔族。人も魔族もなく音楽を聞かせたいって変な奴だったけど、それでもあの考え方は好きだ。本当に同じ場所でみんなで歌って踊れたならいいことだと思う。


「あたしは思ったんだ。メロディエが王都に来るなら……あいつの野望ってのに負けてられないなって。うん、明日から課題も授業もお金のことも頑張るぞっ!」


 あたしはその場でたちあがってガッツポーズをした。


「……マオ」


 ばしゃってミラの顔にかかったみたいで、ミラは少し怒った顔をして手をお湯の表面で合わせる。するとそこからあたしに向けてお湯が飛んだ。うわっ。


「やったな!」

「先にやったのはマオ!」


 ばしゃばしゃと湯舟であたし達ははしゃぐ、単にお湯をかけあっているだけなんだけどさ。そんな感じで騒いでいるとガチャってお風呂場のドアが開いてラナが顔を出した。


「うるさい」

「はい」

「はい」


 なんでかあたしとミラは真面目に答えてしまった。



4部前半はもう少し続くんじゃ。

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