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歌と踊りと笛と


 魔族の少女が言っていることを最初わからなかった。それにもどかしさを覚えたのか逆に魔族の少女が叫んだ。びしっとあたしに指を突き付ける。


「おい、お前! 茶髪」

「あ、あたし?」

「そう背の小さなお前!」

「大して変わらないじゃん!」

「いーや、私の方が大きいね」


 しょうもない言い争いをしてしまい、はっとした。重要なことを聞いてないってことに気が付いた。あたしは指で彼女を指して聞いた。指さすのは良くないけど、先にそうしたのはこの子だ!


「そもそもあんた誰!」

「私? 私は……いや、人に名を尋ねる時は自分から名乗るのが筋!」


 め、めんどくさい! い、いいけどさ!


「あたしはマオ」

「ふーん。そっちの銀髪は?」

「……私はミラスティア・フォン・アイスバーグです」

「……アイスバーグ?」


 魔族の少女が顎に手を置いて考え込む。剣の勇者の子孫だってわかったのかもしれない。ミラは余計なことを言ったかもしれないって少し心配そうな顔をしている。魔族の一団と戦ったのが昨日の今日だし。


「……なるほど。なんだかひんやりしそうな名前だな」


 全身の力が抜けそうになった。ミラもくらっとしたみたい。


「と、とりあえずあたしたちは名乗ったじゃん。あんたの名前は何なのさ。」

「ふふふ、聞いて驚け。私の名前はメロディエ・パルシー! 驚いたか!」


 メロディエ……えっと……驚いたって言われても。誰?


「まあ、まだ無名なんだけどさ」


 あたしは膝から崩れ落ちそうになった。危ない。ある意味この子はほかの誰よりも危険かもしれない。思わず体の力を抜いてしまう。


 ライトグリーンの前髪をぱーんって左手ではじいてメロディエはあたしに言う。


「ええい、ともかく私はこんなところで死ぬわけにはいかない。大きな野望のために。茶髪……マオ! お前今から私と音楽で勝負だ」

「お、音楽って?」

「そりゃあ歌とかだよ、知っているでしょ」

「知っているけど……何を言っているかわからないんだけど」

「これ見えないの? 私はフルート(横笛) そしてお前は歌で勝負だ……! 私が勝ったら!」


 勝ったら?


「見逃してください。い、命だけは」


 …………み、見逃すも何もそもそも危害を加えようとか思ってない。まあ。薬草は欲しいんだけどさ。


「と、ともかく歌わないと始まらないだろっ! 早くしろ」

「え、えー、ミラ、た、たすけて」


 ミラは片手を口に当てて何か考えている。彼女はちらっとあたしを見てニコッと笑う。


「ファイト!」

「ふぁ、ふぁいとってそんなぁ」

「は、や、く!」


 なにこれぇ。あたしは仕方なく前に出る。歌って……歌? 何を歌えばいいのかわからない。今日一番頭を使って昔のことを思い出す。村でよく歌っていたのは弟のロダに子守歌とかを口ずさんだりしてた。


「ゆ、ゆーりーかごーゆれるー。かぜにゆーれるー。ねんねーや。いいこはおつきさまーといっしょにねんねしなー」


 …………


 ………


 うあああああああああ!!


 その場でうずくまってしまった。恥ずかしい、恥ずかしい! 何これ。最大の攻撃だよ! ミラを見ると顔を背けて肩を震わせている。く、くそぉ! 


「ふむ。なかなかだな」


 え? メロディエは両手を組んでうんうんと頷いている。いや歌ったあたしが言うのもなんだけどダメだったと思うんだけど。


「お前、声はいいな。しかしまだメロディに乗り切れてない。恥ずかしがるのはだめだ! 歌うときは大声で。笑ってくる相手をさらに笑ってやるくらいの覚悟だ」


 す、すごい背景に炎が見えそうなほど情熱を言葉に込めてあたしに詰め寄ってくる。で、でもほとんどむりやり歌わせたのはあんたじゃんかぁ。


「今度は私の番だ!」


 メロディエはそういうとフルートに唇をつけて演奏を始めた。


 それは優しい演奏だった。あたしの子守歌のメロディをまねているのだけはわかる。


 森の中に広がるようにメロディが広がっていく。


 メロディエは体を揺らしながらフルートを演奏した。


 澄んだ音がだんだんと軽快になっていって聞いているだけで明るくなるよう気分になる。それから少し静かになってゆったりと音を閉じていく。まるで眠りに落ちていく時の安らかな感覚になってしまう。

 

 そうして、メロディエが唇をフルートから離す。あたしは純粋に「すごい」って口に出していた。それを聞いて彼女はふふんって顎をあげた。


「ふ、マオには勝ったな。次はお前だアイスバーグ!」

「……家名で言われるのは初めてかも」


 え? あたし負けたの? そ、そりゃあ歌はダメだったけどさ。でもミラも頑張って。


「ほ、本当に歌うの?」


 そうだよ。あたしに歌わせたんだからミラも。ほら、ぐいぐい。


「背中を押さないでよ~」


 ミラだってファイトって言ってたじゃん。ミラはこほんと咳払いする。少し恥ずかしそうにあたしとメロディエを交互に見てから、両手を組んで息を吸う。


 透明な声だった。


 何の歌かはわからない。でも透き通った声で明るい日々について歌う。気が付くと聞き入っていた。


 それはメロディエも同じようではっとしたあと少し怒った顔をする。


「ま、負けてられるか」


 メロディエはフルートを吹く。ミラの歌とメロディに合わせて声とフルートの奏でる音が絡み合って心地よく森の中に広がっていく。……ん、なんかミラとメロディエがあたしを見ている。な、なんだよ。あたしは歌ったりしないよ。


 ミラが手を伸ばしてくる。な、なに。あたしはその手を握ると優しく引き寄せられる。


 森の中でフルートの音の中でミラと踊る。ミラはいたずらっぽく笑うし、ついていくのに精いっぱいというかなんかリードされている気がする。なんか前にラナとも同じようなことした気がする。


 どれくらいそうしていたかわからない。でも終わりはこうなった。


「何をしているんですか?」


 戻ってきたアリーさんの声に3人はぴたりと動きを止めた。なんか恥ずかしかった。



「それでなぜあなたは『メリーノア』を採取してたんですか?」


 アリーさんの質問にメロディエはなんか警戒するように両手を構えたまま答える。


「や、やんのか」

「やりませんよ。なんなんですかあなた」

「ふう、怖気づきやがって」


 アリーさんが剣に手をかけた。ストップストップ! メロディエも本当にビビッた顔をしてミラの後ろに隠れるくらいなら普通に話をして。


「い、いや、事情を話すと長くなるんだけど。人里に水を求めていったら頭から水をぶっかけられた時のことなんだけど」


 最初から話が重い……。メロディエは思い出しながら話している。


「なんか冒険者っぽいやつらが話していたんだよね。紫の花が高く売れるからって。それで探しに来たってわけ」


 事情がすごい簡潔でわかりやすい。全然長くなかった。アリーさんはこめかみに手を当てて目を閉じている。


「ま、まあいいでしょう。しかしメロディエさんといいましたね。薬草というものは根こそぎとると後から再生することができません。そのことは覚えておいてください」

「あ、そっか。ごめん」


 メロディエは普通に謝った。それから近くの置いていた『メリーノア』の入った籠を背負ってどこかに行こうとする。


「まあ、そういうことだから次から気を付けるよ」

「あ、待ってください」


 アリーさんが引き留める。


「なんだ? 私は忙しいんだ。なんといってもこれから人間の王都までいかないといけないからな」

「王都に?」

「そうだ」


 きらっと目を光らせてメロディエは振り返った。ばさっと黒の上着が音を立てる。


「私は王都で人間たちの前で演奏をするんだからな!」


 ……あたしはミラと目を見合わせた。


「なんで?」


 あたしが普通に聞いた。ミラとアリーさんもそれが聞きたかったとなんとなくわかったから。メロディエは両手を組んでふふんと鼻を鳴らす。


「大いなる我が野望のためだ!」


 なぜかメロディエは右手の人差し指を天に向けたポーズをとる。


「いいか君たち、私は大変なことに気が付いた。音楽の前には人間も魔族もないということだ」


 え?


「最近人間と魔族があちこちでぶつかったり、傷つけあったりしているのは要するにだ! 音楽が心に足らないと私はわかったんだ! いいか、人間であろうと魔族だろうといい曲の前には無力、つまりこのメロディエ様が世界最強ということだ!」


 メロディエはその場でくるっと回る。何故かはわからない。


「まあ~要するに喧嘩なんてやめてみんなで音楽やろうぜってことで、手始めに王都の人間どもを私の笛で魅了してやろうってことだ。どうだ、わかったか! はっはっは」


 高笑いするメロディエのおなかがぐうって鳴った。彼女は顔を赤くした。


「ま、まあ、軍資金がなくてこんなところにいるが。この花を売ってとりあえず旅費にするつもりだったんだけど、もし欲しければお金か食べ物をください」


 急に敬語になった彼女にあたしはくすりとした。背中のバックの中から保存食用のパンを出してあげる。ミラは水筒を手に持った。とりあえず木陰……どうせ食事ならさっきの花畑に行こう。


 移動して少し遅めのおひるごはん。調理とかはしてない。ただの保存食を4人で食べる。あたしはパンをおいしそうに食べるメロディエと話す。


「なんで王都に行こうと思ったの?」

「ん? さっき言っただろ」

「聞いたよ。その理由……なんていうかな。どうしてそう思ったのかなって」


 メロディエはもぐもぐとほっぺたを動かしながら考えている。


「そうだな。私の笛は親の形見なんだ」


 フルートを取り出す。年季の入った表面。それでも手入れを欠かしてないのはさっきの演奏で素人のあたしにも分かった。


「子供のころからこの笛を音を聞いて育って。故郷の魔族達の前でよく演奏する母上のことを見て育った。……演奏の間、みんながその曲に合わせて静かになったり、楽しそうにしたりしているのを見てた。母上は病気だったけど……これだけは残してくれた」


 メロディエはあたしを見た。紅い瞳がまっすぐにあたしを見ている。


「だからかな。いろいろと悲しいことも聞くけど、どうせなら明るい曲をみんなで聞いた方が楽しいと思ったから……人とか魔族とかいろんなことがあるかもしれないけど、同じ場所で同じように歌ったり、踊ったり、こうして曲を奏でたりするほうがいいなって。うーー。なんていうかな。言葉にならん。お前ムズカシイコトいうな。とにかく私は人だろうが魔族だろうが私の演奏を聞かせたいんだ!」


 彼女はミラの水筒の水をぐいぐいと飲む。でもそっか。あたしは何となくうれしくなった。


 ミラがぱんと手を叩いた。


「じゃあメロディエも私たちと王都に帰ればいいよ。ぴーちゃんに乗って」


 メロディエは振り向く。


「おお、お前たちも王都に行くのか。ていうかぴーちゃんってなんだ」


 そう思った時大きな影があたしたちを覆った。空を見れば黒竜が空から見下ろしている。ぴーちゃん。待ちくたびれたのかな。


「きゃ、きゃー」


 メロディエはそれだけ叫んで逃げていく。


「ちょ、ちょっと待って、これがぴーちゃんだから。大丈夫だよ」

「ドラゴンなんて怖い! 歩いていく!」

「メロディエ!」


 メロディエは大きな木の後ろに隠れながら見てくる。あたしは両手を組む。


「じゃあさ、王都に来るときはあたしを訪ねてきてよ」

「わ、わかった。あ、パンとかもう少し欲しい」


 その返答にあたしとミラは笑って持っている保存食と少しのお金を袋に入れて花畑に置いた。アリーさんも笑っている。彼女は『メリーノア』の花が袋に包まれて持っていた。


 それじゃあ帰ろうか。王都へ。これから忙しくなるし。メロディエの野望に負けてられないしね。

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