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出発!


 グオオオオオ!!


 おーよしよし。ぴーちゃんかわいいかわいい。すごい硬い。


 ミセリアマウンテンにやってきたら、大きな影があたしたちを覆った。それは空からやってきたぴーちゃん。あたしたちの前にどーんって感じでやってきた。


 突然のことに驚いたけどすぐにぴーちゃんはあたしに顔を寄せてきた。両手を広げても足りないくらいの大きな頭に抱き着いて声をかける。


 大きな体に大きな羽。纏った強力な魔力、そして鎧のような鱗。古来から恐れられてきた竜。


 あたしからしたら子供のころから知っているかわいいとかげ……って言ったらさすがにぴーちゃんも怒るかな。さすがにもう肩に乗せたりはできないというか、逆にあたしが乗れるくらいなんだけどさ。


 ぴーちゃんは頭を優しくあたしに擦り付けてくる。もしかしてケガしないようにすごく手加減してくれている? そんな感じがする。


「ぴーちゃん。ちょっと遠くに行きたいから連れて行ってほしいんだけどさ。あと、今日は頼れる人を連れてきたよ」


 あたしは振り返る。黒髪を風に揺らしながら泰然と立っているSランク冒険者のアリーさん!


「これがぴーちゃん! 相談したいってのはこの子のこと!」

「ほう、これはブラックドラゴンですね」


 すごい……全然動じてない。流石はSランク……。心なしかすごく落ちついている気がする。真剣な顔でぴーちゃんを見上げている。なんとなく目に光がない気がするけど……気のせいだよね。


「最近ミセリアマウンテンで起きちゃったみたいなんだけどさ、このままにしたら討伐依頼とかギルドの出されるといやだし……いい方法はないかなってアリーさんに相談できたらって思うんだけど。Sランク冒険者のアリーさんならいい方法を知ってたりしないかな」


 あたしがそういうとアリーさんはふっと笑った。


「……この程度のことお安い御用ですよ。この私を誰だと思っているのですが?」

「ほんと!? やった、ぴーちゃん」


 あたしが少しジャンプするとぴーちゃんも羽を動かす。流石に今のあたしにはドラゴンをどうこうするのはかなりきつい。かといってそのままにもできない。ラナも前にイオスのことで信頼できる大人を見つけて相談をするってべきって言ってたけどこういうことかな。


 くいっくいっ。


 あたしの袖をミラが引っ張る。銀髪の彼女の大きな瞳にあたしが映っている。


「なに? ミラ」

「マオちょっとこっちに来て。アリーさん! ミセリアマウンテンの水場でお水を補給してきますね」


 水? 何? どうしたのさ。あたしは困惑しながらミラに手を引かれる。


「ぴーちゃん。アリーさんと仲良くしてね」


 それだけを言ってミラと一緒に森の方に行く。しばらく走ってからミラが振り向いた。肩にかけるバッグと袋に入れた魔銃を担いでいるから走るの結構きつい。


「な、なに。ミラ。お水汲みに行くの?」

「いや……、マオ。今からこっそり戻るよ」

「え?」


 今度は来た道をゆっくりと戻る。ミラが途中で止まった。そこで身をかがめるように合図をされる。


「見てマオ」

「なにさ、……あー」


 うわぁ。アリーさん一人で頭を抱えている。しゃがみこんで両手で頭を抱えているのすごい悩んでいるのが伝わってくる。ぴーちゃんがなんか心配そうに見てるし……。


「マオ……Sランク冒険者っていろんな人がいるけど大体がその……………」


 ミラは一度口ごもった。


「ゆ、ユニークな人が多いから。ギルドや国もアリーさんを通して依頼をすることが多いみたい……。あの人は実力も経験もある人でSランク冒険者の中で信頼もずば抜けているけど断れない性格みたいだから……周りの人から振り回されるところも見たことがあるよ……」


 そういえば前もヴォルグとアリーさんは口論していた気がする。そっかぁ……ぴーちゃんのことを相談できると思ったけど……それじゃあ仕方ないね。あたしが自分で考えよう。


「あ、待って」


 ミラは魔法で水筒に水を入れて自分のバッグにしまう。確かに水を汲みにいくって言っておきながらそうじゃないと変だよね。それが終わるとあたしとミラはアリーさんところに戻る。


「戻りましたか」


 両腕を組んで自身にあふれた顔のアリーさんが振り返った。この人……大変なんだなぁ。


「なんですか? いきなり優しい目をして……」

「え、い、いや別に、何でもないよ。ね、ミラ」

「そ、そうだね」


 あたしはちゃんとアリーさんに言う。


「よ、よく考えたらぴーちゃんみたいにドラゴンのことをいきなり相談するのは良くなかったよね。あのさ、ごめんなさい」

「……」


 ミラがあっとという顔をしている。アリーさんが言った。というかミラを見ている。


「まさか二人でこのアリーがこのドラゴンをどうにもできないと話をしませんでしたか?」

「ま、まさか、ま、マオ、そんなこと話してないよね?」

「そうだよ、そ、そう。ぜんぜんそんなこと話してない」


 無駄に鋭い……! うわっにっこり引きつりながら笑っている。ふ、複雑そうな表情。


「言ったではないですか、このアリーがどんなことでも相談に乗ると。Sランク冒険者の肩書は伊達ではありません」


 無理しなくていいよ! で、でもそんなこと言ったらこじれそう! こ、ここはもうこのまま行こう!


「とにかく出発しよう! ぴーちゃん」


 あたしが両手を叩くとぴーちゃんはゆっくりと背中を向けてくれる。しっぽが当たらないようゆっくりと動いてくれるのえらい。おやつとかあげたいけどなんもないからよしよしした。


 その背中にあたしは駆け上がる。ミラも背中に乗る前に「おじゃまします」って言いながらとんと乗った。


「アリーさんもいこう」

「……」


 不服そうな顔だけどアリーさんも背中に乗る。今思ったけどあと数人が限界だね。まあ、いいや。とりあえず行こう。


「ぴーちゃん出発!」

「おー!」


 あたしとミラの声でぴーちゃんは羽を大きく広げて、羽ばたく。風が巻き起こりぴーちゃんが飛び上がると同時にあたしの体へ圧力を感じる。ぴーちゃんの背中には白い羽毛……って言っていいのかわからないけど白い絨毯みたいになっている。そこにしがみついた。ミラはあたしにしがみついている。


 するとすぐに空の真ん中。


 アリーさんは立ったまま。すごいバランス感覚。


「流石にドラゴンの背中に乗るのは初めてですね」


 そうだろうね、あたしも魔王の時代にも乗ったことがあるわけじゃないし。そういえばヴァイゼンは竜に乗ってたっけ。


 ぎゅっとミラがあたしを引き寄せた……そんなにしがみつかなくても……。あ、ちがう。これわかった。ミラはあたしが落ちないように掴んでいるんだ! あ、ありがと。確かに怖いもんね。でもこうしているとなんか気分がいい。空を飛ぶのっていいよね。鳥っていつもこんな気分なのかな。


「ミラ」

「?」

「久しぶりに一緒に冒険……って言っていいのかわかんないけど、とにかく一緒だね」

「うん」


 よーし、とりあえずぴーちゃんにもっと速度を上げてもらおう。


「そういえばマオ、こっちの方向であっているの?」

「……あ、わかんないや」

「え? ぴ、ぴーちゃんに伝えないと」


 そうだね。……そうなんだけどさ、ぴーちゃんもなんか空気を読んで背中に乗せてくれたけどどう伝えればいいのかよくわかんない。ど、どうしよ!


 とりあえずあたしはぴーちゃんにちょっと待ってって叫んだ。


 その声が聞こえているのかわからない。ぴーちゃんはその両翼を羽ばたかせて咆哮をあげる。






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