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番外:ラナの一日

本筋とは少し離れているお話です。世界観をわかってもらえればと入れてみましたが、読み飛ばしても問題はないです。



 ラナの一日は早い。朝早くに依頼を受けると言っている同居人とその友人を起こすところから今日は始まった。


「アリーさんと依頼を受けられるっていうんだからさっさと行け! 遅刻するんじゃないわよ!」


 朝の食事を用意して、悪態をつきながら眠たそうな同居人の髪をブラシでセットして外にたたき出す。


「やっと行ったか」


 ぱんぱんと手を叩いている少女がラナ・スティリアである。短く切った赤い艶やかな髪が印象的な彼女は椅子に腰かけてふうと息を吐く。ここ数日は同居人とずっと一緒にいたので久しぶりの一人な気がする。もともとそういう生活をしていたのだが、慣れるとむしろ一人の方が違和感がある。


 しんとした室内を見渡して彼女は立ち上がる。


「学園に行こ……」


 素早く身支度を整えてラナは家を出る。胸に赤いリボンを付けたフェリックスの制服とその小脇に抱えているのは魔導書であった。彼女は時間があれば魔法の勉強をしているが、同居人の魔法の技術の高さを知っているので焦燥感を常に感じてもいた。


 フェリックスの講義は二つある。


 マスターと言われる先生に師事してその特殊技能を学ぶというものと職員や臨時の講師に魔法や文字あるいは歴史などの社会知識を教えてもらう一般科目である。後者は受けたとしても学園の成績にはならないが子供たち個人の知識としてはその後の人生に意味がある。


 ラナは自分の選んだマスターの一人の授業を受けていた。


「……」


 とある教室で先生の説く魔法の理論を聞きながらノートにメモをするラナ。小さめの教室ではあるが、生徒は多い。彼らは真剣なまなざしで前方の黒板に板書されているものをメモしては、先生の一言一言を記憶する努力をしている。


 ふと、ラナが外に目をやると青い空である。そんなことを考えていると「今あいつどこにいるんだろ」と考えてはっとした。頭を振って雑念を振り払う。


 午後は食堂で簡単な食事をして次の授業までの間を学園の適当な場所で休む。たいていの生徒は空き教室にいるか腰の下せる場所で談笑する。まじめな生徒はその時間にも勉強をしたり、武器の訓練をしたりしていた。


 ラナは魔導書を枕にぼけっと空を見ていた。大きな樹の下のいい感じに影になった場所。今日は風も気持ちがよかった。彼女は体を起こして伸びをする。あくびを手でかくしてこきこきと首を動かす。


「ラーナ」


 その声にラナは嫌そうな顔をして振り返った。そこには一人の女子生徒がいた。ラナと同期の人間である。頭に小さな帽子をかぶった彼女。


 ふんわりとした淡い桃色の髪は先がカールしている。大きな瞳は吸い込まれそうなほどきれいだった。ただ彼女はラナが振り返った時ににやぁっといやらしく笑う。


「いい儲け話があるのよ」

「フリーダ……久しぶりに会ってそれ?」

「そうよっ。最近全然会ってなかったし。なんかあれだって? 問題児とつるんでるとか、あとなんか力の勇者の子孫とか……魔族とか……あんたってそんな奴だっけ?」

「……うるさいわね。あんだだって問題児でしょ」

「まーね」


 フリーダと言われた少女は指で髪をくるくるとしながら笑った。彼女はラナの横に腰を下ろして足を広げた。それにラナが眉をひそめる。


「あんたさ。ちょっとは女の子らしくしたら?」

「だいじょうぶよ。かわいいかわいい私なんだから、それが最大限生かせるときは清楚なフリーダちゃんになるわ」

「……はぁ、なんで私の周りはこんなのばっかりなのかしら」

「けらけら」

「けらけらって口に出して笑うなっ」


 フリーダとの出会いは入学してすぐだった。周りから疎まれていたのはラナもフリーダも同じだった。ラナの才能へのやっかみもあっただろうが、彼女もそれなりに辛い目にもあった。そんな時にフリーダと協力することがあり友人になった。


「ラナ。私はいつかこの学園を卒業したら商人になるって言ったでしょ」

「そういえば言ってたわね。冒険者にならないの?」

「冒険者ぁ? 今更この学園でまじめにそんなことをするなんて一握りでしょ。ここならいろいろと整ってて勉強もできるし一流の人間にも教えを受けれるんだから、なにになるにしても入って損はないわよ。そういえばラナは何になるの?」

「……まだ決めてないかな」


 フェリックス学園は元々冒険者の学園として成立した。今では剣の勇者の一族を中心とした貴族と王権、そしてギルドの出資で成り立っている。そのため各勢力が有望な若者を教育しスカウトすることがある。冒険者としての依頼や修行はまさに「修行」であって、各自の進路はそれに限らない。


「じゃあ私と金儲けしましょ。金儲け」

「まあ、考えとくわ」


 ラナはフリーダと卒業した後もつるむのも悪くはないと思っているが、少なくとも今はではない。


「あ」


 フリーダが指さした。その先には一人の少女が歩いている。ワインレッドの髪をした魔族の少女だった。それはモニカだったフェリックス学園は人間がほとんどであり魔族というだけで目立つ。フリーダもすぐにわかったのはそのためだった。


 ラナは立ち上がった。そして走り出す。フリーダが驚いた声を出したことは耳に入らない。彼女の視線の先に男子生徒の一団があった。彼らの一人が手に石をもってモニカに投げようとしている、その彼をラナは蹴り飛ばした。


「何してんの?」


 ラナが男子生徒の一団の中で両手を組んでそういう。蹴り飛ばされた少年は抗議するがラナは彼を逆ににらみつけた。彼らは何をするんだ! などと口々に言い、ラナにつかみかかろうとする。その手をフリーダがつかんだ。


 ぎゅっと彼女が力を入れると少年の一人がうめき声をあげて膝をついた。


「あのさぁ。すごくおどろいているんだけど、ラナはなーにしてんの? いや、ほんとなにしてるのかぜんぜんわかんないんだけど」

「私自身も驚いているんだから仕方ないでしょ」

「なんじゃそら」


 フリーダけらけら笑っている。その間に少年たちはひとりひとり自分の手に武器を抜いた。剣や槍などを抜き身でラナにつきつける。彼らはケンカを売ったなどと彼女に言う。


 彼女は返した。


「なーにか勘違いしているようだから言うけど、先に喧嘩売ったのはあんたらだからね」


 それを聞いてフリーダは「?」を頭に浮かべながら言った。彼女の手から魔力が流れ槍の形になる。


「全然意味わからんけど。そうだぞ、君たち、土下座したまえ。今ならお金で許してやる」



 家に帰ったのは夕方だった。


「あー疲れた」


 家の中は静かだった。その時やっぱり今日は一人だということを思い出した。なんとなく寂しい気がしたがやっぱり雑念だと頭を振った。簡単に掃除をして食事を作って風呂を沸かす。食事も簡単でよかった、おいしそうに食べる奴は今日はいない。


 すぐにやることがなくなった。しんとした室内で意外と長い夜の時間。


「……早めに寝よっかな」


 その時こんこんと扉をたたく音がした。出てみると魔族の少女がいた。モニカだった。その手には小さなバスケットがあった。


「こんばんはラナさん。この前から泊まらせていただきましたのでお礼にクッキーをと」

「それ、マオ用でしょ」

「い、いえ、ラナさんにも」


 その時ラナはじーっとモニカを見た。紅い瞳に少し長い耳。それは意外は特に自分と変わりのない普通の女の子。


「あ、あの何か」

「別に。あ、それとマオは今日は留守よ。よかったらお茶を淹れるから上がっていかない?」

「マオ様が留守?」

「あいつはミラとあとSランクの冒険者と依頼を受けて外出した、あー先に行っておくけどSランクの依頼とは別よ。なんか薬草を探しに行くって」

「……連れて行ってほしかった」

「あ? なんか言った?」

「い、いえ」


 ラナはふっと笑ってモニカの背を押す。


「どうせ暇でしょ。私も暇だから少し話し相手をしてよ」

「は、はい。あ、お茶を淹れるの手伝います」


 ラナは一度外を見てドアを閉める。こうして彼女の一日は過ぎていった。


フリーダは元々ラナの友達としてずっといたのですが、マオと出会う機会がないので今後登場するかは不明です。この物語はマオの視点ですがそれぞれの子たちの視点が別に存在してるって感じになります。

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