表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/237

戦いの後、闘いの跡

 馬車が進む。


 あたしたちはあれから引き返してきたイオスの馬車に乗って港町へ向かっていた。あれだけボロボロになっていて幌も破けているんだけど御者さんが応急手当したみたい。


 気づかなかったけど、御者の人は精悍な顔つきのお兄さん。ただ寡黙で全然喋らない。


 からから、音がする。馬車の揺れが心地いい、あたしは荷台の後ろの方にいて景色を見ている。ふぁーあ。眠い。あたしは目元をこすりつつ、あくびをする。


 後ろを見るとニナレイア、あ、ニーナが船をこいでいる。膝を抱えて座ったままこっくりこっくりと動いてる。

 

 ミラはイオスとなにか話しているみたいだ。


 それにしてもよく生き残れたなぁ、まあ、運が良かったとは正直思う。あいつがあたしたちを舐めてくれていたからかろうじて勝てただけだね。なんかまだ奥の手がありそうだったし。……魔族にはそういうのがある。


 あたしも眠いや。膝を抱えて、目を閉じる。あ、気持ちいい。

 がたがた、あぐ。馬車の揺れで顎を膝で打った。いてて。あたしが顎を撫でているとイオスが言った。


「マオさん」

「ん」


 どうしてもイオスに対してあたしはそんな態度をとってしまう。この黙っていれば美少年はくすくすしながらあたしに続けた。


「魔銃がさっそく役に立ったようですね」

「そうね。うん。これがなかったらやばかった」


 あたしは傍らのケースを撫でる。中には魔銃が入っている。確かにこの武器がなかったらクリスには対抗できなかったと思う。そう思っていると、ミラがあたしを少しふくれっつらで見てる。


「私も心配したんだよ? いきなりあの魔族にとびかかっていくから」

「ごめんごめん、正直何にも考えてなかったよ」


 やばいって、思ったからとびかかった。今思い返してもすごいことをしたと思う。


「無茶しすぎだよ」


 ずいとミラがあたしに近づいてくる。圧が、あるなぁ。ごめんって。あたしが正直に謝るとミラは少し笑って言う。


「でも、マオはその武器の扱いがすごくうまいね。ゴブリンを仕留めた時は驚いたよ」

「そういえば、そうだったね」


 イオスがあたしを見ていることが気になった。そういえばこいつこの魔銃でなんか企んでいるって自白していた。イオスをあたしが見返すと、この緑の髪の男はゆっくりと笑みを作った。


「マオさんは射撃の才能があると思いますよ」

「そうかな」


 射撃……へえそんなふうに言うんだ。


 魔銃の狙いのつけ方が魔王として使っていた魔術とかの狙いのつけ方と似ている気がした。慣れているのかもしれない。といっても、この武器があってもあたし一人じゃ勝てなかったけど。


「まあ、クリスにかてたのはニーナのおかげだよ」

「ニーナ?」


 ミラが首を傾げた、


「ほら、こいつニナレイアだから、ニーナ」

「ニーナ……、ニーナ」

「んん」


 あ、ニーナが起きた。


「おはようニーナ」


 ミラが言う。ニーナは目をぱちくりさせて、あたしを睨んできた。


「み、ミラスティア殿。その、ニーナというのは」

「ミラ」

「は?」

「その、どのって私は、あの苦手かな」


 お、珍しくミラが主張している。


「そ、そうですかではミラスティアさんでは」

「ミラ」

「ええ……?」


 ニーナが困惑している。ミラって相手に好意をもつと結構ずいずいくるから、なかなか困惑するのよねぇ。


「そ、その考えさせてください」


 ニーナがうつむいている。顔が少し赤いね。こいつ、こういうのはあんまり慣れてないんだと思う。


「マオ!」


 あたしには強気だ。睨みつけてきたし。


「なに?」

「お前が変なあだ名をつけるからだ!」

「いいじゃん、ニーナ」

「…………」


 ニーナが顔を赤くしている。悔しそう。

 

「ニーナ」


 そこにイオスがいった。ニーナは後ろを向いて。


「やめてください」


 真顔で言った。



 開けた草原に出た。


 風が背の低い草を揺らしている。さあぁと風の音がする気がした。あたしは髪を抑えながら思うのは、ここに何となく見覚えがある気がする。


 草原はところどころ断層やくぼみがある。そこも草に覆われているんだけど、何か不思議。


「このあたりは昔魔王と勇者たちが戦った古戦場だよ」


 イオスが言う。あ、ああー。あたしはぽんと手を叩いた、ここ来たことがある。昔は荒野だったんだと思うけど、あー懐かしい。


 そうだ。ここであの勇者たちと何度も戦ったんだ。もうずっと昔のことだけど、あたしは覚えている。もちろんミラにもニーナにも言わないけどね。


「ほら見てごらん。あそこのくぼみを。あれは魔王が放った強大な魔力でできたといわれているんだよ」

「……なるほど」


 ニーナ。あんたなるほどとか言っているけどさ、


「やはり魔王とは野蛮な存在だったのですね」


 違うから!!!


 あのくぼみはあたしが力の勇者に殴られそうになって必死に避けた時にあんたの先祖があけた穴だから!!


「魔王か……」


 ちーがーうー! あたしは無罪。やってない!!


「そしてあそこの断層を見てごらん。あれは勇者たちを倒そうと魔王が切り裂いた後だね」

「……すごい斬撃ですね」


 ミラ! それもあんたの先祖がやったの。そりゃあすごい斬撃だよ! 聖剣であたしを殺しにかかってきたんだから。あーあーあー。反論できないのがもどかしいぃ。そもそもやられそうになったのはあたしだし。


「なんで頭を抱えているのマオ?」

「ミラ、あのさ。ううん、なんでもない」

「…………!」


 ミラは少しほっぺ他を膨らませてから、あたしの肩を持った。


「言ってよー」


 うわ揺らさないで。……なんか話題、話題! 話反らさないと……えっと、その。そうだ!


「あ、あのさ、知の勇者の子孫って学園にいるの?」

「え?」


 ミラが止まった、すごく困ったような顔をしている。


「いるよ、でも……マオには、合わないかも」

「そ、そうなんだ」


 正直「知の勇者」なんてどうでもいい。ただ話をそらしたかっただけ。


「それにしてもミラ……スティア……さんはマオと仲がいいですね」


 ニーナ。もう正直になればいいのに。


「友達だから」

「そうですか」


 普通にそういうことを言われると、ふつーに恥ずかしいんだけど。でも、そうだね。ここって剣の勇者と初めて戦ったところだった気がする。そこでミラに「友達」っていわれるのは、まあ、うん。いいんじゃないかな。


 あたしはなんか恥ずかしくなったのでそっぽを向いた。


 草原は先まで続いている。しばらく眺めていると、地平の向こうがなだらかに坂になっていて、その先に蒼く輝く何かが見える。


 ずっと向こうにある白い雲。その下に広がるきらきらと光るそれは海だ。


「あっ!」


 なんとなく口にだしてしまった。草原の先に青い海が広がる。太陽に照らされた世界にあたしは目を輝かせてしまった。


 ニーナとミラも体を乗り出して感嘆の声をあげながら、あたしの横で見ている。


「あれは入江だね。港町のバラスティはまだもう少し先だね」


 後ろからイオスの声がする。


「あと数刻で着くと思うけど、ついたらまずはどうしようか?」


 ぐう、おなかが鳴った。あたしじゃない。


「マオ」


 ニーナが顔を少し赤くしながらあたしを呼んだ。……! こ、こいつ! あたしに擦り付けようとしている。


「あれ? マオ、おなか減った?」


 ミラも聞いて来るし。あのさ、今のは……まあいいよ。うん。


「それじゃあマオさん。何が食べたいんだい?」


 イオスはあたしに聞いてくるけど、こいつはたぶん犯人はわかってる。……何が食べたいって? そうだなぁ。


「……ピザかな」


 あたしは言った。それから馬車の前方を見ると晴天に輝く港町がある。どこからか、鳥の声がした気がする



 港町バラスティ。小さな港町ってことだけどあたしにとっては、今生初めての海に港町だからすごく新鮮だった。馬車を街のギルドに留めて、あたし達4人はまずはあたしの要望をかなえる場所にむかった。


 往来を人が大勢あるいてる。石畳を歩くたびにあたしのブーツがかつかつなる。少し楽しい。空をみるとなんか見たことのない鳥が飛んでいる。

 

 あたしたちは海沿いにあるお店にやってきた。小さな小屋とその周りに大きな傘がいくつか並んでいてその下に丸い机がある。結構お客さんがいる。


「あれはパラソルだよ」


 とミラに言われたけど、ぱらそる、ふーんそんな名前なんだ。


 ここからなら海が見える。港には多くの船が停泊している。ん? なんか帆のない黒くて大きな船があるけどあれなんだろ、まあいいか。


 あたしたちは席をとって、イオスがなんか適当に注文してくれた。


 しばらくすると店員が大きなピザを持ってきた。正直言うけど、楽しみだった。ってなんだこれ。上に赤いなんか丸いのとか白い丸いのがのってる! え? なにこれ、ふにふにしてる。


「おい、何をしている」

「いや、ニーナ。これ何?」

「だからニーナと言うな。……エビとイカだろう」

「えび……何それ」


 ミラがピザを切り分けてる。ナイフでやっているんだけど、すごいキレイにやるんだ。


「はいマオ、あーん」


 いや、なんであんたあたしにそんなんするの。あたしは仕方なく口を開けて。かぶり。えびってやつを噛むとじゅうって味が広がった。


「……!!」


 もぐもぐもぐ。

 んんん。

 

「随分おいしそうにたべるな」


 ほっとけ。ミラもなんだかうれしそうだけど、まるで子供扱いじゃない。


「これをつけてみたらいい。結構おいしいぞ」


 ニーナはミラの手に残ったピザに机に置いてあった小さな容器を傾ける。赤い水滴? みたいなのがついている。なにそれ。でもいいんだ、あたしはわかってるさ、おいしんでしょ?


「はい、マオ」


 ミラ。あーんはいいから、ってもうかぶり。もぐもぐ。


 あああああああああああああああああああああああああああああ

 かぁらぁあぁいあいいぃい

 

 ひぃーひぃいーー。あたしは舌を出したまま、涙が出てきた。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ