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Sランクの冒険者との冒険


 フェリックスは広いからいろんなところに生徒の憩いの場所……みたいなところがある。あたしは校舎裏の大きな木の下にいた。


「水の精霊ウンディーネに命ずる」


 あたしは伸ばした右手に魔力を集中させ呪文を唱える。そして魔法陣を構築する。青い光があたしの手から放たれる。


「アクア!」


 叫んだと同時にちょろっと水の塊が飛んだ。本当に少しだけ……うーん。久しぶりに誰からの手助けもなく魔法を構築してみたけどだめだ、全然だめ。


 木陰で座ったまま渋い顔をしているラナとなんでか両膝を抱えて座っているニーナ。あと心配そうな顔をしてくれているモニカがいる。今回はみんなの手助けも得ることはできない。ポーラの出した課題はあくまであたし一人で『火』『水』『風』の魔法を構築することだ。


 それにしても疲れた……疲れたんだよ今ので! 魔銃は魔石に魔力をためることができるからまだましなんだけど魔法の構築はその場で魔法陣を展開させなければならないからあたしの魔力じゃまともにできない。


「うーん。だめだぁ」


 草むらの上に両手を広げて転がる。3か月あるって言ってもあたしは魔法自体は生まれてから、正確に言うと生まれ変わってからずっと試している。


「ニーナ」


 ラナが座っているニーナに聞いた。


「マオがやっていることって実はすごいことだってわかる?」


 何の話? ニーナも困惑している。


「すごいことって……どういうことなんだ」

「こいつは全然魔力を持ってないのよ。あんただって感じるでしょ。おそらく学園の誰よりも魔力の素養がない」


 なんかすごい言われようだね。


「それでもこいつは魔法を構築することができる。……魔力の扱いと魔法の練度が異常すぎて極小の魔力で曲がりなりにも魔法として成立してる。マオの魔力の扱い方がおかしいくらいにうまいのはニーナもモニカも知っているでしょ。まあ、構築した魔法は何の役にも立たないんだけど」


 褒められているのかけなされているのかよくわからないけどニーナとモニカも頷いている。ラナがじりと膝を進めてきて、あたしのほっぺたを引っ張る。


「なふぁにすんのさ?」

「なんであんたは異常な技術を持っているのに魔力が全然ないのよ。ムカつけばいいのか心配すればいいのかわかんないでしょ」

「そ、そんなこといっても」


 あたしはラナの手をなんとか放してもらう。それから両のほっぺたをすりすりする。痛かった。


「そんなこと言ってもどうしようもないし。昔からあたしは魔力がないんだよね。魔力ってラナの言う通り素養とか才能が重要だから、魔法を使っていると少しはましになるはずなんだけど、全然だね。でもどうすればいいんだろう」

「マオ様」


 モニカがそばに来る。


「体を鍛えてみるのはどうでしょう?」

「体を鍛える?」

「そうです。まずは腕立て伏せからです!」

「……う、腕立て伏せ」

「健康な体には健全な魔力が宿るといいますから」

「あ、あたしは力はないけど健康ではあるよ」


 腕立て伏せして魔力が鍛えられるんだろうか、でもそういうのだったらあたしは故郷では農作業してたからなぁ。あれはきつかった。鋤とか鍬とか全然使えないんだよね。力がないから。


「どうすればいいかなぁ」

「腹筋……」

「モニカ! トレーニングから離れてっ!」


 意外とモニカはストレートな手法が好きなのかもしれない。でもそれって効果あるかな。うーん。悩む。なんとかしないといけないけど全然思いつかない。せめてなんか道具でも使えればいいんだけど使わせてくれないって言っているし。


 そういえばなんでニーナは膝を抱えているんだろう。ふと気になって聞いてみた。


「ニーナはなんかさっきからなんで小さくなってんの?」

「おまえ……私が魔法を使えると思うか?」

「そういえば使っているところ見たことないね」

「使っているところを見たことがないんじゃない。使えないんだ。私は」


 膝に顔を埋めて落ち込むニーナ。その肩をラナがぽんぽんと叩く。


「あんたは私が教えてあげるわよ」


 ☆☆


「そういうことがあってさ」


 約束通り学園の授業の後はミラとお買い物に来た。ミラもフェリックスの制服を着ている。あたしはさっきまであったことを話した。市場はいつも人が多い。いろんなお店があるけど今日は普通に食料の買い出し。


「…………」


 ミラは真剣な顔つきで何か考えるように黙り込んだ。それから少し首を振った。もともと魔力のないあたしだからこそポーラの課題は難しい。


「それにゲオルグ先生とリリス先生の課題もあるし。いろいろお金のこともあるしね。……そうだ、そろそろぴーちゃんのことどうにかしないと討伐とか言われたら本当に困るなぁ」


 うーん。頭が痛い。ミラの表情が曇ったのを見てあたしはアッと思った。


「ちがうちがう、ミラのお父さんのこととか関係なくどちらにしてもあたしは全部やり切るからさ」

「……マオ」

「そういうことだから今日なんかおいしいもの作ってくれると嬉しいなぁ。今朝のスープはおいしかった」


 それでミラはくすりとした。いや、本当にミラは何でもできるって思う。料理を見て覚えたって言ってたけどすごいなぁ。そんな会話をしながらあたしとミラは市場で食料を買い込んだ。手に袋をもって家に帰ろうとしたときに声がした。


 それは最寄りの冒険者ギルドの前だった。きょろきょろと声の主を探すともう一度声がする。


「マオちゃーん」


 あ、ノエルさんだ。ギルドの前で手を振っている。あたしは少し早足で近づいた。ミラも付いてきてくれる。ノエルさんはふふんって顔をしている。なんだろ。


「買い物帰り?」

「うん」

「マオちゃんこの前のFランク以上の依頼を用意したわ!」

「ほんと! すごいノエルさん! ありがと!」

「……ふふふ」


 ノエルさんがうれしそうなのなんでだろ。でもうれしいやっ! ノエルさんは言う。


「それも『薬草採取』よ!」

「へー」


 薬草採取かぁ、簡単そう。そんなことを思っているとミラがあたしの制服をくいっとひっぱった。


「マオ、薬草採取って難しいよ」

「え? とってくるだけでしょ?

「薬草なんてみてわかるの? マオ」

「あーそっか。全然わかんないや」


 ノエルさんも続けた。


「そうよマオちゃん。なんとBランクの依頼よ。マオちゃんのためにお姉さん頑張った。昔の伝手を頼って腕利きの冒険者が同行してくれることになったのよ。危険度は低いけど、専門知識が必要だからランクも高いの」

「……でも、それじゃあ、あたしは役立たずなんじゃ。ただくっついていくだけじゃ悪い気がする」

「!!!!」


 ノエルさんがのけぞった。な、なんで


「そ、そんなつもりで用意したんじゃないのよ」

「あ! いやノエルさんには感謝しているよ。よ、よーし。荷物持ちでもなんでもするよ。もちろんその依頼を受けるよ!」

「……うう、マオちゃん。あ、同行する人を紹介するわね。ちょっと待ってて」


 そういうとノエルさんはギルドに入っていく。その間にあたしはミラの方を見る。


「そうだ、ミラも一緒に来てほしいな。最近全然話をできてなかったし」

「うん。いいよ」

「やった」


 ミラと一緒の冒険……ってほどでもないかもしれないけど薬草採取かぁ。どんな冒険者さんと一緒になるんだろ。


 その時、ギルドのドアが開いた。


 中から出てきたのはノエルさんと一人の女性。それは見覚えのある人だった。綺麗な黒髪とアイスブルーの瞳の女性。背は高くてきれいな人。蒼い服を着たその人の腰には白銀の鞘に収まった剣があった。


 Sランクの冒険者のアリーさんだ。久しぶりに見た。


「おや、お久しぶりですねお二人とも。ミラスティアさん、それに確か……ああ、マオさんでしたね」


 アリーさん。確かロイとの戦闘の後にギルド本部に行ったときに会ったことがある。あの時はヴォルグと仲が悪そうだって印象があった。仲が悪いというかヴォルグがいろいろと問題があった。


「こんにちは」


 あたしはとりあえず挨拶をする。ミラもそうした。アリーさんはふふって笑って返してくれた。


「ノエルの頼みということでこのアリーが今回同行をさせていただきます。どうぞご安心ください。薬草採取は少し遠いところに陸路で行きますが、場所はシノッチの森と言われる場所です」


 Sランクの冒険者が同行してくれる……すごいノエルさん。


「ふふふ。アリーとは昔から知り合いなのよ。幼馴染ってやつね」


 ノエルさんが胸を張って答える。でもSランクの冒険者と同行できるならいろいろと勉強になるかも。


 その時あたしは思いつくことがあった。アリーさんが言うには離れた場所かぁ……あ、そうだって、あたしは思いついたことを言った。あたしの悩みの一つでもある。


「ん? どうしましたかマオさん」

「あ、あのさ、えっとアリーさん。遠くに行くならすごく速く行く方法があるんだけど」

「ほう、どんな方法ですか」

「で、でもさ、その方法ってのが難しくて、それにずっと悩んでいるんだよ……いや……です。最近ずっと悩んでいることなん……ですけど。Sランクのアリーさんならそれでも大丈夫かなって……」

「悩み? ああ、そうなんですね。どういうことかわかりませんがいいでしょう。このアリーでよければ相談に乗りますよ。私もフェリックスの卒業生ですから後輩の悩みは私の悩みです」


 こ、この人いい人だ! 


「じゃあ途中ミセリアマウンテンに寄って欲しい……です!」

「……よくわかりませんがいいでしょう。少なくとも寄り道するのであれば申し訳ありませんが出発はさっそく明日にします。フェリックスの授業はギルドの依頼時には休んでも問題ありません。それはノエルが連絡してくれるはずです」

「マオちゃん任せておいて。ギルドと学園はつながっているから」


 ノエルさんがあたしの前にきてぐっと両手でガッツポーズする。あたしもお礼を言ってから真似した。アリーさんもふふふと笑う。


「先に言いましたがどんな悩みがあるとしても私が力になりますよ。安心してください」


 ……アリーさん。優しい。そうするとノエルさんがアリーさんを連れて少し離れて話し始めた。


「そんな安請け合いして大丈夫アリー?」

「ノエル……私を誰だと思っているのですか、……まあ少女の悩みくらい私がちゃんと相談に乗りますよ。かわいらしいものじゃないですか。まさかドラゴンが出てくるわけでもなし」


 何を話をしているかわからないけどアリーさんは信頼できそう。ぴーちゃんのこと相談しよう。


 そう思っているとアリーさんが言った。


「どんなことでもこのアリーにお任せください」


 自信に満ち溢れた彼女がとっても頼りに思えた! でも、あたしの横でミラがなんでか乾いた笑いをあげた。




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