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『物』の課題


 その日はリリス先生の授業があった。前もそうだったけどなぜかリリス先生の授業を受けているのはあたしとニーナしかいない。……あんな性格だからみんな受けてないのだろうかと思ったけど不思議だった。


 だから大きな教室にあたしたちは二人。そしてリリス先生は教壇にある机に寝そべっていた。小さな机に寝転がっているから手足を投げだしたような格好で天井を見ている。


「あー、これ寝にくい~」


 だろうね。見たらわかるし、多分やる前にわかったと思うんだけどさ。髪をサイドテールにしたリリス先生は黒の短いインナーでおへそが見えている服装をしている。上から白い上着を羽織っているけど……前から思ってたんだけど女の子がお腹を出すのはどうなんだろう。


「それにしてもだるい。なんで講義なんてしないといけないんだろう。私は抗議したい。お金だけほしい」


 最低のことを言っているリリス先生にも慣れてきたけど、会うたびに最低値を更新してくる。だれに抗議するのさ。


「……あ、あのさ。リリス先生。前から思っていたけどなんでリリス先生の授業はあたしとニーナしかいないの?」

「なんでってそりゃあ、生徒募集の授業説明を職員に提出するんだけど、魔法工学概論という面白くなさそうなタイトルとくそ難しくてくそ面白くない紹介文を書いて生徒なんて一人も来ないようにしたからじゃない? 本当は古代魔族語でも使って誰も読めないものにしたかったんだけど……」


 あたしはグランゼフ学園長に言われて受講したし、ニーナは付き合ってくれたからここにいる……その生徒募集の文章は見てない。でも一人も別に来ないってどんな面白くない文章を書いたんだろうこの人。というかやる気なさすぎる。


「まあいいや」


 リリス先生は器用に机の上で体勢を変えて座った。


「マオには前も言ったけどグランゼフ学園長からあんたに課題を与えろって言われているから考えてたんだけど……お金も欲しいし魔力で動く道具をひとつ作ることにしようかな」

「魔力で動く?」

「そうそう。例えばあんたの白い『魔銃』。あれも魔力で動く道具だよね。何でもいいからひとつ作って提出。これが課題」

「ちょ、ちょっと待ってよ。そ、そんなの作り方なんてわからないよ」

「見たらわかるでしょ」

「わからないよ!」


 リリス先生は実はすごく頭がいいって最近思う。クールブロンを見た時も見たらわかるって言って構造を理解していたみたいだし……。だからちゃんと説明を求めないと放置されそう。リリス先生はほっぺたを膨らませた。


「仕方ないなぁ。私の魔法工学概論って王都よりも別の都市で研究されているんだけど、従来の魔法が人間が魔力を使ってその場で魔法陣を発動するものに対して『物』に魔法陣を刻み込んだりして魔力さえ流せば魔鉱石でも人間の魔力でも動くものを生みだす技術のこと……これを『機械』ということにしている。ゴーレムもその一種ね」


 リリス先生は「よっ」と言って机から降りた。


「ギルドは各地の情報を得るために大きな尖塔を作って魔力による伝達をしている。あれは凄いお金のかかっているものだし、私も作るのめんどくさかったから二度とかかわりたくないけど。あ、それと最近航行不能になった魔鉱石で動く船もある、あれの設計にも関わったのもめんどくさかったなぁ。ま、それらは大きなものね」


 リリス先生……なんかとんでもないことを言っている気がする。この人もしかして重要な人物なんじゃないの? 魔鉱石で動く船ってあれのことだよね。あたしたちが乗っていた。


「魔力という力は人間なり魔族なり魔鉱石なりから得ることができるけど、それを利用してもっといろんなことができると思う。今私が試してみたいのは王都中に魔力を伝達する糸みたいなのを引いて……魔鉱石から出した魔力を流せば王都中を明るくすることができるんじゃないかって、貴族街の街灯とかいちいち魔鉱石をはめ込むの無駄よねぇ。あとはあとは、普通の家にもそういう魔力の線を引いて水も火も簡単に出せるようにしてやればすごい儲かると思うのよねぇ~。いちいち水汲みもまき割りもいらねぇ~」


 すごい早口で話すリリス先生の言っていることはなんだかおもしろそうだった。


「なんかこう家で簡単に火が出て料理ができるとか。どうマオ?」

「すごくいい!」

「でしょ~、へっへっへ」


 あたしとリリス先生は初めて気があった気がする。楽しそうに話す彼女は近づいてきて、それから魔力を利用したいろんなことを話してくれた。


「でも今の魔法を使う連中って頭固くてさぁ。ゲオルグとかまじ頭かたかたで石みたいなんだけど、貴族とか王族のカスどももやギルドの幹部連中一緒で、自分たちの使うものには金を出す癖に王都ごと改造しようっていうとぽかんとするのよねぇ」


 大丈夫? この話を王族とか貴族に聞かれたらやばそう。……でも正直クールブロンみたいに魔法の文様の描かれた何かが家にあって、外から魔力が流れてくるなら魔法を使えない人でもいろいろできそう。


「あたしの村にもあるといいなぁ」

「……村。ああそうか、王都っていうか各都市をつなげたらもっと儲かるじゃない! そうか馬鹿だな私は! 国中に魔力の糸を引いてしまえばがっぽがっぽ儲かる! そうかそうか、王都ごとなんてすけーるが小さかった。国ごと……いやまてよ、別に国に拘らなくても外国にも作って私に金を」

「あ、あの」


 その時ニーナが手を挙げた。あたしとリリス先生が見る。


「と、とにかく私たちは何をすればいいんだ?」

「だからさ魔法陣のように文様を書いた物を用意して魔力を流して何か起こせたら合格」

「か、簡単にいう」


 ニーナは頭を抱えている。そ、そうだ。あたしたちが作るって話だった。流石にリリス先生が言っているようなのは無理だけど、何を作ればいいんだろう。ゴーレムとか……いや無理。……ふと思ったけどリリス先生はなんであれを作っているんだろう。


「リリス先生はなんでゴーレムなんて作っているの? 参考までになんだけどさ」

「あ? あれは魔力を流すと人よりもはるかに大きな力で工事とかできそうで儲かるかなって。やってみたら魔鉱石が高くて研究にまじ金かかる。まー」


 リリス先生はは手を組んで少しわらった。


「楽しいけどさ」


 でもすぐに足を踏み鳴らして怒り出した。


「そういえばマオにぶっ壊されたゴーレムどうしよう、思い出したら腹立ってきた」

「い、いや暴走してたじゃん」

「ううう、正論むかつく~、死ねばいいのに~。できるだけ苦しんで~」


 ひどい! この人ひどい。


「ああいう人型のゴーレムはそのうち魔鉱石とかの採掘に役立てるために作っている。もっと少ない魔力で動かせるようにしないといけないし、あー今は魔族とかが採掘をしているからそういうのと入れ替わるようにしないとねぇ」

「魔族?」

「魔鉱石は北でよく取れるから魔族を労働力として駆り出しているみたいだけど、正直手で掘るよりゴーレムを使って掘った方が楽だし、効率がいいと思うのよね。あー」


 あたしは聞いた。


「そ、それさ、もしゴーレムが使えるようなったら魔族は助かるかな?」

「はあ? 助かる? ……そりゃあ楽になるんじゃないの?」


 あたしは立ち上がった!


「リリス先生! ゴーレム研究頑張ってよ!」


 ぽかんと口を開けて驚いた顔をしているリリス先生。あたしはこの人と会って初めて感心したかもしれない。心の底から頑張ってほしいってそう思うよ。


 リリス先生はそれから口を開いた。


「じゃあ、金くれ」


 うーん、やっぱりこの人最低なんじゃないかな。

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