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『本』の課題


 授業が終わった後にゲオルグ先生にあたしとニーナはついていく。当然のようにゲオルグ先生は何も話さないから黙ってついていくしかない。学園のあまり行ったことのないエリアにやってきた。


 大きな尖塔のある建物があった。なんの施設だろう。そこにあたしたちは入っていく。中からは生徒が本を抱えて出ていくのとすれ違った。


 入口の大きなドアをゲオルグ先生は開ける。がちゃんと開いた先を見てあたしはおぉって声を上げた。


 そこは大きな図書館だった。


 広いフロアには本がぎっしりと詰まった本棚が並んでいる。吹き抜けで2階もある。そこも同じように本棚が並んでいる。生徒やたぶん先生と思うけど大人もいる。大勢いるのに室内のは不思議なくらい静かだった。


「おぉー」


 あたしは純粋に感嘆の声を上げた。ラナが来たら何となく喜びそう……って思ったけどきっとこの場所を知っているよね。ニーナもきょろきょろとしながら「すごいな」ともらした。あたしはあんまり本を読んだりはしてないけどこれだけあるとわくわくするかも。


「いいか、一度だけ言う」


 ゲオルグ先生が眼鏡の真ん中の部分を人差し指で押しながら言った。あたしとニーナも振り返った。


「学園長からの要請でな、お前たちのような落ちこぼれをテストしろという話だ。だから特別に課題を与える。……ここは学園の運営する図書館だ。魔法の文献など様々な資料がある。3か月の時間をやる。魔法についての論文をかけ。それを私が認められば合格だ。以上」


 ゲオルグ先生はふっと冷酷な笑みを浮かべてから踵を返す。それをあたしは引き留めた。


「……待って。論文って何?」

「ふはは。バカにはお似合いの質問だが、その程度自分で調べるんだな。どうせ貴様らは落書きくらいしか書けないのだから気にするな。その生意気な顔も見なくてよくなるのは気分がいい」


 それだけを言うとゲオルグ先生は出ていく。こ、これが課題? 魔法について「論文」? な、なにそれ。あたしそんなの書いたことないんだけど……。


「に、ニーナ。ど、どうすればいいのかな」

「魔法が使えない私に聞くな」

「は、はっきりしてる」


 と、とりあえず本を読めってことかな。


 しばらくあたしとニーナは図書館の中で何となく本棚から本を取っては開くを繰り返した。なんか難しいことがいっぱい書いてある本から、おとぎ話みたいな本とかいろいろある。でも、魔法の関係の本が必要なんだよね。


 とりあえず二人で手分けして探すことにした。なんか図書館の中は独特なにおいがする気がする。別に嫌いじゃない。それに静かだ。だれもお喋りせずに本を読んでいる。さっきニーナと話をしているときも自然と小声になっちゃったよね。


 あたしはとりあえず歩きながら並んだ本の表紙を見る。うーんいろいろあるなぁ。今気が付いたけど本棚ごとに分類とかいうか同じ種類の話題の本が集まっているみたいだ。


「ん」


 あたしはある一角で足を止めた。そこにはこんなのがある。


『剣の勇者 伝』


 わー。これある意味あたしも主役だよね。どれどれどんなふうに書いてあるのかな。適当なページを開いた。大雑把に真ん中から少し後くらい。いちいち宿敵の本を1から読んだりしないよ。


「なになに、悪逆非道を尽くした魔族の魔王を打ち倒した剣の勇者、力の勇者、知の勇者は大勢の民衆に祝福され世の中に平和が戻った……」


 うーん。言いたい放題言われているなぁ。でもまあそりゃあそうだよね。続きは……


 ――魔王を失った魔族の残党は各地で抵抗を続けたが王国の各諸侯がそれらを打ち破った。


 ――王は魔族に奪われた土地を奪還し功績のある者たちに分配した。


 ――王は捕らえた魔族を奴隷として諸侯に分け与えた。


「……」


 ……


 ……


 あたしはページをめくる。


 ――その年、奴隷とされた魔族たちが反乱を起こすも王の軍勢より鎮圧された。首謀者は処刑され

、無事に平和が戻った。民衆は王を称えた。


 ずっと昔のことだから、もう今のあたしにはどうしようもないことだとはわかる。本を握る手に自然と力が入っている。あたしは本を閉じようとした、でもそのページに知った名前を見つけた。


 ――魔族の残党にザイラルというものがいた。降伏を申し出た彼を伴い剣の勇者アイスバーグは王に謁見した。


『戦争は終わりました。王よ、今からは魔族にも恩を施すべきです。彼らは王の手足として働くことでしょう。私は魔王を討った功績と引き換えにしてもかまいません、なにとぞ彼らに慈悲を』


 ――剣の勇者は愚かな魔族にも慈悲を与えるように懇願した。王はその申し出を受けいれ王国の北辺の土地の開発をザイラルに命じた。これが今の魔族の自治領の始まりである。



 ぱたんと本を閉じる。


 ザイラルはあたしもよく知っている。優しい人だ。当時の魔族の幹部……といっても偉い人が人間に殺されて自動的に幹部にならざるを得なかった人。戦上手って言われてたはずだけど、確かあの人は詩集とかを読むのが好きだったはずだ。


 それに剣の勇者……あいつ。


「おいマオ」

「にゃっ!」

「へ、変な声を出すな」


 び、びっくりした。周りの人が一斉にあたしを見てしーって指を唇にあてている。ご、ごめんなさい。


「何を読んでいたんだ。剣の勇者の伝記? お前そんなものに興味があるのか」

「ま、まあね。……でも、あたしにはどうしようもないことだから」

「……お前。なに……泣いているんだ?」

「えっ」


 あたしは急いで袖で目をこする。それからニーナに言った。


「濡れてないし、気のせいだよ」

「そうか……?」


 ニーナは心配そうに見てくるけどへーきだって。へーきへーき。


「魔法の本はあっちにあるようだ。私は魔法についてはよくわからないから来てくれ」

「あたしも本はよくわからないんだよね。やっぱりラナに協力をしてもらうのがいいかな」


 ☆☆


 夜は皿洗い。


 Fランクの依頼は結構あるみたいですぐに受けることができた。ノエルさんは難しい依頼はもう少し待ってって言われたから今はFランクの依頼をこなして生活費を稼ぐことにする。


 なぜかニーナも来てくれた。場所は繁華街の料理屋さんの裏手。前も言ったけどFランクの依頼って冒険者の仕事というよりお手伝いみたいだよね。


「アクア」


 あたしがニーナの魔力を借りて水を出すとそれを桶に入れて皿を洗う。これ一回出したらまたやらないといけないから大変だ。汚れた水で洗うと意味ないしね。


 でも一人でやると井戸から水を汲んでこないといけないから大変だしニーナがいてくれて助かる。ニーナは皿を布で拭いている。


「あっ」


 つるってニーナの手から皿が落ちたのをあたしがキャッチする。


 あっぶねー!!! あぶねー! 割ったら意味ないよ。Fランクすら失敗することになってた。よく取れたなぁって自分で感心してしまった。


「す、すまん」

「気をつけてよニーナ……」


 心臓に悪かった。あたしは皿をじゃぶざぶ洗いながら言う。


「でもニーナがいてくれてほんと助かるんだけど。あたしに付き合ってくれなくてもいいよ。ゲオルグ先生の課題だって本当はあたしだけだし」

「…………思うんだが」


 ニーナはしっかり手で皿をもって布で拭く。


「前に言ったと思うが私がここに来たのは目的があったというよりも逃げてきた。……だがラナやお前との約束をさせられて……自分も少しだけど思うところもあるから、お前に付き合った方がいいなって思っているの」

「なんか少し口調も柔らかく……あれ……ラナとの約束?」

「あ! マオには秘密!」


 ニーナの手から皿が落ちそうになった。


「わあー!」

「わあああ!」


 びっくりした。なんとか落ちなかった。ほんとびっくりする。ニーナもふうと息を吐いている。


「私はこういうことも昔からやったことないから修行だな」

「こ、こわい」

「まあ、ゲオルグ先生だけじゃない。リリス先生やポーラ先生ともお前は何か課題をもらうんだろう。これも私の修行にしたい。ヴォルグを倒さないといけないからな」


 ニーナはそう言って笑った。あたしはそれを見てなんだかうれしかった。


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