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降りかかる課題



 朝の陽ざしが気持ちいい。


 あたしは家の前で大きく伸びをした。朝早くに起きるとなんか気分がいい気がする。起きるときは凄い眠いし、ベッドから出たくないんだけどさ。


 それから地面に置いてたクールブロンを手に取る。白い魔銃にはめ込まれた魔石には煌々と光がともっている。魔力をニーナとラナに溜めてもらった。あたしはクールブロンを手に呪文を唱える、イメージするのは水の流れだ。


「アクア・クリエイション」


 あたしの右手を中心に青い光が放たれた。青い光は水に変わり、そして人の形になっていく。力の勇者を模した水の人形だ。


 対峙しているのはニーナ。力の勇者の子孫の彼女は重心を低く構えている。うーん。なんだろう、模擬戦の後からすごく構えに隙がなくなった気がする。ニーナは体に魔力をまとわない術式『無炎』を使っている。魔力による身体の強化がない分、集中力と体の純粋な動きだけが鍛えられるって、この前気が付いた。


「それじゃあニーナ、いくよ」


 水人形がニーナに踏み込む。すかさず右の蹴りを繰り出す。ニーナは最小の動きで後ろに下がって交わした。おお、やるね。あたしは感心しながらもさらに水人形を踏み込ませる。


 右のストレート。踏み込みと同時に繰り出されるそれをニーナは手の甲で水人形の腕の側面に添える。……ん、わずかな力の流れを変えられて右こぶしの狙いが外れる。そのすきにニーナがカウンターで水人形にこぶしを叩き込んだ。


 ん。今の動き、いいじゃん。あたしは一度水人形の形をとくとぱしゃっと崩れて水に代わる。ニーナはそれを見てから膝に手をついた。荒く息をしている。


「はあはあ。きつい」

「ニーナ! なんか動きが洗練されてきた気がする」

「いや……実戦でこんなことはできないだろう。……マオ」

「何?」

「お前の魔法は……本気の何分の1くらいなんだ」


 あたしは少し考えた。流石に前から本気を出しているわけじゃないのは言っているけど……。というか、本気を出したらあたしの頭がめちゃくちゃ痛くなるから毎朝は無理。ていうか……嫌! 仮面の男との戦いで出したくらいの精度が本気だったけど……。


 ニーナはあたしをまっすぐ見ている。それをみてはっきり言おうと思った。


「今の動きはそうだね。1割くらいかな」

「…………そうか」

「あ、でもさすがにニーナが魔力をまとったらさ、こんなにうまくはいかないよ」

「……いや私はこの『無炎』を使うようになって分かったが、魔力による身体能力の強化はどこか無理をしているんだろう、精密な動きがやはり難しい。……やはり地道な訓練をして魔力による強化をした時にも精度の高い動きができるようしないとな。私は不器用だから毎日訓練を……」


 ふんふん。


「……なんだ」

「いやニーナなんか偉くなった?」

「そ、そんなに偉そうに見えたか」

「いや、違う違う!! そういう意味じゃない、変な言い方しちゃったけどなんかこう、すごくなった気がする」

「す、すごく? ……お前……語彙が貧弱じゃないか?」

「いいじゃん!」


 ほめてんだから!


 その時カンカンって何かたたく音がした。見ればラナが外に出てきて手に持ったフライパンをお玉でたたいている。


「はいはい、そろそろ朝飯食って。学園に行くわよ」


 あたしとニーナは目で会話する。


 ――母親みたいだな

 ――お母さんみたい


「何? なんか言いたいことでもあんの?」


 い、いや別に。ラナがすごく訝し気な顔で見てくる。


 昨日少しだけ話をしてあたしはFランクの依頼を受けることにした。もちろんそれ以上の依頼もするつもりだけどとりあえず食費くらいは稼がないと、それに学園にもいくし……なんか日を追うごとに忙しくなってきた気がする。


「あ、そうだマオ。あんたに貸してあげるものがあるわ」

「貸してくれるもの?」


 あたしは何だろうと思った。



 久々にゲオルグ先生の授業だ。妙に緊張する……うーん。あの後だから正直まったく好意を持たれてないことだけは想像ができる。


 リリス先生が突然にやってきた言ったのはゲオルグ先生、リリス先生、ポーラの3人があたしに試験みたいなことをすることになっている。本当は秘密なんだろうけどリリス先生がべらべらしゃべってくれて助かったといえば助かった……?


 でも3人とも何を言ってくるのか全く分からないや。……まあ、気にしても仕方ない。とりあえず教室に行こう。ちなみに前の教室はゲオルグ先生がぶっ飛ばしたから別のところになる。


 ニーナと一緒に学園の教室に入る。


 広い半円状の構造の教室。前に教壇があって……これは前と同じだね。少し日当たりのいい教室で明るい感じがする。


 あたしが入ると別の生徒たちがざわざわし始めて、ひそひそと話す声が聞こえたりする。まあ気にしても仕方ないして空いている席に座る。しばらくすると男性が入ってきた。一気の教室がしんとなった。


 くすんだ青い髪。それに眼鏡。少しやせてて背の高い男性はゲオルグ先生だ。彼はあたしを見て一瞬にらみつけてきた。あたしは……どう反応しようか迷ったけどとりあえず頭をぺこりと下げてみる。前は怒っちゃったけどあたしは生徒だしね。


 鐘が鳴った。それでゲオルグ先生は低い声で言う。


「授業を始める」


 前と同じようにゲオルグ先生は黒板に魔法の理論式を書いていく。なんか相変わらずな気がする。とりあえずぼーっとチョークが走る音を聞きながらゲオルグ先生の書く文字を見ている。周りの生徒は紙に何かを書いている。


 あたしも何か書いた方がいいかもしれない。……ふふふ。今日は凄いものを持ってきたんだ。あたしは胸ポケットから紙の束を取り出す。市場で売っている数枚の裏紙の束だ。貴族とかがいらなくなった紙をまとめてひもで縛っただけの簡単なやつ。そして、ラナにもらった「えんぴつ」!


 すごいんだよこれ、インクとかなしで文字が書けるからね。魔法だよ。あたしは張り切ってゲオルグ先生の書くことを紙に書いていく。


 ……


 ……


 ……


 これ楽しい。ミラの絵をかいて、猫の絵をかいて簡単に絵が描ける。……はっ。いつの間にか落書きしてた。いけないいけない。あたしは今日からまじめに授業を受けるんだ。そう思いながら横を見るとニーナがこくりこくりと舟をこいでいる。


 あたしはそのほっぺたを指でつつく。


「ん、ん」


 お、起きた。彼女は頭を振って眠気を払っている。眠たくなる気持ちもわかる。ゲオルグ先生はもくもくと黒板になんか書いているだけだし、いい天気だし。ふぁあああ。


「貴様、舐めているのか?」


 はっ、やばい。思わずあくびをしているときにゲオルグ先生が振り返った……。


「ご、ごめんなさい」


 今のはあたしが悪いや……ゲオルグ先生はちっと舌打ちをする。


「退屈なら出て行ってもいいのだぞ? 貴様などここにいるだけでも温情なのだということを理解するべきと思うがな。この私をあれだけ馬鹿にしたのだからな」

「馬鹿になんかしてないよ」


 魔族のことをひどく言われて怒ったのは確かにあったけど、馬鹿にしたことなんてない。ゲオルグ先生のメガネがきらりと光ったような気がする。そして少し冷酷な笑みを浮かべている。


「その減らず口もいつまで続くかな? まあいい、この授業が終わったら貴様とそこの眠たそうな顔をしている金髪頭に用がある。……特別な課題を与えてやる」


 ゲオルグ先生は笑った。


 特別な課題……これがリリス先生の言っていたことなんだろうか。でもあたしは負ける気はない。ゲオルグ先生は多分あたしを蹴落としたいはずだ。言ってしまえばあたしに勝負を挑んでいるってことだ。


「望むところだ!」


 あたしは両手を組んで返してやる! ゲオルグ先生がにらみつけてきたけど、あたしは顎を上げて見返してやる!



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