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お金のことはちゃんとしましょう


 夕食の後に時間ができたあたしたちはギルドにやってきた。夜だから人は少ないけど、併設の酒場やカフェには冒険者らしき人たちがいて、がやがやしている。


 ミラは帰ったしモニカはもともと体調が悪かったからさっきあたしが送っていった。


 とりあえずここに来た理由はひとつだ。いろいろと今まで忙しかったけど本格的に依頼を受けていく必要がある。そう息巻いて受付のお姉さん――ノエルさんに言った。


「ノエルさん!」

「あ、マオちゃん。いらっしゃい。またFランクの依頼受ける?」

「い、いや、今日はもっと難しい依頼を受けたくて」


 あたしはノエルさんにお金が必要なことを言った。ふんふんと聞いてたノエルさんだけど、最終的に両手でバツマークを作っていった。


「だめです」

「え! なんで!」

「マオちゃんこそ依頼を受けるルールを覚えている?」

「ルール? なんだっけ……」


 あたしはちょっとだけ腕を組んで考える。あ、そういえばギルドの依頼は自分のランクまでしか受けられない。あたしは学生証と一緒になった冒険者としてのカードを懐から取り出す。そこには「FF」と書いてある。そ、そういえばあたしはまだFFランク……。うう、これどうやったらあがるの。


「マオちゃんは学校のランクが『F』でギルドのランクも『F』だからFランク以上は受けられないよ」

「で、でもラナ達と一緒にパーティーを作れば」

「もうひとつルールがあったはずよ。フェリックスの学生さんだけじゃ命の危険のある依頼は受けられないようになっているわ。本来であれば学校かあるいはギルドから適当な冒険者に協力依頼をするんだけど……マオちゃんのランクを受け入れてくれる人を探すのに少し時間がかかるかも。Fランクだけは命の危機がない依頼だから普通にうけられるけど……」


 そ、そういえばそんな話をしてたかも。で、でもそれじゃあどうしよう。お金が今はいるのに。


「マオちゃん」

 

 ノエルさんがずいと受付から身を乗り出してくる。


「なんでお金がいるの? 遊ぶお金とかなら……」

「え。故郷への仕送りとかに」

「……」


 ノエルさんは両手で口元を抑えて少し下がった。それから真剣な顔で言った。


「わかった。任せておいて……さすがに今日は無理と思うけど……また来てマオちゃん」

「う、うん」


 なんかよくわからないけどノエルさんがすごい勢いで奥に走っていった。……う、うーん、今日はこれ以上どうしようもないかな。そう思って踵を返す。


 ラナとニーナは待合の椅子に座っている。ラナが大きなあくびをしている。眠そう……。でも目を指でこすりながら聞いてくれた。


「それでどうだったの?」

「あたしの冒険者のランクじゃ今日は無理だって。明日以降に出直しだね」

「そ、じゃあ帰ろ。ニーナもどうせ今日も泊まるんでしょ」


 ニーナはそれを聞いて顔を上げた。


「そうさせてくれるとありがたいが……明日の朝にはマオと特訓もしたいから」


 あ、そうだったね。今日忙しかったから全部消えてた。ガルガンティアの武術の訓練……打倒ヴォルグだ! あたしができることなら全力でやるよ。そう考えたら今日はもうご飯も食べたし、寝よう。そうおもってラナの顔を見る。


「ラナも眠そうだね」

「ふぁあ、そうね。今日はさっさと寝たいわ」


 ラナが立ち上がる。


「でもさ思ったんだけどお金って大事だよね」

「……何よ今更」

「あたしは元々村育ちでお金自体ほとんど使う機会がなかったし、前は……」


 と言いかけて口を紡ぐ。流石に魔王だったころは別の人がお金とか管理してくれてからあたし自身はほとんどそのことを考えたことがない。でも、王都に来てからロイに壊された街の復興もお金がかかったし、家賃のこともあるし、学費に村の税金と仕送りにそれに……。


「ん?」


 あたしは両手を組んで考えた。何か引っかかる気がするんだけど。


「お金……なんだろ。なんかひっかかる。そういえばあたし……なんだろ、なんか」


 ラナがはっとした顔をしていきなりニーナに話しかける。


「そ、そういえばあんたは明日もマオと学園に行くんでしょ?」

「あ、ああそうだな」

「じゃあさっさと寝ないとね。そういうことだからマオ帰るわよ」


 うーん。なんだろう、すごくもやもやがある。お金……お金。そういえばあたしは毎日ご飯とか食べているけど家事の手伝い以外してないな……あれ?


「あああああ!!!!!」


 そういえばラナが全部払っている!?


「ラナ! 食事代とかどうしているの!」

「あっ!! やっぱりこいつめんどくさいことに気が付いた!! あーあ」


 いやいやいやめんどくさくないよ。ああ、そうだ。そういえば家賃とかそんなの云々の前に最近ご飯食べてばっかりでラナに食事代とか渡してない! 出会った最初の方は『黒狼』討伐のお金があったから少し渡した気がするけど……


 あたしはポケットの中をまさぐる。何にもない。内ポケットには『Sランク』の依頼書とかはある。あたしは頭を抱えた。う、ううう。こんなことに気が付かないなんてあたしバカ!! うううう。


「な、なに深刻な顔をしているのよ。とりあえず家に帰るわよ」

「…………」


 お金がない。


 うう。どうしよう。


 ……そうだ。……それしかない……。ああ、嫌だけど……、すっごく嫌だけど。ううう。お金を今すぐ作るにはそれしかない。思いついたあたしは行動に移すことにした。


「ラナ……あたし先に帰るね」


 そう言ってギルドから出ていこうとするとラナに後襟を引っ張られた。ぐえ、痛い。


「マオさん。何をしようとしたのかな?」

「け、敬語。え? べ、別に」

「そこに座りなさい、ね?」


 ラナがニコニコ笑いながら圧力をかけてくる。あたしは「は、はひ」って変な声を出して椅子に座る。なぜかニーナも横にいる。


 ラナが両手を組んであたしに言う。まるで説教……いやこれたぶん説教だ。


「それで、何をしようとしたの?」

「な、なにも」

「目が泳いでいるわよ」

「そそそんなことないよ」

「……マオさん」

「ひぇ。は、はい」


 ラナが真顔になった。しかもあたしの耳元ですごい低い声で言った。


「吐け。コラ」


 こ、こわ。あたしは思わず両の掌をにぎにぎしながら、たどたどしく言った。


「そ、その今までラナにばっかり負担を……させていることに気が付いて……お金を作ろうとしたんだけど……た、大したことじゃないよ」

「何しようとしたの?」

「……た、大したことじゃないよ」


 あたしの後ろは壁だ。


 その壁にラナが蹴りを入れた。あたしの顔の横。だぁんと音がした。


「もう一度言うわね? 何をしようとしたの?」

「……あ、あたしの持っているものでお金になりそうなのは……く、クールブロンだけなんで売ろうと思いました……」


 ラナが足を下す。それからあたしの耳元で叫んだ。


「このあほ!!!!」


 きーんと頭がなる。あたしはその場で頭を抱えてうずくまった。ぐわんぐわんと頭が揺れるような気がする。耳元で大声ってすごい効果がある。でもラナは怒ったままだった。


「あんたの行動は短絡的なのよ、お金が絡むとすぐそう! 魔銃売ってどうするんのよっ!」

「で、でも、ラナの迷惑考えてなかった……」

「はあ、めんどくさいから今まで説明してなかったんだけど……そのあたりはちゃんと考えているわよ。ほら、あんたとFランクの依頼をこなしたでしょ? パーティーを組んで」

「う、うん」

「パーティーを組むと自動的に報酬が分割されるでしょ。取り分の分配もできるけど……とりあえずFランクっていってもあんたと最初から最後までやってたから150件以上したはずよ。最後はエトワールズで報酬分割だったから手取りは少なくなったけど、あんたらの食事代は私の分から……あ、やべ」


 それってラナの分から出していることに変わりないじゃん! あたしはそう言った。ラナはこめかみに指をあてて悩まし気に返す。


「あー。こういうこと言うだろうから言いたくなかったのよ。口が滑った。……でもまあいいわ。全員で稼いだお金を全員のために使っているだけよ。文句あんの?」

「で、でもそれラナの分」

「じゃあ、それをどう使おうと私の勝手でしょ? ねえ、いっつも有り金全部使ってくるマオさん?」

「う、うう」


 い、言い返せない。そ、それでも。


「そ、それでもいつもの生活であたしの分はやっぱり負担してもらっているから……返すし。そ、それに共同生活しているんだからあたしからも出すべきだよね、ね?」

「……あー。いつかはこんな話になるとは思っていたわ」


 ラナはめんどくさそうな顔をしている。頭を搔いてそれからあたしに向き直った。


「まあ、いいわ。どうせいつかこうなったかもしれないから、ちゃんとお金の線引きといっつもてきとうに決めている家事の分担は決めましょう。家でね。とりあえず帰るわよ」


 その時ニーナが手を挙げた。


「わ、私も、も、申し訳ない。今すぐ払う」


 ラナがニーナの側に寄ってくる。


「あんた私のこと信頼している?」

「な、なにを言うんだ」

「お金って揉めるとやばいくらいにぐちゃぐちゃになるから何も言わなかったんだけど、マオは底抜けのお人よしで他人のために全部出すあほだし、あんたとミラはお嬢様だし、モニカは実は一度相談をしてきたけどあしらったし……。要するに全員ばらばらなのよ、このことについて。だから私を信頼してるなら後でそれをまとめるから今は言わないでいいのよ」


 ラナは少し考えるように顎に手を当てる。


「やるならあんただけとかマオだけとかじゃなくて全員でルールを決めないと揉める。そうね、どうせ全員冒険者見習いなんだから決まった金額集めて『マオ基金』でも作ってそこから出すか」


 マオ基金って何!?


「エトワールズは元々あんたを中心に集まったようなもんだからそれでいいでしょ。あーもうこの話はとあと、さっさと風呂入って寝るわよ。どうせマオのことも相談するタイミングがあるんだからそこで決めましょ」


 い、いや。そうだ! Fランクの依頼なら今からでも受けられるはず! あたしはそう思って受付に向かおうとして襟の後ろを抑えられた。


「帰るって言ってんでしょーが」


 ラナに引っ張られる。ぐ、ぐえ。し、しまる。


「な、なんで私まで」


 ニーナも襟首を捕まえられて引きずられている。あたしとニーナはラナに引っ張られながらギルドを後にした。



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― 新着の感想 ―
[一言] うわーこのおっさんマオとドラゴンを魔族側にあげようとしてる。国家反逆罪で捕まればいいのに。
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