無敵の2人
フードをかぶった仮面が殺気を帯びて構えた。近くで見て確信した。やはり魔族なのだと思う。
「聖剣……剣の勇者の子孫か! なんでこんなに邪魔ばかりはいるんだ。話が違うだろうが!」
黒い魔力が噴き出す。仮面は腰を下げて両手を構える。すさまじい強敵だと思う。
でも、怖くなんかないね。
あたしはおしりについた砂を手で払いながら起き上がった。ミラが見ている。こきこきとあたしは少しわざとらしく首を鳴らす……つもりだったけど……鳴らない。肩がこるっていうけどさ、どういう感覚なのかよくわからないんだよね。
「ふう。あいつ、運がないよね」
「……そうだね」
あたしとミラは並んで立つ。ミラは聖剣を手にして微笑んでいる。言いたい事わかっていると思う。
二人ならきっと無敵だ。
仮面が右手に魔力を集中している。強大な魔力が一転に収束していくのは禍々しい渦のよう。あたしはその中でミラの手にある聖剣に手をかざす。その刀身から青い光が放たれる。あたしとミラで聖剣を持つ。
「!?」
仮面の魔族がじりと下がった。表情は見えないけど驚いていると思う。
聖剣を天に向けて持ち上げる。青い光が巨大な刀身になって収束している。それを目の前にした仮面の魔族がひるんでいる。
「ま、まて」
あたしとミラは言う。にやっと笑ってやる。
「やだね!」
「いやです」
そのまま振り下ろした! 青い光に飲み込まれないように仮面の魔族が両手に魔力をためて耐える。
青と黒の光がぶつかり合う。仮面の魔族の立っている場所がばきばきと音を立ててひび割れていく。仮面の両手に込めた魔力がすさまじい勢いで削り取られていくことがわかる。轟音で聞こえないけど悲鳴を上げているかもしれない。
まーさ
「あたしとミラがいるのに喧嘩を売ったのが運のつきだよ!」
青い光が辺りを包んだ。
☆
さっきまで魔族の立っていた場所に大きな穴が開いている。覗き込んでみれば下に王都の水路が見えた。ここから逃げたのかな……。地面を突き破ったロイとは逆に水路に逃げた感じなのかもしれない。
あたりが騒然としてしてきた。あの金髪の貴族はどうなったのかな。心配な気もするけど……。
「マオ」
あたしの方をミラが掴んだ。その顔は微笑を浮かべているけど少し怒っている気もする。
「なんでいつも危ないところにいるの?」
「な、なんでかな。それよりミラがたまたま近くにいてくれて助かったよ」
「たまたまというより、みんなが来るまでに考えることとかいっぱいあったから……」
今日はモニカのところに行く予定でミラも後で合流するつもりだった。近くにいたのはたまたまとおもったけど、そういえば道路をふさがれてたから同じ場所で止まっていたのかも。
「マオ!」
声がした。見ればラナとニーナが走ってくる。
「あんた大丈夫……って、ミラもいたの!? さっきのバカでかい魔力はあんたね」
「……は、はい」
ラナがとりあえずあたしの心配をしてくれる。ミラはなぜか敬語で少し目をそらした。うーん。あ、でもさそろそろここを離れないとなんか取り調べとかありなそうな気もする。兵隊さんもなんか集まってきているし、逃げていた群衆もだんだんと集まってきている。
「とりあえずここを離れよう。いこっ、ミラ」
あたしはミラの手を引いてみんなと一緒に走って離れた。現場のいろんな人に見られている気もしたけど気にしている暇はない。だってモニカが待っているんだから本当に暇自体がない。
しばらく走って路地を曲がる。そこでやっと一息ついた。
「はあはあ。なんかあたしの行く先でいろんなこと起こる気がする」
冗談のつもりでそう言って振り向く。
「……」
「……」
「……」
あ、あのさ。ミラもラナもニーナもなんか言ってよ! せ、せめてさ!
「ようやく自覚したのね」
ラナ……冗談で言っただけだからさ!
「い、いや今回のことはあたし全然関係ないじゃん! たまたま、ぐーぜんだよぐーぜん!」
「ドラゴンを手懐ける奴が言うと説得力が違うわ~」
「あ、あれも、ぴーちゃんも偶然だよ!」
「あんたはそのうち偶然で世界でも救いそうね。やれやれ」
わざとらしくラナが首を振る。ニーナが両手組んでふっと笑って、ミラが笑いそうになって顔をそむけた。それをラナが見る。
「あんた、さっきからなんかよそよそしくない?」
「そ、そんなことないです」
「ん-?」
ラナがミラに顔を近づけている。ミラは汗をかいて目が泳いでいる。
「あんた、まさか模擬戦で私たちと戦ったことを気にしてんじゃないの? あんなの授業の一環でしょ。気にしててもしかたないわよ。ね、ニーナ」
「……え、ああ。そうだな。格闘戦でミラに負けたのは傷ついたが……」
「余計なことを言うな!」
「ち、ちが。私はそれで自分の実力不足を認識しただけだ!」
ラナとニーナが変なところで言い争う。ミラは間に立っておどおどしている。
「あ、あのごめんなさ、むぐ」
あたしはなんとなくミラの口元を抑えた。たぶんそういう話じゃないって思ったら勝手に体が動いてた。
「ま、マオ」
「だめだよミラ。そういうことじゃないもん」
「そうそう。細かいこと気にしてんじゃないわよ」
「はい……」
うーん暗い。ミラはやっぱり気にしてるなぁ。どうすればいいだろうってラナを見たら、目が合った。
「何よ」
「いや、どうすればいいのかなって」
「……ミラ、あんたはとにかく気になるってんでしょ?」
ミラは少し間を開けて頷く。ラナははぁーと息を吐いた。ちらっとあたしを見る。
「とりあえずそろそろ行きましょう。モニカも待っている……かどうかは知らないけど。歩きながらでも話せるでしょ。あ、それとマオ……ミラは先に行って」
「何?」
呼び止められたのにラナは何も言わない。ミラがちらりとこっち見てから歩いていく。一瞬ラナの目が光った気がした。彼女はばっと走っていってミラのおしりを蹴った。ばしーんって。ええ?えええ?
「いたい!? な、何するんですか」
ミラがおしりを抑えて後ろを振り向く。
「あんたが変なこと気にしているからでしょ。これでなしなし」
「こ、こんなのってないです!」
「私だってこんなことをしたのは生まれてはじめてよ」
「マオに似てきましたよ!」
「言っていいことと悪いことがあるでしょ!」
ど、どういう意味!? あたしはいきなり蹴ったりしないよ!? ラナとミラがぎゃーぎゃーと言い争うけど、ミラが一瞬はっとして、くすりとした。
「ひどいやりかたですね」
「……勢いでやったけど、もう正直、内心で反省しているわよ」
それで二人とも笑う。よかった……のかな。
「ミラを蹴ればいいのか?」
ニーナそれは違うと思う!? ミラとラナがニーナを見る。ミラがむーって感じの表情をしているとニーナは焦り始めた。
「え、えっと今のは冗談なんだ。本当に。言い慣れてないからその、滑っただけだ……」
冗談……。ニーナ少し変わった? でもニーナは「その、ほんとう冗談で言っただけで本気じゃないんだ。そのごめん」なんてぼそぼそ言っている。変わったと思うけど、もう少し元気になってもいいと思うよ!




