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疾走の中で


 からからからからと馬車が走っている。あたしは身を低くして銃を縦にして息を吐く。ここ数日やったことと言えば、この妖し気な武器の練習だけだった。


 レバーは引いた。弾丸が装填される。


 あたしは銃に備え付けられた魔石に手をかざすとほのかに紫色に光る。あたしの少ない魔力でもこの武器は動く。


 あたしは目を開ける。長い銃身を左手を添えて、右手を引き金にかける。



「ああ? なんだぁ」


 赤い髪のクリスが巨大な灰色のオオカミの上で吠える。その周りに小さなオオカミに乗ったゴブリンが近づいてくる。あいつら、弓に矢をつがえている。

 

「お前、何をする気だ?」


 ニナレイア、うるさい。あたしは片目を瞑って狙いを定める。ゴブリンがあたしと直線に入る「前に」あたしは引き金を引いた。


 魔力が唸る。僅かなはじけるような音を出してあたしの手に衝撃が走る。一瞬の間。ゴブリンが一匹オオカミの上でのけぞって、どんっと落ちた。走っているオオカミから落ちたそいつは転がりながら置き去りにされていく。


「なっ」

「やった! マオ」


 ニナレイアは驚いて、ミラはあたしをほめてくれる。はあ、汗が出る。


 ただ追ってくるクリスの顔は怒りに染まっていた。赤い魔力を体中からほとばらせて、あいつは叫んでいる。


「殺す!! 妙な武器を使いやがって!! お前ら、ジグザグに動け!!」


 ゴブリンたちは仲間が倒されたことなんて意に返さずめちゃくちゃに動き始める。


「さあ、マオ。あれを仕留められるかい?」


 楽しそうなイオスの声にあたしは渋い顔をしてしまう。ほんと楽しげにいってくれてさぁ。でもあんな動きをすれば追いつくのも少しかかる。ぱしゅっと連中は弓を鳴らすがジグザグに動きながら騎射なんてあいつらには当てられない。馬車にかすりもしなかった。


 あたしはレバーをあげる。中に残った「薬莢」とかいうのが飛び出す。魔力を伝えるのに必要な仕組みらしい、難しいことは知らない。


 ポケットから出した次弾を入れてレバーを引く。それから魔力を込める。


 はあ、はぁ。これだけのことなのに疲れる。ただもう一度構えた。ゴブリンたちはめちゃくちゃに動いている。馬車も動いている。ただ、


 ――木の上から落ちてくる葉っぱを狙ってくれ。


 数日の練習は葉っぱを狙えだとか、遠くにある的を狙えとか、めちゃくちゃなものばかりだった。ほんとあのイオスは性格が悪い。あたしは息を吐く。銃身にあたしの息がかかると少し跡ができて消える。


 引き金を引く。


 銃声が鳴る。


 弾丸は一直線に飛び、ゴブリンを一匹叩き落す。ぐげっ、という声が聞こえた。

 やった、ただはっきり言うけど、さっきのやつも今撃ったやつも仕留めているとは思えない。あくまであたしの魔力で打ち出しただけだから、たぶんやれてない。


 だけど、それで十分。あたしは次弾を装填しようとして、くらっとした。


「マオ! 大丈夫!?」


 ミラがあたしを支えてくれる。あーだる。まあ、大丈夫休みながらなら撃てる。魔力は循環するから少し休めば溜まっていく。


 あたしが顔をあげると、その先にはあたしに殺意を向けるクリスの顔があった。気に食わないと顔に書いてある。


 たしか魔王復活を狙ってたんだっけ? このマオ様が恐れ多くないの?


 あたしはべーと舌をだしてやる。それでクリスはにやぁと笑った。笑ったというか、怒りすぎてあの表情になったんだと思う。


 赤い魔力の奔流が走る。それがゴブリンたちとオオカミを包む。


 ――!!


 ゴブリンとオオカミ達が凄まじい奇声をあげる。それはもう言葉になってはいない。そしてあいつらはすさまじい速さで追いついてきた。なにあれ!? あの魔力に触れておかしくなったの?


 次弾は……間に合わない!


 オオカミからゴブリンが馬車に飛び乗ってくる。


 ぐるうるふう


 笑っているような顔で腰から短刀を取り出す。錆びて、血の跡がついたものだ。その目は血走っている。


「どけ……」


 その前にニナレイアが立つ。



 あたしをちらっと見てから、右手を振る。


「一の術式 炎刃」


 ニナレイアを中心に赤い術式が展開される。鳥、みたいな文様でキレイだなぁ、とかのんきにあたしは思ってしまった。


 ゴブリンがニナレイアにとびかかる。その瞬間ニナレイアの右足が炎を纏い、ゴブリンに向かって円を描くように繰り出された。しなやかな太ももから繰り出される足技に一瞬あたしは目を奪われた。


 ぐげぇ


 ゴブリンの首に蹴りがヒットして、そのまま馬車の外まで飛び出していく。ニナレイアは構えなおして、あたしを一瞥する。綺麗な金髪が少しかかった切れ長の目であたしを見ながら耳のピアスが少し揺れてる。


「おい、次が来るぞ。その妙な武器はまだ使えるんだろう」

「……あたりまえ」


 あたしは次弾を装填する。ミラが心配そうに見てくるけど、大丈夫だから。


「ギルドマスター殿。身を伏せていてください」


 ニナレイアの声にイオスは「うん」とのんきに答える。それから、


「でもニナレイアさんさっきの蹴り技はスカートの時にやるのは気を付けた方がいいよ」


 ニナレイアが振り向いた。何を言ってんだって顔してから、だんだんと顔が赤くなっていく。唇を噛んで何か言いたそうにしているけど、言わない。


 いや!! 馬鹿! この非常時に何言ってんの!? 代わりにあたしが言う。


「あんた馬鹿じゃないの!?」

「おやおやギルドマスターにひどい言い草だ」


 おわぁあっ、矢が飛んできた! あたしは必死に避ける。

 いやだ、こんなくだらないやり取りの間に死にたくなぁい。


 がたんっ、馬車が揺れた。


 クリスと大きなオオカミが側面にいる。体当たりされたんだ。馬車の(ほろ)でその影しか見えない。ただクリスの影は大きな双剣を構えている。


「さがって!」


 ミラが叫んで聖剣を構える。聖剣は雷撃の青い光が走り。クリスの馬車の外から赤い斬撃が放たれる。


 魔力の刃と雷撃の力がぶつかり。まじりあう。赤と青の衝撃に幌は吹き飛び、あたしも飛ばされそうになる。


「うっ」


 よろめきそうになった時、背中を支えられた。ニナレイアだった。


「あ、あんがと」

「ふん」


 幌が吹き飛んだから、クリスとオオカミが横を並走している。赤い双剣。未熟とはいってもミラの聖剣の力と同等の斬撃を繰り出した赤い髪の少女は強い。


「ミラ!」

「大丈夫!」


 クリスはその言葉が気に障ったらしい。


「大丈夫って、なにがぁあ??」


 剣を振るう。赤い暴風のようなそれをミラは聖剣ではじく。ばきりとミラの足元が割れる。馬車の上じゃ足場が悪い。あたしは魔銃に魔力を込めて、レバーを引く。


 あ、


 クリスと目が合った、その目は「今から死ぬ相手を想像している」とあたしは直感でわかった。それが魔王としての経験則なのかはわかんない。ただ、こいつは今からヤバいことをする。


 あたしは立ち上がった、クリスは剣を構える。狙いはミラじゃない。車輪だ。


 この速度で車輪を壊されたら、したら全員死ぬかもしれない。だから――


 あたしはミラの横をすり抜けてクリスに飛びついた。


「なっ! なんだ、お前」

「このぉ」


 オオカミの上にいるクリスにつかみかかる。うわっ力つよ、ぐぐ、このぉ!


「ま、マオ!!」


 ミラの狼狽した声はあたしには届かないそんな暇はない。オオカミも暴れている。


「離せ!馬鹿!」

「ああ? 魔王様復活させるつもりなら、あたしを敬え!」

「はあ? 何言ってんだばか!」


 もみ合う。あたしは片手に魔銃を掴んでいるけど、双剣を掴んでいる分クリスは体の身動きが取れない。あたしはぐらりと揺れる。あ、オオカミから、おちる。死ぬ? やばい? 落ちたら……。


「マオ!!」


 ニナレイアの声だっ、


「服に魔力を通せ!!」


 反射的だった。あたしはクリスを掴んだまま、制服に魔力をありったけ流し込む。あたしの体を包むそれは光を放つ。服だけじゃなくあたしの頭や肌を包んでいく。

 

 あたしとクリスはもみ合ったまま落ちた。視界の端でニナレイアも飛び降りたように見えて、ミラの悲鳴みたいなのが聞こえた。


 ぐぐ、


 転がる。草むらの中に投げ出された。いつ間にかクリスとあたしは放れる。ゴブリンたちの駆け抜けていくのが視界に映って消える。


「いた、いたたた」


 あたしは魔銃を杖に立ち上がる。よく手放さなかったなと感心する。痛いけど、立ち上がれるみたい。

 それはクリスも同じ。


「おまぁえぁ」


 殺気を漲らせながらあたしを睨む赤い髪。

 魔族か……ある意味この子をこうさせたのはあたしか。あたしは魔銃を肩にのせて、ふんと鼻を鳴らす。


「やろうっての? マオ様がきょーいくしてあげるよ」


 あたしとクリスは対峙する。圧倒的な実力差くらいはわかっている。


 赤い魔力があたりを包んでいく。


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