ぶつかりあう気持ち
流れ込んできた魔力を体の隅々にまでいきわたらせる。膨大な魔力量だけど……あたしには扱える。モニカの貸してくれた力を無駄にはできない。循環させる。循環させる。元々のあたしの魔力じゃないから使い切ってしまえばそれまでだ。
あと数秒あればちゃんと準備ができる。
でも、ミラはその前に地面を蹴った。彼女の強化された脚力で懐に飛び込んでくる。手に持った白い細剣はロイとの戦いの時も持っていたものだ。本来のあたしなら反応すらできないかもしれない。
「クリエイション」
感覚を魔力で高速化する。あたしは魔力の光を収束させて『剣』の形にする。光るそれは宙に浮かぶ。一瞬の差でミラの斬撃が来る。
光がはじけた。ミラとあたしの『剣』がぶつかり魔力余波が空気を揺らす。あたしはクールブロンの魔石を通して魔力を行使する。ミラは両手に剣を持つ、一撃目を防いでも次が来る。下から切り上げる刃にあたしはさらに魔力で『剣』を作る。
魔力の剣で斬撃を防ぐ。それだけじゃない、作り出した2本の『剣』を操作してクロスを描くように振るう。純粋な魔力の塊だからこそ手で持たずとも操ることができるんだ。
「……!」
ミラが下がる。あたしはそれを追撃しない。……うん、魔力は十分に用意できた。一回だけ大きく息をすって、はああって吐く。なんとなく頭の中がすっきりしてくる気がした。そうするとあたりが見えてくる。
時間を稼いでくれたニーナが倒れている。……ごめん。
ラナの姿は見えない。……これは勝手な期待なんだけどさ、倒れているモニカと一緒にいてくれているような気がする。……何となく。
そしてあたしの目の前に親友がいた。
後ろで結んだ髪に整った顔立ち。いつもあたしに向けてくれたのとはちがう冷たい表情。体に纏った魔力にはよどみも油断もない。ある意味さ、今のあたしに対して油断しないってミラくらいなんじゃないかな。
その彼女が口を開いた。
「…………なんで」
「……なんでって何が?」
あたしの問いかけに反応せず、ミラは無言で構えた。その姿に対して正直むっとした。
「ちゃんと言ってくれないとわかんないよ! ソード・クリエイション!」
その場から動かず、魔力を操作する。あたしを中心に紅い魔法陣を展開させる。そこから6本の魔力の剣を生み出す。あたしはハルバードを地面に刺して空いた手をミラに向ける。剣は円を描き、彼女に殺到する。
四方からの斬撃。容赦しない。6つの紅い斬撃を繰り出す。
ミラは両手に剣をもってすっと力を抜いた。そう思った。次の瞬間に彼女は剣を振るう。あたしの繰り出した斬撃すべてをおそらく魔力を浸透させたのだろう彼女の剣が迎え撃ち。叩き落された。形を失った魔力の剣が紅い粒子になってミラの周りに落ちていく。
まるで舞のようにきれいな動きだった。
あたしは一瞬それに見とれそうになって、ミラが突進してくることに反応が遅れそうになる。……ま、マオ様を嘗めるな!
――魔力の剣を作る。ミラの斬撃を受け止める。
「……!」
へへ驚いてるね。たぶん彼女はあたしの剣ごと叩き切るつもりだったはずだ。でもさ、そんなことわかっている。だから魔力を収束させて強度を上げている。
「なんで!」
「だからさ! なんでの後を言ってくれないとわかんないよ!」
接近戦でミラの剣とあたしの魔力の剣がぶつかり合う。水人形を作り出すよりも『剣』という小さな武器を顕現させた方が操作はしやすい。それに数本の魔力の剣をあたしは作りだす余裕もある。
お互いの剣がぶつかるたびに白と紅の光が混じりあうように感じた。気を抜けばやられる。そうさ、ここで負けるわけにはいかない。
それにさずっと、不満に思ってたことが何となくわかった。
「そうだよ」
あたしは一歩踏み込む。それに合わせて魔力の剣で思いっきり振るう。ミラが受けて少し下がった。
「ずっとわけのわからないまま! 言ってくれないままさ! 勝手に離れようとしているのなんなんだよ!」
魔力を込める。……勝手に感情が湧きがあってくる。
「疲れたってなに!? ……あたしは確かにいろんなところがダメな奴だよ! だから嫌になることだってわかるよ! でも、でもそれでもちゃんと何を悩んでいるのか言ってほしいよ」
自分でも何を言っているのかよくわからない。ちゃんとした言葉じゃないってわかっている。それでも魔力の剣を振るうたびに言葉が出る。
「……うるさい」
ミラは魔力を体から強く放つ。キラキラした純粋なそれはさらに身体能力を強化したってことだ。
「マオは私のことが嫌いって言ったでしょ。じゃあ、じゃあ……いいじゃない!」
今までで一番強い攻撃にあたしは剣を重ねて受け止める。剣圧。受け止めたはずなのに体に圧力を感じる。それでも黙るわけにはいかない。何を言えばいいのかかは分かっている。あたしはミラを見て叫んだ。
「ごめん!!!」
あの夜に「ミラのことを嫌い」っていってからずっと言いたかった。ちょっとだけ涙が出そうになるのをあたしはすぐに袖で拭く。ミラは無言だけど少しだけ表情に困惑を浮かべてすぐに元に戻る。
何も言ってくれないけど関係あるか! 言ってやる!
「あたしは、あたしはミラのこと嫌いじゃない! 一緒にいたいって……思ってる。勝手かもしれないけどさ。本当に思っている!」
わかってほしい、こんなことを思ったのは初めてなのかもしれない。でも今の気持ちをあたしは込めていった。きれいに言えないのがもどかしい。自分の感情のままとしか言いようのない。頭がよかったらきっと、もっとうまく言えるはずなんだけど。
「…………っ」
ミラは何かを言いかけて口を閉じる。彼女は大きく後ろに下がった。その瞬間にあたしは体が重たくなるのを感じた。
すごく短い時間を彼女と剣で打ち合ったはず。それでも長く感じていた。
だからだろう、すごい集中していた何かが少し緩んだだけでこれだ。何度打ち合ったのかよくわからないけど、ミラも少しだけ肩で息をしている。
ミラは一度目を閉じて、すぐに息を整えてあたしを見る。
「そんなの知らないよ。私は決めたんだよ。マオ。それは変わらない」
「………はあはあ。あたしはミラと会ってから……ずっと楽しかった」
「…………」
「迷惑かけっぱなしだったと思うけど……それでもずっと楽しかった。ミラとラナとニーナとモニカと……一緒に過ごしたことがあたしは……大好きなんだ。……ミラはこんなわけのわからないまま別れるなんて本当にいいと思うの!?」
ミラは動かない。ただ少しだけ魔力の流れが乱れた気がする。彼女は剣を手に一歩前に出る。
「それで、いいよ」
「嘘つきだ!」
「……!」
あたしは反射的に言ってしまった。彼女の言葉を勝手に嘘だと否定してしまった。でも、そう思えるんだ。
「ミラはあたしがFランクの依頼をするときも変装してまで心配してくれて水路にも一緒に来てくれた。ずっと手伝ってくれて、一緒に食事をしたり、アイス食べたり、屋根の上から王都を見ながらあたしの話を聞いてくれた。……それに、それに私を、私みたいな過去の……馬鹿でどうしようもないような『私』をあの船の上で……受け止めてくれた!」
ぼろぼろと涙が出てくる。あたしは嫌だ。このままミラがいなくなるなんて嫌なんだ。
「だから、勝手にどこかに行こうとしないでよ!」
あたしはわがままだ。……でもこれ以上の言葉なんてない……持ってない。
ミラはうつむいて、それからあたしをにらんだ。ただ、その瞳から静かに涙が流れていくのがあたしには見えた。
「……うるさい」
堰を切ったように。
「うるさい、うるさい。うるさい! 私がどんな気持ちでいるかなんてわからないくせに! みんな、みんな私に期待ばかりする癖に!! これが一番いい方法なんだってちゃんと考えた……いまさら、いまさら私に求めないで!」
ミラはあたしに向かって叫ぶ。
「私には……私には言えないことだっていっぱいあるの……言葉にしたらいけないことだっていっぱいあるの。誰かに言ってもどうしようもないこともいっぱいあるの。だから。だから、マオも、あきらめてよ!」
……モニカは言ってくれた。あたしがあたしなら大丈夫だって。だから、これは自分の言葉で返したい。自分ならこういうのがきっと「あたしらしい」んだ。
「いやだ!」
「……っ。この、この、わからずや!!!」
ミラの体から魔力が放たれる。一直線の矢のように彼女は向かってくる。あたしは何度目だろう。彼女の斬撃を魔力の剣で防ぐ。その瞬間にミラは自分の双剣を手放した!? あたしに懐に潜り込んできて蹴りを繰り出す。
制服に魔力を通す。『生命石』とは別にこの服には魔力を通すと攻撃を防ぐことができる特性がある。ただ衝撃に体が少し浮いた。
「うっ!」
そのままミラはあたしの襟をつかんだ。そのまま投げられる。空中に放り出された時、手にクールブロンがない。世界がさかさまに見えるけど立っているミラの手には白い銃がある。
彼女はその銃口をあたしに向ける。はは。初めてなのにそんなことをしようっていうんだ。彼女が引き金引くと同時にクールブロンの魔石が白く光る。魔銃は持ち主の魔力によってその銃撃の威力が変化する。あたしに向かって収束された彼女の魔力が打ち出される。
空中で身動きが取れない。でも剣が作れるならさ。
「盾だって作れる! クリエイション!」
紅い魔力が収束して盾の形になる。構築に時間ないんていらない。あたしは魔王なんだ!
体全体を覆う盾と銃撃がぶつかる。魔力の粒子がはじけ飛んだけど、あたしの体も衝撃で後ろに飛ぶ。上ってきた丘の下に落ちていくのを魔力で防御する。
「ぺっぺっ」
ちょっと砂が口に入った。でもすぐに起き上がろうとしてそれに目が言った。
地面に突き立っている「聖剣」。美しい刀身のそれがあたしの傍にある。ミラはモニカとの戦いでは使用したけどあたしたちとの戦いの途中で手放した。あたしはその柄を握る。忌々しい……っていえばいいのかな? と思うけど別にこの剣自体にあまり感情が湧かない。……ある意味ミラと一緒にあたしを助けてくれた剣でもある。
「……マオ」
ミラが少し距離を取って降りてくる。その手にはクールブロンがある。
あたしはその彼女に引き抜いた聖剣を投げた。ミラの前に突き刺さる。うーん魔力での身体能力の強化はやっぱり便利だな。普段のあたしならまず持てないから。ミラはそれを少し呆然として見ている。
あたしは両手を腰につけて言う。胸は張っておこう。
「あたしはさ、あきらめが悪いからそう簡単には納得したりなんてしないよ。ミラがたとえ全力を出しても……絶対にあきらめたりしないよ」
ミラは何も言ってはくれない。でもクールブロンを投げてあたしに返した。あたしはちゃんと手で受け止める。
そして彼女は聖剣の柄を握る。青い雷撃が剣から放たれ、ミラの姿を照らす。
あたしはクールブロンに魔力を通す。紅い魔力を出し惜しみすることはない。
……勝負だ! ミラ!




