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天性の壁


 剣と斧がぶつかり合う。


 紅と白の光が交差し、つばぜり合い。二人の少女が火花を散らす。


 モニカがハルバードを振ると砂煙が巻き起こる。その間合いを銀髪の少女は読み切り、後ろに飛び下がる。とんと軽やかに地に降りるミラスティアの体から白い魔力が立ち上っている。


「はあはあ」


 モニカはその姿を見ながら顔をゆがめながら自らの胸を片手で掴む。どくどくと心臓の音が聞こえる。力が溢れてくることは変わらない。しかしモニカは気を抜けば倒れてしまいそうだった。体中が悲鳴を上げていることがわかった。


「……魔骸が禁忌とされていることが…………わかりますね」


 力を制御できないのではない。自分の意志に反して体の奥から魔力が湧き出てくる。これを続ければいつか体がバラバラになってもおかしくないとそう感じた。


 モニカはそれでもハルバードを握り構える。彼女を紅い魔力が包み込んでいる。


「…………」


 聖剣を構えるミラスティアはその姿を見つめている。魔力量はモニカが上回っている、それでも優勢を崩さないのは超絶的な技量が彼女にあるからだった。相手の攻撃力の方法もその範囲も感覚で理解し、そして経験と知識で補強する。


 『魔骸』という絶技をもってしてもミラスティアの天性は傷を許さない。


「……」


 ミラスティアはマオと出会ってから強敵と何度も戦った。


 災害級の魔物である黒狼と戦い。 


 水路において『魔骸』を使う魔族と戦い。


 仮面の男という自らを上回る技量の敵とも戦った。


 彼女はそれらすべてを吸収している。


 あらゆる困難や優れたものをその瞳は自分の中に蓄積していく。マオと出会った当時のミラスティアよりもはるかに彼女は強い。


 そして何度か魔王の生まれ変わりにに体の中の魔力の流れを調整してもらったこともすでに彼女は自らのものにしている。ゆえにその魔力によどみはない。


 今この瞬間にもモニカとの戦闘を彼女は吸収し続けている。剣を振るうごとに彼女は強く洗練されていく。それは対峙しているモニカが最も理解していた。戦いながら成長していく姿は恐怖がわずかに感じている。ただ、魔族の少女はそれよりも笑えて来た。


「……はっ」


 むちゃくちゃな才能は死力を尽くしても崩すことができない。


 それでもモニカは踏み込んだ。斧を振り下ろし地面をたたき割る。その瞬間に側面に回ったミラスティアが剣を振るう。聖剣の一閃を身を捻ってかわすモニカの襟元が切れる。


 二人は交差し、攻守を目まぐるしく入れ替えながらぶつかりあう。だがモニカは感じていた。ミラスティアの剣はさらにするどら差を増している。一閃、そしてさらに剣を振るうごとにわずかずつ速度を増していく。


 強力な一撃をハルバードに受けてモニカはわずかに下がった。魔力の充実した今の自分を下がらせるその攻撃にモニカは驚嘆しつつ歯を食いしばって踏みとどまる。


 強力に体を強化してモニカは円を描くようにハルバードを振り回した。踏み込んだ足元にひびが入り、そして豪風のごとく斧を旋回させる。しかしミラスティアは間合いから離脱している。しかしモニカはそれを予想していた。


 斧に魔力が収束していく。紅い魔力は刃を包む。ミラスティアをモニカは正面から見据える。腰を落とし、腕を振るう。


 紅い魔力が斬撃になりミラスティアを襲う。


 それを見て銀髪の少女も聖剣に魔力を通す。その刀身から青い光を放つ。それは聖剣の力である雷撃であった。ミラスティアは雷を纏った剣を一閃させる。


 紅い斬撃と青い雷撃がぶつかり衝撃が奔る。


 モニカは自らの腕で体をかばう。直接触れているわけでもないのに吹き飛ばされそうになる。衝撃波に制服がばさばさと揺らめく。だからこそその一瞬を見逃した。


 次に目を開けた時ミラスティアは聖剣を頭上に構えていた。彼女を中心に青い雷光が渦を巻くようにほとばしる。強力な魔力が聖剣から放たれている。


「モニカ」


 その技はすでにモニカは見せていた。魔力を刀身に集めて渦のように成す『メイル・シュトローム』を見ただけでミラスティアは応用し顕現して見せた。その姿にモニカは言葉が出なかった。


「行くよ」


ミラスティアは雷を纏って翔ける。空から打ち下ろす剣はまさに『雷』のようだった。


「くっ。マオ様」


 モニカは斧を構える。彼女は自らの魔力を斧に込める。今使えるすべての魔力を紅い力に変えて地面に突き立てる。


 そして集中した魔力で壁を作り一撃に耐えようとした――紅い魔力壁と聖剣がぶつかりあい。次の一瞬にばちりと彼女の目の前が青く光る。雷光が目の前を灼いた。


 生命石の防御魔法が発動しモニカが吹き飛ばされる。地面に何度か叩きつけられて止まった。彼女は立ち上がろうとして手に武器がないことに気が付いた。防御魔法のおかげでまだ動ける。しかし急速に体から力が抜けていく。頭部に結晶化していた魔力の「角」が形を失って砕けた。


 『魔骸』は解除されていた。モニカはその反動だろううまく体を動かすことができない。


 それでも体を起こした彼女の首筋に剣が付きつけられる。モニカが見上げらればミラスティアが静かに彼女を見下ろしていた。


「これで決着だね」

「…………」


 モニカはその言葉に胸をえぐられる様な敗北感を味わった。死力を尽くしてもまだ届かないどころか、最終的に自分の技を吸収されて負ける。目の前の彼女にそのような気持ちがないことは重々わかっていても嘲笑われるような気持がにじみ出る。


「とどめを……刺したらどうですか?」

「…………うんそうだね。私はこれからマオ達もちゃんと倒さないといけないから」


 ミラスティアが剣を振るおうとしたその瞬間に声がした。


「ミラ!」


 その声にモニカは眼を閉じた。ただ小さく声を漏らした。


「……マオ様」


☆☆


 たどり着いた場所は戦いでいたるところが崩れている。


 当然といえば当然かもしれない。魔族の全力を振るう『魔骸』と聖剣の所有者が戦ったのだから。その中でミラがモニカに剣を突き付けている場面だった。あたしはとっさに声を出した。


「……」


 ミラは黄金の瞳をあたしたちに向けて表情を崩さない。ぞくりとするような不思議な威圧感があった。


「来たんだねマオ……それにラナもニーナも。少し、予定と変わっちゃったね」


 ミラの口調は穏やかなのにひどく冷たく感じた。あたしの後ろにいるラナ達も雰囲気を察したと思う。あたしはごくりと息をのんで、でもそれでも話しかけた。


「ほかのみんなは倒したよミラ」

「そう……ソフィアも結局はマオには敵わなかったんだね」

「あの子を倒したのはラナだよ」


 その言葉に少しだけミラは反応した。


「そうなんだ。……モニカの力といい、私の予想は外れちゃった。……本当なら最初の奇襲で全滅させるつもりだったんだけど」


 そう、あの瞬間にモニカが力を使ってくれなかったらあたしたちはその場で負けていたかもしれない。もしくはソフィアが協力していたら……。


 ミラは剣を振るった。膝をついているモニカの首筋に防御魔法が展開されて襟元にある生命石が砕ける。それがきらきらと落ちていく。モニカは首元を抑えて呆然としている。


「ミラ!」

「……これでマオの勝ち目はもうないよ。私と曲がりなりにも打ち合えるのはモニカだけだったから」


 ミラはあたしたちに向かって体を向ける。整った顔立ちを聖剣の青い光が照らす。いつも優しげだった彼女はそこにはいない。


「……マオ。3人で戦っても私には勝てないよ。ちょっと時間がかかったけど……ここで終わらせるから」


 

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