決戦前!
体調不良で更新遅くなっていました。がんばります! おそらく三部はあと数話です!
倒れているエルのことを覗き込むように見てみる、気絶しているみたいだけどちゃんと息はしている。……ううん。それよりも気になるのは彼女の胸元に光る『魔石』だ。なんでこんなものが体につけられているんだろう。
もしかしてさっきの普通の魔法とも違う異常な力はこれが原因なのかな。そう考えてはっとした。あたしは横でぶすっとした顔をしているフェリシアに言う。
「フェリシア。上着貸して!」
「……なぜですか」
「いいからさ、ほらお願い」
「……引っ張らないでください。あと嫌です。自分のを使えばいいでしょう」
「そうしたいんだけど、制服にかけられた防御魔法がないとリタイアみたいになっちゃうし……お願い!」
「…………はあ。まあ、もう返さなくていいです。これはあのウルバンが持ってきたものなので」
お礼を言ってフェリシアに借りた上着をエルの上にかける。よし。
「何しているんですか?」
「だって恥ずかしいと思うし」
「さっきまで命のやり取りをしていたというのにくだらないことを気にしますね」
まあ、いいじゃん。それじゃあ、そろそろ行こう。そう思って足を上げかけたところで、むくりとエルが上半身だけを起こした。普通にびっくりした。
「わっ!?」
「……」
エルがきょとんとした顔であたしを見ている。フェリシアは少し下がったのは多分警戒している。
「私は……なんでここに寝ているのですか?」
「あ、正気になったんだね。えっと、ごめん。すごい暴れてたから強い魔法をぶつけちゃったから……」
「……暴走……していた? その時の私を貴方が倒した? ……それはすごいですね」
エルは何か考えている様子だった。ふとかけられた上着に気が付く、あたしとフェリシアを見ていう。
「まさか魔族の方に情けをかけられるとは……ありがとうございます」
「何か勘違いしているようですが、それをやったのはこの人間です」
「そうですか、どちらにせよありがとうございます。さて、私の役割も終わりましたし、今日は帰るとします」
そう淡々というエル。さっきまでとは打って変わってすごい冷静で感情が読み取れない。あたしは疑問に思った。
「あ、あのさ。エルはソフィアの仲間だとおもうけど」
「仲間? 違いますね」
「でも一緒にいる気がするんだけど」
「一緒にいるからと言って親しいわけじゃありません。あれは私の所有者です」
「所有者?」
「……詳しいことが知りたければあれから直接聞いてください。私にそれを言う権利はありません。私は別にこの模擬戦にも特段の興味はありません。ああ、そうだ。強いてあげるならマオ。あなたの魔銃ともう一度戦ってみたかったというのはありますが……気を失っていたのは残念かもしれません」
話をするときエルはずっと表情を動かさない。その瞳があたしをじっと見ている。魔石のことを聞こうと思ったけどやめた。なんだか深い事情がありそうな気がする。
彼女は少しよろけながら立ち上がった。とりあえず大丈夫そうかな、あたしはクールブロンを持ち直した。
「それじゃあ、あたしはいくからさ」
「待て」
不意に声がした。その方向を見たら長身の男性が息を切らして山を登ってくる。クロコ先生だった。
「はあはあ、やっと、追い付いた。おいお前ら……なんだマオ以外は脱落か……いやそんなことはいい、この模擬戦は中止だ」
一瞬言われたことの意味が分からなかった。ただそれを理解した時にあたしはクロコ先生に対して少し感情的に言った。
「なんでさ! まだミラとの決着がついてない……ここでやめるわけにはいかないよ!」
「気持ちはわかる……だが流石に想定外だ。お前らだったわかっているだろうが、マオのパーティーにいた魔族の女の子が『魔骸』を使えるとは思っていなかった。しかもミラスティアにチカサナが聖剣を渡しちまった。もうめちゃくちゃだ」
クロコ先生はだるそうに腰を落とした。
「とにかく危険だ。だから中止する。お前だってわかっているだろうが」
「…………」
クロコ先生があたしを見る。言っていることはすごくよくわかる。この瞬間にも近くで強力な魔力のぶつかり合いを感じる。時折雷撃が空をかすめる。
「たかが模擬戦だ。別に機会はまたある」
……あたしはその言葉を聞きながらミラのことを思い出していた。
今回あたしとミラが対立することになったのはいろんなことが裏にあったんだと思う。それをあたしは聞くわけじゃなくて感情的にぶつかってしまった。……確かにクロコ先生の言う通り普通に考えたらまた『次』がある。
あたしは、いつか「私」と出会った3人の旅人のことを思い出す。あの人たちとの『次』はなかった。
空いてしまった溝はそう簡単にふさがらない。どんどん深く深くなっていく。あたしはそう思うとミラが離れていってしまう気がした。それが怖くてしかたなかった。
「……嫌だよ」
「聞き分けのないことを言うなマオ。今回のことは俺も甘く見ていた。お前の仲間が大怪我をするなんてことはお前も望んでないだろ」
「そうだけど……それでも」
「いいからあきらめろ」
クロコ先生はあたしに向かって言う。その言葉は正しいと思う。でもその言葉に従った先に何があるのかわからない。誰が悪いとかそんなんじゃない。あたしの中で今ここでミラと向き合わないといけないって思っている。
「模擬戦は中止だ。これは決定だ。ほかのやつを探す」
「待って」
「待たない」
クロコ先生が踵を返す。あたしはうなだれてしまう。ここまでモニカもみんなもやってくれたのにこんな結末になるなんて……。
あたしのおしりが蹴飛ばされた。ふぎゃ! こけた拍子に鼻を打った。見ればフェリシアが両手を組んだままあたしを蹴っ飛ばしたんだ。
「な、なにするのさ?」
「いや、さんざん私の話を聞かないくせにその男の話には変に聞き分けのいいところがむかつきまして」
フェリシアは言う。
「前から言っている通り私はこんな戦いに何の興味もありません。そこの馬鹿女の不意打ちで私は脱落していますし。正直もう帰りたいくらいなんですよ」
フェリシアは顔を上げる。
「魔族にとって『魔骸』というのは特別なものでモニカさんがどういう理由であれ貴方のためにそれをしたのなら中途半端なことは許したくはありませんね」
「……フェリシア」
「負けても勝ってもどうでもいいですか、とりあえず結着はつけてほしいものです」
クロコ先生が振り返る。
「おいおい、勝手なことを言うな、授業は終わりって言っているだろうが」
「だから、何度も言わせないでください。私はそんなものには興味がないんですよ」
フェリシアはあたしをみる。
「そこの男が中止と言おうが何だろうが、そんなことは無視すればいいんですよ」
「めちゃくちゃいうなよ!? おまえ!?」
クロコ先生が焦り始める。
「めちゃくちゃ? ふん。こんなわけのわからない得もないことに参加させられている私の身にもなってください。今更ってやつでしょう」
フェリシアは両手を組んだまま淡々と話をしている。紅い瞳にあたしを映す。
「それであなたはどうするんですか?」
「……そうだね」
あたしはクロコ先生に向き直った。それで頭を下げる。
「ごめん先生! あたしはいくよ!」
「ま、まて」
「無駄ですよ先生」
そういったのは草むらをかき分けて出てきた赤い髪の女の子だった。もちろんラナだ。そばにはニーナがいる。二人はボロボロだったけどその襟には生命石が輝いている。
「ラナ! ソフィアに勝ったんだね」
あたしの声にラナがふっと笑ってからはにかみながら「あたりまえよ、てかなんでまだここにいるのよ?」って返してくれた。エルが少しだけ何か言った気がするけど聞き取れなかった。
「クロコ先生。そいつ一度言い出したら絶対話を聞きませんから」
「そうだな」
ラナとニーナがうんうんと頷きあっている。クロコ先生は言う。
「い、いやだからなお前ら、いきなりやってきてなんだ!? 今回中止にするだけでまた機会は作って……」
「だめだよ」
あたしは前に出た。
「確かにクロコ先生はそうしてくれるとおもうよ。でも、ミラと全力でぶつかれるのは今日だけだと思う。だから授業は中止してもいいけどさ! あたしはいくよ!」
「……あ。あー」
クロコ先生は思い切りため息をついた。彼はあたしと周りを見た。
「なるほど、マオが問題児的に言われていることの意味が分かった気がする」
「ごめん先生」
「いいや……。お前の周りは予想外のことばかり起こるなぁ。なあ、マオ」
「なに?」
「そこまで言うなら止めたりはしないさ。……おいおい、そんなに嬉しそうにするなよ。中止したってやめないっていうんだからもうどうしようもないだろう。力づくでお前らを抑えるわけにもいかないし
な。……はあ、予想を超えすぎててもうどうなるか俺にはわからん。この山の伝説にある竜でも出てきたら流石に笑っちまうがな」
ありがとう先生。そう思った時、一層強い魔力の波動を感じた。なんとなくモニカが呼んでくれているような気がした。あたしはラナとニーナに目を向ける。二人はそれだけで頷いてくれる。あ、それと。
「フェリシア。ありがと!」
「……」
この魔族の少女は無言でそっぽを向いた。すごく『らしい』って感じがする。でも、とりあえずこの戦いで最後になる。ソフィアがいなければ全力でミラに集中できる。……もちろんそれでもかなり部が悪いのは間違いない。
どうなるかわからない。それでも全力でぶつかるだけだ!




