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マオは森を駆ける


 あたしは一人で走っている。クールブロンを手に森を駆ける。


 ついさっきのことだ。それは魔法の蝶を放ってからのことだった。


 魔力を探知して方向を確認した。その先に知の勇者の末裔であるソフィアがいるはずだ。そう思って歩き出そうとしたときにラナと行こうとしたら肩を掴まれた。


「少し聞いていい?」

「なにさ」


 振り返ってラナの顔を見る。まっすぐにあたしを見ていた。


「正直言うわ。ソフィアは私よりもずっと魔力も上、魔法の練度も上よ。でもあんたは私が勝てるって言ってたわよね。なんでそう言えるのよ」

「……うーん」


 言っていいのかな、少し考えてたらラナがむしろ言ってくれる。


「何を気にしているのかわからないけどはっきり言いなさいよ」

「怒らない?」

「怒らないわよ」


 じゃあ言うけどさ……。


 あたしはソフィアと学園の中庭で水人形で戦ったことを思い出した。あたしの独自の魔法である『クリエイション』を見よう見まねで発動した彼女は間違いなく天才だ。ミラとソフィアの才能はみんなよりずっと上、それはラナの言う通りだと思う。


 でも、水人形の攻撃が素直だった。元々武器で戦うような子じゃないからそうなのかもしれないけど、その時に感じた。


「ソフィアは戦い慣れてないんだ」


 あたしの言葉にラナが首を傾げた。どうやって説明しよう。そうだ。ついさっきのことを言ってみよう。


「だってさ、考えてみてよ。最初のミラの奇襲の時にソフィアも一緒にいたら多分逃げ場なんてなかった。少なくとも何人かやられていたはずだよ。モニカがいたとしても」

「それはそうかもしれないけど」


 別にいいことじゃないけどあたしには戦闘の経験がある。勝ったこともあるけど、負けたことや逃げたことも多くある。3勇者だけじゃなくて人間の大勢の強者とも戦った。だからわかる。戦闘は状況のすべてを考えて行うものだ。


「これはパーティ戦だよ。それなのにソフィアはあたしにわかるように魔力を流して本当は前に見たいに一騎打ちみたいなことをしたいんだ。周りが見えてない……いや、見ようとしてないのかな」


 ここから先は言いにくいんだけど……怒られても仕方ない。


「それに前からソフィアには自分より下と思ったら見くびる癖がある……だからたぶんラナ相手ならあの子は本気を出せない……本当に戦うなら相手がどうであれ、どんな状況でも油断をしたらだめだってことがわかってない」


 ラナがジトっとした目で見てくる。う、うう。言った後にすごい罪悪感を感じる……。


「つまりあいつはこの私を嘗めているってこと?」

「ご、ごめん」

「謝ってんじゃないわよ。別に今更だけど、改めて言われると思うところはあるわね」


 はあーってラナが溜息を吐いた。それからあたしを見る。


「さっきの蝶は何?」

「あれは……ニーナに対して。あたしとラナが前に立てばさ、たぶんソフィアはこっちに気を取られるから奇襲するように頼んだ。あとモニカの魔法に少し工夫をして蝶がメッセージを届けた後にすぐ消えずに案内してくるようにした」

「ニーナがキースに絶対勝つってこと前提してるし……それに魔法の改良とかさらっとすごいこと言ってない? まあ、いいわ。それじゃあ」


 ラナがあたしの背中を押す。


「あんたの考えは分かった。要するに注意を引き付けて後ろからぶったたくってことね。あいつの生意気なところには一回ガツンとやってやりたかったのよ」

「ちょ、ちょっと、ラナ、なんで反対方向に押すのさ」

「あいつはあんたがいたら本気になるでしょ」

「そ、そうかもしれないけど……そこはほらあたしはクールブロンがあるから。遠くから射撃とか」

「この戦いの中であんたが本当に向かい合いたのはソフィアじゃないでしょ。ソフィア相手に無傷ってわけにもいかないでしょうが」

「…………」


 ミラの顔が浮かぶ。普通であれば『魔骸』を発動した魔族は無敵だ。でも予感がある。あたしは彼女と対峙することになる。その前にソフィアを叩かないといけない。流石に彼女を放置してたら横から攻撃されてしまえば対処できないかもしれない。


「あのくそ生意気な奴は先輩であるこのラナ様に任せてあんたは、先に行ってなさいって。叩きのめしたら追い付いてあげるから。あとミラスティアとの戦いも手伝ってやるわよ」


 う、う。ど、どう言えばいいんだろう。確かに戦い慣れてないとしてもソフィアは強敵だ。


 ……あたしはラナの魔法が好きだ。


 一緒に暮らしているからだと思う。


 夜の暗いときに炎の魔法で明かりにしている時。


 お風呂を一気に洗うために水を操るとき。


 曇った日とか雨の日に洗濯物を乾かすために風を起こすとき。


 そういう使い方が好きだし、あたしも家事とか手伝うのは好き。でも……ラナの魔法の力でじゃソフィアの魔力の壁を突破することはできないと思う。何となく否定したくないと思った時、ソフィアにあれだけ偉そうに言っておきながら自分もだめだなって思う。


 背中をばーんと叩かれた。いってぇ!


「ほら、速く走った。モニカもそろそろきついだろうしあんたが言ってあげるのが一番いいのよ。きっと」

「で、でも」

「なんでも自分でしようとしなくていいの。ソフィアを相手にするくらいやってやるわよ。それくらい任せておきなさいって」


 ……う、うー!……あたしはそこで頷いた。


「わかった! ラナ。じゃあソフィアのことは任せるよ!」

「はいはい。あいつにはいろいろと借りもあるしね」


 あ! 手をぽきぽき鳴らしながら悪い顔している。……た、確かになんか考えてそうでもある。あたしはもうミラと向き合うことだけ考えよう。


 そうしてあたしは森の中を走り出した。



 大きな魔力がぶつかり合う先にミラとモニカはいる。


 クールブロンの魔石には魔力をため込んだ。あたしというよりみんなに手伝ってもらったから情けないけど、『聖剣を持ってないミラ』と戦うくらいの量はある。


 魔石は魔鉱石を製錬したものだ。でも魔鉱石は掘り出されてずっと魔力を保持するけど、魔石はだんだんとそれが抜けていくもって1日くらい。今のあたしにはその力を借りるしか方法がない。


「……っ、寒っ!?」


 いきなり冷気が辺りを包んだ。白い霧が森を覆い、先が見えなくなる。な、なんだこれ。冷気の魔法……もしかしてフェリシア……?


 銃声がした。間違いない。魔銃を使っているのはあたしか彼女だけだ、ということは弓使いのお姉さんもここにいる。あたしはクールブロンを両手で掴んでゆっくりと前に進んだ。魔銃の金属の部分が冷たい……うう。


 この霧はきっとフェリシアが身を隠すためのものだ。


 遠くで青い光が見えた。魔法陣の発動だ。そして風切り音がする。聞き覚えのあるそれは矢の花足られる音だ。見えない。視界が圧倒的に悪い。


 ……その場で少ししゃがみ込む、寒い。手をこする。息が白い。


 魔銃の音がする。誰かが地面に倒れる音がした。急速に視界が晴れていくのはフェリシアが魔法を解除したのかな。……まだ靄がかかっているけどそこには倒れた金髪の女性を見下ろすフェリシアがいた。


「所詮、雪遊びの応用ですけどね。ああ、この意味がわかる必要はありませんよ」


 雪遊び? なんだろう、よくわかんないけどフェリシアは踵を返した。彼女が勝ったんだ。あたしはフェリシアに声をかけようとしたときに弓使いの女性、確かエルって子が立ち上がった。


 体中から魔力が溢れてくる、金色の光が形を作り空中に光の矢を作り出す。それがフェリシアを貫いた。悲鳴を上げて彼女は倒れこむ。


「――!」


 エルは何かを叫んでいる。明らかに様子がおかしい! 空中に浮かんだ多くの矢がフェリシアを狙っている。


 あたしは駆けた。光の矢が発射される直前にフェリシアに飛びついて、地面に二人で倒れる。さっきまでフェリシアのいた場所には数本の矢が刺さり、数秒後の光の粒子になって消える。


「き、貴様いきなり出てきて……なんだ、は、な、れ、ろ!」


 矢傷の苦痛に顔をひきつらせながらフェリシアはあたしの顔を手で押す。た、助けたんだからさ。ぐぐぐ、と、とりあえず逃げよう。あたしはフェリシアを力いっぱい引っ張って無理やり立たせる。


 一度振り返る。


 エルは口を半開きにしてそれからあたしを見てニヤッと笑った。こわっ! 何この人! て、ていうか首元の生命石は壊れてんだからもうリタイヤじゃん。反則だよ。


「獲物、獲物、獲物」


 笑うエルの周りに光の矢がまた現れる。あの魔法……いったい何だろう。いや、そんなこと考えている場合じゃない、逃げよう!



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