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魔銃

 魔銃? という武器をイオスはあたしに渡すといっている。いや、なにその筒みたいなの。いらないんだけど。


「いらないんだけど」


 あ、正直に口に出てしまった。そもそも「銃」って何それ。


「正直だなぁ。まあ聞いてくれ。この魔銃というものは金属の筒とこのはめ込まれた魔石、そしてこの弾」


 イオスは手に小さな円柱状のものを持っていた。指で挟めるくらいの大きさだ。それを魔銃の後ろの金属の部分にかちゃりとはめて、横についているレバーを引く。


「魔力の力でこの中にいれた弾を打ち出す仕組みだよ。ここについた魔石に魔力を込めて、引き金を引けばそれだけでは打ち出せる」

「そんなのよりも魔法を撃てばいいんじゃない?」

「ははは、そういわれると身もふたもないね。まあ、君はこれを今日から使うんだ」


 いや、そんなのあたしに押し付けられても困る。なんであたしがそんな得体のしれないものを使わないといけないのよ。


 そんなことを思うあたしの表情から察したのかイオスはにやにやしている。


「いや、報酬を受け取ったからには使ってもらわないとね」

「報酬?」

「そうだよ、黒狼の討伐の報酬。受け取ったんだろう?」

「はっ? あれはガオ達に」

「だろうね、でももともとは報酬は査定してから出すものだ、少し時間がかるところを色をつけて僕が支給したんだよ。本来ならもっと時間がかかっていたね」


 そういえばガオがそんなことを酒場で言っていた。……ぐぐぐ、こいつ。あたしがもう報酬をもらったことも知っているし、知らぬ間に私へ恩を「押し付けた」んだ!! 腹黒!


「残念だなぁ、お金をもらっておきながら僕の提案を受けてくれないなんて。あー残念」

「わ、わかった。わかった! その魔銃というのをもらう」

「よかったー。ほっとしたよ」


 いけしゃあしゃあというイオスにあたしはうさん臭さを感じる。いやずっと感じているんだけどさ、手に持った魔銃はずしりと重たい。


 でもおかしい、なんであたしに何てこれを渡すのか。別に冒険者としてのあたしが何を使おうとイオスからしたらあまり関係ないはずだ。


「ねえ、一つ聞いていい?」

「どうぞ」


 イオスは流れるように返答する。


「なんか企んでるんじゃないの?」


 あたしも馬鹿だ。もっと聞き方があると思うけど、直球で聞いてしまった。イオスは少し目をぱちぱちとさせてからふっと笑った。それから人差し指を唇にあてて、片目をつぶる芝居がかったしぐさのまま言う。


「もちろん。企んでいますよ」


 ほんと胡散臭い。あたしは手にもった魔銃の重さが増したように思った。はあとため息も漏れる。まあ、いいか。これ、人をぶんなぐるには十分そうだし。


「ああ、あともう一つ渡すものがありますよ」

「今度は何?」

「制服ですよ。学園のね」


 ☆


 シャツに腕を通す。胸にリボンを結んで、学園の紋章とかいう剣を象った刺繍の入った黒い上着。あとはスカート。それから左肩にマントをつける、ペリースとかいうものだ。


 これはニナレイアがつけていたものと同じじゃん。


 あたしはギルドの一室で着替えて、鏡の前に立ってそう思った。


「はあ、なんかあのイオスの掌で踊らされている気分でいやだあ」


 はあ、あたしはスカートを少しつまんで鏡の前でくるりとしてみる。……違うから、着れてうれしいとかじゃないし。あ、リボンが曲がってる。


 鏡の中の「あたし」と目があった。なんか気恥ずかしくなって目を反らす。

 

「な、なにやってんのあたし」


 これが学園の制服ってやつなんだっていうんだけど、これもただでくれるらしい。後が怖い。あたしは一緒にもらった固い「ブーツ」とかいう靴を履く。なにこれ、固っ。まあ歩くには頑丈そうだけど……


 それから「魔銃」の入ったケースを持つ。バンドをつけてくれたので肩にかけて持ち運べる。


「よ、く考えたらこの服……サイズぴったり」


 こわ! 怖い。ぞくぞくする。


 あんまり考えないようにしよう。あたしは逃げるように部屋を出る。


「やっ」


 目の前にイオスがいた。廊下にいたらしい。


「ぎゃっ」


 自分でも驚くような声が出た。あたしは後退りしてドアに背を預けながら言う。


「あんた怖い」

「おや、ストレート。君は鋭いのにそういう駆け引きとかは苦手そうだね」

「…………」

「まあ、いいよ。その魔銃の訓練をしようか。なにすぐ覚えることができるよ、この僕が直々に教えてあげるからね」

「……やっぱこれ返したいんだけど」

「だめだよ」

 

 にっこりのイオスはあたしにいった。



「マオ! 制服貰ったんだ!」


 一階にいくとミラがぱたぱたと走ってきた。


「まあね」


 それくらいしか言いようがない。ミラは何故か目をキラキラさせて。


「かわいいね!マオ!」


 ……………………………………………………………………………………………………………………………………そ、そ?


 ま、まあ、ありがとう。


 あたしはミラのきらきらした目から視線をそらした。顔を真正面から見れない。とりあえず場を持たせるためにイオスから「魔銃」をもらったことを話して、ケースから出してみた。


「へえ、変わった武器だね」


 ミラも知らないらしい。金属の部分が黒光りしている。魔力を込めて引き金をひくだけの簡単な操作っていうけど、こんなものをつくってどうするんだろうか、魔力を込めた剣や弓や魔法に勝てるとは思えない。


 でもあのイオスがわざわざあたしに渡したところから何かあるのは間違いない、ていうか本人が「企んでいる」って言っていたんだから。


「それじゃああと数日はこの街にとどまるんだね。マオと私はおんなじ宿をとるね」

「え? そう、そうだね、あれ? ミラも来るの」

「い、行くよ。私も生徒だからね」

「そういえばSランクだったね。ミラスティア様っていえばいいかなあ」


 冗談で言ったつもりだったが、ミラがむっとしている。


「絶対やめてね?」


 怖い。イオスとは別の怖さがある。わかったわよ。


 とりあえず実際港町に馬車が出るまではこの街にいることになる。その間にイオスからこの「魔銃」の扱い方を教えてもらうことになるのか。


 気が、重いなぁ。



 時間は瞬く間に過ぎていった。数日の間にイオスと日に一刻くらい魔銃の練習をする程度しかやることがなかった、正直早く学園と言うところに行きたかった。


 あとは、ミラと一緒に街を回ったりするだけ、美味しいものを食べることだけが目的だったけど、こっちの方が楽しかった。


 出発の日の朝にギルドの前には大型の馬車が来ていた。馬の二頭立て。あたしとミラだけにしては荷台は広い。あたしとミラはとりあえず荷物を積んだ、まああたしの荷物なんてないんだけど。強いてあげるなら押し付けられた魔銃くらい。あとは袋ひとつ。


「……これは、ミラスティア殿。今日はよろしくお願いいたします」


 そう言って入ってきた少女は片方の耳に小さなピアスをした金髪。あの力の勇者の末裔であるニナレイアだった。あたしと同じ制服を着ている。ミラも挨拶をしている。


 そうか、こいつも一緒に行くとか言ってたっけ。


 ニナレイアはあたしには一瞥をくれただけで何もいわなかった。ま、いいけどさ。


「3人で行くのかな、マオ」

「そうじゃない?」


 ミラはあたしに耳打ちしてくる。ニナレイアはあたしを見てふんと鼻を鳴らして不機嫌そうになっている。いや、なんで? 


「やあーやー、おそくなってごめんね」


 そう言ってイオスが乗り込んできた。


「は?」


 あたしは普通にそういった。なんであんたが乗ってくるのさ!?


「ギルドマスター殿も行かれるのですか?」

「うんそうだよ、ニナレイアさん。僕も用事があってね」

「……そうですか、よろしくお願いします」


 ニナレイアが聞いてくれたからあたしも分かったけど……あーん。嫌だなぁ。


「それじゃあ早速行こうか。御者ももうすぐ来るからね。港町バラスティに」



 馬車がからからと街道を行く。

 歩かずに流れていく景色をみているっていうのもなんだかいいなぁ、と思う。のんびりしている。のんびりしすぎて大丈夫なんだろうかって思うけど。


「マオ。はい」

「あ、ありがと」


 ミラがあたしにパンをくれた。朝ご飯替わりだろう。もぐもぐ。


「ニナレイアさんもいりますか?」

「え、いや、結構です」


 ミラはちょっとしゅんとしている、もらっておけばいいのに。


「あ、僕はほしいな」


 イオスにはやらなくていいと思う。飢えて死ね。


 でもミラは「はい」と笑顔で渡している。


 もぐもぐ、げぼげほげほ


「ま、マオ! ほらお水お水」

「んぐっんぐっ」


 水筒の水をミラがくれてあたしは急いで飲んだ。はあぁ、のどに詰まりそうになるなんて。馬車の上で食べたことなんてなかったからかな。揺れているのはちょっと気になると言えば気になる。


「……マオといったか」


 ニナレイアがあたしに話しかけてきた。


「お前はなんで冒険者になる」

「なんでって言われても、成り上がるため」

「……そんなくだらない理由でか」


 そんな挑発をしてふんと横を向いたニナレイア。

 む、むかー。いきなり何喧嘩うってんのさ。


「じゃあ、あんたはどんな理由なの!?」

「…………」


 あたしの問いかけには反応しない。くうぅ。見下されているとは感じていたけど露骨すぎる。……落ち着けあたし。あたしは魔王。こんな小さいことで怒ったりしない。


「ニナレイアさんは力の勇者の末裔に伝わる神造兵器を継承するために冒険者になるんだよね」


 イオス……あんたさぁ。……ほらぁ、ニナレイアがあんたのこと睨んでるじゃん。わかっててやっているでしょ。


「……ギルドマスター殿言われる通り、私は未熟者ですから、その先祖の偉業を継ぐ修行のために冒険者を志しています」


 ニナレイアはそれだけいって目をつむって黙り込んだ。そういえば前も同じことを聞いたけど何かありそう。はっ!


「じゃあさ」

「ギルドマスター!!!」

「え? な、なんですか?」


 あたしはイオスがなんか言う前に呼び止めた。こいつ止めてなければなんか絶対聞いてた。こいつの性格はもうわかっている。


「なに、じゃないわよ。聞かれたくないこともあるだろうから、だまってて」

「手厳しいなぁ」


 苦笑するイオス、ミラとニナレイアはあたしを見ている。何これ。ほんとこの緑の髪の狸はなんでついてきたの?


 そうあたしが思った瞬間だった。馬車の側面を矢が突き破って床に刺さった。おわっ、あぶねっ。


 ミラとニナレイアが立ち上がる。あたしも立ち上がって馬車の後ろにいく。山手に掛かったところだった。その山の側にオオカミが走っている。いやその上に緑の人間みたいなの、あ、ゴブリンが乗っている。

 

 ゴブリン。小鬼とか言われたりする低級のモンスター。それが数匹オオカミに騎乗して、しかも弓みたいなの持っている。


 きしゃぁあ


 奇声を発してゴブリンが矢を放つ。馬車の屋根に当たった。


 からからからと馬車は速度を上げていく。御者が急いでいるんだ。オオカミとゴブリンたちはどんどん数を増やしていく。は? 多くない? 10匹以上が後ろから追ってきている。



「どういうことだ? ゴブリンが統率されたように動いている」


 ニナレイアが驚きの声をあげる、あたしにもわからない。ただ、あのオオカミ達には見覚えがある気がする。


「ミラ! オオカミ……あいつら、あの時の生き残りなんじゃない!?」

「……そうかも」


 ミラは聖剣を抜く。青い光を纏った剣。それをニナレイアが一瞬苦しそうに見ているのをあたしは気が付いた。


 でも、奥からやってくる大きなオオカミに目を奪われて言葉にはできなかった。灰色の大きなオオカミに赤い髪をたなびかせた少女が乗っている。両手には双剣。あいつだ。


「剣の勇者! 『暁の夜明け』のクリス・パラナが ここで殺してやるわ!!」


 クリスというのがあの赤髪の名前。黒狼を殺された復讐なのかもしれない。

 凄まじい勢いで馬車に迫ってくるオオカミ達。追いつかれるは時間の問題。


「はははは!」

 馬車の中で哂うやつが一人。あたしが振り向くとイオスが座り込んだままにこやかに笑っている。


「マオ。魔銃の的が来たね」

「はあ、言うと思った」


 あたしはケースから魔銃を取り出す。魔石が光る、黒い銃身。弾丸を装填して、かしゃりと側面のレバーを引く。


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